とある少年のプロローグ
少年は考える。かつて、これほど重く非機能的な衣装をまとったことがあっただろうか、と。
遠い昔に着ていたように思う服は、もっと肌触りの良い布質だったようだし、つい最近まで着ていた服はもっと粗悪品でぺらぺらであったが、動きやすくはあった。
ひらひらした裾も、頭の上でじゃらじゃらとうるさい冠も、手足を飾る宝石類も全て邪魔で仕方がない。
「ユーリウス殿下」
目の前の男が呼んだ。とても肥えた体をしているが、ぷくりとした頬はかわいらしいといえなくもない。
これも現実逃避かもしれない。
少年は軽く頭を振って静かに立ち上がった。
「いいですか、何もおっしゃらなくてよろしいんです。あのバルコニーに出た後は、にっこりと笑って手をお振りください。その後、王位継承者の証であるその花をちらりとお見せになるんです。」
男は、この華美な服の、腰元で不自然にぱっくりと切れた部分を手で示してみせる。
少年は頷いた。
男は満足げに頷き、少年をバルコニーへ導いた。後ろからは無表情の男二人が静かについてきた。
バルコニーはまぶしかった。
「ユーリウス殿下、万歳」
「ユーリウス殿下、万歳」
「ユーリウス殿下、ユーリウス殿下、万歳、万歳、万歳」
少年はにっこり笑って手を振った。