第22話
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」
―――ボヌール。ここは、今時のカフェという感じではなくて、あったかい昔ながらの喫茶店に近い私たちお気に入りの店だ。店は喫煙席と禁煙席に分かれていて、もちろん私たちはいつもカントリー風の禁煙席に座る。禁煙席は、アメリカの田舎町っぽい雰囲気に作られていて、ブランコ型のテーブルがあったりする可愛いイメージ。喫煙席はアジアンなムード漂う大人な雰囲気で、いつも喫煙席の方を見ながら、あっちの雰囲気も好きだなと思う。
「いつもの席でいいよね?」
「うん。」
いつも私たちが座るのは、窓側の角のテーブル席で、角ということもあってかすごく落ち着くのだ。そして、各テーブルに置いてあるおみくじをやったりするのが恒例だったりする。それは、全体が地球儀みたいに丸くて(高さは15cmくらい)、100円を入れて自分の星座に焦点を合わせて、レバーを引くとおみくじが入った直径1cmくらいの小さいカプセルが出てくるものだ。あんまり具体的なことは書いてないんだけど、なんかめずらしくって面白いから、待っている間にそれをやって暇をつぶしたりする。私は、悩みに悩んで、チーズタルトを、紫苑はイチゴタルトを注文した。
「今日もこれやるよね?」
「うん、やろうよ。…って言っても、私、あんまりいいの出ないような気がするんだけど…」
「大丈夫だって!悪かったとしても今日の運勢ってことだから!」
「…まぁ。そだね。」
ふたご座に焦点を合わせて、悪いのが出ませんように!と思って、レバーを引いた。
「赤ボール…」
なんか赤って悪いのが出そう…
「早く開けなよ。気になるじゃん。」
小さい開けにくいボールを開けると、小さくたたまれた和紙っぽい紙が出てきた。
―――小吉。あまり悩みすぎないこと。悩みすぎると判断を誤ってしまうことも。
「…だってさ。なにこれ…見てんのか?って思ったよ。」
「まぁ、なかなか的を得たことを言ってくれるね…。恋愛運のとこは?」
「うん。ええっと…」
―――現状維持が好ましい。
「現状維持…?この微妙な状態のこと…?」
「つまりは悩みすぎるな、深く考えずに、自分の思うまま行動しろってことじゃない?現状もそんなに悪くないと思うよ?」
「…そうかな。そういえば、紫苑に話してないけど、もうわかってるよね?私の悩みも…誰のことかも…」
「うん…相手が相手だもんね。悩んでる沙良の気持ちもわかるよ。…私も口出していいかわかんなかったから黙っていたけど。」
「そうだよね…言わなくてごめんね。なんか…やっぱり言えなくてさ。自分でも認めたくないのもあったし、まだはっきりとは認められてないけど。…先生のこと。」
―――先生。言葉にするととても重く感じる。私は生徒、川口先生は先生ではないけど、私たち生徒とは違う。…対等な立場ではないから私は先生の隣に並ぶことなんて出来ない。
先生との壁を壊す日。そんな日なんて来るのだろうか…