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第十九話「ガルガンチュアファミリー散華」 アバン、OP、Aパート

 惑星イシュキック。

 言わずとすれた行政首都ロプノールのお膝元。

 情報という名の甘い蜜が滴り落ちることで、腐り落ちた果実。

 その中でもとびきりのスラム――ルアマン区画を、片眼鏡モノクルを掛けた男が歩いている。

 折しも雨が降っており、グレーのスーツを着た男はそのまま風景の溶け込んでいきそうな風情だ。

 この区画にはもちろんエアシールドのようなものは普及しておらず、男も携帯用のエアシールドで雨を防いでいる。

 そんな男に歩み寄っていく、身体を斜めに構えた男達。

 この区画は、場末の娼館、スクラップ置き場、最底辺の宿屋と目も覆わんばかりの施設が軒を並べており、その住人達の民度も推して知るべしだ。

 恐らくは、片眼鏡の男に“通行料”という名の金銭をせびっているに違いない。

 片眼鏡の男も慌てず騒がず、紙幣二枚を取り出してみせる。

 もちろん、それで納得する男達ではないが、片眼鏡の男が二言ほど口にすると、いきなり頭を下げて何処かへと立ち去っていった。

 それを手を振って見送った片眼鏡の男は、さらに区画の奥へと進んでいき、最奥にあるスクラップ置き場にたどり着いた。

 その傍らにある、錆の浮かんだ今にも崩れ落ちそうなビル――というよりは小屋と言った方が良いだろう。

 その表札にあるのは「イーグルス仲裁事務所」

 片眼鏡の男は、その傍らにある呼び出しブザーを押した。

 ガシャガシャ、と周囲から機械の駆動音。

 たっぷり三分ほど間が開いてから、ようやくのことで解錠された音が響く。

「お邪魔しますよ、エリーゼさん、ステファンさん。時間通りだと思いますが」

「そこだけは褒めてあげても良いわ」

 その声の主を捜すように、片眼鏡の男が視線を巡らせると、部屋の中央、集められたスチール机の片隅で、シチューにちぎったバケットを山ほど放り込んで、グリグリとかき回している十五、六歳ほどの少女がいた。

 長い銀の髪。菫色の瞳。そして色気のないつなぎ。

 そして、腰が引けるほどに整いすぎた顔の造作に、がさつな仕草。

 どうにもちぐはぐな印象だが、彼女こそがこの事務所の主であるエリーゼ・イーグルスだ。

「おや? ステファンさんは?」

「いつものところ」

「大事なパートナーと、私を二人きりにするなんて信頼を感じますね」

「それは舐められているんだと思うわよ、シェブラン。それにあいつは自分の欲望を優先しただけ」

「ああ、あのマニアックな娼館が行き先ですか」

「――無駄話をしに来たの?」

 何かゲル状の物体に変化したシチューに、ミルクを注ぎ込みながらエリーゼが促すと、片眼鏡の男――シェブランは笑って、

「最終確認に来ました」

「で、しょうね。私もさっきまでそこで計算していたの」

 見ればスチール机の上に、何枚もの紙が散らばっている。そこには手書きで、いくつもの数式や航路図らしきものが書き込まれていた。

(まさか、これで一週間の世界ア・ウィーク・ワールド全域の計算をしているなんて、誰も信じないでしょうねぇ)

 と、シェブランは内心で苦笑を浮かべる。

 不和の女神の代理人(エリス・エージェント)とあだ名される、エリーゼ・イーグルス。

 そんな少女に依頼した内容は、ガルガンチュアファミリーの販売経路の調査。

 エリーゼは条件として「私達も儲ける」と言い出して、まず連合の情報を元に通常の流通路をかき回し始めた。もちろん、今まで提携を組んでいた業者達の対立を煽るというやり方で。

