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シャイターン・ルキフェール兄弟についての考察 6

 今日の夕飯は何かなぁ。

 そういえば最近ロールキャベツ、食べてないな。ロールキャベツ大好物なんだよねぇ。そうだ、つくろうか。

 

「おい・・・チビ、聞いているのか?」

 

 あ、お母さんの作ったカニ玉でもいいな。久しぶりに実家に帰ろうかな。

 

「返事をしろ。・・・お前、私を無視するとは良い度胸だな。」

 

 アビシニアンのマロンとラスクとグラッセとカヌレとジャム、元気にしてるかなぁ。帰ったらノミ取りしてあげよう。

 

「おい!現実逃避するな!目を覚ませ。」

 

 ガクガクと肩を揺さぶられ、私はハッとルキフェールに向き直った。

 あまりのショックに別世界に意識を飛ばしていたらしい。

 

「仕方のない・・・よいか、チビ。これはお前個人の問題ではないのだ。魔界の存亡がかかっているのだぞ。もう一度言おう。お前はより多くの夫と可能な限り多くの子供を作って、」

「わーっ!ストップストップ!!あ、相手を見てから言いましょうよ!そういう事はっ!!」

 

 あんまり無茶苦茶な要求に、私は肩に置かれた彼の手を振り払った。

 彼は眉を跳ね上げて不快げに潜めたが、こちらはそれどころではなかった。

 

(よくも・・・よくも慎み深い処女に向かってそんな事を言ったな!)

 

 大変に屈辱的だが、どれだけ無理難題を押しつけているのかわかってもらうためには・・・言うしかない。

 くそーーー、このメガネ!鬼!悪魔!!

 

 真っ赤になった私は、配下の2人を気にしつつ覚悟を決めて口を開いた。男性3人の前で言うには、恥ずかしすぎるその事実を。

 

「あのですね、よーーーく聞いてくださいよ。私は自慢じゃないけど男性経験が無いんです!・・・意味、わかりますよね。」

 

 まったく自慢にはならない。・・・うぐぐ。

 しかし、彼は私が勇気を振り絞って言った言葉をあっさり流した。

 

「・・・それがなんだ。」

「いやいや、それがなんだーじゃないですよ。ホントにわかってます?」

「男性経験がない、とは、つまりお前が処、んぐ・・・」

「ぎゃーーーっ!!」

「・・・・・・。」

 

 あんまりストレートに口に出そうとした彼の口を、立ち上がって塞いだ。

 私の運動神経から考えたら、奇跡的な素早さだった。はぁはぁ。

 

 しばらくそのままにらみ合っていたのだけれど、やがて彼は諦めたように瞳を和らげた。口を覆う私の手を摑み、それを外して私を抱き上げる。

 一瞬の浮遊感の後、私はベッドに座った彼の膝に座る格好になっていた。

 

「落ち着け。お前は興奮しすぎだ。」

 

 これが興奮しなくて、どうするってんだ!!

 この横暴メガネめ!!

 

「ふん。まるで脱皮後のトラケトビア兎のようだな。・・・そう、毛を逆立てるものではない。」

 

 逆立つ毛なんてないし!・・・って言うか、魔界の兎って脱皮するものなのっ!?

 

 黙りこくって頬をふくらませた私を自身の胸に押しつけ、彼は配下の2人に部屋を出て行くように指示した。

 どうやら私が恥ずかしがっていたことに気付いて、気を遣ってくれたようだ。

 

 ルキフェールは何も言わずに、優しいと思わせるほどの手つきで私の頭を撫でている。まるで聞き分けのない子供を慰めるような仕草・・・腹立たしいことにそれはあながち外れてもいない。身体は子供でも私の脳味噌はれっきとした大人で、自分が大人げなく冷静さを欠いていることは自覚していた。だから、宥めようと触れてくる手を邪険に払いのけることができない。

 深呼吸をひとつ、して。頭を撫でられ、彼の心音を聞いているうちにだんだんと落ち着いてくる。

 気付けば私は両手を痛いほどに握りしめていたらしい。ゆっくりとそれを開き、何度か指を曲げ伸ばししてみる。

 

(小さな手・・・。)

 

 お局様は、まだ12歳。

 こんなに小さな手で、身体で、いったいどれだけの事ができるだろう?

