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My Story  作者: とらっく
第三章~切っても伐っても斬っても~
12/20

第二話

初めて小説を書かせていただきます。

それ故、右も左も分かりません。

迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。


それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください



第ニ話









「はあ、はあ、宗冶!」


公園についても、『紅 宗冶』はいなかった。

代わりに。


「また、お前か!!」


血で濡れた鋏を携えた妖怪がいた。


いや、もう一匹、それと対峙する妖怪、いや、魔物がいた。


「ヒャッハー、俺、降臨!!」


紅宗治に住み着く、紅鬼。


吸血鬼。

ヴァンパイア。


ソウジン=ヴァンパイア。


『僕』ならぬ『俺』。


「ん、久しぶりだぜ、シャバの空気を吸うのは」

「……」

「で、いきなり目の前に気持ち悪い変なのが居やがるんだが、人間どういうことだ?」


僕のことを、人間と。


そう呼ぶ。

あれにとって、人間とは餌でしかない。


妖怪。

魔物。


それらの頂点に立つ、吸血鬼。


彼から観れば、人間に名前など要らない。

餌に、情など持たない。


「ソウジンを帰せよ」

「あれは何だ?」


僕のことなんか、視界に入れない。

目の前に立ちはだかる、物しか見て居ない。


「まあ、いい。ちょい早めの朝食だ」


そう、朝食。

吸血鬼にとって、八時は早朝。


そして、吸血鬼にとって、妖怪は。


獲物。


「一撃でしとめてやるぜ」


刹那、吸血鬼の腕が空を舞った。


原因は、鋏。


鋏、万物を断ち切る役目をもつ鋏。


吸血鬼の体も例外なく断ち切る。


「おいおい、気が早い野郎だな!!」


嬉しそうに、自分の腕の切断面を眺める。


そして、切断面から腕が飛び出す。

そっくりそのまま、切り落とされた腕と同じように。


トカゲの尻尾のように、あたり前のように再生する。


「じゃあ、行くぜ」


おもむろに、切り落とされた左腕を掴み。


構える。


槍を投げるように、上段に。


月の光に照らされて、不気味なその左腕を。


太陽ではなく、月の下に掲げる。


「運命の槍って知ってるか?」


赤く、紅く、染まった。


腕を媒体に、肥大化していく。


そう、血によって。

自分の腕から止め処なく溢れる血液が形作っていく。


『運命の槍』。

レーヴァテイン。


たしか……ゲルマンの神話に出てくる魔槍。

太陽よりも強い輝きを放つ、獲物を意志を持って仕留める、煉獄の魔槍。


そう、吸血鬼を呪う太陽よりも強く輝き。

己の血液によって紅蓮に輝く。


吸血鬼による吸血鬼殺しの為の武器。


それを、何処の馬の骨かも分からない妖怪に、投合する。


鋏妖怪が背中を向ける。


「俺は知らない。運命ではなくてもお前は死ぬ」


大地に、魔槍が突き刺さった。


吸血鬼の目の前の大地にゆっくりと。


何故なら。


「おいおい、こんな夜中に何やってんだい、近所迷惑だぜ?」

「がああああ!!」


その槍を、吸血鬼から取り押さえた人間がいたから。


その、人間は。


「やっと戻ってこられた。ふう、疲れた」


紅 宗冶。


吸血鬼を体に留めることができる唯一つの人間。


吸血鬼の血を己の体に流す人間。


人間としての宗治と吸血鬼としての宗冶。

表と裏。


「で、今の状況は?」

「ソウジンが襲われて吸血鬼化して、運命の槍の発射前だ」

「ギリギリセーフだい」


紅宗冶には、二つの人格がある。


一つは、紅宗冶本来の人格。

もう一つは、名を失った吸血鬼の人格。いや、『怪格』。


僕と俺。


「で、何がどうセーフなんだよ?」

「あり、気付いてない?」

「何がだよ?」


ソウジンが心底呆れたようにため息をついた。


魔槍が消えた。


正確には、持ち主の下へと戻った。


「鋏」

「鋏がどうした?」

「はさみ、波佐見散髪店」


やっと、気付いた。


襲われた時の映像が頭で再生される。


雨合羽の、顔の部分から見えた、二つの丸い金属。


眼鏡。



そして、どうして人ごみに紛れることができたのか。

だって、人間なんだから。

人間に紛れる。


鋏、波佐見、身長、雰囲気、襲撃された人間。


すべて、波佐見計斗に共通している!


