第一話
初めて小説を書かせていただきます。
それ故、右も左も分かりません。
迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。
それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください。
第一話
「はあぁー」
ベットの上でもため息が出る。
最近、やたらと増えたため息。
終夜に会ってからしなくなったため息もあるけど。
増えたため息もある。
だけど。
「はあぁぁぁ」
止まらない。
窓の外の月は雲に隠れて見えない。
私はどうして。
こんなに、ため息を吐いているの?
自分でも分からない。
いや、何となくは分かる。
誰が原因かは。
雑賀、終夜。
私の恩人。
初めはそう思っていた。
だけど。
彼は、私のこと、凪を助けたんじゃなくて。
困っている『妖怪』を助けたんだ。
私は、終夜にとって特別じゃない。
氷香。
計斗。
二人を助けるように、それと同列なんだ。
決して、特別じゃない。
私は、特別じゃない。
終夜にとって私は。
「何なの?」
答えは返ってこなかった。
あたり前。
布団を頭から被って、耳を塞いだから。
初めて会った日のお月様は、見えなかった。
真ん丸で、綺麗なお月様は。
「凪、起きて!」
「う、ううん?」
朝から体が左右に揺さぶられて、最悪の目覚め。
だれだ!
私の眠りを妨げるのは!
一人しかいないけど。
「寝惚けてないで早くご飯食べて」
「ほえ、うーん」
「なっ!?」
背伸びをする。
ううん、よく眠れなかったかも。
なんだか胸元がスースーする。
「ふ、服着て服!!」
「うん」
終夜が私から眼を逸らして、タンスから何かを取り出してる。
その間に服を着替えようとシャツのボタンに手を。
「ここで着替えないで! 風呂場で!!」
顔が赤い終夜から注意されたので風呂場で着替える。
シャツのボタンに手をかけて、あれ?
外れてる。
何時から?
起きた時から?
布団から出たときから?
終夜に起こされた時から?
「終夜ぁぁぁぁぁぁ!!」
「なんだよ、って、うわ!! 服着ろ!! 丸みえ」
「見んなぁぁぁぁ!!」
「グハッ!!」
朝は騒がしい。
こんなんだから、眠気も憂鬱も吹っ飛んじゃうんだ。
「うわあ! すごい!!」
「僕はあのビンタの方が凄いと思うけど」
「私の裸を見る終夜が悪いの」
景色が物凄い勢いで後ろに進んでいる。
のではなくて、私たちが前に進んでいる。
ガタンゴトンと揺られながら。
窓から見える山は緑一色。
「で、終夜何処に向かってるんだっけ?」
「僕の実家」
終夜の実家。
つまり、終夜のおじいさんとおばあさんが居る所。
何だか楽しみ。
終夜のおばあちゃんとおじいちゃんって……。
「って言っても実家と言うか、元々住んでいた場所だしね」
「どんな所?」
「カブトムシが採れる場所、で伝わる?」
カブトムシが採れる場所?
つまり。
「森の中?」
「間違っているわけじゃないけど、まあ、いいや」
楽しみ。
でも。
どうして、私を連れて行ったんだろう?
妖怪の私を。
その答えは分からない。
窓に日の光が反射して、眩しかった。
眼が眩んだ。
「さ、こっから歩きだ」
「こ、ここから?」
山の麓に辿り着いた。
いや、間違えた。
私が言うのもなんだけど。
いかにも何が出そうな、山。
たぶん、私はもう一つ感じていることがある。
「怖い?」
「う、ううん。違うけど」
何か、嫌な感じがする。
入りたくない。
「まあ、妥当な答え、かな」
「何が?」
そう言いながら、歩を進めた。
いや、進めてしまった。
「凪」
「キャッ!」
私の体が物凄い勢いで後ろに引っ張られた。
「何すんの!」
「手を繋いで」
「へ?」
「いいから」
とにかく、終夜から差し出された手をとった。
「いい、よく聞いて」
「何、さっきから」
そんなに真剣なの?
「今から、絶対に僕から手と眼を離すな」
「何で?」
「迷子になる」
「……」
ううん、笑っちゃいそう。
いくらなんでもそんな事は無い。
土地勘が無くても迷子になるわけ……。
「終夜?」
あれ、今さっきまで私の隣にいたのに。
って、まさか!!
「終夜!?」
「これで分かった?」
すると、終夜がいきなり私の横に現れた。
私が認識できた。
「ここから、僕らの『認識』を消していく。手を離せば、あっという間に迷子だよ」
「わ、分かった」
と、とにかく!
終夜と手を繋げばいいだけ!!
簡単簡単!!
