女王を狙う将軍に目をつけられた下働きメイドですが、託宣の巫女により陰謀が暴かれて将軍は追放されました
女王を狙う将軍の要求を断った日から、私の給金は半分になった。
あきらかな嫌がらせ。
「でも、私は女王様にお味方します!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今日もお疲れ様です」
私はそう言って、王宮の廊下を磨く。
ゴールド王国。
この国を治めるのは、女王ゴールデア陛下。
美しく、聡明で、そして誰よりも民を想う王。
私はその女王付き侍女様に仕える、ただのメイドにすぎない。
遠くからお姿を拝見するだけの存在。
それでも。
(あの方のために働けるなら、それでいい)
そう思えるほど、女王は眩しかった。
「また縁談ですか」
侍女様がため息をつく。
「ええ。今度は西方の王族からよ」
女王陛下は苦笑する。
その美貌と才覚、そして地位ゆえに、求婚は絶えない。
国内の有力貴族から、他国の王族まで。
だが――
「すべてお断りになっているのですよね」
「ええ。今はまだ、その時ではないわ」
静かで、迷いのない声だった。
その日、王宮は一層の熱気に包まれていた。
「また、クラレット王太子殿下がやってくれたぞ!」
「激戦地域の魔物を単独で壊滅だ!」
赤髪の王太子、クラレット。
人族最強とも名高い剣士。
その活躍は、国民の心を強く掴んでいた。
血のつながりこそないが、かつて王家に大きな混乱をもたらした一件の後、女王ゴールデアの養子として迎えられた王太子でもある。
そして。
女王陛下を支持する“女王派”は、ますます勢いを増していく。
だが、その裏で。
静かに焦りを募らせている者がいた。
ゴメス将軍。
六武威という伝説的英雄にも靡かず、貴族派をまとめる筆頭。
そして――
女王陛下の伴侶の座に、最も近い男。
(……あの人、苦手)
廊下ですれ違うたび、感じる。
ねっとりとした視線。
まるで、品定めでもするかのような。
「おい」
ある日、呼び止められた。
「お前、女王付きの侍女のところにいるメイドだな」
「は、はい……」
嫌な予感がした。
「最近の陛下の様子を教えろ」
「え……?」
「誰と会っている。何を考えている」
低い声。
逆らえば、どうなるか分からない。
「……分かりません。私は、そのような立場では」
「ちっ。使えないクズが」
顔が歪む。
「なら、分かるようになれ」
「ひっ」
背筋が凍った。
それから。
ささいなミスで叱責されるようになった。
なぜか私の給金が減らされた。
明らかな嫌がらせ。
それでも。
(言えない……)
女王陛下に迷惑をかけたくなかった。
そんなある日。
私は、聞いてしまった。
王宮の奥。
人のいない場所で。
「時間の問題だ」
ゴメス将軍の声。
「いずれあの女王は、俺のものになる」
心臓が止まりそうになる。
「伴侶の地位に俺がつけば、国は実質俺のものだ」
別の男が笑う。
「従わなければ?」
「その時は――排除するまでだ」
頭が真っ白になった。
足が動かない。
(……そんな……)
その夜。
私は震えながら、侍女様にすべてを話した。
そして――
女王陛下の前に立っていた。
「……そう」
たった一言。
だが、その瞳は静かに燃えていた。
「よく、話してくれました」
優しい声。
それなのに。
空気が張り詰める。
「明日、すべてを明らかにします」
翌日。
王宮の大広間。
大臣、貴族、将軍、そして赤髪の王太子クラレット。
すべてが集められていた。
その中央に、ゴメス将軍。
訝し気な表情だが、余裕のある笑みを浮かべている。
「これはどういうことですかな、陛下」
女王は、静かに告げた。
「託宣の巫女様をお呼びしています」
ざわめきが走る。
――託宣の巫女。
ゴールド王国建国以前から生きるという伝説の存在。
エルフ族ともいわれているがその正体は誰も知らず、このゴールド王国をずっと守ってきた。
ゆえに、その言葉は絶対。
王ですら、頭を垂れる存在。
やがて。
静寂の中、ベールをかぶり、顔が判然としない女性が現れた。
誰もが、無意識に膝をつく。
その存在感は圧倒的だった。
私も、自然と頭を下げていた。
託宣の巫女は、静かに口を開く。
「王の要請により、参りました」
その声は、思いのほか優しい。
チラリとゴメス将軍のほうに目を向け
「ほう、この者ですか」
空気が凍る。
そして。
「あなたの考えは王位の簒奪を意味しますよ」
たったの一言で、すべてが崩れた。
ざわめきが爆発する。
ゴメス将軍の顔から血の気が引く。
「女王ゴールデアをどう思っているのですか?・・・・なるほど、伴侶の座につけば従わせると、そして従わなければ排除」
ゴメス将軍は口をパクパクしている。
「う、うおおおおお。だから、どうした!!この国には、わしが必要だ。わしのこの武力がな!!」
そう言ってゴメス将軍は剣を抜いた。
ゴメス将軍は数々の武勲を上げ続けてきた歴戦の将軍だ。
この王宮内に騎士もいるがとても太刀打ちできる者はいない。
「女王、その座を俺に明け渡せ!!さもないと、」
そう言いながら、ゴメス将軍は女王に襲い掛かる
必死で止めた護衛騎士を3人斬ったところで、王太子クラレットが前に出た。
「どけえええ。このひょろひょろの若造がああああ!!!」
剣が振り下ろされるその瞬間――
次の瞬間、首が飛んだ。
王太子クラレットはすでに、剣をおさめ、ケガをした護衛騎士たちに回復魔法をかけている。
そこには、圧倒的な実力差があった。
静寂が大広間を支配する。
女王陛下は、ゆっくりと口を開いた。
「この国は、力ではなく、正しさで守られるものです」
ゴメス将軍の行為は、貴族派の威信も大きく削れたことを意味するのだ。
後日。
私は、中庭にいた。
「大丈夫?」
振り返ると、女王陛下がいた。
「は、はい……」
声が震える。
「怖かったでしょう」
その言葉に、涙が出そうになる。
「でも、あなたは逃げなかった」
優しく微笑む。
「家族へ渡す給金のほうも元通りにしておきましたよ」
「え?」
「従わない女官たちを貴族派の手を使って、給金を減らし従わせる、あの男はそうしてこの王城内で自分の手下を増やしていたのです」
「よく頑張りましたね」
その一言で、胸がいっぱいになる。
「これからは、私のそばで働きなさい」
「え……?」
「あなたのように権力に屈しない人が必要なのです」
信じられなかった。
だけど。
「……はい!」
私は、深く頭を下げた。
もう、ただ見ているだけじゃない。
私は。
この方のために、働くのだ。
この作品に登場する女王ゴールデアと王太子クラレットは、シリーズ本編第2作目「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です2」に登場します。
興味が湧いていただければ、ぜひご一読ください。