 マッチポンプのお手本、という手法で対立を煽った両者に手打ちを勧め、その仲裁料をかすめ取る中で、エリーゼは冷静に物流の流れを把握していった。

 表に出ている流れは、帳簿を見れば把握できる。

 エリーゼが確認したかったのは、その裏に流れる非合法な商品の流れ。

 非合法の商品が単独で物流の流れを作ることはまず無い。

 もちろん理屈を言えば、そういったものを作ることは出来る。

 ただ目立ちすぎるのだ。

 そのために既存の物流の流れの中に紛れ込ませる事が常套手段になる。

 エリーゼはその流れを寸断することで、変化する裏の流れを見極めた。

 そして、接続延長薬ハイアップの流れをほとんど把握することに成功する。

 その中で判明したこと。

 接続延長薬ハイアップの集積地点が一週間の世界ア・ウィーク・ワールドにいくつかあった。

 この集積地点のさらに奥。

 それこそが、ガルガンチュアファミリーの本拠地。

 エリーゼはさらなる諍いを起こすことで、それを絞り込もうとしたのだが、シェブランは少し前に新たなる情報を持ち込んでいた。

「ギーヴは本拠地ではない」

 という情報だ。

 これによって、流通路はさらに整理された。

 そして今。

 シェブランは行政首都ロプノールの中央演算ユニットの結果を持っている。

 そして、もう一つ。

 エリーゼの計算結果が合えば、ガルガンチュアファミリーの本拠地は、ほぼ判明したと言っても良いだろう。

「まったく、余計なことをしてくれたわ。あと二、三回は金を抜けると踏んでいたのに」

「あなた方が暗躍すると、連合にもダメージが来るんですよ」

「……不良職員が今更、何を言ってるの? それに壊したあとに馴れ合いのない流通路が出来てるでしょ」

「それはそれで困るんですが」

「やっぱり不良じゃない」

 そう言って、エリーゼはゲルシチューにスプーンを突っ込むと、大量にすくい上げると口いっぱいに頬張った。

 こうなるとエリーゼはどうしようもないので、シェブランは大人しく待つ。

 幾度かの咀嚼の後、エリーゼはゴックンと口の中のものを飲み込む。

 間違いなく健康に悪いはずだが、この少女のふてぶてしさは健康面にまで及んでいるらしい。

「……ま、あなたがどうなろうが、連合がどうなろうが知った事じゃないわ。とにかく私は依頼をこなして結論は出した。今、流通している接続延長薬ハイアップの大元は――」

 エリーゼは、ゲルシチューにスプーンを突き立てた。


「――ジャガーノートよ」


 それは、シェブランの頭の中の答えと一致した。


◆◆◆ ◇ ◆◇◆◇◆◇ ◇◇◇◇◇ ◆◆◇◆ ◇◆◇


 その場所を説明するとしたら、恐らくは“渓谷”という表現が妥当なのだろう。

 GTとリュミスが呼び出された場所は、かなり開けてはいたがその周囲が赤茶けた砂岩の断崖に囲まれていた。

「お前、顔隠すの止めたんだな」

「隠す意味がもう無いからね。なんかいよいよ煮詰まってきたって感じだけど」

「お前以上に煮詰まってるのがいるぞ」

 GTの言葉にリュミスが視線を向けてみると、渓谷の入り口付近に土煙が立っていた。

 呼び出しの言葉を信じるなら、それはクーンのものであるはずだが……


「なんだありゃ?」


 GTは率直すぎる感想を漏らした。


           ~・~


 例の手段で、クーン達が果たし状を天国への階段(EX-Tension)にばらまいたのが、おおよそ三日前。

 無視を決め込んでも良かったのだが、この誘いに乗るように促したのはモノクルだった。

「いよいよ大詰めでしてね。まぁ、クーンさんに限っての話ですが」

 いつもの小部屋でモノクルは説明する。

「本拠地がわかりました。ジャガーノートという惑星ほしです」

「…………何処?」

 航法士の資格を持つリュミスが、忘れてしまうほどのド田舎。

 この場合は、忘れているリュミスに問題があるのだが、思わずそれを許してしまいたくなるほどの僻地でもある。

「そんなわけでして、その手入れの間に連中が三時間も大人しくしてくれているのなら、その方が有り難いわけです。三日後というのも都合がよい」

「都合が良すぎるのが気にくわない――みたいなことになならないのか?」

