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My Story  作者: とらっく
第二章 ~絶対零度に閉ざされし記憶~
9/20

第四話

初めて小説を書かせていただきます。

それ故、右も左も分かりません。

迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。


それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください



第四話









終夜お兄ちゃんの隣へ!

急ごう!


足場が悪くて、走りにくい。

砂利ばっかりだし、起伏も激しい道。


電柱についた街灯も消えかかってる。


「そんなに急いでどちらへ?」

「ッツ!!」


待ち望んでいた声じゃない。


聞きたくない声だった。


「どうして、私ばかり!」

「あなたは気付いていないようですが、今の私はあなたを殺そうとは思いませんよ」


赤服の男が暗闇の中から歩いてくる。


どういうこと?

今まで、明らかな殺意を持って、私に迫ってきた。


でも、今は殺意を微塵も感じない。


「あなたは、大変珍しいんですよ」

「どういう意味?」

「妖怪に取り憑く人間の霊」


は?


どういう意味?


「現時点では、あなたは『妖怪』です」

「何言ってるの?」

「詳しくは、白馬の王子様に聞いてください。私はこれで」


赤服の男はそれだけ言って、踵を返した。


何もせずに。


「氷香」

「ッツ!」


今度こそ、私の待ち望んでいた声だった。















「氷香」


結局、あのあと終夜に見つかった。


終夜は私に会ってまずあることをした。


それは、ため息をついた。


言葉で責められるよりも、辛かった。

彼の失望した顔を見るのが。


でも、彼は怒ってなかった。

呆れてもいなかった。


私にこう言った。


(行くよ)


それだけ。


私の頭に手を置いて。


「終夜お兄ちゃん!」

「おっと、その前にすることがあるんじゃないのかな?」

「……」


氷香が私のほうを見つめてきた。


まだ、怒りの色は消えていなかった。


それでも、彼女は口を開いた。


「ご」


開いただけだった。


謝罪の言葉は聞こえなかった。

乾いた音が聞こえた。


何故なら。


「終夜!! どういうつもり!」

「落ち着け」


氷香が地面に突っ伏したから。


誰がやったかは、分かる。


ここには、私と終夜と氷香しかいない。


「多少、荒っぽいけど、まあ、いいよ」


いや、違う。


もう一つ、いや、もう一匹?


とにかく、いた。

見えないけど。


それは、幽霊。


氷香は、動かない。


「おい、幽霊」

「       」

「話を聞かせろ」

「ちょ、終夜?」


終夜が独り言を呟いていた。


少なくとも、私にはそう見えた。


「凪、ちょっと下がってて」

「う、うん」


よく分からないけど、たぶん。


その幽霊がいま、氷香から離れた。


「                        」

「全部だよ、最初から最後まで」

「                        」

「そ、それでいい」


終夜が、何もないところを見つめて、相槌をうち始めた。


きっと、終夜には認識が出来るんだ。


『幽霊』が。


私にはほとんど聞こえないけど、見えないけど。

いや、聞こえてるのかもしれないけど、理解できない。


何かを喋ってる事は分かるけど、それしか分からない。


終夜には鮮明に聞こえるはずだ。見えるはず。


「驚いたかい?」

「ソウジン」


いつの間にか、私の横にソウジンがいた。


一体どうやって何時も誰にも気付かれずに移動してるんだろう?

気がつけばそこにいたり、気がついたらそこにはもういない。


神出『鬼』没。


「シュウは人間の友達は数えるくらいしかいない、かな?」

「……」

「理由は、まあ、分かるよね? 今のシュウを見ていれば」


終夜は、何も無い空間を見つめて相槌をうっている。


私と、そっくりかも知れない。


私もそんな大層なこと言えないかもしれない。


でも、私にも『妖怪』の友達はほとんど居なかった。


人間の友達がいたわけじゃないけど、妖怪と仲良く出来なかった。


だって、普通の妖怪は、人間を食べるんだよ?

終夜や竹刀女は『危害』って言ってた。


どちらかと言うと、『被害』かもしれない。


私には出来なかった。


人間を食べる事は。

初めはできた。

気にもしなかった。


昔、一人の人間の少年に出会うまで。


あれ以来、人間を食べる事ができなくなった。


だって……もし、人間を食べてしまえば……。


「痛っ!」

「凪? 大丈夫かい?」


痛い。頭に手をあてるけど、血は出ていない。


このことを考えると、頭が痛くなる。


無意識に拒んじゃう。

この先を考える事を。


「            」

「へえ、なるほど。君はそちら側な訳かい」


終夜が妙に納得していた。


「じゃあ、うーん、ま、後は任せてくれ」

「            」

「僕の名に賭けて、約束するよ」


こちらに、どこか面倒くさそうに向かってきた。


いかにも、厄介事になったって感じで。


「はあ、とにかく、氷香を僕の部屋まで運ぶよ」

「お客様、お持ち帰りですか? なんあら、私が持ちましょうか?」

「地獄に送り返すぞ、ロリコン」


ソウジンを突き飛ばして氷香をお姫様抱っこしたまま、マンションの方に向かって歩き出す。


「ちょっと、その、幽霊は?」

「僕の横に居るよ」


反応に困った。


いきなり、存在を肯定されても、なにすればいいの?


