第一話
初めて小説を書かせていただきます。
それ故、右も左も分かりません。
迷惑をかけてしまうこともあるかもしれませんが、よろしくお願いします。
注意 この小説には『妖怪』、『陰陽師』に対する自己解釈が多く含まれています。
それでも気にしない方はどうぞ、お楽しみください。
第一話
「はあ……面倒くさいです」
「そんな事言わずに行って来てくれよ」
僕は携帯電話の向こう側にいる女性にため息を吐く。
電話しながら歩いていると危険かもしれないけど、ここなら問題は無い。
それに今は深夜だしね。電話しながら歩いていても問題ないよ。
何? 深夜に人気の無い所を子供が歩いている方が問題だって?
失敬な。これでも中学三年生に先月なったんだから、これぐらいどうってこと無い。
「終夜、着いたか?」
「はい。着きました」
「『幸運』を祈る」
姉さんが意地悪そうに言った。
「祈られても困ります」
ため息と文句は彼女に届かなかった。
一方的に切られた携帯電話をワイシャツのポケットにしまう。
全く、『仕事』だからって僕に行かせる必要は無いと思うんだけど。
「ここだね」
目の前には……真っ暗で何も見えてこない。街灯なんて無いからさ。
あたり前だけどこんな場所に来る物好きはいない。僕みたいな『陰陽師』以外。
『陰陽師』、簡単に言えば『妖怪』を不思議な力を使って退治する人たちの事だよ。
だけど、僕は妖怪退治なんてごめんだ。面倒くさい。
でも、姉さんがそれを許すわけも無く、無理やり働かされる。
嫌になるね。いや、本当。
話を戻すけど、ここは二年ぐらい前に壊される筈だった大きな工場だ。
確か女性ものの服を作っていたと思うけど。
問題なのは『壊される筈だった』。
「風、か」
そう、風。工場を壊そうと敷地に入ったトラックやショベルカーが突風に吹き飛ばされたのだ。
突然吹きだした正体不明の風に。
それから二度ほど敷地に侵入しようとしたが、失敗している。
そして、この事件がうちの近所の姉さんの耳に飛び込んだ訳だ。
だから、僕はこんな所に来させられた訳なんだけど。
どうやら、妖怪の仕業らしい。つまり、陰陽師の出番。
今僕が立っている場所は敷地ギリギリのラインの手前……だといいな。
「さて、行こうかな」
懐中電灯が光を発生させる。LEDの眩しすぎる光が辺りを照らす。
……怖いね。帰りたいね。
見えてきた景色は、電柱が吹き飛ばされて僕の五十メートル先ぐらいに突き刺さっていた。
まるで、いや、絶対、警告されている。
入ってきたら串刺しにしてやると。
「はあ、お邪魔しますね」
僕は馬鹿かもしれない。
あたり前だけど、僕が敷地に踏み入った瞬間、
「……あれ?」
何も起きない。
聞いた話では敷地に足を踏み入れた瞬間に風が強く吹き始めたそうなんだけど。
恐る恐るもう一歩進むが何も起きない。
「ま、いいか」
そのまま歩みを進めた。
やっぱり何も起きない。
「……騙されたのかな?」
あまりの静けさにちょっと心配になる。
あの姉さんのことだから大丈夫だと思うけど。
遂に工場の入り口に辿り着いた。
明かりは点いていた。今にも消えそうだけど。
ここまでは何も起きなかった。
「……よし」
さっきから一人で喋っていると悲しくなってくる。
懐中電灯をしまい勇気を出して工場の中に入って行く。
そこには、
「え?」
少女が座っていた。僕と同い年ぐらいの少女が。
「え?」
声が聞こえた。
ビックリして顔を上げたら、そこには真っ黒い学生ズボンに白いワイシャツを着た少年が居た。
「はあ、また来ちゃったんだ」
ため息を吐く。ここ最近は静かだったから気を抜いていた。
どうしようかと思っていると少年と眼が合った。
「こ、こんにちは」
と言った。しっかりと私を見て。
怖がってるかもしれないけど、逃げ出すことも無く、罵倒することも無く。
だから思わず、切りかえしちゃった。
「こんばんわじゃないの?」
「え? ああ、そうだね。こんばんわ」
おもしろい。指摘された事に驚きつつも恥ずかしそうに訂正した。
このときの私は変だったと思う。
なぜなら、久しぶりに誰かと話せたから。
「やったー!!」
「へ? うわー!!」
思わず、抱きついちゃったの。
めのまえの、少年に。
「はあ、つまり君は半分妖怪なんだね?」
「そう、『烏天狗』の血が流れているの」
まさか、ドンピシャで妖怪出現。……いきなり抱きついてくるしね。
だけど、僕は退治をしようとは思わない。危害を加えられない限り。
いや、抱きついてきた事は危害と受け取るべきかな?
っていうか、僕に退治されるような妖怪はいてくれるのだろうか?
「何でこんな所に?」
「まあ、いろいろあって」
歯切れの悪い言いかただけど、まあいいや。
再確認すると目の前には、首もとまでの黒髪に黒い眼をした少女。
服装はボタンと黒のリボンつきの白いブラウスにやや短めの灰色のスカートを履いた少女。
って、待って。
「名前、聞いてなかったよね? 僕の名前は、雑賀 終夜」
少女の方も慌てて、言葉をつむぐ。
「凪だよ」
「凪、君はどうしてこんな所に一人で……」
言い終わる前に腹の虫が鳴いた。
もちろん、僕じゃないよ?
顔を真っ赤にして、俯く凪が面白くてふきだしてしまった。
「な!? しょうがないでしょ!! ここ最近何にも食べていないんだから!!」
「あはははは、ごめん。妖怪も人間みたいなんだね」
妖怪、と言っても人間と全く変わらない。
見た目も……まあ、可愛い女の子だしね。
おんなじようにお腹が空くみたいだしさ。
「……同じじゃないよ。だって、私は」
「同じだよ。少なくとも僕には関係ない」
凪が暗い顔をした。何故だか胸が痛んだ。
何となく続きが分かったので遮った。
自分でもビックリするぐらいに饒舌だった。
「お腹が空いているんだよね? 着いて来てよ」
「……私は、人間を食べるよ」
「だから? 僕なんて食ってもおいしくないよ」
凪は暗い顔のままだった。
やっぱり胸が痛んだ。だから、
「行くよ」
「え、あ、うん」
手を引っ張ってある場所に向かった。
凪の手は柔らかかった。温もりが感じられた。
誤字修正しました。