第5話
「そういえば、藤木さんはなにかの部活に入ってるの?」
「あ、はい。華道部に入ってるんですけど、週1しかないので毎日暇なんですよ。」
「そうなんだ。なんか華道部って合ってるね。」
「見た目だけらしいですよ、合ってるのは。話し出すと、全然違うねってよく言われますし…。おしゃべりすぎるんでしょうね…。あと気が強いのも原因かも…。」
「そうなの?まぁ見た目だけで判断されるのも嫌か…。ごめんね、軽々しく言って。」
「いえいえ、気にしないでください。まぁ見た目だけでも褒められるのは嬉しいですしね。そんなに気にしてないんですよ。」
そうなのだ。私は見た目が大人っぽく綺麗だから物静かに見えてしまうらしく、話すとおしゃべりで気が強い性格にみんな驚いてしまう。別にツンと澄ましてるつもりはないのに。でも、昔から言われすぎてそれにも慣れてしまった。ただ、最近じゃ、クラスの子に「沙良様」と呼ばれているのに戸惑いを隠せない…。なんでも、運転手のじいやがいるお嬢様に見えるらしく、勝手にお嬢様キャラにされてしまったのだ。他の人から見たらどう見えるのだろうか?なんだか、私がみんなに言わせてるように思われる気がする…。ますます気が強いキャラが固定されそうだ…。高飛車とか…。
「藤木さん…?どうした…?」
「あぅっ…すみません…ちょっとトリップしてました。」
「トリップ?!トリップってなに?」
「あっっとえっと…。妄想です………。すぐに考え事する癖があって…。」
「そんなに妄想してんの?!楽しそうだな~!藤木さんって天然のにおいがするもんなぁ。」
「天然?天然ではないですよ。ちょっと人とずれてるだけで…。」
「そうなの?でも面白くっていいね。一緒にいたら飽きなくて、いつも楽しそうだよ。」
先生は口を大きく開けて笑っていた。先生のその顔がすごく楽しそうで、まるで少年のようだった。私はドキドキしながら先生を見つめていたけど、笑い終わった先生と目が合うとどうしていいかわからなくなった。
「ん?笑ったから怒っちゃったかな…?」
「怒ってないですよ!!楽しそうだな~と見ていただけで…。」
そんな優しい顔で見ないでほしい…。綺麗な透き通った黒い瞳に見つめられると、わけもわからず胸の鼓動が速くなって、先生の顔を見ていられなくなる…。
「あ…あの!!日誌書き終わりました!」
「終わった?そうか…1時間も経ってたんだね。楽しかったからあっという間だったよ。」
「わ、私も楽しかったです。日誌にも先生のこと書いたんで、ちゃんと見てくださいね…?」
「うん、楽しみにしてるよ。今日はありがとう。…生徒と仲良くなれるかが心配だったんだけど、藤木さんと話したことでいろいろ安心できた。会話も普通に出来たし、年の差もそんなに気にならないって。明日からは、もっとみんなと仲良くなれたらいいな。」
「仲良くなれますよ!うちのクラスは、みんな明るくて面白い人たちばかりなので、すぐに仲良くなれると思います。年の差だって5歳なら、全然大丈夫ですよ!」
「そう言ってもらえると心強いな。ありがとう。さあ、帰ろうか。」
先生と4階の教室から出て、歩きながら話していたらもう1階だった。
「部活頑張ってくださいね。…今日は先生と話せて楽しかったです。」
「うん、楽しんでくるよ。それじゃあ、また明日ね。気をつけて。」
「はい、さようなら。」
そのまま先生は体育館の方へ向かって行った。
私は先生の後姿をしばらく見ていたが、はっとして下駄箱の方へ歩きだした。
なんで私先生のこと見てたんだろう。無意識で見てたよね…?
…きっと、先生と思ってもみなかった接触に自分でも驚いてるだけなんだ。
でも本当は…。
もっと話したいって思ったんだ。
先生に見つめられたとき。