第四話
初めて小説を書かせていただきます。
それ故、右も左も分かりません。
迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。
それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください。
第四話
「乗ってけ」
この一言により、私と終夜と。
何故か付いて来ることになった立川くんと久留間。
リアカーに乗って、道なき道を進む。
そして、もう一つ疑問が。
「何で目隠し?」
「いいから、いいって言うまで外さないでよ」
そう言う訳で、今どんな道を走っているのかは正直分からない。
だけど、揺れが激しいから明らかに道を走っていないことは分かる。
目の前が真っ暗って怖い。
「後どれくらい?」
「うーん、もうちょい」
「後五分ってとこや」
後五分もこんな感じなのか……。
お尻も痛くなってくるし。
「くるちゃん、もうちょい安全運転で」
「うっさいなあ! やってるよ!!」
と、言いつつも速度が上がった気がする。
地面を削るような音が聞こえてくるし。
次の瞬間。
「うわあ!」
「おっと」
私の体が浮いた。
そのまま飛んでっちゃいそうだったけど、それはなかった。
私の肩に二つの手が置かれたから。
かわりに、私のハートが飛んでいきそうになったが。
「くるちゃん、ケツ痛い」
「ああ、うっせー!! 運転むずいんだよ!!」
今度は少し速度が落ち着いた気がする。
「もうちょいだから我慢しろ!」
「ええー」
「降ろすぞこの野郎」
「シュウちゃんのズボンを? キャー痴漢ッ!」
「ブッ!」
「久留間、前! ぶつかる!!」
……。
私、何も見えないんだけど。
果たして、無事に着くことはできるのかな?
心配。
終夜が何て答えを出すのか。
私に何て言うのか。
心配。
「着いた。後は二人で行って来い」
その言葉を聞いて、目隠しを取ろうとしたら。
「まだだよ」
「えー、いつまで着けてればいいの?」
「僕がいいよって言うまで」
渋々手を下ろす。
その下ろした手に私のものじゃない温もりがあった。
「じゃ、行こう」
「う、うん」
二人だけの静寂の中、歩を進めていった。
まるで、結婚式のように。
終夜にエスコートして貰って。
(何考えてるのよ!!)
何、結婚式の様って。
私、頭がおかしくなちゃったのかな?
もしそうなら。
(責任、取ってよね)
案外私は狡賢いなのかも。
いや、狡賢いんだ。
だって、妖怪だもん。
「行ってもうたな」
「ああ」
ロボット歩きで歩いていく凪を見ながら。
暗がりへと進んでいく二つの影を見ながら。
「正真正銘、失恋だ」
「……」
「あーあ。泣きそう」
珍しく、立川は何も言わなかった。
言えなかった。
普段もこれぐらいならいいのに。
いつも、こんな顔をしてれば。
「全く、俺も泣きそうや」
私のほうをみて、ニカッと笑いながら。
こんな事を言ってくれれば。
「隣に物凄くカッコイイ河童がいるのになー」
お前を、好きになれたのかもしれない。
「ほざけ。お前の何処が……かっ、こいい、んだ、よ」
「誰も見てへん。一匹緑色のイケメン妖怪がいるだけや」
泣きたい時は、泣いとけ。
私を抱きしめた。
普段の私なら。
変態ッ! 触れんな!
って言ったかも知れないけど。
「うわああああああああん!!」
「よしよし」
子ども扱いすんな!
