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一月以上経過してしまいすみません、大変お待たせ致しました

「……ん……」


 瞑っていた目が静かに開かれる。視界に映ったのは、すっかり見慣れた自分の部屋。しかし見上げる天井は橙色を帯びていて、いつもと違う光景を作り出している。


 そんなふとした違和感を正しく違和感と捉えるには、まだ頭は完全な覚醒に至っていなかった。そして自ずと理由を理解する前に、身体を起こした彼女の目に映った、1人の女子生徒。


「あ、えっと、ユカちゃん、おはよう」

「……おはよ、う?」

「そっか、早くないからおそよう、かな?」

「え」


 ベッドから身を起こした少女-ユカにちょっとした冗談を言って微笑んだのはフーシュだった。彼女はユカの目覚めに気が付くと、開いていた本を畳んで机の上に置く。


 なぜ彼女が自身の部屋にいるのかというユカの新たな疑問。しかしその前に、理解が追いついた先ほどの違和感の正体。橙色の天井、並びに窓の外。それはすなわち、時刻が夕方であることを示していた。


「あれ、なんでここにいるの……?」

「ぐっすり寝てたから起こすのも悪いと思って。ユカちゃん、控室から戻ってきた後、寝ちゃってたんだよ」

「……あ」


 次第に覚醒する脳。次第に思い出される記憶。ユカは控室からここにいたるまで、ことのあらましを思い出した。






 苦しげなシガナとその後を追ったヒカゲ、そして棒立ちになっていたユウシとテイガが控室を出た後、フーシュは小さく震え、嗚咽を漏らすユカと二人きりになった。だがその場の唯一の同性として前に出たはいいものの、なぜシガナと仲が良さげだったユカがこうして泣いているのかわからず、最初のうちはどう声をかけていいのかもわからなかった。


 そんな中、フーシュは困ったように周りを見渡す中で不意に自身の杖が目に入る。そこで思い出したのは、ユウシのアドバイスをもとに先日形にすることができた、人の心を励ます魔法。フーシュはまさに今がその使い時だと杖を手に取り、魔力を込めると優しい声で詠唱した。


「私の魔力、その癒しの力で、悲しい心に温もりを。傷ついた心に安らぎを。みんなを励ます魔法をここに。『癒光激励』」


 杖の魔導石が柔らかく輝き、縮こまるユカの全身を照らす。初めて実践的に使う魔法だったが、ユカを励ましたいフーシュの想いは魔力にこもって正しく伝わり、光の中でユカの呼吸は次第に落ち着いてゆく。


 ユカが1つ深呼吸をして涙を拭う。その姿を見てフーシュが魔法を止めると、ユカは目元を赤く腫らした顔でフーシュに振り返り、深く頭を下げた。


「……本当にすみませんでした、皆さんにはとてもご迷惑をおかけしてしまいました」

「だ、大丈夫だよ!それよりユカちゃん、元気は出た?」

「ええと……はい。それはもう問題ないです」

「そっか、それなら良かった」


 そうして一度会話が途切れると、フーシュは先ほどの出来事をどこから尋ねればいいのか分からず、ユカは落ち着いたはいいがそれ故に申し訳なさで自己嫌悪に陥っており、どちらも口を開くことができずに沈黙の時間が続く。


「ひ、ひとまず外に出よっか!」

「そう、ですね」


 それからフーシュがその場からの移動を提案して控室を出たまでは良かった。問題はそのあと、ユウシ達との合流と昼食のために食堂へ向かうまでの道の途中だった。既に昼食を終えたのか、魔武戦の会場へ向かう男子生徒数人が近づいてくるのが目に入り、ユカが立ち止まった。


「ユカちゃん?」

「……ダメだ、こわい」

「え?」


 フーシュはか細いユカの言葉を聞き返したが、繰り返されるその前に、ユカのことを視認した男子生徒達がこちらに駆け寄ってきていた。彼らとしては全く悪気はなかった。ただ午前中の盛り上がった試合を思い返し、午後のより白熱する試合への期待を高めていた中、最も期待のできる、かつそもそも程度や種類は様々だが好意を抱く相手を前にして、声をかけてみたかっただけだった。


