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『はてさて今の魔法こそが音属性の真価なのか!着弾地点には何1つ魔法による影響は見られないが、生み出す音の衝撃は他の魔法とは比べ物にならない!』

『怖いのは初級魔法の魔力量でこの音量ってとこかしらね』

『そう!そして噂のゲルセル討伐の時にはもっと大きな音が鳴り響いていたのだろう!と、ユウシの魔法は一旦さておき!それよりもボクは、シガナの防ぎ方が気になって気になって仕方がないよ!彼は一体何をしたのかい!?』

『おそらくだけど、あれは魔力体外流動の応用、魔力表層流動のその先の技術ね』


 自身の体表に魔力を流す魔力体外流動から応用し、魔力の流れる経路を武器や防具等に延長する技術である魔力表層流動のさらに先。レシーナが示したのは局所的に魔力の流速を下げたり、同じ場所に経路を上から重ねたりすることで魔力密度を高め、その場所の魔法に対する防御力を大きく増加させる魔力重装と呼ばれる技術。


 より緻密な魔力制御が要求されるこの技術は、難易度で言えば中級魔法の習得難度を越しており、かく言うレシーナも習得したのは教師となった後のこと。そんな魔力重装をシガナが発動したのだと推測したレシーナだが、不可解な点もある。それは無知を装い生徒に潤滑に解説を行っているフュルカも考え付いたことであった。


『でも防御力を上げる魔力重装だけじゃ、他の人の球弾魔法を受け止めた上で動かすことの説明はできないと思うんだけど?』

『そこは私も不確かね。考えられるのは、杖から判断したけど、シガナが使う属性が無属性であることかしらね。他の属性にも染まる無属性だからこそ、相手の魔力と混ざって操作を可能とした……とか?』

『なるほど!ちょっと何を言っているのか分かりません!』


 フュルカの言葉は実況として正しいのかは疑わしいところだが観客席の生徒達の代弁そのもの。座学の成績が悪い生徒は解説を理解するのを諦めて目の前に集中し、成績の良い生徒は自分たちの知っている知識と多少食い違っているレシーナの解決に首を捻っていた。


 というのも、講義において無属性は、幼少期から魔力器官が成長せず、魔力量が極端に少なかったり魔法の才能がない生徒に多く見られる属性の1つ、というもの。無属性の適性、というよりも適性が無い、という表現の方が正しいともされるその属性は何の魔法的な性質も有さない無属性は攻撃においても防御においても他の属性と比べて劣っている。


 強いて言うのであればあらゆる魔導具の使用に関して、内部の魔導石が魔力を変換しやすく、他の属性の適性者よりも長持ちする利点がある程度。それも魔導具の交換費用を気にしなければ全く利点でもなく、講義を受けた生徒達は、無属性に何の魅力も感じていないのが当然であった。


『悪かったわね、私にも分からないことはあるのよ!』

『と、少々解説としては不安だけど、一旦全てを忘れよう!だって試合はまだまだ続いているからね!』


 レシーナの解説には彼女の推測が多分に含まれており、彼女が自分で言う通り、全く正しいことを話しているわけではない。しかし実際にシガナは想像もつかない方法で音球を防いでおり、滅多にいない新規属性の使い手であるユウシに引けを取らない注目を集めていた。そんな中、シガナは生徒達のざわめきを受け、自らの失敗を悟った。


「ちょっと張り切り過ぎちゃったな~、流石に抑えるかぁ」


 そう言って自重する意思を見せたシガナだが、ユウシが同様に音球を放つと、今度は飛来する音球に魔力で覆った杖で触れ、優しくなぞるようにして軌道を逸らすことで攻撃の直撃を避けて見せた。


 普通の人が真似すれば、杖で触れた途端に破裂し、音の衝撃を諸に喰らってしまうような方法。だがシガナは杖に魔力を纏わせ、音球の触れる時間を最低限にし、過度に力を加えないことで軌道逸らしを成し遂げた。これは先ほどの技と比べれば幾分か見劣りしてしまうものだったが、その難しさを知っているレシーナは感心するあまり拍手していた。


『相手の球弾魔法の形を全く崩さずに受け流しているし、魔力も適量で制御も極めて安定。まさに理想的な魔力重装ね』

『レシーナ先生、今度は大丈夫なのかい?』

『あれは私もやったことがあるし、間違いないわ』

『うんうん、それは良かった!』


 ほんとに僕の音球を、魔法なしにどうにかできちゃうんだ。


 ユウシも1度目の音球こそ少し魔力は多分に込めてしまったが、2度目は今の実力からすれば満点と言って良い程に綺麗に球を形成して放つことができた。話したこともない数多の生徒の目に晒される緊迫状態の中、ユウシは理想的な戦い方をできている。


