第五話
初めて小説を書かせていただきます。
それ故、右も左も分かりません。
迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。
それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください
第五話
「さて、二人とも、此処から出て行ってくれ」
「え、でも」
「いくぜい、凪」
部屋に入った瞬間、終夜が私たち、ソウジンと私をマンションから追い出した。
ドアの前で、待っているようにと言われた。
「ねえ、ソウジン」
「なんだい? 終夜のことかい?」
心の中読まれてるし。
まあ、話が早くていいや。
「うん、終夜って何者なの?」
「うーん」
「だって、幽霊を人間に成り上げるなんて、『普通』できないよ」
私でも、分かる。
それがどれだけ、おかしいか。
幽霊を人間に『帰』すことができる。
これの、特異性くらい。
「まあ、終夜から聞いてるだろ? 『普通じゃない』って」
「あ!」
そう言えば、そんな事を言っていた。
かなり、怒りながら。
「まあ、僕は帰るよ」
「え? もう?」
「もうって、もう十時回ってるだろう?」
ソウジンは腕時計のついた腕を振りながら私から離れていく。
「まあ、今から『俺』の活動時間なんだけど」
「ん? バイバイ」
「ばいびー」
ソウジンとさよならした。
そう、分かってる。
全部。
だって、私は終夜と契約したんだから。
彼の考えてる事なんてお見通し。
今からは、私と終夜が話す。
説教の時間。
「ふう、」
「お疲れ様」
ドアが開いたのはソウジンと分かれてから、十分ぐらい経ってから。
ドアから出てきた終夜は、頭を下げた。
もちろん、私に対して。
「ごめん、凪。失敗したんだ」
「……失敗?」
「ほんとうに、ごめん。全部、僕のせいだ」
……失敗。
つまり、氷香は人間に成り上がれなかった。
たぶん、それどころか。
「氷香は、その、」
「成仏しちゃった」
「……ごめん」
終夜が言い終わる前に私が口を挟む。
演技が、ヘタクソ。
ううん、演技ができすぎてる。
だから、不自然に感じる。
頭を下げたままの終夜に、怒りがこみ上げてくる。
私は、その怒りをぶつける事にしていた。
そう、『していた』。
ソウジンと別れる前から。
終夜が『そうくるって思った』時から。
「ふざけないでよ、」
「ごめん、」
「何で、そんな安っぽい嘘をつくの!!」
「なっ!?」
終夜が頭を上げようとした。
私は押さえつける。
「まだ、許しないんだから」
「……ごめん」
「どうして、どうして、」
どうして。
「私にそんな嘘をつくの? 私、そんなに信用されてない?」
「……」
「分かってたよ、幽霊を人間に『帰』すことなんてできないって」
それぐらいは知ってる。
というか、常識。
そんな事ができるなら、この世界はおしまいだと思う。
数え切れないほどに意味で。
「終夜、わたしにこう言ったよね?」
終夜の頭を押さえつけたまま、あの言葉を思い出す。
口に出す。
もう、怖くない。
私を必要とする人に嫌われるとしても。
その人のために、言いたいことを言う。
私の思いを。
「『変に気を使う必要はないし、僕も凪に対して変に気を使わないよ?』だっけ? 今の終夜はどう?」
「……何も言い返せないよ」
私だってそれくらいは分かる。
終夜が一人で氷香を成仏させようとした理由。
私が、怒ると思ったから。
そんなこと、認めないと言うと思ったから。
だから、その怒りを一人で全部受け止める為に終夜は。
「私たちを部屋に入れなかったんだよね? 自分ひとりで、氷香を成仏させたんだよね?」
「……うん」
誰だって、したくない。
人間と同じように笑い、怒り、喜び、悲しむものを。
妖怪と同じように笑い、怒り、喜び、悲しむものを。
