第九話「格子窓の向こう、雨」 Bパート、ED、Cパート、次回予告
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GTはその名を呼ばなかった。
一欠片の情報も渡したくはない。
その代わりに、先ほど声を発した分身体を瞳を動かさずに捕らえる。
フォロンを前にして瞳を動かせば、それはすでに決定的な隙だ。
だが、そのリスクを背負ってでもこの情報を拾わなければならない。
何しろ、
「兄貴」
と呼んだのだ。
単純に考えて血縁関係。
みたところ東洋系の顔立ちが揃っているので、義兄弟かも知れないがそれでも関係性は深いだろう。
“篭”一派の最奥部にいるフォロンの血縁者。
その身元がわかれば、一気にゴールにたどり着ける。
だがそこには特徴をそぎ落としたような、髪を短く刈り込んだ男が居るばかりだ。
しかもサングラスまで掛けている。
モノクルも同じ考えで、今の事態に対応しているはずだが、果たしてどれだけの成果を上げられるか――
「初めてお目にかかる。君がGTだね」
フォロンとおぼしき青年が話しかけてきた。
その口調にはどこかたどたどしさがある。
だがGTはそれも指摘しない。
「その通りだが……そちらの名前を聞いても良いのかな?」
型通りに返事をするだけにとどめた。
すると、青年は何がおかしいのか突然笑みを浮かべた。
「僕の名前を知らない? 僕はそこまで君たちを過小評価しては居ないつもりだが……いいだろう。茶番に付き合おうじゃないか」
青年はGTを見据えた。
「僕は“フォロン”だ」
あっさりと名前を口にする青年。
GTはそれに――銃撃で応えた。
ここで自分の反応を知らせるわけにはいかない。
ならば相手の意識を別に向ければいい。
都合四連射。
狙ったのは額、心臓、肝臓、そして金的。
フォロンはその全てを、右手一本で払い落とした。
先ほども見せた技だ。
銃弾に対して真横から高速で衝撃を加えると、フォロンが起こしたような現象を引き起こせる。
もちろん常人に可能な技ではないが。
「噂通りのトリガーの軽さだ。そして狙いも正確」
いきなりの銃撃に対してはさほどの痛痒を感じていないらしい。
「お前も大したものだ」
GTは悠々とマガジン交換を行った。
相手の強さがはっきりすれば、必要以上に怖がる必要はない。
こうなれば、いつもと同じだ。
フォロンを仕留めて……あの幹部に対して改めて尋問すればいい。
「わざわざそんな手間を掛けているところを見ると、その後ろにいるのはお前の身内か?」
揺さぶりを掛けてみる。
「もちろん」
フォロンは堂々と応えた。
GTの周囲視が、背後の男達の動揺を見る。
フォロンもその気配は背中で感じているであろうが、まったく動じることなくさらに言葉を継いだ。
「我が盟主が構築した秩序に賛同し、その秩序に従って共に繁栄を目指す大事な身内だ」
盟主。
新しい言葉が出てきた。
クーンの言う“奴ら”
クーンが複数形にしたのはその盟主とやらも含めてのことなのか。
一瞬の思考の隙。
その意識の隙間に――フォロンがそっと忍び込んだ。
着流しを揺らめかせながら、GTとの距離を詰めて――いやすでに距離は詰まっている。
結果として、GTの目の前に突然フォロンが出現したこととなる。
そのための“因”が何もない状態で。
GTにとってはこれ以上ない程理不尽な状況。
が、GTはこの状況に対して心を閉ざした。
怒りも悲しみもない。
ただ一歩、右足を前に踏み出してフォロンの陣地に侵入する。
フォロンがそれに対応するかのように、その足をかわして半身になると、GTはそのまま背後のフォロンにもたれかかるようにして体当たりを繰り出す。
フォロンはまたも反射的に、その場に踏ん張ろうとした。
するとGTはフォロンの身体を支点として、後方へと宙返りを行い一瞬にしてフォロンの背後を取る。
その時にはすでにGTの左手はフォロンの、のど笛を掴もうとしていた。