なんて涙いっぱいの眼と顔で言っても、説得力ないから。
素直に、泣いてあげた。
「ぐすっ、立川。涙を止めろよ」
「俺の力でも、その涙は乾かせないで」
……馬鹿。
『水分を操る力』。
「ちげえよ、馬鹿」
「は?」
「『お前が』私の涙を止めろ」
笑った。
言った。
「尽力してやる」
「外して、いいよ」
「は、外すよ?」
坂道を登っている感覚があった。
山を、登ってるみたいな。
それで、足元が平らになったところで。
外して、良いと。
ちょっと、躊躇したけど勢いよく外した。
「す、ごい」
私の第一声。
それを聞いて満足そうに終夜が言う。
「でしょ?」
私の第二声。
「初めて、見たよ」
「そう、か。僕は嫌と言うほど見てきてるけどね」
勿論、何回見ても嫌にはならないけど。
星空。
何の変哲もない、星空。
可愛らしい花が咲いた丘の上で空の下。
星を眺める。
「詳しくないから、全然分からないけど」
「うん」
「それでも、何も知らなくても」
「綺麗」
星についての知識なんてないけど。
そんな事なんか、そんな小さなことは関係なく。
綺麗。
綺麗、としか言えない。
何処にどんな星があるとか、説明できない。
どの星が綺麗じゃなくて、全部。
夜空が綺麗。
こんな夜なら。
何時までも続いて欲しい。
終わって欲しくない。
「ねえ、終夜」
「何?」
決心できた。
ちゃっかり、条件も満たしている。
告白成功の、条件。
「私、あなたに助けてもらった時から」
あなたに抱きついた時から。
私。
「終夜が、好き」
言えた。
言った。
……言っちゃった。
一瞬で顔が、体中が熱くなった。
炎情。
後は。
答えを聞くだけ。
「終夜が、好き」
そう、言ってくれた。
僕のことが、好きだと。
醜くて、汚くて、カッコ悪いこの僕を。
好きだと、言った。
言い終わると同時に、凪は眼を逸らす。
耳まで、真っ赤。
「凪、」
「ひゃ、ひゃい!!」
兵隊さんみたいに気をつけしながら返事をする凪に。
僕は。
「よく、考えて」
「え?」
「僕は、君に好きだなんていわれる資格はない」
無いんだ。
僕の身勝手な理由で、彼女を僕の隣に束縛した僕に。
こんな僕に。
「君が僕に恩感じているなら」
君に数多の隠し事をしている僕なんか。
好きになっちゃ、駄目だ。
「気にしないで。それこそ、僕が身勝手に君を助けただけだよ」
「ねえ、終夜」
「凪は錯覚している。たまたま、君を助けたのが僕だっただけで」
「終夜」
凪が、強い口調で僕の名を呼んだ。
「何勘違いしてんのかは知らないけど、」
一呼吸置いて。
僕を睨みつけて、言った。
「私が訊いてるのは、『好き』か『嫌い』か、だけ」
僕の眼を、黒い目で見て。
透き通った、黒い眼で。
「今、答えないと駄目かな?」
「自分で考えてよ。一『匹』の女が勇気振り絞って告白してるって忘れないでよ?」
はあ、強引だ。
何もかも、無理やり。
「……正直に言ってくれて、いいよ」
「凪……」
「どんな答えでも、受け入れる」
はあ、ほんと、嫌になる。
女の子に、何言わせてんだよ僕。
普通、僕が言う立場でしょ。
今の台詞。
情けない。
「情けなくていいよ。情けがないより、ね」
だって、私を助けてくれるんだもん。
情けが無さすぎるぞ、僕。
そんな僕でも、ここでかっこいい台詞を言うぐらいなら神様も許してくれると思う。
「凪、」
「ひゃ、ひゃい。にゃにかな?」
くく、今更震えてるし。
今にも泣き出しそうだ。
そう、僕は情けない。
彼女を泣かせる勇気なんて、これっぽっちもないんだよ。
そんな、無茶は嫌いだ。
と、弁解と言い訳を先にしておく。
「こんな僕でいいなら、どうぞ好きにして欲しい」
「……そんな僕がいいんだよ、終夜。」
「やっぱり、言い直す」
「へ?」
なんだか、カッコがつかなかったかったから。
本音を言った。
「僕も、凪のことが好きだ。一緒に居て欲しい」
「妖怪の私でいいなら、どうぞ」
こうして。
雲ひとつ無い星空の下。
僕らは本当の意味で『契約』ができたんだと思う。
「て、手前ッ! あたしの告白を散々断っておいてッ!!」
「シュウちゃん、そりゃないよ……」
僕が死に掛けたのは、言うまでも無い。
ねえ、祖母ちゃん。
これで、いいよな?
言われたとおり連れてきたよ。
僕の好きな女の子を。
「ああ、良かったよ」
「じゃあ、お別れだね」
「そうだね」
「さようなら」
「さようなら」
こうして、雑賀沙夜。
つまりは、俺の祖母ちゃんは、二度目の死を迎えた。