名月
部屋に入って来た少女は夢と同い年くらいの見た目をしていた。
刈安色の着物に茶色の帯、深紫色のおかっぱ頭に朝顔の花冠をのせ、さらには天女の羽衣のように朝顔の蔓をまとっている。
白緑色の肌をしており、赤と青の左右で違う色をしたくりくりとした瞳で涼多たちを見た。
「話し声がモロに隣の部屋まで聞こえていたから、大体の事情は把握しているのだ。初めまして、あたしは名月。以後、よろしくなのだ!」
「よ、よろしくお願いします」
すっと差し出された手を、恐る恐る握る。
「名月さん、白蛇様の怪我は大丈夫っスか?」
「薬が効いてグッスリ眠っているのだ、だから静かにしてほしいのだ」
「了解っス!」
「……すみません」
蕉鹿はガバッと頭を下げ、ルテは目を伏せ謝罪の言葉を述べる。
「今回の騒動、気になる点が沢山あるのだ。あたし達の『仕事』のやり方も、変えなければならないかもしれないのだ」
名月の言葉に二人は頷き、小声で話をし始める。
「ん?どうした?」
蛍が奏の服の裾を引っ張ていた。
しゃがむと「はい」と右肩にペシッとお札が貼られる。
お札に書かれた文字が淡く光ったかと思うと、奏は驚いた顔をした。
「このお札はね、少しの怪我ならスグに治してくれるんだよ」
蛍は笑顔でそう言うと、叶望、夢、涼多の順にお札を貼っていく。
食器が刺さった箇所がみるみる治っていった。
「さっきはありがとう」
「蛍君……だっけ?無事で良かったよ」
そう笑いかけると、後ろの女性と目が合った。
「あ、えっと――」
「……春と申します。先程は、本当にありがとうございました」
丁寧にお辞儀をすると、蛍と同じ鳶色の目を細めながら涼多を見る。
鴉の濡れ羽のような長い黒髪がサラリと揺れた。
「僕のお姉ちゃん」
「そうなんですか」
「…………はい、そうです」
(……?何で目を伏せるんだろう?)
疑問に思っていると、名月たちの話し声が聞こえる。
「疲れた頭で考えてもしょうがないのだ。お開きにするのだ」
「そうっスね。涼多君たちも結構、限界が来てるんじゃないっスか?」
蕉鹿に言われたとたん疲労がどっと押し寄せてきた。
夢にいたっては舟をこいでいる。
「布団を用意しますので、とりあえず今日はここで寝てください」
ルテはそう言うと部屋から出て行こうとした。
「あ、手伝います」
涼多がそう言うと、ルテは小さく溜息を吐く。
「そんなフラフラな状態で運べるわけがないでしょう。危険なので、そこに座っていてください」
(……?)
突き放すようなセリフだが、何故か声に優しさが含まれているように感じた。
「ルテさん、少し嫌いになったとか何とか言っていたくせに」
「ルテはツンデレなのだ」
名月の言葉に、蕉鹿は顎に手を当て――。
「いや、ツンデレ+ギレっスね」
そう言った途端、座布団がふわりと浮き上がり蕉鹿の頭にぽすんと当たった。