 

 お局様は命の恩人で、私だってできることなら助けたいと思っている。

 でも、私は魔界人の常識なんて知らないし、そもそも付き合った男性がいたのにも関わらず出産どころかキスすら未経験の超!がつく程の奥手なのだ。耳年増というか、人から聞いたり本で読んだりした知識ならあっても、実経験がまるでない。つまりそんな私が同居していたところで、身体だけ成体になったとしてその方面で役に立てることはない。情けないことに。

 

 ふと顔を上げて彼を見てみる。

 さらりと艶やかな金髪で、アクアマリンのようにきらめく瞳。鋭角な顎のラインとメガネは理知的で、冷たそうな表情さえ魅力的に見せてしまう絶妙な配置のパーツ。

 地位も資産もある7公爵の一人で、これだけの美形なら(多少・・・いや、多々性格に難があっても!)女性に不自由したことはないのだろう。

 

 この男には私の気持ちはわからない、そう思った。

 ましてや恋も知らないお局様の気持ちなんて・・・。

 

「魔界にとって深刻な問題だ、っていうのはわかりました。でも、お局様ひとりに生むことを強要するのは可哀想です。しかも、何人もの夫の、だなんて。お局様はまだ12歳なんですよ?恋だって、これからじゃないですか。」

 

 そうだ。

 私だって男性経験がないだけで、片思いくらいはしたことがある。

 魔界にはこの100年子供が生まれていないから、お局様には同年代の相手がいない。恋をするにも、どうしたって相手は遙か年上になってしまう。

 だから、もう少し余裕を持ってお局様の成長を見守って欲しいと思うのだ。

 せめて、初恋を経験するくらいまでは。

 

「わかっている。我々とてお局様の気持ちをないがしろにしようと思っているわけではない。今はまだ幼体であることだし・・・せめて成体になるまでの間はそういったことにわずらわされぬようにと、城ではお局様のまわりに男の使用人はいないはずだ。」

 

 言われてみれば、使用人は女性ばかりだった。実際には男性もいるのだろうけれど、少なくとも目に入る範囲には女性しかいない。

 幼いお局様が男性を見て必要以上のプレッシャーを感じないように、もしくは男性からなんらかのアプローチをかけられて惑わされないように。そういう配慮がされていたのだろう。

 

「だが、お前は『まだ』と言ったが、お局様は『もう』12歳なのだ。いつ成体になってもおかしくない年だ。100年子供が生まれていないということは、つまり夫となる相手の男は最年少でも100歳だということ。それに平均寿命が500年あるとはいえ、生殖期間は限られているのだぞ?仮にお前の協力でお局様が妊娠できたとしよう。たとえば、お局様が20歳で子を産み、女児を産む確率が半分だったとする。さらに運良く子供が女児でお局様と同じく子供を産める身体だったとして、その女児が成体になり次の子を20歳で産む。これだけで40年かかった。この間に、もとからいた魔界人達は40歳年を取ったということだ。」

 

「つまり、とりあえずはお局様ひとりで何人も産んでおかないと、周りもどんどん年を取っちゃうから子供が増えづらくなる、って事ですか?」

 

「よくわかったな、チビ。そういうことだ。」

 

 偉いな、と頭を撫でられたのは馬鹿にされたようで腑に落ちないけれど、彼がお局様に理由もなく難題を押しつける血も涙もない男じゃないことはわかった。

 けれど、だからといってお局様への負担が多いことに変わりはない。お局様がそんなに都合良く妊娠できるかもわからないのに多人数との性行為を強要するだなんて。運だより過ぎるし、数打てば当たる?そんなのお局様の人権を無視しているとしか思えない。いや、お局様本人が望むのならそれも良いのかもしれないけれど・・・うーん。少なくとも私が同居している間は嫌だ。

 なんにせよ、お局様への期待があまりにも大きすぎるのだ。

 

 それに・・・気になることもある。

 

「聞きたいんですけど、そもそもなんで子供が生まれないんですか?魔界人のことはよくわからないので、説明してくれませんか?」

 