散髪店の店主、計斗の父親。

僕。

ソウジン。


すべて、計斗に関係がある人物。


いや、待って。


「ソウジン、波佐見後輩知ってる?」

「いや、名前と顔だけ。あと、床屋ってこと。会ったことはあるけど」


それなら、波佐見は、何故、僕らを襲った?


「それについては私に任せなさい」

「姉さん!」

「おいおい、勘弁願うぜ」


セーラー服に身を包んだ姉さんが、『竹刀を抜刀した状態』で歩いてきた。


戦闘準備が、できている。


「安心しろ、吸血鬼。今回は手を出さない」

「ふう、よかった」

「そして、『あれ』は何なんですか?」


あれ。


鋏の妖怪。


「それはどっちについて聞いてる?」

「両方です」

「じゃあ、まず、あれは『妖怪』ではない」

「え?」


妖怪ではない。


「神さまだ」

「おいおい、胡散臭い話だな」

「これと、同じ原理だ」


そう言って、長浜家に代々受け継がれてきた竹刀を差し出す。


万物に、神が宿っているという考え。


「九十九神」

「そう、それと同じだ」


九十九神。つくもがみ。


長く生きた生き物や大事に使われた道具に神が宿る。


その神様の力を使った能力。


それが、姉さんの竹刀。


妖怪斬りの、隠し刃。

妖怪のみを切り裂く隠し刃。


それと、『切れ味を操る力』。


二つをあわせて、姉さんは陰陽師として最強に等しい。


そして、波佐見は。


「鋏に宿った神さまってことかい?」

「ああ、その波佐見とやらは、床屋だろう? 納得だ」


鋏。


その用途は、切り裂く。

断ち切る。


髪を。

紙を。

糸を。


「だけど、何で僕らを襲ったんだ?」

「僕ら? 違うぞ終夜」


姉さんが意地悪そうに笑った。


夕日の下の帰り道の時と同じように。


「お前を狙ったんだ」

「僕を?」


何故?


精々名前を知ってて会えば話すぐらいの関係の僕を?


大した縁もないのに。


「正確には、お前と繋がる『縁』を」

「縁?」


僕に何の縁がある?


家族?

友達?


縁があるを親しい縁だと考えれば。


ソウジン、姉さん、波佐見後輩、あとは、まあ、家族。


ほかに、は、凪ぐらい。


一体、何の縁だよ?


「そう、お前に繋がる縁だ」

「そういうことかい。いやいや、モテル男は辛いねえ、終夜」

「どういう意味だよ?」

「その通りだな」


姉さんまで、呆れ顔になった。


僕が何をしたというんだ?


「説明してください」

「つまり、波佐見はお前を恨んでるんだぜい」

「なんで?」


心当たりはない。


だって、彼女と話した事なんかそんなにない。


「お前の関係を恨んでだと思うんだい」

「僕の関係?」

「人間関係だ」


いや、僕の人間関係、ほとんどないんですけど。


姉さんは先輩。


ソウジンは仲間。


友達は、いない。


「嫉妬、お前のその『太くて強い糸』が羨ましかったんだろう」

「は?」

「誰よりも、太く、強く、少ない人数に繋がってるその糸が」

「どういう意味だよ」

「簡単にいえば、波佐見はお前に嫉妬している」


分からない。


どうして、僕に嫉妬する?


何で、僕なんだ?

