第七話「O.O.Eのある世界」 Bパート、ED、Cパート、次回予告
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「クライス・ア・サンテ」での作業は一段落した。
次は、O.O.E内での兵器開発の督促に行かなくては。
これもまた裏仕事だ。
何でこんな事ばっかりしているのか、と己の半生を振り返りたくなるが、それをやってしまえば空しくなるばかりなのでやめておいた。
「よう、シェブラン」
おかしい。
聞こえるはずのない声が聞こえる。
この声の主は今は立法首都にいるはずだ。
なので、必然的結果として無視する。
「お前が雇っている、あのジョージ・譚――」
クルリとターン。
ここは区画を繋ぐ連絡通路。
つまりは、行政首都における天下の往来だ。
そういう場所で、この人は一体何を口走っているのか。
最近見慣れた、押し出しの聞いたダブルのスーツ姿――いわゆるパワードレッシングが効いた――ではなく、私服に分類されるであろう、濃紺のフライトジャケット姿だったのがまだマシか。
さすがに元宇宙飛行士の議員先生――などと感心している場合ではない。
とにかくその口を閉じさせなければ。
「あなた、一体何を……」
「上手いこと殺しまくってるか?」
止めようとしているのに構わずに話し続ける。
言ってはならないことを、いきなり口にしたのは計算でも何でもないのが困りものだ。
「ええ、ええ! “フォロン一派”の勢力が減少傾向にありますよ」
「……“フォロン一派”? ああ、名前がわかったとか言っていたな。偽名だろうけど」
まったく、この良く通る声は何とかならないものか。
行き交う職員の耳目を集めすぎる。
とりあえずその腕を取って、コーヒーサーバーのある喫茶コーナーに連れて行く。
「なんで、行政首都に居るんですか?」
「う~ん、とりあえず議会制民主主義への理由無き反抗……かな?」
「ただのさぼりを格好良く言わないでくださいよ……こっちに来るまで無理したんじゃないんですか?」
「無理も実験の内だ」
そう言われると、何とも言い返せない。
この議員先生とは、ある計画の同志であり、この議員先生のことだから口調はおちゃらけていても、真面目にその計画推進のために動いているはずだ。
それぐらいには信頼している相手ではある。
その計画の二本柱の内、一つを任されてるのが自分――不本意ながら――ということだ。
「こっちは目処が立ちそうにないしな。一応、様子伺いも兼ねている――A級を越えたような航法士は……そうはいないしなぁ」
「それは仕方ないですよ。そんなのはもう狂人と大差ない人間ですから」
まず超光速航法機関が世界の法則を禁じる。
その隙間に自分の我が儘を押し通す能力こそが今の航法士に求められる能力だ。
扱いにくい連中ばかりになる道理である。
「無茶苦茶言うなぁ」
「こっちも苦労してるんですよ……その――ジョージ・譚の扱いに」
「もう一人、アイドルを仲間にしてただろ」
「アイドルだけに忙しいんですよ」
言いながらやっとの事で用意が出来たらしい、コーヒーサーバーから二人分を取り出すシェブラン。
お互いにブラックで嗜むので、そのまま持って行く。
これに関しては、コーヒーサーバーのコーヒーの味に微塵も期待していないという事情も共通しているからこその振る舞いだ。
「――それで、救出は出来そうか?」
コーヒーの味については無感動に受け入れながら議員先生が尋ねてくる。
シェブランは軽く首を横に振った。
「わかりません。正直もう手遅れなんじゃないかと……」
「それはないだろう」
議員先生が即座に否定した。
