第6話
昨日は家に帰った後、先生の笑った顔が何回も浮かんできてなんともいえない気持ちになった。ぼ~っとしてた時間が結構あって、お母さんにどうしたの?具合悪い?と聞かれてしまったほどだ。…自分の気持ちを素直に言うこともできず、なんでもないとごまかしたのだが。
そんなわけで少しもんもんとした気持ちを抱えて今日は学校へ来た。
「あっおはよ~沙良。…ん?なんか今日テンション低くない?」
「おはよ。そうでもないよ。考え事してたから、ちょっとぼ~っとしてたのかも…。」
私の長所は、いつも明るいところなんだ。このもやもやをこれ以上考えたって何も変わらないんだから考えるのはよそう。…必要になったら、わかるよね。
「そう?大丈夫?」
「うん!もう大丈夫!!考えるのやめた!」
「えー?!切り替え早いなぁー!!…でも、私に言えることだったら、相談してよね?」
「ありがと!!自分が考えてることがまとまったらちゃんと言うね。」
紫苑には悩んでいることがあったらいつも相談して話を聞いてもらっている。私の気持ちを否定せず、最後まで話を聞いたうえで自分の意見を言ってくれるから、すごくためになるし安心するんだ。
ホームルーム近くになって、教室にみんな集まってきた。「おはようございまーす!!川口先生!!」という声が聞こえて、ついドアの方を向いたら川口先生が教室に入ってくるところだった。
先生は笑顔であいさつしている。心なしか昨日よりリラックスしてるようだ。私も昨日はたくさん話したんだし、あいさつしようかなと思っていると先生と目が合った。そのまま先生はこっちに向かってきて、私に話かけた。
「おはよう、藤木さん。」
「っ…!お、おはようございます!」
「ん…なんか緊張してる?俺は、今日は昨日よりほっとしてるよ。藤木さんのおかげかな?」
「び、びっくりしただけです!緊張してるわけでは…。今日はみんなと仲良くなれるといいですね。」
「うん、今日は体育の時間にも顔出そうと思ってるんだ。体育の教育実習生に誘われたから。一緒に出来たらいいなと思って。」
「そうなんですか?「って、いつの間に先生と沙良仲良くなってるの?!」」
私と先生が話しているのに紫苑は驚いたようだ。確かに昨日の今日で仲良くなっていたら不思議に思うかもしれない。
「あ~。昨日ね、日誌書けなかったじゃない?先生が日誌書き終わるの待っててくれて、その間にたくさん話したんだ。そうですよね、先生。」
「うん。昨日は藤木さんが面白くて、たくさん話したんだ。佐藤さんもこれからよろしくね。」
「そうなんですかー!昨日は先生に興味なかった沙良が、今日は普通に話してたからびっくりしましたよー!私は先生に興味あるので、よろしくお願いしますね!!」
「興味ないって、さすがに寂しいな。昨日、藤木さんと仲良くなれたと思ったのは俺の勘違いなのかな?」
そう言って先生は、少し意地悪そうな顔をして私を見た。
「今は違いますよ!!興味ありまくりです!昨日楽しかったし…ってもう、あ゛ぁー!!」
紫苑の発言に私は焦っていた。本当のことを言わなくてもいいのに!と。先生も今は私の気持ちが違うってわかっててこんなこと言うし…。
「あはは!!そんなに焦らなくてもっ…!!ふはっ。藤木さん一生懸命に言うんだもんな~!!おもしろすぎるよ。」
「ふふ、沙良ってば発狂してるじゃない。まぁ、先生にわかってもらえてよかったね?」
よくない。よくないよ…。私のこと二人とも面白がって。でも…
「もうバカにしてーーー!!」
そう言って私も結局笑ってしまった。やっぱり楽しいのは好きだ。みんなが笑ってくれるのも。
昨日はいろいろ考えたけど、楽しいことや嬉しいことは素直に受け止めていけばいいんだ。わからないことは少しずつわかっていくはずだから。
今は、先生ともっと仲良くなりたいって思っている自分を受け止めてあげよう。