第21話
「…先生…」
「藤木さんだったんだね。ここが段差あるところだったら、けがしていたかもしれないよ?…大事な体なんだから傷がつかないようにしないと。」
先生は目元を緩めて、私を見つめた。―――頭をひとなでして。
「………。」
どういうこと…。頭をなでたのはなんで?そしてなぜそんなに優しく私を見るの。わからない。どうしたらいいの。私はどうすればいいの?
そんなパニックになった私に、見かねた紫苑が助け船を出してくれた。
「ほらね言ったでしょ?ちゃんと前向いて歩かないからよ。…すみません先生、沙良危なっかしいですよね。でもそこがまた可愛かったりするんですけど。先生もそうですよね。頭なでてるくらいですしね?」
「…そうだね。ごめん、無意識に頭触ってたよ…。ごめんね。」
「いえ………」
「………じゃあ、私たちこれからケーキ食べに行くのでこれで。さようなら。」
紫苑は言うなりすぐに私の手を引っ張ってその場から離れていった。―――自分の行動に驚いている先生を残して。
「はぁ。何あの空気。居ずらいったらありゃしない…。どんよりしすぎよ。沙良も、先生もあんな目で見て…頭までなでて…何考えてるんだか。」
―――やっぱり紫苑もそう思ったんだ。そうだよね。私も先生もなんかおかしかった…。紫苑がなんとかしてくれなきゃ、あの場で固まったまんまだったかもしれない。
「とりあえずここで話してもあれだから、行こ?糖分ないと頭も働かないしね。」
「うん。ごめん。迷惑かけちゃった…」
「何言ってんのよ?気にしない!ケーキのことだけ今は考えてなさい、いい?」
「うん。」
今の私いっぱいいっぱいでおかしくなりそう。この気持ちを打ち明けたら少しは楽になれるのかな。
―――先生のこと全然わかんないよ。わかんない。年上の男の人のことなんて…
「―――なにやってんだよ俺…」
―――先生も私もこの先のことなんて何もわからなかった。ただ、戸惑うばかりで。