表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

擬態

作者: 山羊ノ宮

 水槽の中には砂が敷かれており、中央に穴がところどころ空いている岩が鎮座していた。海藻は植えておらず、エアーポンプがブブブと音を立てている。水槽の中には何も泳いでいない。「これで少し華やかになるかな?」

 男が水槽の中に熱帯魚を放った。熱帯魚たちが水槽の中に色を振りまいていた。

「そうね。ありがとう」

 男に対し女が礼を言った。

 その部屋はよく言えば、清潔感のある部屋。悪く言えば、生活感のない部屋だった。

 その男女は恋人同士に見えた。女は台所に行き、料理を始めた。男はソファに寝転がり、テレビを見始めた。丁度見たい番組がなかったのかザッピングをしている。

 自殺者が増えているというニュースが少し流れた。

「そういえば、私が高校生の頃、同じクラスの子が自殺してたわ」

「へー。やっぱそういうのって多いんだな。俺も中学の頃いじめられてた奴が自殺して、大変だったわ」

「何? 友哉っていじめっ子だったの?」

 女は笑った。

「別にいじめたくっていじめてたわけじゃないって。なんていうか。その場のノリっていうか。でも、相手が死ぬなんて考えないからな。俺らも餓鬼だったんだよ。けど、まあ、あんなもんで死ぬなんて、死ぬ方もバカだよなぁ。何も死ぬほどじゃないって、あんなの」

「そうねー。ホントバカよねー」

 女は男の前に料理を運んできた。そして、一緒に持ってきた包丁で男を刺した。

 男は何が起こったのか分からず、目を丸くしていた。

「そのいじめられて死んだ子の名前、藤木直子よね? その子、私のお姉さんなの」

「だって、名前。それに・・・」

「偽名よ。あなたの知っている私はこの世のどこにもいないわ」

 女は吐き捨てるように言った。

 水槽の中では熱帯魚がすいすいと泳いでいた。砂が一瞬盛り上がったと思ったら、熱帯魚は姿を消した。砂の中でヒラメが食欲を満たし、安らかに一つ大きな息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