 GTが、突っ込むとモノクルは笑みを浮かべ。

「それも向こうの誘いと踏んでいます。そしてあなた方には、罠にはまって、その罠を踏みつぶしていただきたい」

「簡単に言うのね」

「時には無茶振りの一つでもしませんと上司らしくありませんから。それに――」

「それに?」

「観念したのか、やたらに金を吐き出してるんですよ。で、どうもそれを天国への階段(EX-Tension)で使ってるみたいですね。自前で何か作ってますよ、あれは」

 そしていかにも楽しそうに笑うモノクル。

 それを見て、GTとリュミスは同じ結論に達した。

 処置無し、と。

「……わかった。少なくとも退屈はしなさそうだな」

「安請け合いして、大丈夫なの?」

「消極的に考えるとだ」

 似合わないことを言い出したGTに思わず目を見張るリュミス。

「今回は、別にクーンを殺さなくても、三時間粘れば良いだけだからな。それなら、どうとでも対応できる」

「良い心がけです。というか……」

モノクルがにじり寄ってきた。

「三時間、飽きないでくださいよ。まぁ、殺されて切断ダウンということになればクーンはしばらく動けませんが」

 それ聞いて、GTは意味ありげに笑みを浮かべた。

「このタイミングで、呼び出しを掛けたんだ。奴らだって馬鹿じゃない。これは覚悟を決めた上での最後のお祭だろうさ」


                ~・~


 さて、そういう事情で呼び出しに応じた二人の前に現れたのは、五台のバイクだった。

 バイクといっても下半分が二輪車、というだけで上半分は翼を取っ払った戦闘機、という説明の方がしっくり来る。キャノピーがあり、その周囲にバルカンポッドにミサイルランチャーなどの兵装などが見て取れた。

 それらが土煙を巻き上げながら、近づいてくる。

「リュミス」

 その光景を見ながら、突然GTが呼びかけた。

「何よ」

「前に言ったことは訂正する。奴らはやっぱり馬鹿だ」

「……律儀な事ね。同意だけど」

「で――」

「わかってる。私は適当な崖の上にでも身を潜めておくわ。さすがにあれと正面でやるのは無理」

「ああ。だけど、三時間は付き合わないといけないだからな。いきなりとどめは刺すなよ。俺が適当に相手するから」

「了ーー解」

 と、言い捨ててリュミスは一見断崖絶壁にしか思えない箇所をピョンピョンと跳びはねて登っていく。

 以前のサッカーの時と言い、身体能力の使い方が確実に上手くなっている。

 それを満足げに見送ったGTは、表情を改めて近づいてくるバイクもどきを睨み付けた。

 ほとんど眼前にまで迫っており、先頭を走る一際大きな一台が、パワースライドを決めてGTの前に停車する。

 そしてキャノピーを開けて、身を乗り出したのは防塵ゴーグルを額にずらし、全身は黒革のつなぎに身を包んだクーンだった。僅かにクーンらしさが伺えるのは、ラベンダー地に金糸であしらわれたペイズリー柄のスカーフ。

「待たせたなぁ!」

「その芸人きっかけ、何とかならんか」

「るせぇ!」

 と、一連のやりとりを終えたところでクーンが気付いた。

「……リュミスはどうした?」

「もちろん、狙撃ポイントに待機している」

 それを聞いて慌ててキャノピーに首を引っ込めるクーン。

 GTは、そんなクーンの反応を見ながらボルサリーノを被りなおした。

「――安心しろ。三時間はみっちり付き合ってやる。いきなり始末したりはしねぇよ」

「そ、そうか。よし! 俺の渾身の()をくらいやがれ!!」


 ジャキン!!


 クーンの乗る機体武装が一斉にGTを向いた。


 ジャジャキン!!


 それに連れて、イザーク達が乗っていると思われる他の四つの機体も動き出す。

 改めて見ると、微妙にデザインやカラーリングが違っているが――

(それは、この際どうでも良いか)


 ギャララララララララ!


 バルカン砲はすでに火を噴いている。

 まずは襲いかかってくる銃弾をかわさなければ。

 灼熱の弾丸が集中することで一気に温度が上昇する焦点ホット・スポットから、GTは身体を空間に滲ませるようにして回避した。

 そして右手にはブラックパンサー。


 ドゥンッ!


