第18話
「あ、もうこんな時間ね。藤木さん大丈夫?」
「え?」
―――時間?そんなに経ってた?
美穂先生にそう言われて、時計を見ると、この部屋に来てから3時間近く経っていた。
「もうこんな時間…!私帰りますね。…今日は時間が経つのが早いくらい楽しかったです!!」
「うん、またおいでよ!女の子はやっぱり楽しいわね。可愛いし私藤木さん気にいっちゃった!」
「ありがとうございます。本当にまた来ちゃいますよ?」
美穂先生の言葉が嬉しくて、つい本音を言ってしまった。
「うん、来なよー!そうすると、美穂先生も喜ぶしさ!」
「そこは言わなくていいだろ…。でも、ここに来るのに遠慮はいらないと思う…。」
高橋先生と笠井先生らしい言葉で、ここにまた来ることを勧めてくれたことが嬉しくて、思わず笑みがこぼれてしまった。
「…はいっ!!そう言ってもらえて嬉しいです。」
「っ………。」「可愛いーーー!!藤木さんって、笑顔がすごく素敵ね!!花が開くみたいに綺麗だわ!!」
私が笑うと美穂先生が突然はしゃぎだしたので驚いてしまった。―――だから、私は気付かなかったのだ。…川口先生がどんな顔をしていたのかなんて。
「そ、そうですか?」
「うんうん!!すっごく可愛い!!綺麗!!ね、川口先生?」
「…そうですね。俺も、可愛いと思うよ。」
「?!?!?!」
同性から可愛いと言われるのは、くすぐったいけど、すごく嬉しくて、素直に受け止められる。だけど、異性から、可愛い、って言われるとどうしていいか、わからなくなる。嬉しいけど、恥ずかしくて、本当に?って思ってしまう。だから、先生の、可愛い、の一言にも戸惑ってしまった。
胸がぎゅうっとするのはどうして?
異性だったら誰に言われてもこうなってた?ううん。そんなことない。これは、きっと。
「わ、私、帰りますねっ!!さ、さようならっ。」
どうしていいかわからなくて、私は先生と同じ空間にいることが苦しくなって、結局逃げるしかなかった。………だけど、わかったことがある。
先生が私の心に入り込んでくれば来るほど、苦しくなる。なのに、私をまっすぐに見てくれることにどうしようもなく心動かされて、私、先生のこと前よりもっと知りたいって思ってる。まだ、この気持ちに名前をつけていいかなんてわからない。
だけど、もう始まってるんだ。私にだって止められない。
だから、だから。出来るなら。
―――どうかお願い。これ以上私を惑わせないで。