 人間の場合だったら、どちらかの身体に何か問題があるとか、単純に運の問題だろう。まぁ、もし運なら完全な不妊とは呼ばないのだろうけど。

 

「それは・・・あの山羊男のせいだな。」

 

「それ、さっきも言ってましたね。誰のことです?」

 

「誰も何も、お前の教育係だったであろう?もちろんサタンではないぞ。」

 

「・・・アーシュのことですか?」

 

「ふん、アーシュ・・・と、そう呼んでいるのか。」

 

なぜか、気に入らない、とでもいうような視線で見られた。


「はい。あ、勝手に、ですけどね。名前がややこしくて覚えられなくて陰で呼んでるだけで、本人に向かって呼んだことはありません。」

 

ついつい言い訳めいたことを言ってしまう小心者な私。

いや、内心では

(陰でなんと呼ぼうがルキフェール様に関係ないよね?)

とか、思ってますけどね。責められると反射的に謝らなくちゃいけない気にさせるルキフェール様怖い、ガクブル!


「あやつの名前も覚えられぬのか。お前の頭には何が詰まっているのだ?脳は入っているのか?・・・よし、開けて調べてやろう。」

 

「え、遠慮します!大丈夫です、ちゃんと入ってますから!!」

 

「そうか?だが、見たこともないのにわかるものか?入っていないかも知れぬぞ?やはり開けて、」

 

「だーっ!もう、からかわないで下さい!」

 

「いや、私は本気だ。」

 

目が本気だと言っているところが怖すぎる!


(この藪医者め!!)

 

 心で毒づきながらも、相変わらず口には出せない。

 この男は危険だ、と本能が告げているからだ。

 実験室のように奇しげな機器だらけの部屋といい、酷薄そうな表情といい、彼がただの善良な医者とは思えなかった。

 

「まぁ、良い。お前の脳については、また後日だ。それより、こうなった理由だったな。」

 

「いえ、脳については忘れてください。」

 

 私だってせっかく助かった命を無駄にしたくはない。彼だって本当に脳味噌が入っていないなどとは思っていないはず。頭を開けるのは、確認行為じゃなくて彼の単なる好奇心だろう。実際のところは、人間(私)の魂がはいった魔界人(お局様)の頭を開いて調べたいだけなのだ。

 

(ああぁ恐ろしいーーーーっ。)

 

「そうか?親切で調べてやろうというのに・・・まあ良い。どうせ入っていてもたいした量ではないだろう・・・開けるまでもないか。くくくっ。」

 

(殴らせてくれないかな・・・この人。)

 

 心が広い私だから、心を入れ直すなら一発殴るくらいで許してあげてもいいけどねっ!もちろんグーで。

 これ以上脳味噌の話をしていても不愉快な上に身の危険を感じるので、話を切り替えることにする。

 

「それで、アーシュが何をしたんですか?」

 

「した、わけではない。むしろ、しなくなったのだ。」

 

「・・・はい?」

 

「子供のお前に話すのは気がとがめるが・・・そうも言ってられまい。良いか?落ち着いて聞くのだぞ?」

 

 彼の真剣な表情に、ゴクリと緊張にツバを飲み込む。

 

「ことの発端は、あの山羊男が性欲を失ったことから始まったのだ。」

 

「へ?」

 

「へ、ではない。真剣に聞かぬか。」

 

「は、はい。」

 

 なんだか話が思わぬ方向へ向かっているようだ。

 

 性欲、と言った?そんなものなくなることって、あるの?

 だって、性欲・食欲・睡眠欲って生理的三大欲求なわけだから、生物としてどれかが欠けたら命に関わるわけで。それが性欲だったら、子孫を残せないから絶滅してしまうわけで・・・。

 もし、魔界人全体にそんなことが起こったのなら・・・?

 

(つまり冗談でも大げさでもなく、本当に『魔界存亡の危機』なんだ。)

 

 ルキフェールは膝に座った私の髪を指先でもてあそびながら、話を続ける。

 

「あの男がどうしてそうなったのかは、未だにわからぬ。当初はあの男もそのような不名誉は隠していたからな。そもそもこれが個人の問題だったのなら、放っておかれたであろう。だが、出生率が下がり続ける理由を先代魔王に問われ、臣下であるあの男もそれ以上隠してはおけなかったのだ。」

 

 人の秘密を上司命令で無理矢理暴いたってこと?先代魔王って・・・ちょっとひどくない?

