ターゲット1、専属のシェフ
このお話もショッキングな要素詰め込みまくっております。食事中や直後に読むことは非推奨です。この「殺人鬼」のように吐いてしまうかもしれませんからね。
憧れの店で料理出来て、もう少しだけ頑張れたのなら夢も叶う筈だったのに。
「うえぇ…」
渾身の料理を苦しそうに吐いている少女を見て、なんかもう、泣いてしまった。
親父には作れなかった母さんを元気にする料理を作りたかった。料理人だった親父は病に伏せる母さんを放ったらかしにして見殺しにした。料理人なら、栄養も味も食べ易さも考えてみろよ。そう叫んだ俺を一発殴って親父はどこかへ消えてしまった。
今でも親父が憎い。けどそれ以上に、俺がしっかりしていれば母さんは死ななかったのかもしれないという後悔が嫌いな親父の背中を追う、料理人としての道を歩んでしまったのだ。
俺の料理はそこそこ褒められたし自分でも自信があった。栄養を考えその人が好むであろう味を想像して料理していた。その結果、この町で一番客の入る店での料理を任せられるようになった。店長はちょっと厳しいけど、逆らわないよう真面目に取り組んできたつもりだ。
だけど食べすぎたわけでもない。食べ始めて三口くらいでこの少女は俺の料理を吐いた。不味いのだろうか体に合わなかったのだろうか。どんな理由であれ、料理人としてプライドが粉々に破壊されてしまった。
「この料理を作ったのは誰だ!」
店長の怒りに満ちた声が響く。夕飯時のピークに一人で料理していたんだ、俺以外ありえない。
「すみませんでした…!」
頭を深々と下げて謝罪した。それを見て店長はまた怒る。
「どこ見て謝ってんだよ!まずは俺にじゃねえのか!」
謝罪したのはお客様に対してだ。どんな理由でもまずは不快にさせたお客様が優先だろう。
「今まで優しく教えてやったのにこのザマかよ!クビだ出てけ!」
店長の怒号をよそに少女の顔を伺う。凄く申し訳なさそうな表情をしているが吐いてる最中だし喋れない。俺は逃げるようにその店から出て行った。
次の雇ってくれる店を探せばいい。何なら自分で店を開いてもいい。そう立ち直ればよかったけど、この事件は深くトラウマになってしまっているみたいで。もう料理なんかやめてしまおうかと思っていた。どうするか悩んでいたらインターホンが鳴る。荷物でも頼んでいたっけタイミング悪い。相手を覗くと予想外の人物が居た。
「えっと…謝りに来たんですけど」
その吐いていた少女だった。扉を開けてすぐに土下座した。
「何で謝りに来たって言ったのに謝られてんだ!?」
「だって慰謝料請求しに来たんでしょう?働き先も無くなってるから暫く待ってもらう事にはなるけど絶対払いますから」
「それが!誤解だっての!まずは話を聞け!」
無理矢理に押され少女が俺の汚い部屋に入ってきてしまった。
「まず…吐いたのは悪かった これからの事考えてたら気分悪くなっちゃって」
「俺の料理が不味かったんでしょ もう料理なんてしないからフォローなんていらないよ」
突然目の前に白い拳が飛んで来た。どうやら殴られたらしい。
「もういじけんなって面倒くさいな!」
彼女は笑っている。励ましのつもりだったのだろうか、にしてはかなり痛かったんだけど。
「あの料理美味しかったよ 用事も片付いたし良ければもう一度作ってくれないかな」
吐いた料理を御所望だと。しかしこの屈託無い笑顔で頼まれたら断り辛い。渋々油ぎっていた料理道具を洗い、店で出していた料理を作る事にした。
「…うん やっぱり美味しいよ」
久々の料理が楽しくて、ついつい作りすぎてしまった。少女は満腹そうだがまだ料理が残っている。
「なんか自信ついたかも ありがとな」
さっきまで頭が上がらなかった少女に元気付けられてしまった。そうだった。今まで料理を続けてこれたのは食ってくれた人の笑顔が嬉しかったからなんだ。もうこの仕事から逃げない事を誓おう。しかしこれからどうしようか悩み始めた時に少女が口を開く。
「次の仕事見つかるまでさ こっち専属の料理人…とかどう?」
「そんなに気に入ってくれたのか 女の子に雇われるのは嬉しいけど生活費にはならないだろうからごめんね」
「女の子だと…?」
白い拳が飛んできた。手袋とっても肌白いのは栄養足りてない可能性もあるな。
「私はもう成人済みだ!子供扱いするな!」
少女だと思っていたが違っていた。身長からして誰が見ても幼い女の子に見えるがそうではなかったらしい。
「嘘だろ俺より小さい癖に!」
「何ならお前より歳上だ!」
「何歳になったの?」
「聞き方がバカにしてるだろ!レディに年齢聞くとか失礼だろ!」
漫才の様に言葉をぶつけ合う。昨日まで泣いていたとは思えないくらいの声量で。偶に拳が飛んでくる漫才を一通り楽しんだ所で一旦冷静になろう。
「では年上のお姉様 雇ってくれるなら給料は出るということで?」
「当たり前だ 私は金を持っているからな!」
小さい体で自慢げに見下ろしてくる。その小さい体も、ちゃんと食事が出来ていないからであろう。
「わかりましたお嬢様 俺の料理で貴方様の体をずんずん成長させて見せましょう」
「またバカにしたな!」
また拳が飛ぶ。やんちゃなお嬢様だ。
「真面目に話すと 料理を作って欲しいの私の妹なんだよね」
「あんたじゃないんかい!まあやるけどさ」
「やった!よろしくねシェフ!」
料理の楽しさを思い出させてくれた彼女への恩返し。この時は結構軽い気持ちで承諾したのだけど、まさか深い後悔をする事になるとは思いませんでしたとさ。
「料理物語」ってタイトルにしてましたけどなんか雑過ぎました。でもこのタイトルにするとネタバレになるかと思いそのタイトルのまま2話くらい更新されていました。まぁ「グロ耐性無い殺人鬼ちゃん!」って言うのもどうかとは思っています。気に入ってもいますけど。