「「「ユカ様ー!!」」」

「ッ、いやッ!」

「「「え?」」」

「ユカちゃん!?」


 幸いまだ距離があったためか、ユカはシガナにしたように、彼らに向けて魔法を放つことはしなかった。だがいつものように軽蔑したような表情と共に冷めた態度をとることはせず、青ざめた顔でまるで幽霊にでもあったかのように小さく悲鳴をあげ、ユカは近づく彼らから逃げ出した。彼らは数度瞬いた後、愕然とした表情で落胆するのだが、その頃には走り出したユカも後を追ったフーシュも、既にそこにはいなかった。


 これまた幸いなことに、体力や敏捷のステータスは高くないユカにフーシュが追いつくのは難しくなかった。そうしてフーシュは怯えたように震えるユカと人気のない建物の陰で落ち着いたあと、ユカが今、異性と近づくことすらできない状態にあることを察して食堂へ向かうことを諦め、決して異性が入ってくることのない女子寮へ入った。


「それじゃあお部屋で食べられるご飯がないか聞いてくるね」

「……ありがとうございます」


 そうしてフーシュはユカを彼女の部屋まで送り届け、今度は1人で食堂へと向かった。既に時刻は昼休みが終わろうとしており、多くの生徒が魔武戦会場に移動した後の食堂で、フーシュは同じく1人でいたユウシと会う。


 聞けば控室から出て食堂にてモモコ達と合流したユウシとテイガは当然シガナ、ユカ、フーシュの3人がいないことを尋ねられたのだとか。2人はその理由として、シガナについては元々ユウシが言われた通り、控室で休んでいるため。ユカとフーシュについては噓をつき、実はユカは体調が悪く、フーシュが付き添いとして保健室に連れて行ったためとして説明した。


 ソユノやクロアスは過剰にユカのことを心配し、お見舞いに行こうと言い出したときはユウシとテイガは焦ったが、お見舞いが逆に迷惑になるとしてモモコがそれを許さなかった。そして既に試合を終えているユウシがフーシュへの伝言役として残り、他の一同は魔武戦会場へと行った、とのことだった。


「みんなに知られちゃうのは、シガナくんにもユカちゃんにもきっと良くないもんね」

「うん。でも、きっとモモコはうそだって気づいてると思う」

「そっか」


 理由を話しているとき、嘘をつくユウシが多少挙動不審だったことはもちろんのこと、なによりテイガの元気が全くなかった。ソユノたちはそれが単に好いているユカの具合が悪いためだと勘違いしたが、昔からテイガのことを知っているモモコには嘘が筒抜けだったのだろう。しかしモモコは何も追及することはなかった。


「あとでモモコにはちゃんと話さないと」

「そうだね」


 それから同様に状況を尋ねられたフーシュは、とりあえずユカは元気を取り戻したこと、しかしいつもと様子は違うこと、異性を怖がっていることなど、現状で分かっていることを共有するとともに、まだしばらくは会場に行けそうにないことを伝えた。


「たぶん試合も出られないよね」

「うん……」

「分かったよ、先生に言っておくね。……あとはシガナだけど……」


 ユカについてはフーシュがいたために情報共有はできたが、シガナについては追いかけたヒカゲがまだ戻っておらず、そもそも追いついたのか、体調は平気なのか、話を聞けたのかなど、彼の現状は全くわからない。


 シガナの居場所の見当すらつかないユウシはヒカゲを待つことしかできない。まもなく魔武戦午後の部が始まる頃だが、既に午前で試合を終えているユウシは、もう少しヒカゲのことを待ってみるつもりのようだった。


「それじゃあユカさんのことはお願いするね」

「うん」


 魔武戦に出場しないフーシュもまた試合を見に行くのは後回しにすることに決め、携帯できるようにしてもらった食事を自身とユカの2人分もらうと、女子寮へ移動する。そして先ほど覚えたユカの部屋の扉を叩いたのだが返事はなく、試しに取っ手をひねると鍵はかかっていなかった。


