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My Story  作者: とらっく
第二章 ~絶対零度に閉ざされし記憶~
7/20

第二話

初めて小説を書かせていただきます。

それ故、右も左も分かりません。

迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。


それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください




第ニ話









「あー楽しかった!」

「僕の財布に気を使ってくれ、凪……」


今日は楽しかった。

手すりの錆びた階段を上りながら、思い出す。


終夜曰く、田舎にエレベーターの着いたマンションなんてないんだよ、だそうだ。

あのあと、いろんな所に行った。


公園。

コンビニ。

ソウジンの家。


いろんなことを聞いた。


終夜のこと。

陰陽師のこと。

ソウジンのこと。


いろんなものを手に入れた。


コンビニでおにぎりを十個。

公園で終夜についての話を。

ソウジンの家でプロレスラーのビデオを。


「そういうわけで、夕方まで遊び呆けていたわけです。勉強もせず」

「だれにはなしてるの?」

「切ない独り言だよ」


さっきから終夜が変だけど、気にしないでおこっと。


私がおにぎりを買った時からかな?


「僕は『変に』気を使うなって言ったのに」

「ねえ、終夜、あれだれ?」

「ん?」


階段を上った先の終夜の部屋の前に一人の女の子が座り込んでいた。


「……嫌な予感がする」

「ねえ、どうしたの?」


小走りでその子に近づき聞いた。


そして、少女は言った。


「ご、ご飯を下さい」

「はい?」















「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさま!」

「家計が炎の車だ……」


私の向かいのテーブルに座った、少女を眺める。


腰までの長い青髪に、白い眼。

真っ白のワンピースから見える透き通るような白い肌。

それに幼い顔立ち。


人間で言うと小学五年生くらいかな?


「で、僕になんのよう?」

「それはですね、」


少女は言った。

希望に溢れた目で。




「私を助けてください!」

「……えーと、ごめん。いきなりすぎて何がなんだか」

「終夜さんは優しくて、『強い』って聞きました」


な、なんだか分からないけど、さっぱり分からない。


今分かっているのは、彼女は大飯喰らいだと言うことだけ。

十個あったおにぎりのうちの五個を彼女が食べた。


ん? 私は四個食べたよ。


「……強い、か」

「そうです! 終夜さんならきっと私の記憶を取り戻せます!」

「残念だけど、そういう話なら帰れ」

「え?」


ちょっ、終夜!

もっとましな断り方があるでしょ!


って、口調がいきなり変わった?

空気も。


言葉に込められた思いも。


「僕のことを『強い』って言ったね?」

「は、はい」

「誰から、聞いた?」

「ひっ!」


終夜?

何かが違う。


今日、一日私と過ごした終夜と、今、少女に問い詰めてる終夜は違う。

決定的に、どこかが違う。


「誰から聞いた?」

「ひ、ひ、ええっと」

「しゅ、終夜、なに怒ってるの?」

「僕だい」


そのとき、鍵をかけていなかった玄関から声が聞こえた。

茶髪の大きなプロレスオタク少年がいた。


「ソウジン、どういうつもり?」

「いや、話せば長くなるんだが、簡単にいく?」

「ああ、簡単に頼むよ」

「その子が食い倒れていたから、お前のことを説明したんだい」


つまり、ソウジンが先にこの子に会っていて、ここに来るように伝えた?


って、何でここに?


「ソウジン、僕の聞いてることはそれじゃない」

「なんだい?」

「惚けないで」

「はあ、いいだろうに、少しくらい」

「駄目だよ、少しも多くも駄目だ」


何の話?


よく分からないけど、首を突っ込まない方がいいかな。

確信は無いけど、そう感じた。


「ま、とにかくその子を救ってあげようよ」

「お前が一人でやればいいじゃん」

「つれないなあ、シュウ。一人の美少女が頭を下げてるんだ、いいだろ?」

「はあ、僕は『無茶』が嫌いなんだよ」

「一人の美少女を助けることが無茶かい?」


ソウジンが遠慮も無くベットの上に座る。


ベットの悲鳴が聞こえた気がする。


ところで、その台詞どっかで聞いたような……?

