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My Story  作者: とらっく
第四章~告白~
15/20

第二話

初めて小説を書かせていただきます。

それ故、右も左も分かりません。

迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。


それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください。



第ニ話









「はあ、はあ!!」


あれ、私、何処に向かってるの?


気がつけば、森の中だった。


周りは樹に囲まれていて。


空は、太陽は葉に覆われている。


「はは、何やってんだろ、私」


逃げ出してしまった。

もう、戻れない。


「何やってんだよ」

「ッツ!!」


突然聞こえた声は聞いたことがあった。


「久留間さん……」


赤髪のツインテールを揺らしながら。

後ろに、真っ赤なリアカーを引いて。


「キモイ」


石を投げつけてきた。


それは私の横の樹にぶつかり。


「なに、馴れ馴れしく接してやがる」


幹を、抉った。


穴を、開けた。


私の心にも。



穴の開いた私の心にその言葉は、突き刺さった。


閉めていたはずの心の扉に突き刺さった。


ノックをしたんだ。


「ごめん、八つ当たりさせてもらうよ」

「ふん、来い」


私は、心の中で騒ぐ化け物を開放した。


怒りを。


何かが羽ばたく音共に、森がざわめきだした。















「吹っ飛べ!」


風を辺りに落ちていた枯葉を巻き込み、久留間さんに向けて突撃させる。


それに対し、久留間さんは。


「へえ、風を操る力、ね」


彼女を中心に風が回っていた。


吹きつけた風は、彼女にぶつかる前に彼女を軸に廻りだす。


「返す」

「キャ!」


その風が、私に押し寄せてきた。

両足を大地に押し付けて踏ん張る。


だけど。


「く、ッツ」


後ろに吹っ飛ぶ。


樹にぶつかる前に風を操って、勢いを殺す。


二つの風にはさまれるようになり、スカートがめくりあがる。


「は、色気ついてんな!!」


次の瞬間、リアカーが私に向かって突撃してきた。


荷台に久留間を乗せて。


ど、どういう原理!?


「な!?」


車のように猛スピードで私に向かってくるリアカーの車線から、避ける。


だけど。


「逃げられねえよ!!」


私の横に来た瞬間。


片側の車輪を軸に、九十度方向転換した。

地面の土を、吹き飛ばしながら。


速度を落とさず、私に突っ込んできた。


「地獄逝き!」


しょうがない。

できれば、使いたくなかったけど。


「天昇」


私の言葉に反応して、背中がもぞりと動いた。


そして。


「へえ、白い翼」


リアカーの猛進を受け止める。


私の、片翼。


妖怪としてありえない純白の汚れなき右翼。


「ますます気にいらねえ」

「吹っ飛べ!!」


翼を一閃。


扇のように。


リアカーも枯葉も土も久留間も吹き飛ばす筈だった。


だけど。


気がつけば私は地面に仰向けに倒れていた。

背中がずきずきと痛む。


何が、起きた?


「シュート」


混乱する私の体に蹴りが入る。


このことが分かったのは私が樹に激突してからだった。


ボールのように回転させられた?


