表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変幻美少年サイキッカー、CPUにリンク!? 守るべき存在とサイキック・インターフェース  作者: あみれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/23

第10話「忍び寄る影」

二つの島国――〈セレスティア〉と〈ヴァルガード〉。

かつて、海底プレートの移動により両国の領土が衝突し、戦争と崩壊の危機にさらされた。

その災厄を救ったのは、国家を越えて誕生した最強のAI《Air on G》、そして一人の少女・澪だった。


危機から五年後。

澪は22歳となり、国家AI戦略プロジェクト「感生AI(Affectis)」の開発メンバーとして、国を守る最前線に立っている。

海底トンネルの完成によって、両国は新たな交流の時代を迎えた――はずだった。


だが、平和の陰には必ず影が潜む。

世界規模の闇の組織〈ダークヒールズ〉が、両国の関係を悪化させようと水面下で動き出していた。

そしてその渦中に巻き込まれていくのは、一人の少年――マルタン。


彼は強い感情に突き動かされると、「0と1の流れに触れ、演算を直接書き換える」という、常識を超えた異能を発揮する。

それは国家の基幹システムすら停止させうる“人間サイキッカー”。


友情、武道、幼い恋心、そして闇からの囁き。

少年の選択が、国家の未来を揺るがす。


放課後の道場は、夕陽が窓から斜めに差し込み、青と赤のマットに長い影を落としていた。

マルタンは正面のラインに立ち、息を整える。拳を握る指先が、汗で少し滑る。けれど――


「――はっ!」


気合いとともに突き出された拳は、もう以前みたいにぶれていない。腰で打つ感覚が、身体の芯に通っていた。


「……よくやったな」


リオンの低い声。たったそれだけなのに、マルタンの胸の奥がじんわり温かくなる。

(できた……僕、できたんだ)

頬が、気づけば少しだけ緩んでいた。


帰り間際、リオンは扉のところで立ち止まり、ぽん、とマルタンの肩を叩いた。

「明日も来い。強くなるってのは、一日で終わりじゃない」

「……はい」


その「はい」には、小さな誇りが混じっていた。



同じ頃、ラボの暗い部屋で、澪は無言でモニターを見つめていた。

道場のカメラから送られてくる少年の姿。構え、呼吸、視線――混乱の波が引き、整っていく。


(よかった。ちゃんと、自分で“戻ってこられる”)

胸の底で、安堵が静かに広がる。だが、同時にもう一つの思いが顔をもたげた。

(……だからこそ。もしこの力が誰かの手に渡ったら――危険すぎる)


澪はそっとモニターを閉じ、額に触れる。冷たさが、考えすぎた頭を少しだけ落ち着かせた。



ジュニア・アカデミー。

歴史教師・ゴトウは、空き教室の窓際に立ち、校庭を見下ろしていた。夕焼けに染まるグラウンドでは、球技の声が小さく弾けている。

数週間前の、あの出来事――学校クラウドの謎のクラッシュ。職員会議では「サーバの老朽化」と一蹴された。しかし彼の胸には、小さな棘が引っかかったままだ。


(裏がある)


放課後、彼は生徒を一人ずつ呼び出し、事件当日の様子を淡々と尋ねていった。

「その時、教室はどうだった?」

「誰か、変わった様子の生徒は?」


最初は皆、「特に」と首を振る。だが、やがて――一人の男子生徒が、目を泳がせながら口を開いた。


「……僕が、マルタンをからかったんです」

声は蚊の鳴くように小さい。

「『お前は喋る人形だ、気持ち悪い』って。そしたら、アイツ……顔を真っ赤にして、身体を震わせて……その瞬間、教壇のスクリーンも、僕のタブレットも、急に真っ暗になったんです。僕……怖かった」


教室に、短い沈黙が降りた。

ゴトウは生徒を見つめ、ゆっくりと肩に手を置いた。


「……それはクラスの皆には言わない方がいい。誰かを傷つける言葉は、必ず自分に戻ってくる。分かったね」


「……はい」


生徒が出ていくと、教室には夕陽と埃の匂いだけが残った。

ゴトウは目を閉じる。(同時に“落ちた”か)

偶然――そう片付けるには、できすぎている。


(あの少年。何かを握っている)


その目は、もう教師のそれではなかった。



廊下を歩くユナに、柔らかな声がかかる。

「ユナ先生」


振り返ると、ゴトウが微笑んでいた。歴史の教師らしく、落ち着いた佇まい。


「最近、マルタン君の様子はどうだい? 気になってね。授業で、困っていることはないかな」


「……特に問題はありませんよ」

ユナは笑顔で答える。けれど、その笑みに、余計な情報は一滴も混ぜない。


ゴトウは頷いた。足音は軽い。去り際、わずかに振り返り――彼女の横顔を、静かに観察する。

(口が固い……か)