いわば、殺すなんて。
望みをかなえて、殺すことなんて。
自殺を手伝うみたいに。
したくない。
終夜もしたくないに決まってる。
だからあの夜、私を助けてくれた。
今回も、私にそんな思いをさせないために。
一人で、全部背負ったんだ。
今まで、きっとそうしていたんだと思う。
でも、これからは。
「私のこと、信頼して。困った事があったら相談してよ。それとも、私が人間じゃな」
「それは違う」
私の最後の言葉を遮り、そう言った。
有無を言わせない迫力があった。
「じゃあ、約束。私を頼って」
「分かった」
終夜は力強く言った。
「本当にごめ」
「もう、謝らないで。頭、あげていいよ」
「……分かったよ」
終夜はゆっくり頭を上げた。
「すー、すー」
ベットの上から規則正しい寝息が聞こえてくる。
「むにゃ、こんなにいっぱい食べれないよ……」
「幸せそうな夢だね」
「ゲロー」
「吐いた!?」
部屋の床に布団を敷いて寝ながら、ベットの上の少女にツッコミを入れる中学生がいた。
僕だけど。
「くす、あははは、お腹が痛い」
声が聞こえた。
ベットの上からじゃなくて。
僕の頭の上から。
「終夜おにいちゃんのツッコミ、本当におもしろいね」
「いや、僕のツッコミは普通で、氷香が笑い上戸なだけだよ」
僕にしか認識できない少女がそこには居た。
僕の枕の横にちょこんと座っている。
腰ぐらいまでの黒い髪に黒い眼。透き通るような肌。
妖怪、雪女に憑いていた、幽霊。
だから、『冷気を操る力』を持っていた。
凪が成仏したと勘違いした、いや、僕がそう勘違いさせた。
氷香。
「終夜お兄ちゃん」
「何?」
「本当に、ありがとうございます」
彼女は小さい頭を下げた。
感謝の言葉と共に。
まえに、話したかもしれないけど、人間は幽霊になると生前の記憶をほとんど全てを忘れてしまう。
だけど、氷香は違った。
消去される前に、保存した。
凍結した。
二度と『解』けないように思い出を。
何故、僕との思い出を覚えていたかは分からない。
偶然ってやつかな。
凪は僕の裏を読んだ。
でも、違う。
僕が、読ませた。
表をごまかす為に。
「私の願いを聞いてくれて、本当にありがとうございます」
「大したこと無いさ、それくらい」
「む、それって私の願いが大したこと無いって言うんですか?」
表、『氷香の願い』を隠した。
ますます、頬が膨れる。
ハムスターかよ。
氷香は、結局何も思い出してない。
記憶、思い出は全部『絶対零度』で凍らされている。
彼女には、名前と、感情と、知識はある。
そこに、思い出はない。
「でも、いいんです。これから、作れますし。それに、」
氷香は、蚊の鳴くような声で言う。
「……終夜お兄ちゃんのそばに」
「いや、だって、僕のそばに居たいって、ねえ」
「違います、凪さんと終夜お兄ちゃんのそばに居たいんです」
少女の願いは、小さく、だけど、厳しいものだった。
『僕らのそばに居たい』。
裏を返せば、あの世に逝きたくない。
そんな、幽霊を無理やり成仏させるほど僕は強くない。
そんな『無茶』はしたくない。
「本当に、ありがとうございました」
だけど、僕は感謝をされるようなことはしてない。
だから、こう言っておいた。
「僕は、君を助けてない。見捨てたんだよ。感謝するのはどうかと思うよ?」
ツンデレじゃない。
本気。
心から思ってる。
僕は、君の願いを破棄した。
氷香の本当の願い。
『記憶を取り戻したい』。
僕はそれを、破棄した。
だから、こう言った。
「願わくば、僕のことを恨んでくれ」
あの女の子のように……。
第二章完結です。
毎日、こんな小説に眼を通していただき、感激です。
これからも、頑張っていきます。
感想、お待ちしています。
何か気になることがあったら気兼ねせず、言ってください。
ありがとうございました。