同時に、右手の銃はフォロンが守ると言っていた“身内”へと向けられている。
純粋殺戮者の本能に火が付いていた。
それがフォロンという怪しい存在に刺激を受けた結果だとしても、この場では必要な“現象”と言える。
だがフォロンもそのままGTによってもたらされる死を受け入れはしなかった。
その場で180度ターン。
いきなり“結”だけを出現させた様に見えるが、GTの右腕が跳ね上げられたことで、それが間違いだと気付く。
回転のモーメントを利用して、フォロンの左腕がGTの右腕を下から払ったのだ。
GTはそれに逆らわず、そのまま空中での側転に以降。
普段ならそのまま銃撃を行うところだったが、フォロンが空中のGTにさらに詰め寄ってきた。
GTはその行動に“奇妙”を覚える。
必殺の一撃が来ない。
それをかわしてのカウンター――はっきりとそう意識していたわけではないが、GTの漠然としたプランにフォロンが一向に乗ってこない。
そのフォロンの右手が袈裟懸けにGTの頭部へと迫る。
側転中のGTを迎撃する形ではなく、後追いする形で。
黙っていても避けられそうだが、GTはそれを選択せずにその右手を左手で掴む。
そのまま左手を引いてフォロンの体勢を崩すと、強引に銃口をフォロンが守ろうとしているスーツの集団へと向けた。
フォロンの目的は時間稼ぎだ。
ならば、それを利用しない手はない。
果たしてフォロンは崩れた体勢から強引にGTの左手を振り払うと、射線上へと身を翻らせる。
GTははそれに構わずに発砲。
空中にいるために無茶な体勢で発砲したので、ブラックパンサーの反動がGTの身体を揺さぶり、GTは肩からの着地となった。
フォロンも放たれた銃弾を弾くのに精一杯で、そのGTの隙につけ込めない。
もちろん、そのまま大人しくしているGTではない。
起き上がるのと同時に――あるいは起き上がるそのための力をも利用して一気に加速すると、フォロンのいない側へと回り込んだ。
光速以上、と言うだけのことはあってほとんど瞬間移動である。
遮蔽物のない事を最初は問題視したが、こうなると縦横無尽に動ける分、GTには有利かと思われた。
だが、それはフォロンも同じ条件だ。
スーツの集団の中央をGTよりも小さい半径で回り込む。
GTは銃口を向けるが――トリガーは引かなかった。
「……いたちごっこが狙いか?」
「僕はあなたを倒そうとも、仲間に引き入れようとは思ってないのでね」
フォロンが笑いながら応じた。
「僕を前にすれば、あなたは事実上無力化される。その事実があればこの場の秩序は乱れない」
フォロンはGTから目を離さずにさらに続けた。
元からいた男達に向かって。
「見たでしょう? ここで彼がいくら暴れ回っても、そちらには銃弾の一つも通らない。今の内にさっさと用を済ませて切断してしまいなさい」
それは厳然とした事実。
「ここを利用している段階で、ある程度のリスクは覚悟を決めてきたはず。今ここで右往左往するより実利を取った方が効率的だ」
フォロンの言葉に今まで呆然と立ちつくすばかりだったスーツ姿の男達が動き始めた。
『GT……』
戦闘中であるのに、珍しくモノクルが話しかけてきた。
それほどに今の展開が不安なのだろう。
「あの男の能力は俺と同じか、もしくはそれ以上だ」
GTが淡々と告げる。
『本当に……?』
「だが身体を動かした経験自体が少ないのか――それを使えていない」
GTは銃をホルスターにしまい――真っ直ぐにフォロンへの体当たりを敢行した。
フォロンはそれを避けるわけにはいかない。
背後には守るべき“秩序”がある。
GTの身体を受け止めようと、両手をGTへと差しのばす。
この時にフォロンは気付くべきだった。
自らの腕が、下への視界を遮っていることに。
フォロンは確かにGTと同じように“見て”から動き始めても対応できるだけの“早さ”を持っている。
だが、それは見ることが出来なければ何も出来ないということだ。