ユナは、彼の背中が角を曲がった瞬間に、そっと息を吐いた。胸の奥に、薄い氷が一枚落ちたような感覚。



夜。

狭いアパートの一室。壁には地図や歴史ポスター、机には教科書の山。ランプの光は黄色く、部屋の埃がゆっくり舞っている。

生活感を装ったアナログな部屋。しかし、引き出しから取り出された小さな黒い端末が、その仮面を剥ぎ取る。


スイッチを入れる。低い起動音。画面に、暗号化通信のインターフェースが現れる。


指先が、迷いなく文字を打ち込む。

――対象:PSSB

――内容:強い感情の高ぶりに伴い、周辺機器が同時にブラックアウト。潜在的なサイバー攻撃ベクトルの可能性。兵器化の余地。


送信。

「Complete」の小さな英字が、画面の隅で光って消えた。


遠く離れたどこか。

黒い部屋の巨大スクリーンに、ゴトウのメッセージが映し出される。

すかさずスクリーンの前の指がキーボードを叩く。


――教室内と学校周辺にスクリーンカメラを設置しろ。


通知を受けたゴトウは、机の引き出しから三センチ四方の透明シートを数枚取り出した。

無線機能を搭載したシート状のカメラ。撮影した映像をリアルタイムで伝送できる。

ゴトウはそれをバッグにしまい込んだ。



翌日。

ユナの授業で、マルタンは落ち着いた声で答えた。

「……ここはヴァルガード語で、“境目”を指します」

「正解」


一瞬、教室の空気が変わる。

からかいで笑っていた数人の顔に、戸惑いが走る。

(え……あいつ、普通に答えてる)

そのさざ波は、誰にも言葉にされないまま、静かに広がった。


窓側の席で、ハルカはそっと笑った。

(マルタンくん、かっこいい)

その笑顔に気づいたマルタンが、ほんの少しだけ視線を落として照れる。胸の鼓動が、以前よりゆっくりで、確かなリズムになっていた。



放課後。

校門の影が長く伸び、街路樹の葉が夕風に揺れる。

帰ろうとしたハルカの背に、落ち着いた声が届いた。


「ハルカさん。少し、いいかな」


振り向くと、ゴトウ先生が立っていた。優しそうな笑み。けれど、その目の奥に、どこか数字のような冷たさが見える。


「マルタン君、最近どう? 友達はできた? 放課後は、よく誰と一緒にいるのかな」


「え、えっと……」

ハルカは戸惑って視線を泳がせる。

「私……その、詳しくは……」


「そうか、うん。心配でね。クラスのためにも、彼のこと、知っておきたくて」

声色は柔らかい。質問は執拗。

ハルカの胸に、小さな針のような違和感が、ちくちく刺さる。


(先生っぽくない。なんか……監視、みたい)


「じゃあ、ありがとう」

ゴトウは軽く手を振って去っていった。ハルカはその背中を見送り――気がついたら、走り出していた。



「せ、先生っ!」


ユナが振り返る前に、ハルカは彼女の腕をつかんだ。

「ゴトウ先生が……マルタンくんのことばっかり、何度も聞いてきて……すごく、変で……!」


ユナの表情が、すっと緊張に変わる。

「――分かった。話してくれてありがとう、ハルカ」

彼女はすぐにタブレットを開き、澪へ連絡を取った。



ラボの会議スペースでは澪とリオンが向かいあって座っていた。

ユナの報告を聞いた後で、澪は黙ったまま両手を組み、視線を落とした。

短い沈黙。やがて、澪の低い声が漏れた。


「……ゴトウとかいう教師が、ただの教師じゃないとしたら」


澪は顔を上げる。瞳は冷たく澄んでいた。

「ダーク•ヒールズ。あの闇の組織は、平然と日常に入り込む。教師、医師、配達員――何にでも化ける。関係が“あるかもしれない”レベルでも、疑って動くべきよ」


「教師まで潜り込んでるってのか」

リオンが腕を組み、苦い声を漏らす。

「厄介だな」


澪は大きく息を吸い、決意を固めるように吐き出した。

「マルタンは、私たちが守る。――もし相手が誰であろうと」



夜。

数人の黒い人影が慣れた手付きでジュニア・アカデミー周辺の並木や公園にスクリーンカメラを設置していた。

マルタンの教室には、すでにゴトウが仕掛けを終えていた。


その頃、マルタンはベッドの上で、道場で教わった呼吸を繰り返していた。

吸って、吐く。

(僕は――大丈夫だ)

眠りの縁で、ふと胸がざわつく。理由は、まだ分からない。


窓の外で、風が小さく鳴った。

少年の背後まで、影は、もう来ている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