 GTはバルカン砲に続いて発射された、迫り来るミサイルを、撃ち落とす。


                ~・~


 なんだかんだ言っても、今までクーンが使用してきた武器は“対人用”である。

 が、今回用意した兵器は、基本的に“対兵装用”だ。

 宇宙船の外装に使われる硬質の金属で、完全被甲フルメタルジャケットされた弾丸はブラックパンサーの威力を持ってしても、弾くことが出来ない。

 もちろん避けてしまえば問題ないのだが、それだけではジリ貧だ。

 攻撃に転じるための一瞬の空白が欲しいときに、強引な手段に打って出ることが出来ないというのは、GTの精神衛生上よろしくない。

 右、左、右、右。

 上半身を傾けて、銃弾を見切る。

 正面からの攻撃だけならば問題ないのだが、次は背後からの銃弾をかわさなければならない。

 飛んでしまえば簡単なのだが、銃弾をブラックパンサーで処理できない以上、飛んでしまうのも迂闊すぎる。

 ランチャーから排出されたミサイル二基は、とりあえず弾頭を撃ち抜いて無力化し、残りの背後と左右からの弾丸は、ダッキングして同時にかわした。

 珍しく、GTが完全に受け身状態だ。

 その間に、五台のバイクはGTの周りをグルグル回り始める。

 それを甘んじて受けるGTではない。

 ボルサリーノを押さえて、全力でその輪の内側から抜け出そうとする。

 すると、バイクは円運動からGTに併走する形に移行して、途切れることなく銃弾を浴びせかけてきた。

 狙いが甘いせいか、その全てに対処しなければならないということでもないが、そこに惜しみなくミサイルが注ぎ込まれるから、非常に厄介だ。

「あいつのケチは何処に行ったんだ!?」

 思わず毒づくGTに、

『やあ苦戦してますね』

 胸元のバラが反応した。

 言い返したい。

 が、それより先にGTの身体が宙に舞った。

 禁じ手のはずの行為を行ったのは――


 ――キュン。


 銃声とは違う音が響く。

 突然にGTが立っていた場所が焼け焦げた。

『レーザー! いや、メーザーかな? 本当に惜しみなく金をつぎ込んできてますね!!』

「また連合(お前ら)の横流しか!」

『いや、マニアのハンドメイドでしょう』

 と、それに対する文句を並べている場合ではない。

 GTのジャンプは見切られていたようで、今まで以上の銃弾とミサイルが襲いかかってくる。

「く……!」

 右手にブラックパンサー。

 左手にP-999。

 もう、格好を付けて「二丁拳銃はイヤだ」などといっている場合ではない。

 P-999でミサイルを先に爆発させて、その爆風で銃弾の軌道を微妙でも良いからそらす。

 ブラックパンサーでそれでも向かってくる銃弾を迎撃し、そうやってできた“ズレ”に身体を滑り込ませ、最終的には銃弾の一つを下から蹴飛ばし、落下速度を速めた。

 地面に足が付いていないと、危なくて仕方がない。

 だが、クーン達もこの一瞬に力を注ぎ込みすぎたのか、さらなる追撃がGTに向けられない。

 つまりは、ここで初めてGTは攻撃のターンを迎えることが出来た。

 まず、潰すべきはレーザーだか、メーザーだか。

 明らかに形状に違う武装を探し、ブラックパンサーを叩き込む。

 そのついでにP-999をクーンの乗る一際大きなバイクのキャノピーに向けた。

 その結果は両方とも同じだった。


 ズチュ。


 何とも妙な音がして、銃弾が絡め取られてしまう。

『あ、あの技術(あれ)連合ウチですね』

「じゃあ、もう黙ってろ」

 GTの右足がようやく地面に接した。

 その瞬間に、GTの姿がかき消える。

 もう残像も残さない。

 そして次に現れたのは、先ほど銃弾が通じなかった妙な兵器――レーザー(仮)の傍ら。

 GTは拳銃をしまうと、その砲身部分を抱える。

 そしてそのまま、グイッとねじ曲げてしまった。

「おまえーーー!」

 先頭車両のキャノピーが開いて、クーンが身を乗り出してきた。

 そしてGTに向かって叫ぶ。

「お前! それは何というか反則だろう!」

「るせー! 俺は規則ルールなんて大嫌いだ!」

 即座に言い返すGT。

 もちろん、クーンも黙ってはいない。

「反抗期のガキかテメーは!! それいくらしたと思ってやがる!!」

「壊れて欲しくないもの戦いに持ちだしてんじゃねーよ!」


 チュン!


 クーンの防塵ゴーグルが突然跳ねとばされた。

「…………え?」

 脂汗を流し真っ青になるクーン。

『リュミスさんの、狙撃にも磨きがかかってきましたね。まさかあのライフルで、あんな器用な真似が出来るなんて』

「ハッハッハ! お前調子に乗りすぎなんだよ!」


 ズチュ!


 再び音が響いた。

 今度はGTの足下から。

『ああ~、これは怒ってますね』

「てめぇ、リュミス!」

 GTがブラックパンサーを崖の上にいるはずのリュミスへと向けた。

 しかし、何処にも気配が感じられない。

「あンのヤロー!!」


 ドドドドドドドドゥンッ!