GTは易々とその死角に入り込んだ。
そしてフォロンの右足をそっと抱え込む。
優しく、そして静かに――狙うのは膝の靱帯。
フォロンが察して力を込めてきたとしても、それを上回るパワーで。
いやそもそも関節技とは、それをさせないところに妙がある。
GTはフォロンの膝を曲げてはいけない方向に捻った。
“聞き”慣れた手応え。
「グッ!!」
フォロンが痛みの余り声を漏らす。
果たして足に消失エフェクトが生じ始めていた。
フォロンはこのまま足を失う事になる。
同時に、それは速度も失うということだ。
あとはゆっくりと片付ければいい。
が、通常の世界とは違うこの現象がGT――ジョージ・譚――の手口に対して変更を強要した。
通常であれば、靱帯が挫かれても足は変わらずにそこにある。
つまりはその足をそのまま利用して、さらなる苦痛を与えつつ、そのまま蛇のように身体に絡みついていけばいい。
だが足自体が無くなってしまえば――フォロンは絡みつくGTから一瞬とはいえ解放される。
そしてそのフォロンは窮鼠――いや、手負いの獅子だ。
「我が盟主アーディよ!」
残された足一本で、フォロンは宙へと飛んだ。
「その力を示し給え! この不埒者に神の力を!」
その声も、口調も、そして苦痛に歪んだその顔も。
明らかに狂信者のそれであった。
だからGTのみならず、スーツ姿の集団までもが唖然としてフォロンを見つめる。
だが、ここは通常の理が通用しない「天国への階段」
「雨を!!!!」
空へと手を伸ばすフォロン。
そして――
周囲一帯に、突然の豪雨が襲いかかった。
「なんだぁ!?」
GTはとっさにボルサリーノを押さえながら声を上げる。
それでも咄嗟にブラックパンサーを抜きはなっているのはさすがというべきか。
しかし豪雨のため、その狙いが定まらない。
フォロンはすでに着地して、その場に膝をついている。
そちらに銃口を向ければいいだけの話なのだが……
「くそ! なんだこの雨! 真横に降ってるぞ!!」
ほとんど水滴がバルカン砲の様にGTの身体に襲いかかって来ている。
ダメージはほとんど無いので、無視しても構わないのだが厄介なのは目に飛び込んでくる雨粒だ。
そして、もう一つ銃口に飛び込んでくる雨粒も。
タイミングが悪ければ、ブラックパンサーが暴発するかも知れない。
GTはまず、ブラックパンサーをホルスターにしまう。
次にボルサリーノを左手に持ち、自分の目の前の空間をなぎ払った。
超絶的な速度と力で、そこに存在するものこと如くを零にしたのだ。
空間をえぐり取った、と言い換えても良いのかも知れない。
GTはそこに“ ”を創造した。
その“ ”を通して、エメラルドの瞳がフォロンを捕らえる。
その“ ”に吸い込ませるようにして、その右手にブラックパンサーが滑り込む。
トリガーを――
「くそっ!」
――GTは絞ることが出来なかった。
その身体が、消え始めている。
ダメージを受けたわけではない。
接続限界時間が来たのだ。
身体の末端から中央部に向けて、段々と消えていくGT。
ついには、その姿が完全に消え失せた。
後にはただ、激しい雨が降るばかり。
フォロンはそれを確認して、ゆっくりと立ち上がった。
もちろん片足だけで。
そしてまた片手を挙げると、雨を止めた。
今度は声も発しない。
だが、それだけに確かにこの世界の支配者であるという説得力があった。
天候をも自在に操れるとなれば、それまもう他に表現のしようがない。
周囲の男達はゴクリとつばを飲み込んだ。
「……さて、秩序の破壊者は去ったようだ。改めて会合を」
そんな中、何事もなかったかのように、フォロンは話を進めようする。
銀縁の眼鏡の奥の感情を失った穴のごとき目が、ただ周囲を睥睨していた。
「ふ、ふざけるな。こんな事聞いてないぞ!」
それに噛みついた者がいる。
その目に蹂躙されることに恐怖を感じたのか。