 しかし、如何にユウシが新規属性を扱おうとも、精度の良い魔法を放つことができようとも、シガナにはその攻撃が届かない。更に音球を追加で放つが、彼は1歩も動かずに弾き続け、万が一にも失敗するとは思えない。まだ始まって1分経った程度ではあるが、既にシガナの勝利を確信した生徒までいる。次第に期待がユウシからシガナに移り行く中、普通であればどうしようもない状況に思えて諦めてしまいそうだが、ユウシは。


 やっぱりすごいなぁ、シガナは。かっこいいなぁ。


 対戦相手であるにもかかわらず、シガナの技を間近で見て、目を輝かせて憧れていた。ゲルセルにたった1人で立ち向かい、虹の光を放ちながら駆け抜ける姿が脳裏に焼き付いて離れないユウシは、シガナが自分と測れないほどに実力が離れていることは既に分かり切ったことである。魔法を使わずに音球を無効化されるとまでは思いもよらなかったとはいえ、今更実力の差を見せつけられたところで、それだけで試合を諦めるなんてことはなく、むしろその心はいつもの平常心に近づいていた。


 それに、ユウシにはまだまだやれることはある。数回何の変哲もない初級基本魔法を放つことで、多少の身の強張りはあれども、思っていたよりも魔法はいつも通りに放てることが分かったユウシは杖を握りしめ、少しずつ自ら魔力を自発的に込め始める。魔法と魔法の間隔が少しずつ短くなり、周囲もその変化に気付き始めた。


「-僕の魔力!音の力で、球を撃ち出して!『音球』!」

「お、いいねいいね~」


『ここで!ユウシの攻撃間隔がだんだん早くなってきたー!?』

『詠唱も短くできてるわね。流石に慣れてきたのかしら』

『あっ、加えて少し攻め方が変わってきたか!?』


 長々と詠唱を口にするのが煩わしくなったのか、初級魔法ではあまり難しいことではないとはいえ、ユウシは無意識のうちに詠唱省略をして成功させていた。また音球を放つたびにその速度を変化させてみたり、先週から本格的に練習し始めた軌道の変更を織り込んでみたりと、シガナの不意を突くために様々な工夫を凝らし始める。魔法に、杖に、シガナに集中するユウシの目にはもう観客の姿は映らず、放たれる音球の制御を誤ることは一度もなかった。


 しかし、余裕の表情を崩さないシガナは、数々の工夫が無駄と言わんばかりに動きに変化を見せなかった。同じように来たる全ての音球に杖を構えて迎え打てば、同様にして全てが逸らされ、明後日の方向へ飛んでいく。何度も何度もフィールドの端々で音球の炸裂音が鳴り響き、やがて生徒達もその炸裂音に慣れていく。


『ユウシはいろいろと球弾魔法に工夫を見せるが!それでもシガナには及ばないー!』

『そうね。ちょっと工夫というには拙すぎるかしら。これが『球群』にでもなれば話は変わったのかもしれないけれど……』


 そう言って今もなおただの音球を放つユウシを見て、レシーナは首を横に振った。彼女はユウシが『球群』を、それどころか攻撃魔法はただの球弾魔法しか使えないということに気が付いていた。


 加えて、ユウシは様々な工夫を凝らしたとはいえ、速度の変化は視認してから防御が間に合うほどで『速球』には遠く及ばず、軌道の変化は一度折れ曲がるのみで『操球』のように自在には動かせない。まだ球弾魔法の応用を1つも満足にこなせない事実に、観客席の生徒達も薄々気が付き始めていた。


 新規属性の使い手で、ゲルセルの討伐を成し遂げた男子生徒、ユウシ。しかしその実力は初級基本魔法、『球弾』しか扱うことができない程度。対して座学ランクAを取った得体の知れない男子生徒、シガナは試合開始から動くことなく、先生も感心するほどの魔法の受け流しを一度も失敗することなく繰り返している。代り映えのない音魔法と回数を重ねる程凄さが増すシガナの技。生徒達はレシーナの考察もあってユウシの限界を感じ取り、多くが興味を失い、視線を外していた。


