第24話
「最初の日から意識してたんだと思う…先生が来たのを見たときは、かっこいいな、とは思ったけどそれ以上思うことはなかったんだ。でも、その日、日誌書いてるときに先生と話しててすごく楽しかった。特にこれってこと話したわけじゃないんだど、二人でいる雰囲気…空間がすごく自然で、居やすかった。それに先生の目が、まっすぐに私を見てて…その目にも惹かれたんだと思う。」
「…うん。」
「帰る時もなんか名残惜しくて、先生の後ろ姿を見てた。なんとなく予感してたんだけど、会った初日でそんなわけないと思って…年上の人で、周りにいないから、新鮮だったのかな?って。でも、家に帰ってからも落ち着かないし、先生の目ばっかり浮かんできて…」
「それで、先週の火曜ちょっと朝変だったのか…」
「…うん。次の日から先生と普通に話すようになって、先生のいろんな面が見れるたびにもっと知りたい、って思うようになってた。それはただの興味なんだろうなって思ってたんだけど…みんなが先生のこと「悠里」って呼ぶのを聞くと嫌な気持ちになるし、先生のそばにいるのを見ると、なんともいえない感情がわきあがってくる自分に驚いたりもしたんだ。」
「…うん。」
「先生は結局、「先生」だから、これ以上踏み込みたくなくて、自分の気持ちを考えないようにしてたんだ…先なんて見えてるし、一緒にいたらきっともっと…この気持ちが大きいものになるって。…だけど、昨日。」
「昨日…何があったの?」
「先生たちの部屋に行ってね、先生たち4人と話してたんだ。美穂先生って女の先生がすっごく可愛くて、話しやすくて楽しかったんだけど…恋愛の話になって、美穂先生が川口先生に、彼女いるのかって聞いたんだ…そのとき、先生ははっきり言わなくてごまかしたんだけど、先生の感じで、居るのかな?って思ったんだ。そう思ったら、一瞬笑えなくなった…考えるより先に顔が反応しちゃったんだろうね。」
「そうだったんだ。…確かに、はぐらかしたってことは居るのかもしれないね。確証はないけど…。」
「…うん。それで先生の顔見れなくなったのはさ…帰り際に先生が私に可愛いって言ってくれてさ。そのときの目が…なんか、すごく自分が特別になったような気がする目で私を見てたんだよね。それ見ちゃったら、その場にいられなくなっちゃった…」
「苦しくて…先生はそういう意味で私を見ているわけじゃないのに、私のこころは揺らぐばっかりで…叶えられないものなら、これ以上知りたくなんかないって思った…」
「それで…沙良は…もう自分の気持ち、出てるんじゃない?自分でどう思ったって、止められるものじゃないよ。沙良はもう動き出しているんだから、それを受け止めてあげないと。…思うだけなら、誰にも迷惑かけないよ。それに私は…」
―――思うだけなら…。今話していて思った…。やっぱり私、先生のこと気になってるんだ。ううん、もう好きなのかもしれない。それって、先生にとっては迷惑なんだと思ってた。だって、教育実習生とはいえ、生徒ではないから…
「私はさ…普通に接している分には問題ないと思うよ。他の先生や生徒の前で、みんなと違う行動したら、疑問に思うし、川口先生にも迷惑かけるかもしれない。けど、今まで通りにするんだったら、大丈夫だよ。…先生は沙良のこと気にいってると思うし。生徒の中でも特別なんだと思うよ。だから、叶わないから諦める、とかで自分の気持ちを殺さないで?」
―――そうなの?今まで通りでいいの?先生と話してもいいの?
「…私、先生の言動に一喜一憂するかもしれない。それでもいいのかな?」
「…それでいいんだよ。それに、急に仲良くしていた沙良から冷たくされたら先生も寂しいと思うよ。きっと先生なら沙良の好意もちゃんと受け止めてくれるはず。たとえ、それが叶えられなくても…きっと。だから、今先生がいるときを楽しんで。先生だって、あと2週間ちょっとしか居られないんだからさ。」
―――そっか…先生もずっとはいられないんだ。限られた時間をくよくよしたって仕方ないかもしれない。残りを楽しんだほうがいいよね。先生もそんな生徒といてもつまらないし…
「…うん。わかった…ありがとう。紫苑。私、先生との時間を楽しむね。下ばっかり向かないし、後ろも振り返らないように頑張る。…それでも、また暗くなってたら気合い入れてくれる?」
「…うん、いつでもしてあげるよ。だから、沙良は前を向いて。」
「ありがとう、紫苑。」
―――この気持ち大切にするから。否定なんてもうしないよ。