他にも居るはずだ。


強く、太い糸で結ばれてる関係を持つ人間なんて。


いや、いる。


長浜詩織。


剣道大会全国三位。


姉さんのほうが、僕なんかよりよっぽど友達が多い。


「波佐見の事は私には理解できる。以前、彼女から相談を受けた」

「ああ、そうかい、そういうことかい」


ソウジンが軽いため息をついた。

呆れて、呆れ果てて、溜まった息を吐き出す。


姉さんはそんなこと気にせずに、こう言った。


「私みたいなのは、糸が長くても、弱い」


私みたい、つまり、学校の有名人。


波佐見も、有名人。

成績トップクラスの天才。


誰とも友達だが、親友ではない。


つまり、簡単に斬れてしまう糸が複雑に、絡み合ってる。


それに比べて、僕は。


絡まることなく、一本筋で誰かに繋がっている。


「鋏、か」


そう、糸を切る。

人間関係の糸を。

関係を、切り裂く。


「だから、僕に関係がある人を襲撃した」

「失敗してるけど」

「もちろん、私のところにも来たが、」


すぐに逃げ去った、と言った。


まあ、当然だと思う。

本能があれば逃げ出すよ。


「それで、あの鋏は何なんだい?」


僕が襲撃された理由は分かった。


だけど、あの鋏の説明は。


「鋏にとり憑いた神さまが願いをかなえようとしている」

「願い?」

「ああ、持ち主の願いを。『雑賀終夜の人間関係を切り裂きたい』と」


最悪だよ。


九十九神は持ち主の願いに敏感に反応する。


願いの本質を汲み取る。


彼女の願いは嫉妬。


だから、あんな妖怪染みた姿になっている。

神さまと、リンクしている。


「で、どうすれば止まるんですか?」

「一、お前が死ぬ。ニ、波佐見を殺す、」


三、と言って。


こう続けた。


「神さまを殺す」















「最悪だ!!」

「手分けして探しましょう!!」


あの後、一旦マンションに戻った。


玄関のタイルの床にに靴を脱ぐ。


そこで気付いた。


靴が足りない。


「氷香、空から探してくれ」

「分かりました」


氷香が夜空に向かって浮上する。


今は夜の九時。

独り言を呟いても問題ないさ。


「くそ、どういうことだよ!」


その靴の持ち主の所在は不明。


部屋にはいなかった。


ただの外出なら問題はないけど。


だけど、波佐見の次の狙いは。


「くそ、何処だよ!」


凪。


波佐見は今日の午前中、僕にこう言った。


(ちょうど、その頃、終夜先輩の隣に一人の女性が)


もう、ばれてると考えていい。


凪の存在に気付かれてる。


「見つけました!」

「どっちだ!!」

「あっちで」


言い終わる前には駆け出していた。















「吹っ飛べ!!」


突風を生み出し、目の前に迫る鋏を押し返す。


鋏のしまる音が私の耳元で響く。


「なんなのこいつ!!」


妖怪、じゃない。


どちらかと言えば、神さま。


竹刀女の竹刀と同じ感覚。


両手の巨大な鋏から感じる。


私にすれば、天敵のような感覚。


体中が悲鳴を上げる感覚。


「はあ!!」


足元に転がる砂利を巻き上げて。


「!!」


突っ込んでくる鋏にぶつける。


「な!?」


次の瞬間、石が全て真っ二つになった。


広範囲に広がった小石を全て切り落とした。


そして、鋏が私の首に迫る!


「ッツ!」


尻餅をつくように、腰を落とす。


重力に従って、ストンって。


私の首があった場所で、鋏が閉まった。


金属音と共に、後ろの街灯が倒れた。


「うそ、」


なんて切れ味。


いくらなんでも、これじゃあ太刀打ちできない!


「はあ!!」


倒れたまま、私を中心に風を発生させる。


これで吹き飛ばす!!


だけど。


巨大な鋏二つ、地面に突き刺さった。


深く、体を固定するように。


円形に道路に散らばっていた砂利が吹き飛んだ。


鋏は、吹き飛ばなかった。


(鋏を抜くのに時間がか)


鋏を閉じる金属音と共に、鋏の刺さっていた大地が『割れた』。


亀裂が大きくなり、簡単に二つの鋏が引き抜かれた。


「う、そ」


そのまま、引き抜かれた鋏は私の首に突きつけたれた。


視界の端に二つの刃が見える。

正面には鋏の支点。


ああ、死ぬんだ。

首が、ちょん切れるんだ。


刹那、金属音と共に……。
















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