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その日まで  作者: 美玲
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[番外編]その手の暖かさ

「ごめんっお待たせっ!!」


「いや、そんな待ってないから大丈夫だよ。それじゃ行くか、さ、乗って?」


「うんっ!!」


今日は悠里と待ちに待ったお出かけ、しかも、外での―――私と悠里の関係は私が高校を卒業するまでは秘密にしないといけないから、なかなか外でデートすることは出来ない。だけど、今日はクリスマス。せっかくだから出かけようということになったのだ。


「あ、そういえば今日はどこ行く予定?」


「―に行こうかと思ってるんだけど、どうだ?」


「え、そこってイルミネーション綺麗なところだよね?!気になってたんだ!!あっでも…ちょっと遠くない?運転大丈夫…?疲れない?」


「ん?大丈夫だよ?2時間もあれば着けるし、長距離も運転したことあるから。それより沙良が喜んでくれた方が嬉しいし、遠いほうが知り合いとも会わなくて安心だろ?」


「…そうだけど。でも…」


「気にするなって、俺はいちゃいちゃしたいから遠出したいの。…な、わかった?」


優しく見つめてくる目は、私を溶かしてしまうんじゃないかと思う位、甘くて、大きく暖かな手は、私の全てを包み込むように私の髪を、頬を、首筋を撫でていく。あまりにも熱情的なしぐさに、私を求めているかのような錯覚に陥ってしまう。


「っ………わ、わかった!!だ、だから、あ、あんまりというか、そんなに見ないで…は、恥ずかしい、よ」


「なんで?好きな子を見てどうして駄目なの…?ねえ、沙良?」


「ま、またそうやって…!も、もうっ!ちゃんと、運転に集中してー!!」


「あははっ!!怒られちゃったな、まあ、確かに危ないからな…今は、遠慮するよ。今は、ね?」


「い、今はって…!!」


本当、悠里は私に甘くて心臓に悪い…こんなに甘く見つめてくる人だって知らなかった。嬉しいし、恥ずかしいしで、いつもパニック状態になってしまう。年上の男の人の扱い方、誰か教えてくれないかな………今度、紫苑にいつもどうしてるのか聞いてみよう。

こんなにリードしてくれるのに、優しくて、甘くて、私を馬鹿にしないなんて、どんどん好きになっていく一方じゃない。最初の頃より今、そして、確実に未来の自分の方が悠里を好きだと思う…こんなに深みにはまって行くなんて、悠里という名の毒に侵されてるみたい。…なんて言ったら、この人はどう思うかな?


「ん?どうかした?」


「んーん!!なんでもない。…楽しもうね?」


「お姫様がご機嫌なようで大変うれしゅうございます。…じいは」


「なにそのキャラ設定?!しかも、じいなの?普通は、王子様でしょ~!!」


「王子じゃないと駄目か?沙良はおじさま好きだから、じいやもいけるかと…」


「おじいちゃんは無理だよっ!!もう~どんな発想なの~!!」


「ははっ!!年の差でいいじゃん?」


「年の差ありすぎっ!!」


かっこよくて、優しくて、頭が良くて、人気のある、私の彼氏。そんな人が私を見て、私を選んでくれて、本当に、嬉しくて…なのに胸がきゅうってなる。もし、この隣にいられなかったら、隣に違う人がいたら、私はどんなに苦しかっただろうって。だって、一度、隣に違う人がいたのを見ただけで、つらくて、前を向けなかったから…さっきだって、長距離運転するのは初めてじゃないって…それって彼女とだってことじゃないのかな。昔のことなんて考えたって変えられない事実で、どうしようもないのに、いちいち気にして、目の前に霧がかかったように不安になる…この先、この人の隣に本当に私がいられるのかなって。だって私は20歳にもならないまだまだ子供、だけど悠里の周りには私より大人で綺麗な女の人がたくさんいる。来年就職したらもっと出会いが広がるんじゃないかって不安になる。…どんなに悠里が私を愛してくれていても。


「沙良?さーら?さら?」


「ぇ?あっ、ご、ごめん。ぼうっとしてた…」


「着いたけど、大丈夫…?なんか、また一人で不安になってたりしない?」


「へ?」


「ん、いやいいんだ。行こうか?」


「あ、うん」


会話が曖昧なまま私たちは車を降りた。きっと悠里は私がいろいろ考えちゃうことを見抜いてるんだ。だけど、無理に言わせたりしない。…だから、大人だと思ってしまう。


しばらく無言で歩いているとたくさんの光に包まれた大きなツリーが見えてきた。色とりどりのツリーは見とれてしまうほど綺麗だった。


「わあ…きれい…」


「だな…」


白い息がその場を更に引き立たせているようでなんともいえない感傷的な気持ちになってしまう。綺麗なものは、なぜだか少し悲しい感情を呼び起こすと思う。ずっと続くものではなくて儚いからだろうか。


見つけていると隣で悠里が身動きするのがわかり、そこではっとした。こんな寒いところにずっといるわけにもいかない。ここはショップもたくさん入っているし、おしゃれなディナーも出来るところがあるから、中に入って、ゆっくりする方がいいだろう。「移動しよっか」そう言おうとしたら、おもむろに悠里が私の手を掴んで言った。