 変わりつつある観客席の空気に気付いたシガナは上から降ってくる音球を弾くと、一度杖を下ろし、動きの変化に気を引き締めたユウシに向けて声をかける。


「ほら、何度やったって同じだよ?」

「……!」

「時間も半分を過ぎて残り2分ほど。そのまま自分の失敗を狙い続けてもいいけどさ」


 そしてシガナは上から目線でユウシに挑発的に笑って見せた。


「他に何かないのかな?それとも、もう終わり?」

「……大丈夫だよ、シガナ。忘れてないよ?」

「そう?ならよかったよ」

「うん、ありがとう」


 しかし追い詰められているように見えるユウシもまた、表情には微笑みが見えていた。ユウシには、シガナが煽るような言葉を選んでいながらも、思考が狭まり、音球に囚われ、もう1つの新魔法を忘れていないかという質問が隠されていることに気が付いている。そうした気遣いに対して頭を下げて礼を言い、会話の詳細がききとれていない観客たちはユウシの行動に首を傾げている。


『んんー?2人は何か話してるみたいだね?』

『時間をとってくれたことに感謝でもしてるんじゃないかしら?』

『なるほど!……ん?でもまだ杖は光ってるね?』

『続行はするみたいね。……!』


 結果は見えているけれど、そう言おうとして、レシーナはしかし口を噤んだ。なかなか詠唱が始まらないかと思えば、杖の光は徐々に大きくなっていることに気が付いたのだ。


「さーて、どうなることやら?」


 気づいた生徒はシガナを除いてまだいない。だがこの後の詠唱を聞けば、ユウシが新たな試みをしようとしていることを知るだろう。一足先にその効果を知ってはいるシガナも見たことがあるのは万が一失敗してもいいようにと少量の魔力で形成されたものだけで、今なお光を増す杖を見て、油断したままではいられないな、と杖を構えなおしていた。


『もしかして『大球』でも使うのかしら?』

『確かによく見れば、先ほどよりも魔力をこめているみたいだね!ってことは、もしかして耳を塞ぐ準備が必要か!?』


 魔力の高まりからゲルセルを討伐した音魔法が飛び出るのかと期待するフュルカ。その言葉にいくらか生徒達が興味を取り戻し、中には言われた通りに耳に手を寄せる生徒もいたが。深呼吸をしたユウシは、今日一番の集中と共に、新たな詠唱を紡ぎ出す。


「-僕の魔力!その力を音に変えて、響かせて!響いて揺れて、震わせて!ぐらぐら揺れる力を込めて、球を作って撃ち出して!『震球』!」


 『音球』に比べ、倍近い時間をかけ、倍近い魔力をこめて作られた新しい魔法、『震球』。観客席からは聞こえないが、小刻みに揺れ動く震球からは甲高い音がずっと鳴り響いていた。




『んんん!?なにやら違う詠唱が飛び出したー?』

『気のせいかしら、あの球弾魔法、輪郭がぼやけて見えるわね』


「やっと出たわね、新魔法!」

「見た目はさっきまでの『音球』と変わらねえな?」

「詠唱内容から察するに、振動に重きを置いた魔法なんだろうか」


 満を持して公開された新魔法に、周囲の生徒のユウシの評価を聞いて不機嫌だったモモコは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出し、テイガやクロアスは『音球』との違いを考察している。


「あっ、ユウシくん撃ち出した!」

「どうせさっきみたいにどこかに放り出されて終わりじゃないですか?」

「いや、でも足元狙ってないか?」


 震球はまっすぐ前、ではなく、やや下方に向けて放たれた。果たしてそれは狙い通りなのか制御ミスなのか。震球はシガナに届くことなく、彼の1メートル程手前にて地面に落ちようとしている。


「あれ、ユウシしゃがんだな」

「はあ?何してんのよ?」

「ん?よく見たら、地面に手をつ」


 ユウシに目を凝らしたヒカゲは最後まで言葉を言い切ることはできなかった。震球が地面に着弾し、光を放って弾けると。次の瞬間、このフィールドと観客席全体が揺れた。それは例えるなら、建造物が地表付近から破壊され、上部の瓦礫が地面に落ちたかのよう。大きな生き物が飛び上がり、重力に従って勢いよく地面を踏み鳴らしたかのよう。とはいえ初級魔法でしかないその魔法では、揺れはそこまで大きくなかったが、全く予想していなかった生徒達からはいくつもの悲鳴が漏れ、テイガ達も咄嗟に身を屈めて座面にしがみついた。


『ゆ、揺れたぁ!?』

『びっくりしたわね、思わず剣に手をかけちゃったわよ』

「……は、ははは、なんつー魔法だよ」

「ホンット、ビックリしたわね……」


 初見の魔法による想定外の揺れに、教師2人も実況を忘れて素の反応を見せ、テイガは乾いた笑いしか出ず、モモコは揺れが収まってもまだ椅子から手を離せなかった。そうして次第に何が起きたのかを理解した観客席の生徒達がざわめきだす中、フィールドでは既にユウシが次の魔法の準備が整い、再び詠唱を始めている。その目は震球の揺れを間近で味わい、立っていられずにしゃがみ込んでいたシガナを真っ直ぐ見ていた。


