第3話
川口先生は数学担当だったので、今日から1ヶ月間は私のクラスに数学を教えている担任に代わって川口先生が教えることになった。
初めての授業で緊張しているのが丸わかりだったが、丁寧でなかなかわかりやすい授業だったと思う。問題を解く時間を設けて、先生は担任の外崎先生と教室を回って、わからないところを教えていた。とは言っても、私は近くの男友達にわからないところを教えていたのであまりきちんと見てはいなかったのだが。
私は定期試験で常に10位以内に入る成績で、特に数学は得意なので普段から教えることが多い。仲のいい男友達が普段から勉強をしないので、私をいつも頼ってくるのだ。人に教えることが嫌いではないし、教えることによってさらに理解が深まるので、私もいやいや教えているわけではない。
「あーーー!全然わかんねー。なぁ沙良これどうやってやんだよ?」
「ん…?ちょっと待ってね。………よし、出来た!!どこがわかんないって?」
「これだよこれ。これ微分したら次になにすりゃいいわけ?」
「あ~。それはね~…ここを…。」
私が教えようとした時、優しい声が上から聞こえた。
「どこかわからないところがあった?…うまく教えられなかったから、わからなかったよな。」
川口先生から声をかけられると思っていなかったので、私は少し驚いてしまった。
「あ…。えっと…大丈夫です。上手だったと思います。…教えるの。」
「そう?昨日たくさん練習したのに、本番では全然だめだな~と思ったから、そう言ってくれると嬉しいよ。」
そう笑って先生は、「川口先生~こっち来て教えてくださいよぉ。」と甘えた声を出した女子のところへ教えに行ってしまった。
これが川口先生と交わした初めての会話だった。
そして、最後に笑った顔がふんわりと柔らかくて私は思わず見惚れていた。年上の人が可愛く笑った顔というのは、素敵で………これがギャップなのか?と考え込んでしまった。
「おい、沙良ってば。早く教えてくれよ!すぐに妄想すんだからなー沙良は。」
「あっごめんごめん!!んで、そこはね…。」
再び現実に戻って私は教えることに集中し、そのまま数学の時間は終わったのだった。
しかし、このいつもと同じような時間も今日は少し違っていた。先生の笑顔が印象的で、私の心にしっかり焼き付いてしまったのだから。