[番外編]膝枕
「沙良…そんなとこで寝てると風邪ひくぞ」
「ん~…ちょっとだけこのまま。」
「ったく仕方ないな…」
私がソファーで横になってると悠里がそばにやってきた。
「もうちょっと右に動いて、じゃなくて俺から見て右…そうそう。んで、頭上げて」
「…?」
「っしょっ。はい、こっちに頭乗っけて。」
「…?!」
―そ、そういうこと?!ひ、膝枕っ?!
「ほら、早く。そのままだと頭疲れるだろ?」
―そうだけど…ちょっとこれは恥ずかしい…それに膝枕って普通女の人がするもんじゃないの?!
「い、いや、だって。膝枕…?」
「そうだけど。…嫌か?」
「そんなことないよっ!」
―普通は女の人がしてあげると思うけど、膝枕ってどんなものかちょっと興味あるんだ。それに、それに。
―悠里に少しでも触れていたいから。嫌なんてことはないよ。
「じゃあいいだろ。ほら。」
そう言って悠里は私の頭を悠里の太ももに乗せた。
「わっ。…わぁ。なんか…変な感じ…」
「変?」
「ん。なんか男の人の太ももって感じ。硬くって無駄な脂肪がない。…ちょっと痛いよ?」
「ははっ。そりゃ女の人に比べるとそうだろうな…。」
「でも、なんで膝枕って言うんだろう?だって膝じゃなくて太ももだよ?太もも枕じゃない?」
「確かになぁ。なんでだろうな…」
悠里は私の髪をすきながら考えているようだった。
いつからだろう。
こんな風に自然に悠里が私に触れるようになったのは。
いつから。
こんなに甘く繊細な悠里の指先を私が緊張することなく受け入れられるようになったのは。
こんな穏やかで温かくて幸せな日々が訪れるとはあの時思わなかった。
あの時は諦めかけていた。
この手をつかむこと。
前に進むこと。
隠そうとしていた。
胸の奥の小さい、いや、気づいたらとても大きくなっていた甘く苦しい痛みを伴う感情を。
怖かったんだ。否定されること。
この気持ちに名前をつけること。
逃げようとした。
でも…
「沙良…沙良?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた…」
「またか!まったく考え事の多い姫君だな…」
「そ、そんなことは…」
「彼氏をほっとくやつには…」
「え、ちょ、ちょっと?!近い、近いよっ!」
「………。」
「っ?!」
「…慣れたと思ったけど、まだまだ、か…。」
「こ、こんなの慣れる日なんて来ないよーーーー!!」
私の彼氏になった人は、いろいろな面を持っていた。
年齢が上ってこともあってとても上手でなかなか勝つことが出来ない。
いつも私がドキドキさせられっぱなし。
いつか反抗して困らせてやるんだから。
付き合ってから知ることが多くて戸惑うこともあったけど、それでも幸せ。
意外なあなたの性格もどうしようもなく愛おしく思えるから。
あのとき…
逃げ出した私を捕まえてくれたのはあなただった。
差し伸べてくれた。
隣にいることを望んでくれた。
ありがとう。
いつも、悠里は自分の気持ちを出してくれるけど、私は恥ずかしくてなかなか言えない。
だけど、今日は頑張るよ。
だって、困らせたいし。
悠里だって、動揺しちゃえばいいんだ。
「悠里…」
「ん?なに?」
「…大好き、だよ。」
「?!」
「…反則、だろ。」