「気付いた? 『回転を操る力』」


回転を操る。


リアカーの車輪を回転させる。


風を回転させる。


私を回転させる。


「反則でしょ」

「そうでもないよ」


つまり、久留間に触れたものは片っ端から回転させられる。


無敵。


「あたしを捕まえれば回転できないだろ」

「そうすれば、手首を回転させるんでしょ」

「よく分かったね」


彼女を掴む事ができたら、回転させる事はできなくなる。

何故なら、彼女自身も一緒に回転してしまうから。


でも、掴んだ手の手首だけを回転させられたらそれで終わり。


勝てない。

くそ。


何でだろ。


悔しい。

悔しい。


「じゃ、終わりにしよう」


そう言って、さぞ惨めだろう私にその右手を伸ばしてきた。


私の、左胸に。


「よしたほうがええんちゃうか、くるちゃん」

「黙って、立川」


声が聞こえたと思ったら、遅い樹木の下に雨合羽を羽織った河童がいた。


立川。


「それ以上やるとなると、俺も手ださんといけなくなるで、そこらへんでいいにしとき」


そういった瞬間、彼が手を掛けていた樹が、枯れた。

朽ちた。


まるで、水分を抜き取られたかのように。


枯れ果てた葉が立川くんの合羽に落ちてくる。


「ふん」

「じゃ、俺はこれで」


伸ばしてきた右手は私の左手をとった。


手首が回転する事は無かった。


「乗れ」

「は、はい」


そう言って、リアカーの荷台を指す。


痛む体を引きずって荷台に腰掛ける。


「レッツゴー」


久留間さんが私の隣に腰掛けた瞬間、ゆっくりとリアカーは動き出した。


いや、リアカーの車輪が回転し始めた。


「あの、何処へ?」

「あたしに敬語は使うな。キモイ」

「へ、うん、分かった」


私よりも年上に見えるけど。


まあ、いいや。本人が使わなくていいって言ってるから。


「何処に向かってるの?」

「あたしの秘密基地」

「基地?」

「いいから黙って待ってなさい」


そこから会話をすることは無かった。


何故なら、私が寝てしまったから。


気のせいかもしれないけど、リアカーの乗り心地は良かった。















「おい、終点」

「へ、ああ、寝ちゃったっけ」


私、今日一日で二回も寝ちゃってるよ。

これじゃあ、夜眠れないなあ。


「降りろ」

「ごめん」


リアカーの荷台から飛び降りると、目の前には人の背ぐらいの大きさの岩。


その背後に崖。


「回れごま」

「うわ」


久留間がその大きな岩に手をつけると、その岩がゆっくり回り始める。


九十度回転すると、人一人、妖怪一匹が通れそうな隙間がうまれた。


「此処に入るの?」

「そう」

「ふうん」


なんだか探検家になった気分。


その隙間を体を横にして入っていく。


私の後に久留間が続いてきて、呆れた顔をしていた。


「何であたしがあんたを閉じ込めるかも知れないって考えない?」

「勘」

「勘? ふざけてる?」

「真剣。それと、あんたじゃなくて凪」


そりゃ失礼って言って笑った。


「で、此処が秘密基地?」

「そう、ここが基地だ」


基地、と言われた場所には何も無かった。


何も無い空間が広がっている。

そんなに広くない、さっきの和室くらいの。


リアカーが一台だけ置いてある(どうやって入れた?)。


一応、明かりはついていた。

懐中電灯が四隅においてあって、スポットライトみたく中心に向かって光を向けている。


「ちょっと待って、私辞書で基地って言葉調べる」


私の辞書に『基地とはリアカーや懐中電灯の置いてある場所』なんて書いていない。


「ほい」

「クッション?」


フワフワしたクッションをお尻の下に敷いて、座る久留間。


同じように腰を下ろす。


「で、何で逃げ出した?」

「……」

「話してほしいな。聞きたい」


そうせがまれては断れない。


違う、私が堪えられない。


だから、正直に話す事にした。


「私、終夜に助けてもらった時、私が特別なんだって思ってた」

「まあ、そうだろうな」


私だから終夜は助けてくれた、って思った。


嬉しかった。

私を必要としてくれて。


だけど。


「違ったの。終夜は困っている人、だけじゃない」


妖怪も幽霊も神さまも。

猫も犬も。


全部、同じように助ける。


特別は無い。


「終夜は、私にこう言ったの」


僕は君を助けていない。


僕は、困っている妖怪を助けたんだ。


「それが、堪えられなかった」

「くく、あはははは」


笑われて当然。


だって、初対面でさっき殺し合いをしていた妖怪に何話してるの私。


でも、違った。


久留間は。


眼を赤くして、滴を零していた。


泣いているって気付くのに時間が掛かった。


「くそったれ。聞いた私が馬鹿だった」


泣きながら久留間は続ける。

私を、嫉むような眼で睨みつけて。


「お前、幸せだな。幸せすぎて、自分の周りが見えてない」


私が、幸せ?

周りが見えていない?


「お前の場所に立つために、あたしはどれだけの事をしてきたと思っている」


次第に、悲しみは怒りへと変わった。


「それなのに、お前はッツ! お前はッツ!!!」


そして、呆れへと変わった。


「もういい。帰る」

「へ、へ?」

「閉じ込めるぞ! 早く出ろ!!」


その言葉を聞いて、私はさっきと同じように狭い隙間を通り抜けた。


空はまだ明るいまま。

私の心は暗いまま。


夜が終わらない。















「シュウちゃん、帰ってきたで!」


行きと同じように、リアカーに乗って終夜の居る雑賀家に戻ってきた。


一つ違うのは明らかに乗り心地が悪かったことだけ。

お陰でお尻が痛い。


「終夜、その、えっと」

「凪、何やってたんだよ」

「あははは」


遠くから黒髪の少年、終夜が歩いてきた。


「おかえり」

「え、う、ただい、ま」


それ以上、何も言ってくれなかった。


「久留間、こっちへ来てくれ」

「え、あ、うん」

「……」


久留間は私を横目でちらりと見て、駆けて行った。


終夜の元に。


取り残されたのは私と、立川くん。


「ったく、シュウちゃんも不器用やなー」

「……」


今の私は。


いや、私は。


終夜にとって。




「ああ、」




気が付けば、泣いていた。

気が付きたくなかったけど、泣いていた。

気付いていたけど、泣いていた。


終夜に、『興味がある』って言われた時とは全く逆の理由で。


泣いていた。


「私に、興味はないんだ」


私は、もういらないんだ。


「で、如何するん凪ちゃん」

「へ?」

「俺に可愛い乙女の涙を見せつけて、如何したいん?」


立川くんが私の目の前に立っていた。


「興味がなくなってしもうたら、凪ちゃんはどうするん?」

「……」

「それも含めて、今日はもう寝ちまえ」


寝ちまえば楽になる、という言葉と共に私の意識はおちた。
















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