表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

アエーシュモー・ダエーワについての考察 まとめ

 ーーーーー柘榴石の月・13日  お局様の日記ーーーーー


 妾を、あの時のエリカほど強い気持ちで呼んだ者はおらぬ。

 幼く力の足りぬ妾は、魔王とはいえ何の役にも立たない厄介者に過ぎぬ。


 それゆえ、求められ、嬉しくてついこちらに呼んでしまったのじゃが、あのように怒るとは思わなんだ。


 正直、アエーシュモー・ダエーワを殴り飛ばした際には妾も肝が冷えた。

 妾は魔王とはいえ未だ幼体。あやつは立派な成体。しかも、残虐で冷酷な吸血鬼族の長じゃ。

 あやつに血を流させて、さすがにただではすまぬかと思うたのじゃが、あやつは意外にも反撃をせなんだ。

 陰湿な一族ゆえ、何か企みでもあるのじゃろうか・・・?


 それにしても、普段薄ら笑いで妾にも心を見せぬ男が、鼻から血を流す様はなんとも愉快であった。エリカあっぱれじゃ。


 エリカに呼ばれたからとはいえ、魔界に連れてきたのは間違いだったのじゃろうか。

 エリカの怒る様を見て申し訳なくおもった。

 ならば、と帰そうとすれば「そんなことをすれば死んでやる」などと命がけで拒む。呼んだ時刻、同じ場所に帰す、と異界渡りをしたものが必ず望む条件を提示したというのに、なぜじゃ?若輩ゆえに妾にはわからぬ。


 それにしてもエリカは不思議な娘じゃ。

 まだ28歳だと言うのに、自分のことを年寄りのように思っている。人生一千年のうちのほんの入り口ではないか・・・わからぬ。

 じゃが、はじめは嫌がった幼体の姿が思いのほか気に入ったようでもある。


 鏡を見て

「ピチピチ」とか

「スベスベ」とか

「プリプリ」とか

 申して、にやけておったからの。


 妾は魔王じゃ。

 100年も続いている繁殖停止状態を、性交不可能な幼体である自身ではどうすることもできず、悩んでいた。いつまでも幼体でおるのは心苦しく思っておったのじゃが、エリカの様子を見ると心が癒される。この12歳の身体を喜んでくれるものがいる。嬉しいことじゃ。


 じゃが、ひとつエリカが残念そうに言った言葉が気になる。


「ぺちゃぱい」とはなんじゃ?


 わからぬ。まだまだ勉強不足のようじゃ。


 わかったこともある。「お局様」は魔界では女王のことを意味する言葉だが、人間界では娘時代の終わった女のことを指すようで、エリカはそう呼ばれると不快な気持ちになるようだ。

 それゆえ、エリカを「お局様」と呼ぶのはみなに禁じさせたのじゃが・・・。


 わざとそれを呼ぶ男がおる。


 アエーシュモー・ダエーワじゃ。

 あの男も何を考えておるのか・・・。何かを企んでおるに違いない。

 そう言えば、エリカが来てからというものあやつの様子は尋常ではない。

 今までの無表情と死んだような目は何だったのじゃ?あの赤い目が輝き、時折何かを言いたげな視線を感じる。

 そして優しげな笑みを浮かべ、下にも置かぬ扱いで妾に・・・エリカに接してくる。今までとは大違いじゃ。あまりの違いに寒気すら覚えるゆえ、あやつと接する際には積極的に眠り、エリカに身体をゆだねることにしている。


 じゃが、とうとう今日あやつとエリカとの間に何か事件が起こったようじゃ。本性を現しおったのか。

 エリカが「変態」だとか「ドM」だとか言って騒いでおった。

 ドMとはどういった意味なのか、わからぬが、ともかくエリカはおびえていた。可哀想に。もう会いたくない、と言っておったから、よほど気に障ることをされたに違いない。


 エリカが眠った後、妾は抗議のためにあやつを尋ねてみた。


 あやつは・・・より、おかしくなっていた。


 妾を見るなり顔を赤くし、詰め寄ってきたので慌てて距離を置いたのじゃが、あろうことかあやつは突然膝を折ると妾の足にしがみついてきたのじゃ。あのプライドの高い男が膝を折るなど・・・なんの企みかわからず、たまらなく不愉快であったが、まさか、側近で7公爵のあやつを殴るわけにもゆくまい。妾は耐えた。

  当初の目的を忘れたわけではなかったが、このとき妾はあやつの行動に驚きすぎて抗議する余裕がなかった。ふがいないことじゃ。

 じゃが、もう一つの目的もあって。妾は抵抗せずにおった。このままにしておけば、あやつの企みがなんなのかわかるやも知れぬと思ったのじゃ。


 そうこうするうちにも、あやつはどんどんおかしくなっていった。異常なほどであった。

 あやつは鼻息を荒くし、妾の名を呼びながら赤い頬を妾の膝にすり寄せた。涙目になり、身体も熱くなっているようであった。

 戦いのさなかでも決して熱くならず、常に冷静さを失わない氷のような男であると聞いておったのじゃが・・・?



 その時、妾は確信したのじゃ。

 これは病気じゃ!何か悪い病に冒されたに違いない!




 すぐさま妾はあやつをひきはがし・・・たのは正確にはあやつの配下であったが、ともかくその場を去った。


 無情と思われようが妾は魔王。誰にも代えられぬ存在ゆえ、病気を移されるわけにはゆかぬのだ。

 決して足に頬ずりされるのが気持ち悪かっただとか、見上げる眼力のただならぬ様子に恐れを感じただとか、ではない。




 妾は魔王。


「お局様」なのじゃ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