とりあえず。


「初めまして」


挨拶をしてみた。


そして。


「げははははは!!」


笑われた。

それはもう、盛大に。


近所迷惑くらいに。


「何がおかしいの! ぶっとばすよ!!」

「だって、幽霊なんかに挨拶する野郎がシュウ以外に居るなんてさあ」


終夜はビックリした顔で見つめていた。


だけど、すぐに、嬉しそうな顔になった。

嬉しそう?

いや、うん?


「……幽霊さん、……『こちらこそ初めまして』だってさ」

「そっか、よかった」

「で、ソウジンには、『地獄へ帰れ』だそうだよ」

「うるせえんだい」


幽霊、みえないけど、私に挨拶を返してくれた。


うれしいな。


幽霊っていっても、あんまり私たちと変わらないのかも。


「で、その、幽霊は何を話してたんだい?」

「話すと長くなるね。簡単にいくよ」


終夜は歩きながら、話された事を簡潔に、こう言った。


「氷香は、元『人間』、現『幽霊』だ」

「うん? その、子が氷香でしょ?」

「はあ、凪、間違ってるぜい」


ソウジンが、呆れたように首を振った。

さっきと、同じように。


分からない。何に呆れているの?


「その、『幽霊』が氷香ちゃんだ。妖怪の方は死んでる」

「は?」


氷香は、幽霊のほう?


で、体は人間じゃなくて妖怪?


どういうこと?


「だから、幽霊は氷香で、死んだ妖怪の体に乗り移って五年のあいだ人間として生きてきたんだ」

「宗冶、それ以上は」

「だから、氷香ちゃんはきっと『初めまして』なんて言ってない」


つまり、幽霊の氷香は死に掛けの妖怪に憑いた。


そして、人間として生活しようとした。


でも、それには記憶、思い出は邪魔だった。

自分の、素性が分かってしまう、思い出は。


そして、もう一つ。


終夜が勝手に言葉を創っていた?


私に、妖怪の方が『氷香』だと勘違いさせる為に?


まさか、終夜が氷香をお姫様抱っこしているのは。


『体温』が無いのが、私に気付かれないようにするため?


でも、どうして隠すの?


「終夜にしか分からないんだい、幽霊が何言ってるかなんて」

「と、とにかく、氷香はどうなっちゃうの?」

「……」


終夜は歩みを止めた。


当然、私たちも止まる。


ソウジンと、私と、氷香。


「『成仏』してもらう」

「それって」

「さよならって訳だい」


『さよなら』、幽霊にとっての死。


でも、おかしくない?


だって、氷香は。

こう言ってた。


「終夜と、遊んだ事があるって」

「うん、あるよ。幽霊の彼女と遊んださ」


そういうこと。


幽霊の氷香は、幽霊を認識できる終夜と遊んだ。

でも。


「なんで、それ以外の記憶が無いの?」

「自己防衛だい」

「自己防衛?」

「自分が人間だと信じるために、記憶を凍らせていたんだよ」


だから、記憶が無かった。


「でも、それは、最近『陰陽師に追われる』と体験から、思い出してしまった」

「自分のことを」


自分が、人外の『物』で、妖怪の幽霊だと。


「うん、だから、彼女は今度こそ全てを凍結した」


記憶を、何もかも全て。


でも、一つだけ凍らせなかった。


それが。

終夜。


雑賀終夜の記憶。


「僕は、昔、幽霊の助けを専門とした陰陽師だったんだ」

「そのときに、氷香と」

「うん、願いを聞いたら、『一緒に遊んで欲しい』だって」


だから、願いをかなえた。


終夜曰く、それで、成仏されるはずだったらしい。


幽霊っていうのはこの世に、何か不満を持っていると、この世に止まってしまうらしい。


願いをかなえたら、その幽霊は成仏する。

つまり、『還』る。


本当の居場所へと。


「でも、」

「そう、残ってしまったんだ。彼女は、見つけてしまったんだ」


新しい、願いを。


そして。


「妖怪を。それも、何らかの事情で死に掛けてる妖怪を」


ソウジンが口を挟んだ。


いまいち、分からなくなってきた。


「簡単に言うとだなあ、氷香ちゃんは、死にかけの妖怪の体を奪ったんだ」

「そうして、今まで生きてきたの?」

「よく分からないけど、そうだろうなあ」


ソウジンが、終夜の隣を見て、そう言った。


いや、隣に居る『者』を見て。

見えてないけど、そこに居る氷香を。


「で、氷香これまでのことは分かったよ」

「……」

「だから、何?」

「成仏させるんだい」


おかしい。


氷香はそんなこと望んでいない。

だって、彼女は。


一番初めに、こう言った。


『助けてください』って。


ここで、氷香を殺すことが、氷香を救うこと?

それは、間違ってる。


だけど。


「終夜、」

「はあ、そうくると思ったよ」

「だぜい」


妙に納得した顔で終夜がため息をついた。


「今から、氷香を人間へと成り上げる」
















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