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僕はいつもの様に会社で仕事をしていた。
会社とは言え、ここは社長の自宅である。
社長の自宅の仕事部屋で仕事をしている。
仕事部屋には、板が所々はがれている汚らしい机が2卓あった。
この汚らしいボロの机を使って仕事をしているのである。
ボロの机を使うのはあまり気持ち良くない。
仕事部屋は4畳ととても狭い。
壁には2Mほどの大きな穴があいていた。
その黒い穴からは、柱が見える。
普通の家では見られない光景だ。
しかし、この光景は見慣れているので、僕は平静を保つことができる。
穴の中にほこりがたくさんあるので、大分前に空いたのだと推測できる。
地震が起きたら一たまりもない。
小さい地震ならまだしも、大きい地震だったら一たまりもない。
リホームしないと僕の命が危ない。
こんな環境で仕事を好んでしているわけではない。
五流大学卒の僕には仕方ないのだ。
僕は仕事を怠れない。
部屋が狭いので、社長がすぐ側にいるからだ。
僕の机には山積みとなった書類が、どっさりと置いてある。
それを見ると僕は、顔が青くなり目まいがする。
勉強しておくべきだったと、毎日そう思う。
勉強していたら、こんな仕事をしなくてよかったのだ。
親の言う事を聞いておけばよかった。
そう思う事もあるが、僕は
『今さら悔やんでもしょうがない』
そう心に深く刻んでいる。
僕はポジティブな方だからそう刻めるのかもしれない。
僕が仕事をしていると、
白髪頭で、長い蚕の様な長い白ひげをぶらさげた社長が、僕に話しかけてきた。
「のどが渇いた。ジュースを買ってきてくれんか?」
死にそうな声で僕に頼んできた。
僕は断りたかったが、雇われてもらっている側なので断ることができなかった。
心よく引き受ける様な態度を装いながら承諾した。
社長から120円を受け取り、自動販売機に向かった。
僕はコーヒーを買い、社長の自宅の仕事部屋へゆっくり向かった。
仕事部屋に戻ってくると驚くべき光景を見た。
社長が血を大量に吐きながら、苦しみながら悲鳴をあげていた。
僕の心臓の音がいつもより明らかに早くなっている。
僕は平常心を失っていた。
平常心を失っている事もわからない状態だ。
慌てて白ひげの社長に近づこうとした時、
僕のジーパンのポケットから携帯が落ちた。
僕は携帯を見たとたんに119番を思い出した。
慌てた手で携帯をとった。
震えている手で119番を押した。
平常心をとりもどそうと試みた。
しかし、それは無理だった。
プルルルという音が耳に届く。
僕はいきなり社長の自宅の住所を告げた。
僕はかなりパニくってたが、相手は冷静に対処してくれた。
そのため、すぐに救急車が到着した。
ぶるぶると震えながら僕は社長の乗っている救急車へ乗り込んだ。