第二話
初めて小説を書かせていただきます。
それ故、右も左も分かりません。
迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。
それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください。
第ニ話
「はあ、おいしかった!!」
僕の住んでる田舎とはいかなくても、とても都会だなんて口が裂けても言えない地域にも、
二十四時間営業のコンビニは展開されてる。
疎らに付けられた街灯が照らす道を歩いていく。
大通りだからこそ街灯はついてるだけで、街灯なんてほとんどない。人影なんてもちろん無い。
買った適当なおにぎりを三つほど食べた凪が、満足そうにお腹を擦る。
……口元にご飯粒をつけて。
「凪、口元拭いて」
「ほえ?」
先ほどの暗い顔はどこへ行ったんだい?
ティッシュを渡し、気付かれないように凪を見る。
スラッとしていて僕と同じくらいの背で、……認めるのが悔しいが可愛らしい顔をしている。
どうみても人間だ。一般世間に信じられてる『妖怪』には見えない。
お互いの顔が認識できるくらいの暗闇の中、並んで歩いていく。
「ありがとう、終夜!!」
「気にしなくていいよ」
自分は一体何をしているのか。こんな妖怪の少女にご飯を買って上げて。
頭にある記憶が動き出す。忌々しい、最も嫌悪してる記憶が。
「終夜?」
「なんでもないよ」
凪がいきなり顔色を悪くした僕に心配したように覗き込んでくる。
いつかは、越えなきゃな。
さて、どうしようかな。とりあえず姉さんに連絡をしなきゃかな。
「おら、兄ちゃん!! 金出せよ」
荒ぶった声が聞こえてきた。僕らの歩いている大通りの横道から。
人通りの少ない道の先にで柄の悪そうな人、俗に言うヤンキーが五人集まっていた。
その中心には眼鏡をかけた気の弱そうな青年が地面に倒れている。それは惨めに。
……こういう光景を見ると、案外都会なのかもしれないね。
でも、僕は助ける気なんてさらさら無いよ。だって、怖いし、面倒くさいし、まあ、うん。
そういう訳で、ご愁傷様。眼鏡の君。
僕は人通りも街灯も少ない道の曲がり角を通り過ぎ、大通りの道を歩いていく。
「痛い目遭いたくなかったら金出せよ!!」
悪いけど僕はそんな面倒事に首をっ突っ込む趣味は無いのさ。
さらば、哀れな青年。
「こら!! そんなことしていいと思ってるの!!」
あれ、嫌な予感がする。
恐る恐る元来た道を戻ると、凪がリーダーみたいな人に指をさしている所だった。
「嘘、だよね」
一触即発の状態で五人の視線が凪に集まっている。
さて、どうしようかな。知らん顔をして逃げようかな。
何て考えてると、僕の横を一人の少年が走っていった。
そして、その少年はその男たちに突撃した。
「……」
奇襲に成功して一人の男をどつくことはできたけど、残りの四人に取り押さえられて、ボコボコにされていた。
そのうちに眼鏡の青年は逃げ出した。
「やめて!!」
凪が止めようとするが簡単に突き飛ばされてしまう。
馬鹿だ。あの少年は。無茶した上に状況を悪化さしている。
あんな人間を見ていると僕の胸の中に不思議な感情が顔を出す。
「ヒーロー気取ってんじゃねえぞ!! ガキ!!」
それは、決して心地のよい感情ではない。
だけど、この感情は嫌いじゃない。
この感情は『嫌悪』。
僕と同じ人間があんな馬鹿なことをすることに対しての嫌悪。
「やめろー!!」
なんて一人で感傷に浸っている内にとんでもない事が起きていた。
男たちが二階建ての建物くらいの高さで、空を『舞』っている。
否、『俟』っているだね。埃みたいに。
