第26話
「おはよ沙良。今日はすっきりした顔してるね。それに、先生とも仲良い感じだったし?」
「おはよ、いい感じかどうかはわからないけど、確かにいろんなものが取れたとは思う。…ポジティブ思考でいくことにしたんだ。そしたら、楽しくなったよやっぱり。」
「うん。沙良はそうでなくっちゃね!暗い沙良は沙良じゃないよ。うるさくないと変な感じするもん。むずむずっていうか、なんていうか。」
「なにそれー!!ひどい!そんなにうるさくないじゃん…!」
いや、うるさいかもしれない…。ほとんどいつも話してるし…否定できないか。
「ははっごめんごめん。明るいのが沙良のいいところだからね。気にするな!!」
「フォローするなら、言わないでよ。…本当Sっけあるんだから。」
「ん?なんか言った?」
「いえいえ、な~んにも。あ、チャイム鳴った。ほら、席戻ろ!」
紫苑ってば地獄耳なんだから…
「あ、いたいた。」
「先生。どうしたんですか?」
お昼になって、紫苑と二人でお弁当を食べていると川口先生がやってきた。
用事かな?聞きたいこととか?先生はわからないことがあると私に聞いたりするから。
まぁ、聞くと言っても簡単なことだけど、私に聞いてくれるのは嬉しい。
…だって、些細なことでも先生と話できるんだから。
「藤木さん、今日も来ない?今日なら、こないだ会えなかった2人に会えるよ。」
「あ、そうなんですか?行きます。紫苑も今日は行こうよ。」
「うん、佐藤さんもおいで。」
「あ~じゃあ行こうかな?他の先生たちも見てみたいし。」
「ん、じゃあ決定ね。…藤木さんたち何食べてるの?」
あ、このことか。確かに学校でこれ食べてるのは不思議かも。
「昨日作ったロールケーキです。なんだか急に食べたくなって、衝動的に作ってしまったので、おすそわけにみんなに配ったんですよ。」
実は私お菓子を食べるのも好きだけど、作るのも好きでお菓子作りは趣味のひとつであったりする。ときどき無性に作りたくなって、昨日はそれに当たったみたいだ。ちょうど生クリームとイチゴがあったから、カロリーは気になったけど、食べたくなってちょっと豪華にロールケーキを作ることにしたんだ。
ココアの生地で生クリームたっぷり、中にはイチゴを入れて巻いて、外側には溶かしたチョコレートをかけた、こだわりのお菓子。いつも好評だから、なにかあったりするとみんなに作って配ったりするんだ。
「へえ、そうなの。器用なんだね。すごく美味しそうだよ。」
あ、先生にも渡せばよかった…すっかり忘れてた。
どうしよう…あ、…。
「あの、一口どうぞ。これ。」
「え…?いいの?」
「って、口付けたのじゃ嫌ですよね!!」
「いや、全然!食べたいよ。」
「そうですか…?じゃあ…はい―――」
そう言って私は無意識のうちにそのままロールケーキを先生の口元まで持っていった。
「え…?」
「?」
なんで先生止まってるのかな?そう思って見たけど、わからなくて困ってたら、紫苑が言った。
「…あ~ん。してるじゃんそれ。」
あ~ん?あ~ん、ってなんだ。そう思って手元を見た。
………。
………。
………。
あ…!
そっか、だからか!うわ恥ずかしい。癖になってるんだ!!
私は人に食べ物をあげるときに、食べさせてあげることが多かったから、いつもの感じで自然にやってしまったんだ。
「す、すみません!!つい癖でっ!」
そう言って手をひっこめようとしたら、その手を先生が急につかんでそのまま…
食べた。
いや、食べたのはいいんだけど…
私の指についたクリームを舐めとったよね…?
「うん、うまい。生地もしっとりしてるし、イチゴもいいアクセントだね。」
改めて自分の指を見て、はっとした。
「?!?!?!」
「あはは!!沙良顔真っ赤!!か~わいいー」
「っ本当だ!っっはは!!」
「いうあ…いや、ちょ…あの、え?え?え?!」
だって、今先生私の手をつかんだままロールケーキ食べて、その体勢だけでもすごく恥ずかしいのに、そのときに私の指に先生の唇が触れたんだよ…
こんなの耐えられないよ…恥ずかしすぎる…
先生も最初普通に困ってたのに…その時点で気付けばよかった…
こんなのドキドキするよ…誰だって…しかも相手は先生なんだから…
「ったく。面白い反応だな~。じゃあ、放課後ね。…ごちそうさま。」
最後に先生は私の顔を見て、意地悪な…にやっとした顔で言った。
これは絶対、朝の仕返しだ。これに比べたら、私のなんて可愛いものじゃない…
でも…ずるいよ。ずるい。
こんな…こんなのドキドキが止まらないよ。
どうしてくれるの先生。