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My Story  作者: とらっく
第三章~切っても伐っても斬っても~
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第一話

初めて小説を書かせていただきます。

それ故、右も左も分かりません。

迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。


それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください


第一話









「行ってくるよ、昼ごはんは冷蔵庫の中に入ってるけど、全部は食べないでね」

「はいはい、行ってらっしゃい」


凪が僕の家に来てから、二週間。

春から夏への変わり目ぐらいの時期。


正確には、四月の終わり。


ほのぼのから、むしむしへ。


「それと、出歩く時は」

「分かってるから」


念には念を押しておく。


僕の分まで食べられたらたまらないでしょ?


「それと、」

「行ってらっしゃい!」


何故、家の主であるこの僕が追い出されるんだよ。


僕は自慢の運動靴をはいて、部屋から出る。


目的地は決まってる。


学校、さ。中学校。


何だか三日間の間に色々ありすぎて、僕が中学生だって忘れてるよね?

これでも、いや、これが受験生。


少しずつ太陽が恨めしくなってくる。


「おはようです、終夜お兄ちゃん」

「おはよう」


幻声が聞こえたので、僕は独り言を呟いた。


僕の前をふわふわと漂う少女。


氷香。


「学校ですか?」

「うん」

「そうで……」


そのまま、進む。


自転車に乗ったおじさんがふらふらと僕の横を通り過ぎるまで。


「……すか。お勉強頑張ってください」

「ありがと、頑張るよ」


さっきも言ったとおり、独り言。


氷香の声はおじさんには聞こえない。

なのに何故喋るのをやめた、なんて野暮な事は聞かない。


その一言が言えるほど、氷香の今の在り方を否定するほど僕は勇気が無い。


彼女は、今まで人間だと思っていた。

自分が人間だと信じていた。


妖怪にとりついた人間の霊。

それが、氷香。


「そろそろ、お喋りやめましょうか?」

「そうしよっ」

「終夜先輩! おはよう!」


言ったそばから、前方から一人の人間が走ってきた。


丸い眼鏡をかけた。

黒髪の三つ編み。


そして、僕の数少ない会話ができる『人間』で。

後輩。


「おはよう、波佐見後輩」

「今日もいい天気だ」


いきなり天気の話に飛んだし。

なんで僕に会って天気の話をするんだよ。


確かにいい天気だけどさ。


「こういう日は髪を切りたく」

「ならないよ」

「む、そうかな?」


この敬語を使わない後輩。


名前は、波佐見 計斗。はざみ けいとって読む。

珍しい、って言えば珍しいけど、人の名前や苗字に文句は無い。


「それはそうと、終夜先輩」

「なにがそれでどうなんだよ」

「何か、変わったこと、あった?」


心に覚えがありまくり。


妖怪少女と同棲してます、なんて言えるか!