そして、落下する。あたり前だけど、痛そうだ。受身も取れないし。
そして一瞬、凪のスカートに目が行ってしまったことに本気で悔やむ。
あとちょっと……って、おい!! 今、危うく僕の人間価値が傾いた気がした。
なんて、冷静に分析してどうするんだよ、僕。
「これが私の力だ!」
「馬鹿だね。馬鹿だ。馬鹿確定」
大事な事だから三回言ったよ? 男たちの怒りの矛先は君だよ、凪さん。
ダッシュする。風を切る感覚が心地よくてそのままどっか行きたくなちゃうけど、目標は凪だ。
僕はある『力』を使い、誰にも気付かれずに、
「な!? 何処から!?」
「え?」
凪の目の前に移動した。
周りから見たら瞬間移動したように見えるかもしれないけど、そうじゃない。
また今度説明してあげるとするよ。
彼女の手を取り、薄暗く、整備もされていない道の向こうまで走り抜けた。
「ちょ、終夜! まだあの人が」
「黙ってて」
きっと凪がビックリした顔で僕を見ているだろう。
いきなりこんな強い口調で言えば、まあ、そうなるだろうね。
そのまま、走り続ける。
冷たく心地よい風がそよそよと吹きつける。
「終夜!! どうして助けようとしなかったの!」
繋いでた手が振りほどかれる。どっちが振りほどいたかは言うまでもないよね。
適当な所で止まると、腰に手をあて凪が怒り出した。
プンプンって擬音語が聞こえてきそう。
「僕が彼を助けなきゃいけない理由は?」
「な!? 困っている人が居たら『普通』はたすけるでしょ!!」
「僕は『普通』じゃないんだよ!!」
僕は普通じゃないんだよ!!
あの日から僕は……。
「え?」
「あ! ご、ごめん」
はあ、馬鹿か、僕は。馬鹿だね。絶対馬鹿だ。
大事な事だから、三回言ったよ。
こんな出会ったばかりの『妖怪』少女に何八つ当たりをしてるんだよ、僕。
しかも……普通じゃないのは彼女だろうにさ。
怒るかなって思って凪を見たら、
「ごめんね……私も言い過ぎちゃったかも」
「え? あ、そんなこと無いよ!」
しょんぼりしていた。
返答に一瞬遅れてしまった。
十中八九、悪いのは僕だよね。皆さんもそう思うよね?
それなのに謝るなんて。
「くっ、あはははははは」
「なっ!? また笑ってる! 怒るよ!!」
やっぱり我慢できずにふきだしちゃった。
こんな『人間』は滅多にいない。気に入った。
「凪」
僕の気に入った少女を手放すつもりは無いね。
姉さんに相談してみよう。この子の存在を。
「凪?」
返事が無かった。
凪がいない。
おかしい。さっきまで僕の目の前に居た筈だ。
ちょっと眼を離したら消えていたんだ。
優しい風と共に。
「凪?」
ごめん終夜。勝手に居なくなったりして。空から私を探す少年を見下ろす。
風が吹き始めた。私の黒い髪や服をそわそわと揺れ動かす。
私のいる場所には必ず、『風が吹く』。
きっと、終夜は私と、『妖怪』と仲良くしようとしてくれてる。
でも、それは駄目なんだよ。
私は『妖怪』。
終夜は『人間』。
相容れぬ二つの種族だから。
それは絶対変わらないから。あの悲劇がもう二度と起きないように。
「ありがとね、終夜」
背中の『白い』翼を見つめる。烏天狗にしてみれば、不幸と災厄をあらわす白色の翼を。
……この翼が無ければ、苦しい思いはしなかったのかな。『皆』と仲良くなれたのかな。
終夜がどんどん遠ざかっていった。
違う。私が遠ざかっているんだ。彼の手を振り払ってまで。
「はあ」
「シュウ? ため息なんてついてどうしたんだい」
夕日がやたらと自己主張している家への帰り道で、僕の親友、終夜が珍しくため息をついている。
かれこれ大したこともない付き合いだけど、ため息はあんまり吐かない。
シュウの性格上、他人に弱みを見せたりしないと思うんだけど。
