祭りのポスター
ダンボール箱の中には劇で使った衣装や小道具が詰め込まれており、かなりの重さがあった。
涼多は両手で持ち上げ運ぼうとするがフラフラとしか進めない。
倉庫というのは、校舎の二階にある空き教室のことだ。
涼多は長い道のりを想像し、出錆達に聞こえない程度の溜息を吐く。
「後、これもお願いね」
さらに一回りほど小さいダンボール箱を上に置かれ、立っているだけで精一杯になってしまう。
「ご、ごめん、二回に分けて運んでもいい……?」
落とさないように気をつけながら目の前の女子生徒に問う。
「えー、やだよ。早く帰りたいもん」
「じ、じゃあ、一つ持ってもらっても……痛っ!」
言い終わる前に足に激痛が走る。
見ると靴の踵で、涼多のつま先を思い切り踏みつけていた。
「あのさぁ、何、口答えしているわけ。というか、女子にこんな重いモン持たせようっての?」
踵をグリグリとさせながら、ギロッと涼多を睨みつける。
ぷんっと、強すぎる香水の匂いが鼻を突く。
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「ハッキリしなさいよね。この陰キャ」
さらに体重をかけられ、涼多は痛みを紛らわそうと、箱を持つ手に力を籠める。
「うーわ、陰湿だなぁ」
出錆はそう言いながら、涼多の一つ結びにされた黒い髪を思い切り引っ張った。
「うわっ!」
その衝撃で手からダンボール箱が落ちる。
幸い、中身は散乱していない。
拾おうとしゃがんた瞬間、背中に蹴りが飛んできた。
痛みに呻いていると、勢いよく制服のネクタイを掴まれる。
助ける者は誰もいない。
クスクスと小さな笑いが起こる。
運命の悪戯なのか劇に参加していた生徒の多くが出錆の取り巻き達だった。
他の生徒は嫌な予感を察してかそそくさと帰ってしまい、この場にいるのは涼多はと出錆達のみ。
「てめぇ、アイツと仲良くなったからって調子乗ってんじゃねーぞ」
目の前で拳が作られる。
殴られるっ!!
反射的に目を閉じた。
その時、ギィーと音をたてながら、体育館の扉が開く。
パッとネクタイを掴んでいた手が離され、涼多はほっと息を吐いた。
周囲から、チッと舌打ちが聞こえる。
入ってきたのはナレーションをしていた少女・郁子 叶望だった。
「遅くなってごめん。水川先生が祭りのポスターみんなに配り忘れてたから渡しといてって」
叶望は劇の時と同じく平坦な声でそう言った。
「あ、郁子さん。僕も水川先生から……」
涼多は叶望に布を渡す。
「ありがとう。はい、兎火君」
そう言いながら、筒状になったポスターを渡される。
「こちらこそありがとう、郁子さん」
理由はどうであれ、この状況から脱せたことも含め礼を言う。
ポスターには美しい白蛇の絵が描かれており、左下には「門火小学校 六年 有栖乃 夢」と名前が小さく載っていた。
10話以内には異世界に行きます。