「凪?」
「れ、レッツゴー」
終夜の手を強引にとって、歩き出そうとする。
「道分かってるの?」
「あ、」
終夜の前に進んだ私の足が逆再生して終夜の横に戻る。
私が張り切ったって、道が分からない。
「手、離ないでよ?」
「もちろん」
せっかく繋いだ手、そう簡単に離さないよ。
そこから先はよく覚えていない。
気がつけば、私は見知らぬ天井の下で見知らぬ床に寝かされていたから。
畳の上に敷かれた布団。
そして、古びた障子が開いて、声が聞こえた。
「おお、起きたやん」
「ほ、え?」
「シュウちゃん! 起きたやで」
体を起こせば、目の前に一人の少年。
終夜よりも幼い。
緑色の雨合羽を纏い、家の中なのにキャップ帽を被った少年。
「誰?」
「河童や」
「河童って、まさか、妖怪?」
「そうやで、姉ちゃんと同じ妖怪や」
「なんで、知ってるの?」
「シュウちゃんから聞いてるからや」
髪の色は青く、眼もどこか青みが感じられる。
河童。
「呼んだ?」
「起きたやで、連れ」
「凪、大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
終夜の後ろから女の人が障子を開けて入ってきた。
まず、眼に入ったのは赤い髪。
黒いゴムで縛って二つに分けた赤黒い髪。
腰までの長さがある。
そして、その髪形に似合わないくらい大人びた体と雰囲気。
とてもじゃないけど、ツインテールが似合っていない。
黒と赤のジャージを上下に履いている。
「ここは……」
「朝からうるさい、立川」
「へへ、くるちゃんほどじゃないでー」
「僕の家だよ」
終夜の実家。
あれ、ちょっと待って。
「私どうしてここで寝てたの?」
「ええと、それはやなー」
「凪、気分は?」
「う、うん平気だけど」
それより。
「ああ、説明すると長くなるんだけど」
「くるちゃんが悪いんやでー」
「あたしは念には念を入れて」
「凪さんをぶっ飛ばしたんやろ?」
「くッ!」
「あのー私を置いていかないで……」
はあ、この人たち。
人の話を聞いてくれないよ……。
「俺は立川。『河童』や」
「久留間。『火車』」
「えっと、凪です。『烏天狗』です」
この不思議な自己紹介、わたし達が妖怪だから。
久留間、さん? も妖怪だったことには驚いた。
「で、何で私は」
「みなまで言わないで。それは私が、その」
久留間さんがもじもじし始めた。
私のほうを見ては、すぐに眼を逸らしている。
「えっと、攻撃してしまった」
「えっと、はい?」
「つまり、凪の事を不審者だと思い、攻撃を仕掛けたんだ」
「ごめんなさい」
えっと、記憶が飛んでるけど、久留間さんが私を気絶させて、此処に運ばれた。
「正確には、シュウちゃんの恋人と勘違い、って痛い!」
「次言ったら……」
いきなり、立川くんがお尻をに軸にその場で一回転した。
お尻を擦って、乱れた服を整える。
その間に、終夜が。
「そう言う訳で早速行かなきゃいけない場所があるんだけど、立てる?」
「う、うん」
差し出された手をとって、立ち上がる。
うん?
何か今、殺気みたいなものが?
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
気のせいかな?
「じゃあ、こっち。立川と久留間は」
「言われなくとも分かってるやで、シュウちゃん」
「ありがとう」
「気にせんでええよ」
「立川、ちょっとこっち来い」
ん?
久留間さんがいま物凄く怖い顔をしていたような……。
「何処に行くの?」
「僕の祖母ちゃんのところ」
う、何でだろう。
緊張する。
胸が詰まる。
「なんで?」
「ん、報告だよ」
何の、って聞こうとしたら、目の前に一枚の襖があった。
今まで、通ってきた所にあったのとはまるで別格の襖。
高級感が漂っていない。
今にも、独りでに壊れてしまいそうな。
「祖母ちゃん、入るよ」
「……」
返事は無かった。
それなのに。
「失礼します」
「へ、し、しつれいします!!」
終夜はその古びた襖に手をかけた。
そして、見えてきた光景は。
「ただいま、祖母ちゃん」
狭い部屋の中に。
何も無かった。
「ちょ、終夜?」
「久しぶり。うん? ああ、うまくやってるよ」
やっと、分かった。
何で、終夜が返事をしているのか。
「ああ、で、本題なんだけど」
「雑賀さん」
終夜の声を遮り、一歩前に踏み出す。
「凪というものです。初めまして」
「……」
「終夜さんに、命を助けていただきました」
「……なんだい、随分と礼儀正しい子じゃないか、終夜さん」
幻聴が聞こえた。
気のせいではなかった。
何故なら。
「ふふ、初めまして、凪さん。私は、雑賀、沙夜」
その、やさしそうなおばあさんは私に微笑みかけてきたから。
「え? どういうこと?」
「『認識を操る力』だよ」
あ、分かった。
計斗のお母さんの時と同じように。
幽霊の存在の認識を高めて、私に認識できるようにしたんだ。
「まあ、まあ、可愛いお嬢さんね、終夜さん」
「か、可愛い!?」
「いい、祖母ちゃん?」
う、嬉しい。
お世辞でも、何でも。
「ああ、ありがとう。終夜さんに凪さん」
本当に、眩しいくらいの笑顔で笑うお祖母さんだった。
眼が眩むような、笑顔だった。
終夜の笑顔とはどこかが違っていたけど。
救われるような笑顔だった。
「じゃ、二人さんは仲良く散歩してきなさい」
私は眠るよ、と言って。
おばあさんの姿は見えなくなった。
「はあ、なんだか緊張した」
部屋に一礼して、襖を閉める。
結局、挨拶だけしたら部屋を出てきてしまった。
終夜の目的は何?
私を、紹介する事?
「凪、言っておく事がある」
「な、何?」
真剣な顔の終夜に。
こう言われた。
「僕は君を助けていない」
「え?」
「僕は」
頭が回らなかったのは、一瞬。
気がつけば、私は全速力で逃げ出していた。
何から?
分からない。
とにかく、逃げた。
玄関に置いてあった靴を履いて。
闇雲に飛び出した。
ん、……評価されている!!
どなたか存じませんが、本当にありがとうございます。
これからも更新頑張ります。
どうぞ、よろしくお願いします。
第四章スタートです。