「ソウジン、お前太った?」
「太ってなんかいないやい!!」
……明らかに無理して会話をしようとしているのが分かるんだよ。演技がヘタクソだから。
こういうときはそっとしておくのが一番と、僕の経験(十五年)が言っている。
そのまま、何も話さずに黙々と歩く。
きっと、昨日の学校では普通だったから、恐らく昨夜に何かあったんだろう。
雑賀終夜、彼は何も無い所をを見つめて独り言を呟く事がある。
その所為か、時々気味悪がれたりする。
きっと、僕らには見えない『何か』を見ているんだろう。
夜中に出かける所を見たこともある。決まって、人気の無い所に行っているみたいだ。
「ねえ、宗治」
「なんだい?」
シュウのほうから話しかけてきた。
僕の方を見ず、伸びきって逆に気持ち悪い影を見て。
僕の本名を使って。
「……なんでもない」
「おい、なんだいそりゃ」
シュウは変わってる。
「終夜! ちょっと来てくれよ」
馬鹿怖いアネキ系高校生、長浜詩織とつるんでいるんだから。
美人って言わなくても美人なんだけど、常時竹刀を肩から提げてる美人ってのはレアだと思うぜ。
「ごめん、ソウジン。行って来るよ」
「おお、さすがはシュウ。モテル男はつら、べぼっ!!」
ゴハッ、あの野郎殴んなくてもいいじゃないか。……元気出せよ。
腹を擦りながら『ソウジン』こと紅 宗治はシュウと別れたんだ。
「なんですか、詩織さん」
「おいおい、なんだい急にかしこまりやがって」
僕の方を肘で小突くこの美人お姉さんは、僕の近所に住む長浜詩織さん、すなわち、姉さんだ。
『姉さん』っていうのも、そう呼んでくれって頼まれているからであって、血の繋がりは無いね。
高校剣道部に所属していて、全国三位の実績を持つエリート高校生、だけではないんだ。
彼女は竹刀を使い、『切れ味を操る力』を行使する陰陽師なんだよ。
妖怪退治が大好きでやたらと妖怪をぶった切る。
いや、待って、それ以上にナンパしてきた男のほうがたくさん斬っているかもしれない。
『綺麗な花には棘がある』、姉さんの為にある言葉だね。
「終夜、聞いているのか?」
「聞いてますって。何の話でしたっけ? って冗談ですから、竹刀を抜くのは気が早いです」
姉さんは肩にかけた竹刀から手を離した。
冗談が通じない人の前で冗談を言うのは勇気がいるよね。
とくに、姉さんのような人の前だと。命がいくつあっても足らない。
ましてや、誘惑するような冗談を言うと、竹刀でぼこぼこにされる。
そういう眼にあってきた可愛そうな男はよく観ている。
「で、ここ最近『妖力』が強まってきている」
『妖力』それは、妖怪が無意識の内に発している小さな力。
人間に害はあまり無いんだけど、厄介なものもある。
実を言うと僕達、陰陽師も『妖力』を撒き散らしているんだけどね。
『妖力』を減らすにはどうすればいいのかって?
それは妖怪を封印するなり殺すなり、ちょっと待ってよ。
姉さんが意地悪そうな顔でこちらを見ていた。
「そういう訳だ。『悪いな』終夜」
ちっとも悪びれたそぶりも無く言い放った。
「……」
初めから姉さんは知ってたんだ。あの少女のことを。
その上で僕に『陰陽師』として自覚を持たせるために、昨日わざわざ僕と凪を会わせたんだ。
「本当に悪いな、終夜」
「……」
これもきっと分かっていっている。
この僕は、命をかけて、つまり『無茶』してまで凪を救おうとしないことも、仮にそうしても……姉さんに僕が勝てないことを、さ。
知った上でこう言っている。
『妖怪なんかと親しくなろうとするな』って。
「じゃあな」
「……はい」
僕と姉さんは曲がり角を曲がって別れた。
夕日は沈みかけている
凪の命も……ね。