「あいつを殺す方法があったら俺が教えて欲しいくらいだ。それをネタに脅迫も出来る」
「…………」
お願いだから、言葉を選んで欲しい。
よくこれで議員先生をやっていられるな、とも思うが、この人は存在自体が希少種だから、皆遠慮しているに違いない。
「殺せないなら、恩を売るしかない。そういう意味では今は千載一遇の好機とも言えるな。しかも、あいつ好みの人材が集まりつつあるじゃないか」
「GT……ジョージのことを言ってるんですか?」
「リュミスというアイドルのこともだ。報告書を読んだが、O.O.Eを利用して見事にのし上がっている。あいつの才能を見逃した世界に未来はいらないだろう。むしろ、彼女を中心にしてショービジネスの新しい形を作った方が良い――よし、エリーゼに相談してみるか」
いきなり盛り上がった議員先生の腕をギュッと掴むシェブラン。
「やめてください」
シェブランの声がこれ以上ないほど固くなる。
「何だ? 反対か?」
「計画自体には反対しません。だけど同時進行は止めてください。お願いですから」
しかも相談相手が「不和の女神の代理人」の異名を奉られる壊滅策士では、どんな被害が出るかわかったものではない。
繰り返すがシェブランは、慎ましく生きていたいのだ。
エリーゼがこっちの企てに首を突っ込んでこないのは、救出するべき相手とまったくそりが合わないからという理由による。
「――そのままくたばっていればいいのよ」
と、いつもの毒舌で罵っているところを何度も聞いたことがある。
この仲間が微妙にまとまっていないうちに、事を済ませてしまいたい。
だからこそ早期解決を目指しているのだが……
「そうだシェブラン。さっき減少とか何とか言ってたな」
「ええ。“フォロン一派”――」
「それ面倒だな……そうだな“篭”と呼ぼう」
「“カゴ”?」
「ああ、漢字でこう書く」
日系人の議員先生は、コーヒーを小指に付けて白いテーブルの上にさらさらと認める。
シェブランも漢字まったく不案内ではない。
字形を見て、なるほど、と思わず納得してしまった。
だが、GTとエトワールが納得するか――そもそもこだわりはしないか。
むしろ短くなったことを喜びそうだ。
シェブランは採用することにした。
「じゃあ“篭”で。で、その“篭”がどうかしましたか?」
「なんか、上手いこと成果が出てるらしいじゃないか」
「数字の上ではそうですね。しかしながら肝心な情報が……」
「それもっと引き伸ばせ」
「はい?」
尻上がりのアクセントで思わず応じてしまう。
「俺の勘だが、この事案は引っかき回せばこっちの助けになりそうな奴が出てくる可能性が高いと思う」
「しかしですね……」
「いいか。俺達の目的にはまだまだ人材が足らないんだ。こういうときは貪欲に行こう。なに、正義の味方を集めようってわけじゃないんだから、簡単だろ?」
「……確かに、彼は正義の味方でも何でもありませんが……」
「だが制御不能の化け物でもない。あいつは目的を果たし――そして人生を終えたと思っている」
議員先生はそこでニヤリと笑みを浮かべた。
「もったいないとは思わないか?」
相変わらず、ずるい言い回しだ。
それに対する答えなど考えるまでもない。
シェブランは肩をすくめ、
「彼をその気にさせるのは、あるいは何よりの難事になるかもしれませんよ」
~・~
目の前にあるのは、オレンジ色のソースをたっぷり纏ったロブスターの身。
つまりはエビチリだ。
それが盛られた皿には青梗菜が飾られており色彩も鮮やかだ。
見つめるエビチリの皿から次第に視界を広げていけば、無謀にもテーブルクロスが敷かれている。真っ白な……恐らくは絹だ。無謀に無謀を重ねている。
汚れる可能性を考えていないのだろうか?
