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平和な村

 むかーし、むかしの大昔。

 とある山の中に、一つの小さな村がありました。


 争いも病もない、とてもとても平和な村でした。

 そんな平和な村に、一人の子供が産まれました。


 子供は、優しいお父さんとお母さん、そして優しい村の人たちに大事に大事に育てられました。


 みんな、子供のことが大好きでした。

 子供も、みんなのことが大好きでした。

 他の子供たちと同じように。


 子供が六つになった時のことです。


 何日も何日も、冷たい雨が降り続きました。

 止んだと思っても曇り空で、お日様は顔を覗かせてくれません。


 そして、また雨が降り出す。


 土はぬかるみ、病がはやり、平和だった頃の面影は、何処にもありません。

 川は荒れ、作物は育たず、食べ物も底をつきそうです。


 子供のお父さんは、食べ物を探しに何処かへ向かいました。

 そして、そのまま帰ってはきませんでした。


 雨は、ますますひどくなるばかりです。


 お母さんも、食べ物を探しに家を出ました。

 そして、そのまま帰ってはきませんでした。


 雨は、しとしとと降り続いています。


 「うーん、どうしたものか」

 「このまま雨がやまなければ、みんな飢え死にしてしまう」


 「生贄をだそう」

 「誰がいい?」


 寄合に集まった村の人たちは、腕を組み考え込んでしまいました。

 ただ、答えはすでに決まっておりました。


 「あの子でいいじゃないか」

 「そうだな。()()()()身寄りもいないし」


 「……そういえば、まえに父親が山に入るのを見た」

 「母親もだ」


 少しだけ、血色のいい村の人たちが言いました。

 その場にいた全員が、おどろいた顔をします。


 「きっと、入っちゃいけない場所に入ってしまったんだ」

 「もしかしたら、この雨が止まないのも……」

 

 二人が山に入ったという証拠はありません。

 雨が降り出したのは、二人がいなくなるずっと前からです。


 しかし、そんなことはどうでもいいことでした。

 みんな、この状況から抜け出したくて、ひっしだったのです。


 早く神様に生贄を差し出さなければ。

 しかし、家族の誰かが()()なるのは嫌でした。


 自分が()()なるのも嫌でした。

 だって、守るべき大切な家族がいるのですから。


 村の為だ。

 全てを悟った子供は、大人しく生贄となりました。


 しかし雨が止むことはありませんでした。

 村の人たちはみんな死んでしまい、村はなくなってしまいました。


 それから長い年月が流れ、また新しい村ができました。


 そんな村の片隅で、冬眠から目覚めるように子供は目を覚ましました。

 ただ、自分がどこの誰なのかまったくわかりません。


 子供には不思議な力がありました。

 ■■■■■■■■■■な力と■■■■■■■■な力です。


 しかし何故そんな力を持っているのかは、子供自身にもわかりませんでした。


 村の人達も、『気味の悪い子供』と遠巻きに見ています。

 不思議な力を持つ、年も取らない不気味な子。


 「早く何処かに行って欲しい」

 「でも、変に突っかかって怒らせでもしたら」

 「きっと、アイツは化け物だ。機嫌を損ねないように――」


 子供もそれを察してか、村はずれの岩屋で暮らして居ました。


 時折やってくる■■■■に「■■■■で■■■■■■?お前は■■■■■■■なのだから」と言われましたが、子供は首をたてには振りません。


 幼い子供にとっては、この場所だけが全てだったのです。

 それに、何故か離れてはいけない気がしていたから――。


 ある時、化け物に襲われていた村の人たちを助けました。


 「きっと、あなたは神様に違いない……!」

 「本当に、ありがとうございます!」

 「これからも、そのお力で村をお守り下さい!!」

 

 村人達は、子供を祀る立派な祠を建ててくれました。


 「あなたのお陰で、今日も平和です」

 「村に近づく化け物は、みんな倒してくださいますし……」

 「何の心配もせずに畑仕事に精を出せます!」


 もう、子供を怖がる村人は一人もおりません。


 「■■が■■■ました!」

 「大きくなったら、■■■■■■■■■■くださいね!」

 「今年も■■です!本当に■■■■■■!!」


 そうして、何年も何年も、子供は村を守り続けました。

 いえ、もう『子供』ではありません。


 ■■■■、そう、神様になったのです。


 めでたしめでたし。


 ◇◇◇

 

 「……はい、お終い」

 「ありがとう!涼多(りょうた)お兄ちゃん!!」


 絵本を読み終えた涼多に、蛍がパチパチパチパチと拍手を送る。


 「お、面白かった?」

 「うん、僕ね、このお話大好きなんだ。どうしてかはわからないけど」


 現在、涼多達は躑躅(つつじ)百貨店の本屋にいた。


 冬用の服を買い終えた後、春は夢に頼みごとがあったらしく、名月と三人で同じ階にあるアクセサリー専門店へと行ってしまった。


 (かなで)叶望(かなみ)も、そして自分もアクセサリーに興味がなかったので、本屋で待っているという状態だ。


 本屋の中にも喫茶スペースがあり、薄氷(うすらい)と奏は紅茶を飲んでいる。

 叶望は近くにある椅子に座り本を読んでいるし、蕉鹿(しょうろく)も然りだ。


 そして涼多は、キッズスペースとでも言うべき場所で蛍に絵本を読んでいた。

 妹の美月に、よく本を読んでいたと話すと、蛍がせがんできたのだ。


 人前で読むのは恥ずかしかったが、時間帯の所為か自分達以外、誰もいない。

 断る理由もなく、どの本を読むか尋ねると差し出されたのが()()だ。


 『かみさまになったこども』。


 (うーん、何エンドって言うんだろう……)

 大人が読む分にはいいのかもしれないが、子供が読むには重い話に感じた。


 読み込まれている所為で、所々、文字がかすれて読めなくなっていたし。

 特に最後。


 (それに『血色のいい』って、()()()()()()だよね。つまり、この主人公のお父さんとお母さんは……)


 『本当は怖い――』そんな言葉が頭をよぎる。


 (いや、考えすぎかな……)

 どちらにせよ、子供向けの内容ではないと思う。

 それとも、自分が過保護なだけなのだろうか?


 でも――。


 「蛍君が喜んでくれて良かったよ。結構、つっかえつっかえで読んじゃったし」

 読めないところは、蛍が「飛ばしていいよ」と言ってくれた。


 「え?そんなことないよ!すっごい聞き取りやすかった!!」

 太陽のように明るい笑顔を、涼多に向ける。


 「……そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

 「こっちこそ!!」


 涼多から本を受け取り、丁寧に本棚に戻す。

 ついでに、散らかっている玩具を二人で箱に入れる。


 (……いい子だなぁ)

 春の育て方がいいのか、それとも元からしっかりした性格なのか。


 恐らくは、両方だろう。

 きっと、何事もなく大人になっていたら好青年になっていたに違いない。


 まだ、自分の半分も生きていないのに――。

 そう思うと、なんだか悲しくなってきて、蛍の頭をポンポンと撫でる。


 「……ん、どうしたの?」

 「いや、なんでもないよ」


 その時、蕉鹿がふっと本から顔をあげた。

 そして、本屋の入口に目をやる。


 「買い物、終わったみたいっスね」



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