第4話
「はい、ホームルーム終わり。明日もちゃんと学校来いよー。川口先生からは何か言いたいこととかある?」
「えぇっと…。今日は、ぼろぼろな授業ですみませんでした。外崎先生のようにわかりやすい授業が出来るように、頑張っていきたいと思います。あと、年はそんなに離れていないはずなので、気軽に話しかけてくださいね。」
その言葉にみんなが反応した。
「彼女はいるんですかー?」「アドレス教えて!!」「先生。年のこと気にしてんの?」などと、やかましく言いだしたのに、外崎先生が、呆れ気味に声を大きくして言った。
「そういうプライベートな質問はやめなさい。数学のこととか、大学のことを聞いたらいいだろう?まったく…。川口先生も、言いたくないことは言わなくていいからね。じゃ、みんな帰れよ。あ、今日の日直!!今日から日誌を見るのは川口先生だから、川口先生に日誌渡せよ。」
さぁ帰ろうと準備をしていた私は、そこで初めて日誌を書いてないことを思い出した。
「うわっ!日誌書いてないし!!どうしよ…。しかも川口先生に渡すのか…」
先生って、いつまでいるんだろう?私は日誌を丁寧に書くので、毎回30分はかかってしまう。というか、教育実習生の人たちって、朝とか休み時間どこにいるの?
「沙良、途中まで一緒に帰ろう。」
「あ、紫苑。ごめん、日誌まだ書いてなくて…。」
「そっかー!わかった。じゃあ、また明日ね!!」
「うん、また明日。」
紫苑に断りを入れてから、私はとりあえず川口先生に話しかけることにした。
「あの、川口先生。私が今日の日直なんですけど…まだ日誌書いてなくて…。書いたらどこに持っていったらいいですか?それともすぐ帰っちゃいますか…?」
若干びくびくしていた私に川口先生は、笑顔で答えてくれた。
「あ、藤木さん…?だよね?放課後はバドミントン部に顔出すつもりだから、まだ学校にいるよ。」
私の苗字は藤木であるが、一日目で名前を呼ばれたことに驚いてしまった。
「え…?名前…。もしかして、みんなの名前覚えてるんですか?」
「うん。1週間前に外崎先生から、顔写真付きの名簿もらって、それでみんなの顔と名前覚えたんだ。まぁ…あってるかは自信ないけどね。」
「そうなんですか。私は人の顔すぐ忘れるので、十分すごいと思いますよ?話しかけられて、誰?っていうときが結構あるので…。」
「あはは、それはあんまりじゃない?」
「…そうなんですけどね。興味がないものは、どうしても…。って、あ…。」
テンポよく会話をしている間に、いつの間にかみんな帰っていたようだった。川口先生は、思っているより気さくで話しやすいので会話に集中してしまっていた。
「これからすぐに書くので、先生はバドの方に行ってください。そっちに持っていくので。」
「あぁ。いいよ、大丈夫。趣味みたいなもんだから、すぐに行かなくても。ここで待ってるからさ、ゆっくり書いてよ。」
えぇ?!そう言われても目の前にいられちゃ緊張するって!!集中して書けないよ~…黙っていられない、私の性格じゃ…。でも、そうは言えないし…。
「…わかりました。急いで書くので!」
「急がなくっていいよ。それとも俺ここにいちゃ書きにくい…?」
先生は苦笑いしながら困ったように言った。そんな顔に、どっか行ってくれ!!とは言うこともできず…。
「いえいえ!!全然大丈…夫です!!」
慌てて言ったため、噛んでしまった、恥ずかしい…。これはかなり恥ずかしい…。
「びゅ?!ふはっ!そんな急いで言わなくても…面白いなぁ~。とりあえず、ここにいてもいいということで、ありがとうね。」
「…はぃ。」
そういえば、バド部に行くって、先生バド部だったのかな?朝そんなこと言ってた?…私、本当話聞いてなかったんだな…でも、話やすくてよかった。日誌も話しながら書いていけばいいか。
先生の新たな一面に安心して、私は思わず笑顔になっていた。