そのテーブルが置かれているこの部屋は清朝末期の中華風の内装に設えてある。
元はかなり広い部屋の一角らしいが、精緻な彫刻を施された衝立がちょうど良い具合に視界を遮ってくれていて、圧迫感も空虚さも感じない。
そういった調度品関係は好意的に受け取った皿の前に座るジョージではあったが、他の要素は、ほとんどストレッサーでしかない。
「……俺はエビチリいやなんだよ。何で素直にロブスターを出さない?」
「誠に喜ばしいことで」
「……青梗菜も嫌いなんだよ。この野菜、食う意味も存在している意味もわからん」
「食べなければそれはそれで済むお話ですが、食していただければこの上ない幸せ」
「……お前、誰だ?」
「失礼いたしました。私は当家、張家の家宰を勤めておりますサミー・陳と申します」
良いながら深々と頭を下げる、初老ほどの男。
仕立てのよいスーツ姿。
ミクロネシア系の浅黒い肌に、顔一杯に刻みつけられている笑い皺。
中国系とは因縁浅からぬ地域の出身のようだが、なにがどうしてこんな黒社会に紛れ込んでいるのか。
そのあたりに疑問を抱かないわけではないが、それはさておいても確認したいことがある。
「当家の当主より、直接ご挨拶できない不調法を詫びておくように、と言付かっております」
だが、その出鼻を挫かれた。
「いかがでしょう。私たちの目一杯のもてなしは」
そして続けられた言葉には目一杯の隙があった。
どうにも誘われているような気がしたが、文句を付けたいという欲求は抑えきれなかった。
「俺がエビチリ嫌いなの知ってるだろ」
「もちろんでございます」
いけしゃあしゃあと答えるサミー。
「青梗菜がお嫌いなのも存じ上げております――ですが、我々としても譚先生の好物を、そのままご用意するわけにもいかなかったのですよ」
サミーは顔中の皺を動員して微笑んで見せた。
「先生に恩を感じていただくと諸共に滅んでしまいませんから。“嫌がらせ”が必要なのです」
きっぱりとそんなことを言う相手に、これ以上の文句は無意味だろう。
ジョージは諦めて、エビチリに箸を伸ばした。
味付けは嫌いではあるが、ロブスターはロブスターである。
それにあの後、官憲の追跡を免れたのは、間違いなく張家の助けに因るところが大きい。
もちろん、ジョージは官憲にとどめは刺さなかった。そんなことをする理由がなかったからである。
そのまま宙港から離脱を測るジョージの前に張家の車が横付けされ――今に至っていた。
この嫌がらせは甘んじて受けておいて、
「張家と自分は、関わりがない」
ということにしておかなければならない。
「それにしても先生。相変わらず見事な腕で」
「殺さなかったけどな」
「それもまたお見事。多くの兇手はその稼業に酔ってしまい、いらぬ仕事を増やすのが常でありますのに。あそこで殺してしまえば、我々にしてもかなり面倒でした」
「どうやったんだ?」
「官憲ともあろうものが、手もなく捻られたのです。その不甲斐なさで彼らの恥を刺激して、この件を公にする必要性があるのかを問いただしました」
「なるほど」
中々にやり手のようだ、とうなずきながらチリソースに染まった青梗菜を引っ張り出す。
「これさぁ、人間は何で食べ始めたんだろうなぁ」
「美味しいですよ」
「お前の感想を俺に押しつけるなよ」
「そのまま、お返ししますが」
「それもそうだ」
ジョージは大きく口を開けて、青梗菜を頬張った。
物怖じしないサミーに免じてジョージは嫌がらせを丸ごと受け止めることにした。
「……復讐完遂者様」
突然にサミーがジョージの異名を呼んだ。
ジョージは、わざと気付かなかった振りをして青梗菜を咀嚼し続ける。
「正直、我々も驚いているのですよ。まさかあなた様のような御高名な方がこの惑星におられるとは。あなた様を危険な目に遭わせたと知れたら、我が家は消し飛んでしまいます。今日は一体どうされたのですか?」
「ロブスターがな……」
さすがに今日の自分の軽率な行動には、ジョージも恥じ入るところがある。
語尾が段々と弱くなる。
「は?」
「この星にロブスターが入ってきてないみたいでな。それで探してたんだ」
サミーの表情が微妙に引きつる。
本気で機嫌を損ねさせてはいけない相手に、どういう風な表情が相応しいのか迷っているだろう。
だが、それよりも先に確認しなければならないことがサミーにはあった。