 かばう訳じゃないけど、アーシュが可哀想になってくる。だって、性欲がなくなった、なんてわざわざ上司に言うようなことじゃないと思う。きっと本人にしてみればプライドとか男としての沽券?に関わる繊細な問題だろうし。

 本人が隠したがってるんだから、放っておいてあげればよかったのに。

 

「うーん、アーシュがそうなったことが個人的な問題じゃない、ってどういう意味なんですか?すごく個人的な問題な気がしますけど。」

 

「いや、それが全く個人的な問題ではないのだ。あの男は『性欲』を司る魔なのだからな。」

 

「は?司る??」

 

 目を白黒させる私を愉快そうに見やり、ルキフェールは頷いた。

 

「力のある魔界人はそれぞれ『役』を担っておる。7公爵ともなれば当然のこと。あの男が担っていた役は『性欲』。それを失ったことが魔界全土に影響を及ぼし、100年かけてやがてはすべての魔界人が性欲を失った。」

 

「んー、でも性欲が無くても子供は作れるんじゃないですか?体外受精とかすれば。」

 

 人間界においては道徳的にどうかという問題があったかもしれないけれど・・・さておき、魔界存亡の危機という非常事態なのだからそのくらいは考えたのでは?と思い聞いてみる。

 

「人間はそうかも知れぬな。だが、欲こそが魔界人の行動原理であり、存在意義でもある。よって、身体も欲に忠実。それなくしては子供はできぬのだ。人間とは違うのであろうな。男も女も性欲がなければ繁殖の機能が役に立たぬ。つまり双方卵を作れないのだ。あの山羊男が性欲を失ったことが、魔界人全体の性欲に影響し、最終的に出生率ゼロという今の状況を招いたということだ。」

 


魔界人の生態として、「性欲がある」という前提があってはじめて卵子または精子が作られると言うことらしい。


「うわー・・・そんなに影響があったら、確かに個人的な問題じゃすまされないですよね。」

 

「そういうことだ。」

 

「あれ?でもお局様には影響って出ないんですか?」

 

「良く気がついたな。当然お局様も魔界人であるからには影響が出る。そこで、お前の出番だったわけだ。まぁお前でなくとも人間の女の魂であったなら誰でも良かったのだが・・・。つまり、人間の精神はおそらく魔界の条件やあの男の影響を受けないのではないか。お前を取り込んだお局様であれば、身体が成体になれば妊娠できるのではないか・・・というわけだ。まぁ、お局様が幼体では卵子を作ることができるかという検証はできないから現時点では賭けのようなものだ。しかし、我々も少しでも可能性があるなら、とお前を召喚した。お前が人間であることが重要なのだ。つまりお前に男性経験があるかないかは、問題にはならないというわけだ。わかったか?」

 

 素直に頷くと、誉めるようにグリグリと頭をなで回された。

 ・・・完全に子供扱いだ。

 

「ちなみに、ルキフェール、様、はどんな『役』なんですか?」

 

「私は『傲慢』だ。」

 

 

 

 

 傲慢   [名・形動]おごりたかぶって人を見くだすこと。他人をあなどり横柄なこと。

 

 

 

 

「うん、わかります。」

 

「・・・ずいぶんとあっさり納得したな。ふっ・・・阿呆のお前にもわかるほど、私が完璧に『役』を担っている、ということだな。くくく。」

 

(満足そうに笑ってるけど、全然、まったく、これっぽっちも誉めてませんからね!!)

 

 上機嫌なルキフェールに、心の中でつっこみを入れる。

 見上げれば、満面の笑み、とはいかないまでも綺麗に口角をあげた微笑みがあった。それが彼の持つ冷ややかな雰囲気を瞬時に和らげ、見るものの心を強く惹きつける。それまでの彼の態度が不遜であればあるほど、冷たくあればあるほど、そこにおとずれた笑みひとつが絶大な効果をもたらすのだ。

 

 くうぅーーーこれがギャップ萌えってやつかあああああぁ!