「…ゆうり?」


「手、冷たくなっちゃったな。ごめん、気がつかなくて」


「え、あっ…ううん、私が手袋するの忘れてたから…」


確かに私の手は冷たくなっていた。今の時期は外に数分出ただけでもすぐに冷えてしまうからいつもは手袋をするのだが、今日は車だから大丈夫だと思って置いてきたのだった。


「悠里の手あったかいね…手袋してないのに」


悠里の手は私よりずっと暖かくて、ひんやりした自分の手が悠里の温度に溶かされていくようだった。そうして悠里の熱を奪うよう少しずつに手の感覚が戻って行った。


「男の人って女の人より体温高いっていうよね?男の人で冷え性って聞いたことないし…」


「そうだなぁ。沙良もこんなに冷たいんだから、女の人は大変だよな…だから」


「…?」


「だから男は体温高く出来ているのかもしれないな。大事な女の人を守るため、暖めるために」


―――守るため


「そうだったら素敵だね…」


「俺だってそうだよ、沙良を守るために、体温を分け与えるためにそばにいるんだ。お飾りの彼氏じゃない。沙良が、寂しくならないように、凍えて、冷たくならないように、寄り添っているんだ」


「………」


「だから、ひとりで抱え込まないで…な、沙良、俺はお前のために、存在したいんだ。沙良が悩んでたら助けたいって思うし、支えたいって強く願う。だから、もっと甘えてくれ。…沙良には我慢してほしくないんだ」


「…がまん、しているように見える?」


「あぁ。俺のせいだろうなって思うんだ。俺と沙良とじゃ環境が違うし、お互いに不安になることもある。だけど、信じてほしいんだ。…俺が好きなのは沙良だって」


「悠里も不安になるの…?」


「なるよ、俺なんかじゃなく同じ学校の子の方がずっと楽しいだろうな、って。学校の行事に一緒に参加できるわけだろ?でも俺はそばにいてやれない。その思い出を共有することは出来ない。…だから一緒の時を過ごせて同じ視点で見ることのできる他のやつに目がいかないかって」


「そんな「だけどな」こ、と…」


「だけど、俺はそんなに優しくないから離れてなんてやらない。離れるには遅すぎるんだ。沙良が隣にいないのなんて考えられない…もうお前を離すことなんて出来ないから」


「ゆう、り」


「だから、沙良も不安にならないで。俺だって思うんだ。俺は沙良が思うほど大人の男じゃないよ。そのうちわかると思うけど、20代前半の男なんてまだまだガキだよ。独占欲も10代と同じようにあるんだから」


「………」


私の両手を包み込んで悠里は私を見つめる。


「………突然で、悪いけど、これからいろんな選択肢がある沙良にこんなことを言うのは無責任で身勝手かもしれない。だけど………俺は、もし、この先沙良に会えなくなるって考えると、いてもたってもいられない。そのくらい、俺は、お前が、恋しくてたまらない。だから、俺は、俺の将来に、この先もいつも沙良がそばにいることを願う」


「っ…」


「………こんなに想うほど俺は沙良が好きなんだ。重すぎる、よな」


「そんなことないっ!!私だって、私だって、いつも、悠里のそばにいたいと思う…!この先もそのずっと先も、隣に私がいたいの。…他の誰かにこの場所、渡したくないよ!だけど、いつも不安で、自分に自信が持てなくて、」


「それでいいんじゃないか?」


「え…」


「俺は、俺の気持ちは伝わったよな?」


「うん…」


私だけの一方通行じゃないって、私が思っている以上に私を大切に大事にしてくれているって。…すごく嬉しかった。


「俺が沙良を、沙良が俺を。…その気持ちが交差していれば大丈夫だと思うんだ。愛されている、そうわかっていれば不安になる気持ちもやわらぐんじゃないかな。誰になんて言われようとどう思われようと、大事なのは俺たちの気持ちなんだ。そこに負けて、誰かに譲れるほど、簡単な想いじゃないから、不安になったらそれを思い出せばいい。…不安になることだってきっとあるから」


―――そばにいたいって思う気持ち


確かにそうだ、不安になることはきっとこの先もある。だけど、譲れない気持ちがそこにはあるから。示してくれるものがあるから。それを思い出せば。…きっと、私は。


「………うん、そうだね。私にも変わらないものがあったよ。悠里を想う気持ちはきっと誰より、あるから」


「よかった…」


「ありがとう、悠里」


「いや、俺の気持ちが伝わってよかった…」


これからは好きなだけじゃなくて信じる気持ちも大事になってくるんだ。付き合うって、簡単なことじゃない…自分の心の強さを求められるものなんだ。私はこの手のぬくもりを離さないように、自分を、悠里を、信じるんだ。


「あ、雪…」


「え?」


「ほら、降ってきたぞ。まさにホワイトクリスマス、だな」


「あ、ほんとだ…」


雪が、私たちを包み込むようにふわふわと上から降ってきた。まるで天使の羽根のように、天使が、私たちのこれからを祝福してくれるように。…儚く綺麗な粉雪だ。


でも、私たちはこの粉雪のように消えたりはしない。強い思いがここには確かにあるから。

私はこの手の暖かさを逃さないように、離さないようにするだけ。

だから、そんなことになるのはずっとずっと先のこと。

そのときがきたら、きっと、天使がほほ笑んでくれるんじゃないかな?


「そうだよね?」


「ん?どうかしたか?」


「んーん!!なんでもないっ!!それより寒いから中入ろ?」


「だな?なに食べたい?」


「ん~美味しいもの!!」


「ざっくりすぎるだろ!」


「「あはははっ!!」」






未来はきっと明るい。この人と一緒ならね?

そうでしょ、天使さん






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