そのためにも、まずはジョージの疑問に答える形でクッションを挟んでおく。
「この星に、今海産物は不足気味です。末端に出回るほどの数はないでしょう」
「その話は聞いたな。何が起きてるんだ?」
「中央の方で取引が活発になっており、そのために航法士がごっそり引き抜かれたようですね」
「それって、裏側の取引の方か?」
「ええ。今まではそういう目立つことが無いように心がけていたみたいなんですが、何だか尻に火が付いたみたいになっている一部の組織がありまして……」
ジョージは咀嚼を止めて、しばし考え込む。
自分が今している仕事が、影響を与えているのではないかと。
「それにプラスして、連合が何かやっているようですね。超光速航法の強化案が提出された――という様な話もあります」
「……どう考えてもそっちが本命だろ」
サミーの続けての説明に、思考を止めて咀嚼を再開するジョージ。
この青梗菜の素直でないところもジョージは嫌いなのだ。
「時に譚先生」
「何だ?」
「そのロブスターのお求めの際の代金はどうやって捻出を? 安い買い物ではないと思いますが。正直、先生がロブスターが原因で餓死、というのは我々にとっても厄介な話でして」
「俺はそういう死に方が良いんだけどなぁ」
「そうは参りませんよ。先生が我々の膝元で餓死……やはり悪い未来しか想像できません」
「……まぁ、その心配はないさ。ロブスター代を出すというスポンサーが現れたから」
「スポンサー……ですか?」
どうにも、事態がファミリーにとってよろしくない方向にばかり転がっていく。
サミーは表情を必死で御した。
この復讐完遂者に触れることは、裏世界ではそのまま“死”を意味する。
例え味方に付けたとしてもその意味は変わらない。
裏世界の住人なら誰もが知っていることだ。
それなのに一体誰が、この危険きわまりない男を雇ったというのか。
サミーにはそれを確認しておかなければならない義務が発生した。
「……どういう組織の人間かお伺いしても?」
必死の覚悟で、尋ねてみる。
ジョージはエビチリに箸を伸ばしながら、
「組織……? まぁ、連合も組織といえば組織か」
と、無造作に答えるがサミーにしてみれば溜まったものではない。
確かに連合であれば、ジョージを雇ったところでそれでどうにかなることはないだろう。
何しろ警察軍という人類社会最大の暴力装置を保持しているのだから。
そんな組織が、ジョージを雇って一体何を……
「何だっけ? E.E.Oだか天国への階段で、よくわからん連中と戦ってるよ」
続けて聞こうとしたサミーの機先を制するように、ジョージが説明を続けた。
その説明に、混乱を隠せないサミー。
事態がまったく飲み込めない。
それを見てジョージも思うところがあったのだろう。
多分にGT流の噛み砕き方ではあったが、モノクルから請け負った仕事について説明する。
最初はさらなる混乱を引き起こすだけの説明であったが、そのうちにサミーも理解でき――幾らかは心を休めることが出来た。
まず、ジョージはその名で活動していないこと。
そして、戦っている相手が現実世界でも名の通った組織ではな「天国への階段」限定の謎の組織であること、などが胸をなで下ろす材料となったようだ。
「……しかしそうなるとわかりませんな」
「何が?」
エビチリを食べ終えたジョージは口元をナプキンでぬぐう。
「取引相手が連合であるのに、何故先生は今も追われてらっしゃるんですか?」
「そりゃ、モノクルの管轄違いだからなんじゃないのか? 役所ってそういうものだろ?」
「ですが、当然取引として――ロブスター代?」
そこでサミーは事態が腸捻転を引き起こしていることに気付いた。
「ひょっとして、先生は連合との取引に……」
「あいつが一言でも、それを持ち出したらその場で殺すつもりだった」
ジョージのその一言で、サミーは部屋の温度が一気に下がった気がした。
これが「復讐完遂者」の殺気。
「俺がやったことに、あいつらが勝手に評価をすることは認めてもいい。俺もかなりの数、殺してきたからな。だが、その評価を取引に使おうなどと考えやがったら――」
サミーはごくりと唾を飲み込んだ。
自分は今、虎の尾を踏みつけるところだったのだ。
いや。
すでに危機は去ったと解釈して良いのだろうか?