 小声でおじゃましますの挨拶と共に中に入ると、入学したときから本や勉強道具を除いてほとんど物が増えていない部屋のベッドにて、すやすやと寝息を立てるユカがそこにいた。


「疲れちゃったのかな。でもいくら女子寮とはいえ、鍵をかけてないと不用心だよね」


 そうして少し悩んだ末、目が覚めた時に一人でいるよりも一緒にいてあげたほうが安心するかとも思い、フーシュはユカが起きるまで彼女の部屋で待つことにしたのだった。






「そうだった、私……!」

「ユカちゃんが持ってる本が気になったから起こさなかったとか、読みたかったから待ってたとか、そういうわけじゃないの」

「私……」

「ちょっと夢中になりすぎちゃったっていうか、ほんとは1冊読み終わったら様子を見て声をかけようって思ってたんだけど」

「……」

「気が付いたら全部読み終わっちゃって、外も日が落ちちゃってて、起こさなきゃって思ったときにちょうどユカちゃんも目を覚まして」

「……ふふ」


 自分の都合で食事を取りに行ってもらった上に、待っている自分は寝てしまうという失礼極まりない自らの行いを思い出し、ユカは大きな罪悪感と共に謝罪をしようと頭を下げた、のだが。フーシュもフーシュで寝ていたとはいえ人の部屋に無断で入り、積んである本を私物かのように勝手に読み、温かかった昼食もすっかり冷ましてしまったという同じぐらい罪の意識を覚えていた。


 更にフーシュの場合、頭には異国の本を読んだことによる満足感がまだ残っており、表情や言葉の端々に喜びが見え、反省こそすれども後悔はしていないといった様子である。これにはユカも思わず笑ってしまい、笑い声が聞こえたことでフーシュも我に返ったかのように口を止め、そして笑ったユカに目を瞬かせた。


「フーシュさん、読書は楽しめましたか?」

「え、っと、それは、うん。とっても面白かったんだけど、読んでも大丈夫だった?」

「はい、大丈夫でしたよ」

「でも、この本とか、ユカちゃんのかわいい絵が」

「え、あっ!?」


 フーシュが最後に読んでいた物語の本の途中には杖を持った青髪の女の子の不格好な落書きがあった。フーシュがそのページを広げて見せるとユカは大慌てでフーシュから本を取り上げて腕の中に隠す。その顔は真っ赤に染まっており、落書きの主がユカ本人であることは想像するに難くなかった。


「わ、忘れて、ください」

「いつの絵かは分からないけど、上手に描けてたよ?」

「それでもです!」


 その絵自体はユカがまだ10歳にも満たない頃の落書きで、ユカ自身も描いた記憶がうっすらとしか残っていなかった。そんな落書きを敢えて消さずに残している事実を人に知られたくなく、今こうしてフーシュに記憶のリセットを頼んでいるのだが、ユカの微笑ましい思い出の一端に触れ、フーシュには忘れられる筈がなかった。だがフーシュは1つ、ユカにとっては意地の悪い提案を思い浮かぶと、明るい声でこう言った。


「じゃあその敬語の話し方を止めてくれたら忘れるね!」

「……え、ええ!?」

「だって、起きたばっかりは全然敬語じゃなかったし、やっぱりそっちのほうが気が楽なんじゃないかなって!」

「それはっ、……それ、は……」

「ユカちゃん?」


 以前、一月前の魔武戦の観客席でも、ユカの口調について、モモコとフーシュが言及したときがあった。そのときは次の試合が迫っていることを理由にシガナに止められてしまったが、今はフーシュを止める人は誰もいない。


 ユカは今更口調を変えることに抵抗があったのか、素の自分とは違う敬語口調について何か言おうとした様子だが、途中で何を思い出したのか、元気を出したと思われたその表情がまたもや沈んだ暗いものに戻った。