「ど、どうして?」

「いや、終夜先輩が嬉しそうだったから」

「僕が?」

「こんな顔の終夜先輩を見るようになったのは、一ヶ月くらい前から」


うわ、ドンピシャ。


って言うか、嬉しそうな顔ってなんだよ。


にやけていたのか、僕。

そんな事はない。


あってはならない。


絶対に。


「ちょうど、その頃、終夜先輩の隣に一人の美少女」

「うわあ、いい天気だね! こんな日は髪を切りたくなるよね!!」


決して、美少女ではない。

百歩譲って『微』美少女だ。


「そうか!? うれしい!」

「僕も」


うれしくない。


この後輩の家は此処らへんで数少ない床屋を営んでいる。


僕もお世話になることがある。


時々計斗に切られそうになるけど。

ちなみに、彼女は美容師を目指している。


っていうか


セーラー服の胸ポケットには銀色の鋏が入っている。


「ところで、一対僕に何のようだよ?」

「ん、特に」


なんだよ、特にって。

用もないのに話しかけるな、とは言わないけど。


「だったら同学年の奴と一緒に行けばいいんじゃない?」

「まあ、そうなんだけど……」


しどろもどろな会話。

要領を得ない。


「では、お言葉に甘えようかな」

「どうぞ、甘いか分からないけどね」


それだけ言うと、後輩は走り出した。

あっという間に見えなくなった。















波佐見計斗。


波佐見散髪店の一人娘だ。

彼女の特徴は、何でもできる。


いや、特徴は無い。

どれも、『特徴』なんだ。


できないことはほとんど無い。


運動も、勉強も、他にも何でも。


強いて言えば、言葉遣いが悪い意味で特徴的(他の先輩に対しては分からないけど、僕には悪い)。


さて、そんな彼女はこの学校ではそこそこ有名だ。

詩織姉さんとは比べようが無いけど、少なくとも僕よりは有名だ。


いや、僕の名前を知ってる奴なんてとてつもなく少ないけど。


同じ学級の人たちくらい。


さて、こんなに落ちぶれた僕の今の状況は。


「うわっ!」


闘争中、間違えた、逃走中。


「あぶな!」


足元の地面が切り裂かれる。

土が丸見えになる。


僕がどうしてこんな状況になったかは不明。


姉さんに捉まり、ちょっと話をした。

いや、たくさん。


で、今の時刻は七時。

本来の下校時刻五時半。


姉さん、話し長すぎ……。


で、話の内容は……それどころじゃない。


右手に大きな鉄の鋏。

左手にも大きな鉄の鋏。


いや、手首から鋏が直接生えている妖怪に襲われている。


人間の形をしているけど、体の輪郭が分からない。


何故なら、ぶかぶかのコートみたいなものを纏っているから。

雨合羽みたいな、青いコートを。


背は僕より小さい、同じくらい。


「くそ、しつこい!!」


後ろで気味のいい鋏がしまる音がする。

いや、決して気味がいい音じゃないけど。


速い。


いや、決して僕は足が速くないわけじゃないけど、それでも速いほうだ。

それでも、追いつかれる。


とにかく、人通りの多い商店街に出れば。


だけど。


「このままじゃ!」

「終夜退いて!!」


次の瞬間、その大通りから誰かが飛び出してきた。


間一髪でしゃがむ。


その僕の頭上を。


「風神ラリアットォォォォォォォォ!!」


物凄く痛々しい単語を口にしながら何かが通り過ぎた。


「吹っ飛べ!!」


急いで後ろを振り向けば、地面を転がる雨合羽の妖怪と。


「終夜、大丈夫!?」


プロレスの技、ラリアットをぶちかました少女がいた。


凪がいた。


ソウジンからプロレスのビデオを借りていた凪が。


「あ、待て! 逃げるな!!」

「ストップ」


雨合羽はで踵を返した。

いや、返さなかった。


僕らの横の電柱に飛びつき、後ろに回った。


そのまま、大通りの方に走り出した。

あわてて大通りに飛び出したけど、そのまま人混みに紛れて見えなくなった。


普通、人混みなんて妖怪は避けるはずなのに。


ん、ちょっと待て。


「なんだ、この人の多さ」

「え、知らないの?」


いくら、大通りと言っても前が見えないくらいの人は集まらない。


せいぜい、すれ違う人の数が数えられないくらいの人が通るくらい。

しかも、今は七時。


人通りは少ないはず。


それなのに。

大通りが人で渋滞していた。


それも、局地的に。


さらに、その場所に僕は覚えがあった。

人と人の隙間から見える、ズタボロに切り裂かれた看板には。


『波佐見散髪店』と。















「で、一体全体どういう理由であんな所にいたの!」

「えっと、だから用事があって」

「夜ご飯よりも大事なのかな?」

「あたりまえ、ではありません!!」


結局、あのあと鋏妖怪は見つからなかった。


鋏の妖怪。


そして、僕に今命の危機が迫ってきている。


恐ろしい顔で僕を睨みつける凪。

いや、そんな睨まなくても。


「分かった、今日は飛びっきり美味しいの作るから!」

「そうじゃない」

「へ?」

「心配したんだから……フンだ! 精々おいしい料理作ってよ!」


プンスカしたままテレビの前へ座り込んだ。


面白くも無い、ニュース番組が流れている。

時刻は八時。


さすがに、遅すぎる。

急ぎで作らないと。


「終夜おにいちゃん」

「……」


返事はできない。


「ケータイにお手紙です」


ケータイを開けばお手紙、メールが届いていた。


「ッツ!!」


中身を見た瞬間、もう電話をかけていた。


「ソウジン!!」

「悪い、シュウ、ヘマこいた」

「何処だ!」

「いや、それよりもお前は無事か?」

「何処だ!!」

「公園、あの公園だ」


すぐ行く、返事を聞かずにケータイを閉じた。


そのまま、玄関に向かう。

靴を履いて、飛び出した。


日は沈んでいた。

あの生き物の活動時間が迫っていた。


この時の僕の頭に凪のことなんかこれぽっちも残っていなかった。

そう、凪のこと『なんか』。
















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