一度敵だと認識したら、どうやっても止まらない――止まらなかったからこその「復讐完遂者」
自分は……
「ところがモノクルの奴は、そんな取引おくびに出さないのさ。それどころかこっちがロブスター代だって言ってるのに、何とか値切ろうとまでしやがった。クソ! もっとふっかけておけばよかった」
文句は言うが果たしてジョージの表情には笑みが浮かんでいた。
自分は危機を脱したらしい、とサミーは今度こそ胸をなで下ろす。
「……なにか、そのモノクル氏でしたか? ――随分と手慣れた様子ですな」
そのまま黙っているのも不自然なので、多少阿るつもりで言葉を添えてみると、
「同感だ。連合の職員には違いないだろうが、あいつもおかしなところに片足突っ込んでるか……俺みたいなのと関わるのが始めてではないとか……そんなとこだろう」
これでお互いに、話すべき事は話し、聞くべきところは聞いたはずだ。
お互いに手じまいのタイミングを計って、微妙な沈黙が流れたが、やおらジョージがサミーへと話しかけた。
「それはそうと、ロブスターの情報知らないか? このままだと俺困るんだけど」
サミーもその問題があったかと、思わず手を打ちそうになったが事態はそう簡単ではない。
この惑星にいる限り――
「先生、O.O.Eには出入りされて居るんですよね?」
「そう言ったろ」
「で、あればそこで情報を聞いてみるのはいかがでしょう? それより前に、そのモノクル氏に尋ねてみるのも悪くはないかと」
「あ……」
ジョージは腕時計を確認する。
「そう言えば、そろそろ定期連絡の時間か」
「それはようございました。私どもの安楽椅子をご使用になりますか?」
その言葉に目を見開くジョージ。
「あれって、民間で持てるのか?」
「もちろんでございますよ。もちろん価格はかなりの額になりますが。私どもも一台保有している限りです」
が、兎にも角にも一台はあるのだ。
渡りに舟、とばかりにその申し出を受けたいところではあるが……
「どうぞお気遣い無く。私どもといたしましては、これ以上先生にトラブルを起こされるのは面倒ですし、早くに当屋敷から退去もしていただきたいのです。そのための協力であるなら問題もないでしょう」
ジョージはそう言われても、しばらくは迷っていたが、ここから例の店まで行く労力を想像してしまったのだろう。
渋々とではあったが、その申し出にうなずいた。
「……じゃあ、そういう態で」
「ええ、そういう態で」
サミーはにっこりと微笑んだ。
~・~
GTがいつもの部屋に接続してみると、モノクルはすでにいて、また酒を飲んでいた。
ここで、酒におぼれるとアル中になるのかな?
と、GTは素朴な疑問を抱きはしたが、それは後回し。
まずは仕事の確認をするだけの分別はある。
「モノクル装備は出来たか?」
「まだです」
明瞭な返事。
酒は飲んでいるが頭はすっきりしているらしい。
「じゃあ、ちょうどいいや。聞きたいことが……」
「私のこの醜態に、もう少し掛ける言葉はないんですか?」
何だか逆ギレされた。
「醜態って……お前全然酔ってないじゃねぇか」
「会うなり飲んだくれてるんですよ。優しい言葉を掛けようというのが、暖かい血の流れた人間の行いというものじゃないですか」
「やだよ。どうせまた上司だか上役に無茶振りされたんだろ? お前のその話は飽きた」
「ぐっ…………」
「そんなことより、ロブスターだ」
「は? ロブスター代はちゃんと支給してるでしょ?」
「金はあっても物がねぇんだよ。今日なんてなぁ……」
そこからGTは今日の騒動の顛末を説明する。
それをグラスを傾けながら聞き流していたモノクルは、その説明が終わるとこう告げた。
「……全部、自業自得じゃないですか」
「お前! そこは『大変でしたね』ぐらい言っても良いところだろ!」
「私はあなたとは違うんです。こっちは真面目に仕事をしてるのに――」
そこから始まるモノクルの愚痴大会。
GTはそれを大人しく聞いていたが、それは先に自分がやらかしたから――というわけではなく、単純に下手に止めると、さらにややこしくなりそうだと感じたからだ。
そもそもGTの意識では状況を報告しただけであって、愚痴を言ったわけではない。
「……酷いと思いませんか?」
最後に何だか同意を求められてきた。