 フーシュとしては、どこか他人行儀に見えるユカの話し方を素の状態にしてもらうことで、きっかけはともあれ、より距離を近づけて仲良くなりたいだけだった。もちろん本人が嫌がるのであれば無理矢理直させるつもりは一切ないため、今、ユカがまた落ち込む様子に気づき、持ち掛けた取引を中止しようとした、が。先に口を開いたのはユカだった。


「……わかったよ、フーシュさん。いや、フーシュちゃん」

「い、いいの?嫌だったら全然」

「ううん。フーシュちゃんが言う通り、こっちが本当の私なんだ」

「そっか、なら、よかったよ」


 そう話すユカの表情は、しかしまだ暗いままで、フーシュはうまく返事ができなかった。


 せっかく意図せずしてユカにいつものような明るい顔を取り戻させ、話を、本題を切り出しやすくできたのを無駄にしてしまった。だが口調の話はフーシュに取っ掛かりを失わせたものの、ユカには逆に与えていたようで、やがて彼女は静かに口を開いた。


「理由が、あったの」

「理由って、敬語を私たちに使ってた理由?」

「それもなんだけど、その、異性の方に冷たくしたりとか、一人で練習しようとしたりとか」


 そう言うユカの顔を見て、フーシュは彼女と目が合った。彼女は寂し気な笑みを見せた。




「私。男性恐怖症なんだ」




 一度明かしてしまえば、ユカの口はもう言い淀むことはなかった。


「もう結構前の話だし、私もあんまり覚えてないからあんまり重く考えすぎないでほしいんだけどね」


「その、この国に来る前、まだギレイノア帝国にいた頃、私、悪い人につかまっちゃって」


「そのときにお父さんとお母さんが……されちゃって」


 そうユカが切り出して、ユカに切り出されて、フーシュが絶句しないわけがなかった。フーシュの青くなる顔を見て、ユカは申し訳なさそうに詳細を語った。


 とはいえ、当時ユカは10歳になったばかりの子どもだったこと、また事件の目撃者はユカを除いて全員亡くなっていたことから、語られる記憶もところどころ断片的だった。


 ある日の夜、ユカは階上の物音を聞いて目が覚め、部屋を出て見に行った。本来は1人で部屋を出ることが危ないから駄目だと言われていたのだが、興味本位で言いつけを破ってしまったのだとか。


 そして物音の場所まで訪れたユカが見たのは、多数の見知らぬ人間が血を流して倒れ、その先で両親が戦う姿。思わず悲鳴が漏れたユカは、たちまち襲撃者の1人に捕まってしまった。


 国内でも1,2を争うほどに武に長けた父親と、当時国内には数えるほどしかいない中でも優秀だった魔法使いの母親。彼らは2人でも多勢に劣らなかったが、愛娘が人質に取られてしまったとなれば話は別だった。取り乱した隙に背後から斬りつけられ、2人とも倒れてしまった。


 それからは記憶が定かではないが、どうやら勝利に油断しきった襲撃者を父親が最後の力を振り絞って打倒したようだった。しかしユカが使用人に揺り起こされ、気が付いた時には両親は既に事切れていた。


 襲撃者は男性が多く、ユカを捕らえたのも男性だった。幼少のユカには間近に映る彼らの下卑た表情、悪辣な表情が深く棘のように心に突き刺さり、彼らが亡くなった後も、今もこうして恐怖症として残ってしまっていた。


「でも、お父さんとか爺やとか、もちろん全員が悪いなんてことないのは分かってるよ」


「だからどうにか克服したくって、反対してくれる人もいたけど、異性も多くいる学校への入学を決意したんだ」


 ギレイノア帝国の学校ではなくラルドを選んだのは、ギレイノアでは魔法を十分に学ぶことができなかったため。わざわざ他人行儀で話すのは、人との距離を一定以上に保つため。異性に冷たく接するのは、自身の態度を周知させて不用意に近づく不埒な輩をなくすため。


「……こんな感じ。これが私が迷惑かけちゃった理由だよ。とはいっても、迷惑をかけていいってことにはならないんだけど。ごめんね、ずっとこんな大事なことを秘密にしてて」