 

 

(役、だから偉そうなのも仕方ないのかも?)

 

 あぁ・・・なんだかんだ言って、どうやら私はこのメガネに気を許しそうになっているらしい。

 気にくわない部分は多々あるけれど、お腹がすけばサンドイッチを作ってくれたり、気を遣って人払いをしてくれたり、優しく頭を撫でてくれたり。口が悪いだけで意外と面倒見はいいのだ。

 

(そんなに悪い人じゃないのかも・・・?)

 

 そんなことを考えていると、彼は「良いことを思いついた」と、とんでもない提案を持ちかけてきた。

 

 

 

「お前、そう言えばさきほど処女だということを気にしていたな。今私はとても気分が良い。そんなに嫌なら、私が穴を開けてやろうか?」

 

「・・・・・・はいぃいいい!?」

 

 ちょっと見直したかと思えば、なんてことを言い出すんだ!この鬼畜メガネ!!

 しかも、言うに事欠いて「穴」だと!?「穴を開ける」だとおおおおぉ???乙女(と言いきるのにはちょっとずうずうしい年だけど)の純血をなんだと思っているんだーー!

 デリカシーがなさ過ぎる!それってつまりアレでしょ?俺が処女卒業させてやるぜーとかそういうコトでしょ?・・・って言うか、それがさんざんチビとかなんとか子供呼ばわりした相手に言う台詞?

 お局様が成体になるまで、見守るんじゃなかったのっ!?

 わわわ、いきなり貞操の危機ってわけーーー???

 

 

 私は思わずのけぞり、慌てて膝からおりようとした。

 だが、ルキフェールの腕がそれを阻んだ。

 

「おい、誤解だ。暴れるな。危ないであろう。」

 

(危ないのはお前だーーーっ!!)

 

 必死で藻掻くのだけれど、歴然たる体格差の前には無力だった、

 

「落ち着け!私は医者だ。穴を開けるのは手術によって、だ。私自身が抱く気は微塵もない!私は幼児趣味ではない!お前のように未発達で寸胴体型の子供には欲情したりしない!安心しろ!」

 

 なんだか大変失礼な説得を受けている気がする・・・。むむむ!

 

 暴れるのをやめ、不信感たっぷりの視線で睨め付けると、彼は心外だというように眉を上げて見せた。

 

「ずうずうしいチビだな、お前は。私がお前のような色気の欠片もない子供を相手にすると思ったのか?いいか、私に相手をして欲しければ、最低でも人並みの凹凸がある身体になってから来い。幼体のまな板に欲情するのは山羊男か、さもなくばサ・・・ゴホン。まぁ、良い。まったく・・・お前が気にしているようだから提案してやったというのに、私を発情期の雄のカガスペ馬かのように誤解するとは!ともかく、必要ないなら今の話は忘れろ。」

 

「・・・はい。」

 

 カガスペ馬って何だ?・・・という疑問は置いておいて、とーーっても不本意だけれど、彼が幼児趣味じゃないってことはよくわかった。

 親切心で「穴を開けてやる」と言ったことも。

 医者なのだから頭は良いんだろうけど、どこかズレている。親切心が相手にとっての親切にならないタイプの人なのだ、きっと。

 ・・・まったく。

 

 疲れ切った様子の私に、診察はまた今度だな、とルキフェールは言った。

 

 私の様子を見て今日の診察は無理そうだと、延期する気になってくれたようだ。なんだかんだ言ってやっぱり、優しいところはある。

 悪態さえつかなければ、もっと好きになれるのに、と残念だ。

 

 用意された夕飯を食べ、お風呂にはいるとベッドに入ったとたんに眠気に襲われた。

 眠そうに目をこする私を見て、ルキフェールはかろうじて笑みとわかる程度に、ほんのわずかに口角を引き上げる。

 

「まだ8時ではないか。子供だな・・・まったく。まぁ、寝る子は育つ、と言うしな。」

 

 そう言って私の布団をひきあげると、頭をひと撫でして彼は部屋を出て行った。

 

 だから私は大人だ、っつうの!

 

 明日はサタンに会わせてやろう、そう言ったルキフェールの言葉を思い出し、私は目を閉じた。

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