思い出せないけど、聞いた覚えがある。


「好きにしてくれ……『後で』聞かせてもらうぞ」

「好きにするさ、で、美少女ちゃん」

「え、え?」

「言ってなかったけど、僕は宗冶。お名前を聞かせてくれないかい?」


少女ははっきりと、誇らしげに言った。


「氷香です!」


私と終夜の物語は進み始める。

まず、最初に出会ったのが、この少女だった。















「ふんふん、つまり、記憶がなくなちゃったのは今日の午後三時以前からかい?」

「はい、気がついた時には名前と生きていく為の知識しかありませんでした」


氷香の助けて欲しい事。


それは、記憶を取り戻すのを手伝って欲しいということだった。

信じられないことに、氷香は眼が覚めるまでの記憶が無いそうなの。


記憶と言っても、知識は残ってる。

必要最低限の記憶は。


彼女の説明によると眼が覚めると人通りの少ない道のど真ん中で倒れていたそうだ。

それも、たぶん今日の四時半ごろ。


時刻はソウジンがキーンコーンカーンコーンが、聞こえたということから導き出した。

ちょうど、私たちがソウジンのプロレスラー談義に付き合わされてた時。


そして、ソウジンがその女の子を見つけた。

何故、声をかけたのかはわかるよね?


氷香は美少女だから。

そんな理由で納得できるか!


「つまり、生まれも両親も何故そんなに可愛いのかも分からないわけかい」

「ひとつ、変なのが混じってる」

「ん? 生まれのことかい?」

「容姿の事だよ!」


漫才コンビはほっといて、って。

あれ、どうしたんだろう。


氷香が私たちに背を向けて肩を震わせていた。


「ど、どうしたの!?」

「く、く、ふ、ふふ」


……どうやら笑いを堪えてるらしい。


心配して損したわけじゃないけど、得もしてない。


「で、話を戻すよ、何故氷香ちゃんは……」


一呼吸おいて、いかにも大事な事を聞くと言った調子で重々しく尋ねる。


「そんなに可愛いんだ?」

「おい、今の何処が戻ってるんだよ! 関係ない方向へ進んでるよ!」

「両親も可愛かったのかな?」

「可愛いじゃなくて、せめて綺麗とかにしろ!」

「思い出せないかい? 両親の顔」


いつの間にか戻った話を振られて、氷香は首を傾げて考える。

そのまま、五秒くらい。


「ごめんなさい、分からないです」

「そうかい、まあ、何で氷香ちゃんがそんなにかわいいかは、神さまにしかわから」

「ソウジン、このままだとプロレスラーオタクから、ロリコンへと転生してしまうよ」

「へいへい」


ロリコン?

知らない言葉だな、どういう意味なんだろ?


「で、氷香ちゃんは具体的にどうやって記憶を戻そうと考えてるわけ?」

「へ?」

「僕らは神さまじゃないんだ、いきなり現れた少女、いや、美少女を簡単には救えないんだい」

「……」


答えは無かった。


案外、だれよりもこの問題を文字通り問題視していたのは、ソウジンかも知れない。

少女を美少女に言い換える理由は掴めないけど。


「希望を摘み取るようで申し訳ないんだが、そういう訳だい。何か策は」

「その点は心配ないよ」


暗い空気を吹き飛ばすかのように終夜が答えた。


「僕に任せて。乗せられかかった船だから乗ってあげるよ。だけど、暫く時間が掛かる。それまで、ソウ」

「良かったね! 氷香ちゃん! このシュウが君を助けてくれるだって」

「ありがとうございます!!」


氷香が立ち上がり、ペコリとおじきをした。

勢い良く下げられた頭から、風切り音が聞こえるぐらい、素早く、誠実に。


「だから、時間が掛かるから、その間ソウジンの家で」

「僕はさよならするよ!!」


ソウジンが一陣の風の如く。

その巨体に見合っていない速度で。


逃げた。


「待てぇぇぇぇぇぇ!!」

「モテモテライフを満喫したまえ、シュウ!」


終夜がその細身からは簡単に考えられるほどの速度で玄関を飛び出していった。


えーと、私はどうするべき?

追っかけるのは……やめとこう。


ふと、氷香がこちらを見つめているのに気付いた。


「あ、あの、凪さん」

「ん? 何?」

「えっと、その、凪さんは、終夜さんと、ど、どどいうか関係?」

「どどいうかんけい?」


なんて言ったの?


どどいうかんけい?

何処の言葉?


「ど、どういう関係ですか? 終屋さんと凪さんは?」

「どういうって、まあ、友達ってとこなのかな?」


果たして、彼のことを友達と呼んでも私はいいの?


結局、わたしは終夜にとってなんなの?


私と終夜ってどういう関係?

私が聞きたいよ。


どうして、終夜は私を助けたのかな?


「と、友達ですね、友達。あはははは」


やけに安心したと言うか、吹っ切れた調子で笑う氷香。


「実は、私、あと一つ覚えていたことがあるんです」

「え? あと一つ?」

「はい、それは」


氷香は誇らしげに。

それが彼女の唯一の誇れることだと言わんばかりに。


本当に幸せそうに言った。


「終夜『お兄ちゃん』のことは忘れてなかったんです」
















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