「ううん、そんなことない!むしろ今、すっごく話しづらかっただろうし、思い出すのも辛いはずなのに、話してくれてありがとうだよ!」

「こちらこそ、聞いてくれてありがとう。きっとフーシュだから話せたよ」


 そう言って涙ぐんだフーシュに再び笑顔を見せるユカの顔は幾分か明るくなっていた。


 ユカとしても、いつかは言わないといけないと思っていた。しかしそれを言ったことで相手が自身と関わらないように離れていくことはまだしも、自身に気を遣わせ、居心地を悪くさせてしまうのは申し訳なかった。ましてユウシ達と関わるうえで前者になることはまずないことは分かっていたため、余計に相談しづらかった。


 今もフーシュが一緒にいてくれなければ逆に自ら離れ、二度と関わろうと思うことはなかったかもしれない。……と考え、ユカの心の中の自分が首を横に振った。まだ相談をしただけで、答えは決まったわけではないのだ。


 でも。ユカはそう言って、自身の努力と結果を言葉にして振り返る。


「最初は見ただけで怖くて泣いちゃってた。5年の月日が経っても、まだ身体が震えちゃってて……それじゃ駄目なことは分かってた」


「だから爺やとか門番さんに手伝ってもらって、入学前、なんとかある程度の距離までは我慢できるようになったんだ」


「だけど、手の届くところまで近寄られたり、不意に視界に映ったりしたら頭が真っ白になっちゃって」


「それでもなんとか毎日を異性のいる中で過ごせるようになってきた。ユウシさんとは何の気兼ねなく話せるようになったし、テイガさんは……」


 一瞬の沈黙。


「ほ、他にも、一部の方はあんまり邪な視線を感じなければ嫌悪感も減ったし、良くなったと思ってた。何より、シガナさんは勉強でも魔法でも、いろいろ助けてくれて、嫌な感じもしなくて。ずっと一定の距離は保ってくれるし、私のことを変な目で見てくることもなかった」


「この学校の異性の中で、一番信頼できる人だった。一番安心できる人だった……でも、駄目だった。怖かったの」


 ユカは伏し目がちに暗く言った。頭には5年前の恐怖と控室でのあの瞬間が合わさって甦ったのか、身体が少し震えている。


「少し慣れたと思ったけど、まだまだ駄目みたい。それに、迷惑もかけちゃった。シガナさんのこと、怒らせちゃったよね」

「そんなことないよ、きっと!シガナくんも驚いちゃっただけで」

「でも、離れろ、消えろって」


 ユカの記憶は錯乱して周りを気にする余裕などあるはずもなかったが、それでも彼の聞いたことのないような鋭い声は後からはっきりと思い出された。加えて、彼は先に控室を逃げるように出て行った。そのとき、「無理」という言葉を残して。


「フーシュちゃん」


 ユカはか細い声で、フーシュに質問した。その頭には、シガナだけではなく他の異性の表情が、また控室の時だけではなく、以前テイガに魔法を放ってしまった日の記憶が思い出されていた。


「私、異性の方と、もう関わらないほうがいいかなぁ?」

「っ、絶っ対にそんなことはないよ!みんなユカちゃんと仲良くできて楽しそうだったし、今回もちょっとびっくりしちゃっただけだよ!」

「でもっ、みんなが本当はどう思ってるかなんて分からないし」

「それは、そうだけど……それならちゃんと、みんなに会って直接聞いたほうがいいよ!私も間違ってるかもしれないし、ユカちゃんも間違ってるかもしれないから!」

「……でも」


 きゅるるる……


 そのとき、どこかかわいらしい音が。その直後、フーシュがばっとお腹を抑えた。それを見て、音の正体がフーシュのお腹の鳴った音だと気づいた。フーシュは顔をあからめて困ったように笑った。


「私もお昼ご飯、食べてなかったし、本を読んでる途中もご飯のいい匂いがしてて」


 きゅるるる……


 と、もう一度同じような音が鳴る。同じ部屋の中で、しかし別のところから。それはつまるところ、ユカのお腹の音だった。両者ともに昼食を食べておらず、時間はもうすぐ夜ご飯の時間である。ユカもまたお腹を手で抑え、2人は顔を見合わせ、同時に笑った。