あるいは、その目にある種の予感を覚えたのか。
噛みついたのは本当の意味でのフォロン――哲士――の身内に当たる方からだ。
健悟の背後に控えているので、松浦か高倉。
ここではなんと名乗っているかわからない。
フォロンはその言葉に僅かに首をかしげ、それに目を向けると、まず堅気――古川建設の代表者へと頭を下げた。
「このたびは、身内の不始末で申し訳ない。ある人物がここでの取引を連合に流したようでね。それで一番手強い者を散々引っ張り回しておいて、この場に誘い込んだのが、いささか計算が違ってしまいそちらにも迷惑を掛けてしまった」
「い、いや……我々は……」
「ご安心いただきたい。今日、僕がこの場に現れたのは、この空間の絶対的な安全性と秘匿性を示すため」
「し、しかし連合の職員は現にここに現れた……これでは何もかも……」
フォロンはそんな声に柔らかく微笑んだ。
「大丈夫。そちらの本当の身元は連合も掴んでいません。裏切り者は、あなた方から甘い汁を吸うことを考えていたのでね。そこまでの情報は流さなかったのですよ。裏切り者が望んだのはあくまで自分が所属している組織でクーデターを起こすこと」
フォロンはそこで改めて、もう一つの集団――加東組へと向き直った。
「ここで顔を見られたところで、身元を割る事は容易ではなく、それを明確な証拠と共に外に知らしめる方法はありません。また法整備も追いついていない」
フォロンは加東組に手を伸ばした。
「後はここの管理人がしっかりしていればいいのです。そしてそれを行っているのが我々だ」
「あ、あんたはGTに一方的にやられていたじゃないか」
先ほど声を上げた男が再び声を上げる。
それはどこか悲鳴に似ていた。
「当たり前だ。僕たちとGTはこれから先も戦うことになる。ここで全ての手の内を晒すわけにはいかない。時間切れを狙えるなら、次も迷うことなくそうする」
「な、何を……」
「だが高倉。お前は別だ。すでに資金の使い込み、上納金の横領、組への反逆が判明している」
フォロンは罪状を数え上げる。
「――死ね」
「ヒッ! ヒィィィィィィ……」
高倉――なのだろう。
その足下が結露している。
先ほど降った雨が、高倉の足下だけ凍り付いていた。
それは高倉の全身に及び、そのまま氷の彫像と化す。
――魔法。
そんなものがあるはずがないとはわかっている。
わかってはいるが、今起きたことをどう受け止めればいいのか。
誰もその答えを見いだせない。
「高倉はそちらで始末できるな?」
その言葉に加東組の一人がうなずき、そのまま切断していった。
残された一人――恐らくは松浦がこわばった表情のままその場に立ちつくす。
「さて、急ぎの仕事ということであればこのまま会合を続けていただいた方が良いと思うが、どうかな」
片足のままの得体の知れない男は、再び古川建設へと向き直った。
「ご希望とあれば、明日にでも別の場所をようしても良いが。その手のセンスが認められる人間がいてね。少しはマシな場所を用意できると思う」
フォロンは笑みを浮かべた。
「この世界の安全性は、証明できたと思うがな。あの氷の彫像一つで」
高倉は、未だにこの世界に留まっていた。
切断も出来ず。死ぬことも出来ず。
「望みがあればいつでも言ってくることだ。ただし秩序を乱すことのない様に」
フォロンは、そう言い残すと再び黒い染みへと戻っていき――
――その場から消え去った。
◆◆◆◆◆◆ ◇ ◆ ◇ ◆◆
それから数時間後――
再び西苑寺家の離れで兄弟は顔を合わせていた。
「……高倉の処理はどうした?」
話しかけたのは、今度は兄からだった。
どこか嬉しげに見える。
「高倉組自体を無くすことは混乱を招くと判断しました。若頭の伊藤と共に破門。破門状はすでに回してあります」
「伊藤はそれでも良いが、高倉はダメだぞ」
「弁えております。ただこのタイミングで命まで失わせるのはいらぬ疑念を招きます。破門の名目には薬に手を出したことも加えてありますので、今はとりあえず薬で処理。その後、折を見て始末します」
