勇者と呼ばれた少年
【力】を授けられた男の子は、名前をジャックといいました。【力】を授けられた当時、彼はまだ10歳でした。【力】の使い方は、授けられたと同時に頭に入ってきました。でも、まだ少年の彼が使いこなすには、果てしなく大きな力でした。
しかし、彼は焦りませんでした。彼が大きな力を得て浮かれたり、功績を求めて焦るような性格の持ち主であるなら、魔女は当然彼を選ばなかったでしょう。
魔女はわかっていたのです。彼は勇気だけでなく、自分の能力をしっかりと見極める力を持っているだろうことを。決して功績を求めて焦ることはないだろうことを。他者を傷つけることはしないだろうことを。大いなる力を持つことで驕ったりしないだろうことを。
彼はまずは【力】と向き合うところから始めました。授けられた【力】と向き合うには、魔女の住んでいた森が適していることに気づき、時間を見つけては森を訪れました。魔女の住んでいた森には、純粋な魔力が循環していたのです。
もともとそのような森だったから魔女が住むことにしたのか、魔女が住むことでそうなったのかは、今となっては誰もわかりません。しかし、今でもわかる人にはわかるのです。この森の稀有さが。彼もわかる人の1人でした。
15歳を迎える頃には、【力】としっかりと向き合うことができ、暴走させることなく扱えるようになっていました。それでも、【力】の全てを扱うには、まだまだ修行が必要だと考えていました。
そんな時です。彼に国王陛下から、1通の手紙が届きました。魔女から【力】を授けられた男の子と、【知恵】を授けられた女の子を支えるように頼まれていた、国王からの手紙でした。
手紙にはこう書かれていました。首都で学ばないかと。魔術も剣技も学べるよう、環境を整えて待っていると。
彼は首都へ向かうことを決めました。【力】を授けられた時から、必ずこの【力】を使うべき時が訪れることを、感覚的にわかっていたからです。その時に、万全の力を振るえるようにしておかなければならないのです。
彼の両親は、彼が魔女に選ばれ【力】を授けられた日から、いつか彼が旅立つことになるだろうと考えていました。そして、その時は笑顔で送り出そうと決めていました。彼は両親に送り出され、首都へと旅立ちました。
首都では多くのことを学ぶことが出来ました。国王は学ぶ環境を整えてくれただけでなく、直々に彼の後見人となってくれました。おかげで、彼は必要なことを全て学ぶことが出来たのでした。
彼が二十歳を迎えた頃、最初の異変がありました。世界に小さな歪みが生じたのです。歪みを放っておくと、徐々に広がっていき、災厄をもたらすといわれています。
彼はいち早く歪みに気づき、【力】を発動させて、歪みをあるべき姿に正しました。
歪みは国内だけに限らず、世界のあちらこちらで発生します。世界の歪みを正せる者は、彼1人。彼は世界を渡り歩きました。
世界は広く、時には歪みを早期に正せない時もありました。歪みからは災厄が…異界からの魔物が侵入してきました。彼はそれらの魔物を討伐し、歪みの中に封じ込めるとともに、歪みを正しました。
彼に救われた人々、町、国は数しれません。誰かが彼のことを『勇者』と呼びました。それは、徐々に世界中に広がっていきました。そうして、彼は世界中で『勇者』と呼ばれる存在になったのです。
彼自身は決して自分は『勇者』と呼ばれるような男ではないと、ただの『旅人』だと言っていたのですがー・・・