「……遅めの昼ご飯、食べちゃおっか」

「うん」


 フーシュは昼食を運んできた籠を開き、ユカの分を手渡すと、2人でいただきますの挨拶をしてそれぞれ食べ始めた。


「時間は経っちゃったけど、まだ美味しいね」

「うん。ただ、スープだけは少し残念かも」

「う。次は本に夢中にならないように気を付けるね」

「……私は、次がないようにしたいな」

「きっと大丈夫だよ。今までもみんな、優しかったでしょ?」

「……うん」


 それからはフーシュが本の感想を伝えたり、座学や魔法の問題の出し合いをしたりしながら昼食を食べ進め。


「ユカちゃんはまだ疲れが残ってるかもしれないし、ひとまず今日はゆっくり休んで。明日は休みの日だし、一晩寝たら気持ちもすっきりするかもしれないからね」

「そうするね。ありがと、フーシュちゃん」

「それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 一度寝てはいたものの、まだ気持ちが落ち着ききっておらず、少しネガティブな思考に陥ったこともあり、フーシュの提案で諸々の説明は明日の自分に託すことにした。ユカはフーシュを見送った後、ベッドに横たわる。すぐに眠ろうとしたが、雑念が頭をよぎり、掛け布団を強く抱きしめる。


「明日、治ってたらいいのにな」


 そんなことはないと分かっていながら、ユカは願いを祈り、やがて静かに眠りについた。



 

 …………


 ……


 …




 とはいえ、前日の昼間に一度眠りについてしまっていた以上、早寝だったこともあり、翌日ユカの目が覚めたのは、まだ日が顔を出す前の、辺りがようやく確認できる時間といったところだった。目を覚まし、改めて昨日の出来事を振り返り、まだ不安が心を占めていることに重い溜息をつく。


「……食堂、開いてるかな」


 ふと、空腹に気付いて呟いた。いつも食堂に行っている時間は他の生徒よりも圧倒的に早いとはいえ、それでもちらほら生徒の姿は目に入る。何より、いつもの時間は彼が必ずそこにいる。まだ話をする勇気の出ないユカは、昨日のようにフーシュに食事を部屋まで持ってきてもらう選択肢もよぎったが、ひとまず誰もいないであろう食堂へ向かうことにした。


 薄暗い道だがすっかり通りなれた道を行く。夏に差し掛かるというが、まだまだ早朝は肌寒い。ユカは辺りを見渡し、周囲に人気がないことに安心しながら、前へ歩む。


 食堂につくと、扉は既に開いていた。中からは大人数分の料理の調理の音が響いている。フーシュは恐る恐る中を覗き込み、誰もいないことに安堵しながら、食事を受け取る場所にて、中にいる近くの女性に声をかけた。


「すみません、早いんですが、食事はいただけますか?」

「あら、今日はいつもよりももっと早いのね。もっと寝てたっていいんだよ?」

「ええ、ですがちょっと、目が冴えてしまって」

「ふふっ、あなたもそういうのね」

「も?」


 聞いた瞬間は、ユカはそれが同じ調理師の人が言ったのかと思ったのだが、それが間違いであるとすぐに気付くこととなる。と、そのとき、奥のほうで行われていた調理師が完成の声を上げた。


「ちょうど今、最後の品が完成したみたい」

「そうですか、よかったです」

「できたてが味わえるわね。そうそう、良かったら上で待ってる子も呼んできてくれるかしら?」

「え」

「あら、その必要はなかったみたいね」


 二階に生徒がいる、という事実に驚いている暇はなかった。彼女の言う通り、後ろを振り返れば、そこには――


「……あー、どうしよ、これ」

「……シガナ、さん?」


 階段の途中で立ち止まる、シガナの姿があった。

いろいろお伝えしたいことはありますが、今まで書いていた内容はよく考えたら活動報告に書けばいいのでは?と思ったので、今後そちらを中心に活用しようと思います。よければご覧くださいませ。

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