手短に終わらせるために、
「酷い酷い」
と、同意しておいた。
「心がこもってませんよ」
「お前は俺に何を期待して居るんだ。それよりもロブスターだ。何とかしてくれ」
「何とかって……人手不足は私の管轄じゃないですよ」
「そんな役人みたいなこと言うなよ」
「私は役人ですよ」
「今日、改めて理解した。お前絶対役人じゃないよ」
「……役人で居させてください」
暗く沈んだ声に、GTもこれ以上追求するのはマズイと直感した。
「わかった。じゃあ、役人もどきの知恵で良いから、何か思いつかないか? このままじゃ問題がある」
「……今、どこに居るんでしたっけ?」
「ん? ああカルキスタ……って答えで良いのか?」
「ああ、今はそこにいらっしゃるんですね……じゃあロブスターの流通が滞ってない星に行けばいいでしょう。というかそもそも何でそんな星に……」
GTはポンと手を打った。
「その手があったか。盲点だったな」
「迂闊すぎる……」
「い、良いんだよ、そんなことは。それで、どの星ならロブスターがあるんだ?」
その質問に眉をひそめるモノクル。
さすがにとっさに答えられるような事柄ではない。
「……ちょっとここで待っててくれますか。調べて戻ってきますから」
「あ、ああ、そうか――」
そこでGTの表情が変わった。
モノクルは、それを見て首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「俺はカルキスタにいる。で、お前は多分、行政首都に居るんだろ」
「え、ええ」
当たり前のことを確認するGTに戸惑いを隠せないモノクル。
「これ本当なら、言葉を一回向かわせるだけで二日ぐらいかかる距離じゃねぇか」
「ああ、そうですね」
モノクルは笑みを浮かべながら、それに応じた。
それに助けられたわけではないだろうが、GTはさらに勢い込んでこう続けた。
「なんだこの状況、凄い便利じゃないか? なんなんだこの世界」
今更何を――
とは、モノクルは言わなかった。
元々の「O.O.E」の成立目的をまったく知らせぬまま、イレギュラーに対処してもらっていたのはこちらなのだから。
従来であれば情報の交換も超光速航法が出来る宇宙船に乗せて運ばなければままならなかったのが「一週間の世界」の常であった。
GTが認識しているのも、そういった世界の形だろう。
だが「O.O.E」の出現は世界の距離を圧倒的に縮めた。
もはや、行政首都がその位置を動くことはないだろうとも予測されている。
そんな世界の変化をGT――ジョージは今その身で感じているのだ。
ここは素直に喜ぶべきところだろう。
モノクルは、笑みを浮かべ胸を張ってこう告げた。
「ええ。それこそが“O.O.Eのある世界”の利便性です」
GTはそれに大きくうなずいた。
「確かになぁ。困ってみて初めてわかった。これは本当に便利だ。そうか先に連合が使っていたっていうのはこういう事だったのか……しかし、民間に使わせてもよかったのか?」
「もちろんですよ。民間の活力が高まらなければ、国は立ちゆきません」
「そんなものかね」
「――だからこそ、我々の仕事には意味があるんですよ」
そんな言葉とは裏腹に、モノクルは自嘲気味の笑みを浮かべた。
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数時間後――
ジョージは再び宙港に訪れていた。
そして今度は迷わず受付カウンターに。
一礼するコンパニオンに、ジョージは迷い無く告げた。
「イシュキックへ、一人だ」
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次回予告
GTには勝てない――天国への階段では。
それを認めたクーンは、GTの本体、つまりは現実世界でのGTの抹殺を目論む。
そのためにも必要なことは、GTの情報。クーンは多大な犠牲を出しながらも、GTとの接触に成功するが……
次回「今更、銃弾交換」に接続!
閑話休題の七話の後半です。
まぁ、ちょろっとGTの過去話が見えましたが、2クール目にがっつりとこれについて書く話があります。まぁ、状況説明だけの話になりそうですが。
次回は、四の倍数のクーン回です。
では、金曜日に。