フォロンの正体を知るものを外部に出すわけにはいかない。
哲士はうなずいた。
その拍子に、ゴホゴホと咳き込むが健悟はじっとその場で耐えた。
兄に触れてはいけない。
兄を気遣ってもいけない。
「……健悟」
咳の収まった哲士が話しかけてきた。
「はい」
畏まっていた健悟はすぐに答えた。
「これで加東組は一本化された。あとは若頭に任せればお前は足を洗えるだろう」
「…………!」
元々、組を二分しかねない状況であったから瑠璃子が強権を発動して、健悟に跡目を継がせたのだ。
健悟には元来、跡目を継ぐという意志もなかった。
そこを頼み込まれて今に至っているのである。
「……ですが――俺はもう十二分に稼業に染まってしまいました。今更、足を洗っても……」
「本当に今更だな。この場で道義的な問題点を口にしようとは」
哲士は、薄く笑う。
「それに兄貴のこともある」
「そうだな。僕のことは言い訳になるだろう。実際、お前にしか接触の機会を与えていないのだし」
「言い訳って……兄貴!」
「正直に言え、健悟。お前も酔ったんだろう? 権力の味に」
「…………」
健悟は下唇を噛みしめた。
そして、それを否定できない自分がいることに忸怩たる思いを抱く。
「そうだ。お前はこの程度の組織一つを与えておけば満足してしまう。その程度の器だ」
そして兄からの非情な評価。
思わず顔を上げて、兄を睨み付ける健悟。
わかっていた。
以前から、兄は自分に嫉妬していたことを。
同じを血を分けながら、何故これほどまでに違う身体に生まれついてしまったのか。
本来なら、加東組を継ぐべきは長男である自分だったはず。
哲士にはそういう思いが確かにあり、それに怨念じみた不満を抱いていたはずだ。
――それが、いつの間にか兄はあの世界の実力者となっていた。
「だが僕は違う。僕はあの世界の秩序を構築するものだ」
だからこそ、健悟を否定する。
そのちっぽけな組織の長にすら選ばれなかった惨めな自分を否定するために。
それがわかるからこそ、健悟は何も言わない。
それが、この兄への同情であるからだ。
――兄は同情を何よりも嫌うからだ。
「今日は一日雨かな……」
突然、哲士が呟いた。
「予報ではそうですね」
「雨は……いいな」
健悟が眉をひそめる。
「兄貴が雨が好きだとは知らなかったな。それで今日もあんな戦い方を?」
「ああ、あれは全くの思いつきだが……そうだな。僕はやはり雨が好きなんだろうな」
「雰囲気かな? 確かに雨の音は心を落ち着けてくれるよな」
「はは……」
哲士は力なく笑う。
「健悟、そんな事じゃないよ。僕が雨を好きな理由はそんな事じゃない」
「兄貴?」
そのまま、違う世界に行ってしまうのではないかと思うほどの儚げな哲士の声。
「……僕が雨を好きなのは、雨が降れば人が皆、家の中に閉じこめられているんじゃないかと、そんな風に想像できることが嬉しいんだ……皆、僕と同じようにね」
「…………」
健悟はただ頭を垂れた。
もう哲士は、健悟を一顧だにしなかった。
代わりに僅かに目線を上げる。
その視線の先。
――格子窓の向こう、雨。
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次回予告。
天国への階段に突如出現した、海。そして白い砂浜。
人々はこの区域を利用してのバカンスを楽しむ。
だが、それは“篭”勢力が作り出した不透過地域でもあった。
調査に赴くGTとエトワールの前に出現するフォロン。
彼は二人を挑発し、GTはかつて無い苦戦を強いられることに。
次回、「神に逆らう奇跡を」に接続!
完全に番外編という感じの第九話ですが、これで四幹部の内、三幹部の身元が明らかになったのかな。
残るRAも大体おわかりでしょうし。
次は、慣例に則って海回です。
では金曜日に。