 ブラックパンサーを連続でリュミスがいると思われる地点に叩き込むGT。

『残念、まったく見当違いですね』

「モノクル、てめぇ、どっちの味方だ!?」

「俺達を無視すんじゃねぇ!!」

 立ち直ったクーンが、実にもっともな訴えを叫ぶが、それはただ単にGTにストレスのはけ口を提供したに過ぎなかった。

 GTは、レーザー(仮)の本体部分をそのまま抱え込むと、基部から引っこ抜いてしまう。

「アアアアアアアアアアッ!」

 まったく衰えることのない声量で、クーンが絶叫するがGTは構わずに、基部が抜けた穴に足を突っ込むとグリグリとかき回し始める。

 そんなことをされて、本体が無事で済むはずもない。

 レーザー(仮)を発射するためなのか、他の武装がまったく付いていないのがまた災いした。

この機体には、GTを振り払う術がない。

 そのままGTに蹂躙され続けるしかない状況だ。

 さらにグリグリされると、一応自立を保っているが、前輪と後輪がバラバラに動き始めて、いきなりキャノピーが開放されてたりもする。

 パイロットは――眼鏡の小男。

 GTは名前を知らないがタナカである。

 ここで撃ち殺せば簡単だが、果たしてこいつを今ここで殺して良いものかどうか。

 しかし――


 ――クーンの性格なら、今の自分を狙わないはずはないと思うのだが。


 GTの頭の中の冷めた部分が囁く。

 そしてそれは、数瞬遅れで現実となった。


 ギュララララララララララララララララララララララ!!


 残り四台に設置されたバルカン砲が回転し、対人用ではない銃弾がGTへと降り注ぐ。

 そしてバルカン砲を稼働させたまま、動作のおかしくなった機体を中心に回り始めた。

 このままでいれば、また的になるだけだ。

 今までのGTの回避パターンからすれば、下の機体を踏みつぶしながらジャンプ――となるはずだが、GTはそのまま飛び降りた。

 そしてそのまま、まともに動くことも出来ずにフラフラする機体に同調して動く。


 ドンッ!


 ブラックパンサーが火を噴いて、手近にあった機体のタイヤに銃弾を叩き込む。

 だが銃弾は空しく吸い込まれるだけだった。

『当たり前にチューブレスですね』

「一応だ、一応」

 バルカン砲からは果断無く攻撃を向けられているが、この機体のよくわからない装甲のおかげで、やっと攻撃する余裕が出来てきた。

『なんだかセコい様な気もしますが』

「これは、クーンのミスじゃないか? いつも通りに」


 ギュン!


 GTがフラフラの機体の下から、飛び出した。

 そのままジグザグに走り抜け、一番奥に見えていた機体の懐に飛び込む。

 連合から漏れた機密を流用しての装甲によほど自信があるのか、クーン達の攻撃の手が緩むことはない。

 ただ、ミサイルは飛んでこなくなった。

 その理由は――

「ミサイルはやばいのか?」

『単純に、ミサイルを撃ち尽くしたんじゃないんですかね?』

「そういえば、そんな奴だった!」

 言い捨てて、ジャンプ。

 そのまま近寄ってきた機体の上に飛び乗る。

 そこで留まることなく、機体の上を駆けて、まずはミサイルランチャーを覗き込む。

「ないな」

『ないですね』


 ギュララララララッ!


 いきなり標的の高さが変わったために、追いついていなかった他の機体のバルカン砲がようやくGTに狙いを定め終えたようだ。

 GTはランチャーを蹴り飛ばして破壊すると、その勢いでこの機体に付いているもう一つの武装――バルカン砲へと向かう。

 こちらのバルカン砲は、目標が近すぎて狙いを付けられないのはわかっている。


 チュン!


 リュミスからの援護が来た。

 こちらに狙いを定めていたバルカン砲の一基が、カラカラと空回りをしている。

 これで余裕が出来たGTは、今度は迷うことなくバルカン砲の基部を、思いっ切り蹴飛ばした。


 グベシャッ!


 嫌な音が響き、バルカン砲が無力化された。

「この方法で、時間稼ぐしかねぇなぁ」

『とはいっても、まだ一時間も経ってませんよ。このペースで破壊されたらクーンさんは……』

「俺をひき殺しに来るんだろうなぁ」

 他に攻撃手段が思いつかない。


――だが、それは間違いだった。


 二人は見誤っていたのである。

 クーンの馬鹿さ加減というものを。


◇◇◆ ◆◆◇ ◆◇◆◇◆ ◆◇◆ ◇◆◇

失敗です。

もうちょっと後の展開で、AパートとBパートを分けたかったんですが、バランス的にこうなってしまいました。

なので、引きが弱いですが勘弁してください。

あと、アバンに登場する女の子は新キャラクターというわけではなく、ゲスト出演ぐらいに思っておいてください。

このあと出演したりは(多分)しません。


では、後編は日曜日に。

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