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叶望と涼多

 一人の女子生徒が叶望(かなみ)に向かって楽しそうに言った。


 「郁子(むべ)さん、来てくれたとこ悪いけど、後は兎火(うび)君がやってくれるそうだから帰っていいよ」


 「なっ、涼多(りょうた)!」出錆(でさび)に笑顔で凄まれ、涼多は小声で「うん……」と呟く。


 ダンボール箱を持ち上げようと手を伸ばす。

 すると、横から手が伸びてきた。


 「私も倉庫に用があるから」叶望は床に落ちている二つの内一つを持ち上げる。最初に渡されたダンボール箱だ。


 慌てて「郁子さん、こっちでいいよ」と一回り小さいダンボール箱を指さす。


 「大丈夫」そう言うと叶望はスタスタと歩き出した。

 涼多もダンボール箱を持ち上げふらつきながらも後を追う。


 背後の出錆たちから『白けるなぁー』といった空気が漂ってきた。


 「郁子さんって見た目に似合わず、男子の好感度上げに余念がないよね」

 「え?あれって『男子でも苦戦するような重いものを持てる私凄いでしょ』じゃねーの?」


 出錆の隣に立っていた女子生徒がクスッと笑う。


 「分かってないなー。あれは『普通の女子だったら嫌がることでも率先してやる私を見て』ってしてるんだよ」


 「うわー、痛い奴じゃん」

 「クールぶってるつもりなんだろうけど、ちょっとねぇー」


 「『あなたたちとは違うんです』ってか?」

 出錆たちの会話が聞こえてくる。


 聞こえていないはずはないのに叶望は無反応だ。


 「いや、あの壁みたいな胸がこんぐらいあれば、多少痛い奴でも……」

 持っていたバレーボールを、自身の服の中に入れる。


 女子生徒達が笑いながら「やだー」と甲高い声を上げた。


 「バレーボールて、つーか、そんだけあればOKなワケ?」

 その言葉に「んー……」と考え込む。


 「あー、ムリだわ。愛嬌ないし、見た目(あれ)だし。まあ、二人で無人島にでも流されて仕方ないって時は相手してやってもいいかなー」


 出錆は「ようは、そんぐらいな状況でもない限り無理ってこと」とおどけた様子で続ける。

 

 「ははは、ひっでー」

 「そんなに言ったら可哀そうだよー」


 (かしま)しい嘲り声。

 本気で『酷い』とも『可愛そう』とも思っていないのは明白だ。


 「…………」

 反論しようと涼多は覚悟を決め口を開く。


 「……あのっ!」

 「あ?」

 しかし、出錆の一睨みで直ぐに怖気づいてしまった。


 「……なんでも、ない、です」

 ポツリと呟き、顔を逸らす。


 情けなさと申し訳なさが混ざった視線を、前を歩く叶望に向ける。

 涼多の方が身長が低いので、自然と見上げる形になってしまう。


 出錆たちの言う通り、叶望は男子生徒と言っても通る見た目をしている。

 ショートカットの黒髪で身長も170センチ近くあり、制服はズボン。


 化粧はしておらず、声も中性的だ。

 今日も引率で来ていた幼稚園の先生に男子生徒と間違われていた。


 時折その事を揶揄うクラスメイトもいるが、気にする風でもなく常に淡々としている。


 『自分』と言うモノを持っている一匹狼然とした叶望に、涼多は秘かに憧れを抱いていた。


 ダンボール箱を倉庫に置く。


 「郁子さん、手伝ってくれてありがとう」

 「どういたしまして」


 口角を少しだけ上げ叶望は答える。


 「郁子さん、さっきは出錆君たちに何も言えなくて、その、えっと……」

 涼多が謝るより先に、叶望が言葉を発する。


 「体育館の片付け参加出来なくてごめん。マイクを仕舞う場所が分からなくって。じゃあまた明日」


 そう言うと倉庫から出て行ってしまった。


 「あ、うん、また明日……」

 ふと「倉庫に用があったんじゃ……」と思った。


 きっと嘘だったのだろう。

 何とも言えない気持ちになりながら、廊下に出た。


 「涼多!」

 明るく爽やかな声が、涼多にかけられる。


 ピアノを弾いていた少年、音律 奏(おんりつ かなで)が立っていた。



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