「まさか、次はこの魔法をシガナさんにぶつけるつもりか?」

「でも球弾魔法であることにかわりないし、効かないんじゃ……?」

「いや!今度は何とかなるに違いねえ!」


 ユウシの詠唱が終わり、杖の先に再び震球が作られる。対するシガナは少し顔を強張らせながらも、やはり回避する選択肢は取らないようだ。両者向かい合って杖を構え、ユウシが先に杖を振り、震球はよろけながらも立ち上がったシガナの胸の位置に目掛けて撃ち出された。観客席の反応は震球を見る前と打って変わって、シガナが変わらず受け流す考えと、今度はそうはいかずに負けてしまう考えでおよそ半々に分かれた。それほどまでに『震球』を体感したことによる衝撃は大きかった。


 生徒達が息を呑み、シガナに迫る震球を見る。シガナは杖をやや角度をつけて前に突きだし、変わらず受け流しの構えを取る。ユウシも震球についてはまだ軌道をずらす余裕はなく、震球は吸い込まれるかのようにシガナの杖に近づいた。そして、彼の杖に震球が触れ-


 震球は、杖に弾かれ、進路を上方向に変えて通り過ぎてしばらく漂い、着弾より先に崩れて霧散してしまった。


 だが。シガナは震球を弾いた直後、その杖を地面に落としていた。


『おーーーっと!?シガナはまたもや球弾魔法を受け流した、のかと思われたが!何が起きたのか、シガナは杖を落としてしまった―!?』

『おそらく球自体の振動がシガナの腕にも伝わったのでしょうね』


 レシーナの推測は正しかった。触れたのは一瞬のこととはいえ、そこそこの魔力が込められた震球の影響は小さくなく、シガナの手の感覚は一部麻痺を起こしたのか、杖を拾い上げようとするも違和感を隠し切れない様子である。シガナはそんな現状が予想外と言わんばかりに眉をしかめており、その表情に気付いたモモコはガッツポーズをした。


「ユウシ!今がチャンスよ!もう1回やれば勝てるわ!」

「行け!トドメを刺せ!」

「テイガくん、言い方が怖いよ!?」

「だが間違いなく今日一番の狙い目だ」


 そんなチャンスにユウシ選んだ魔法は『音球』だった。あっという間に完成させ、放ったときにはまだシガナは杖を拾うことができていない。それをみてテイガ達は既に勝利を確信し、大きな歓声を上げていた。




「-僕の魔力!音の力で、球を撃ち出して!『音球』!」

『この空前のチャンスにユウシが選んだのは『音球』!まだシガナは準備ができていないー!』

『これは流石に決まったかしら……!?』


 音球と震球、結果だけ見れば間違いなく震球の方が効果は大きい。だがユウシは今優先すべきなのは、シガナが杖を手に取り、準備を整えるよりも先に攻撃を行うことだと判断した、というのは音球を放った後に自分を納得させる言い訳かもしれない。


 正直に言ってしまえば、ユウシが音球を放った時には、ユウシは特に何も考えていなかった。ただ勝機を逃さぬように、と急いで魔力を込め、同時に詠唱をしていたのがすっかり慣れた魔法、音球だった。結果、突然のチャンスにも関わらず、ユウシの頭は冷静とは言い切れなかったが、慣れた魔法の制御は多少魔力を過分に込める程度の失敗で済んだ。またその失敗すらも威力の向上につながっており、ユウシは理想以上の形でシガナに追撃を行うことに成功した。


 ユウシが杖を振るい、音球はシガナへと撃ち出された。まだ痺れが抜けきらないシガナは杖を拾うこともできていないが、仮にそれが間に合い、音球に杖を向けたところで、感覚が鈍っている彼が同じように音球を受け流すことは困難だろう。何せ少しでも手元が狂えば、音球は至近距離で破裂してしまう。そして顔の近くで音球が壊れれば、音の衝撃から身を守ろうとして御守り石が発動することは既に検証済みである。


 絶好の機会に放たれた勝利の一撃。生徒達からも歓声が上がり、教師も思わぬ形勢逆転に声を荒げている。


「(これで決まってくれれば……!)」

「お見事だよ、ユウシ……なんてね」


 勝利を祈ったユウシの耳に届くシガナの言葉。そして目に入ったのは、シガナの申し訳なさそうな、しかしどこか嬉しそうな顔だった。


 ユウシの頭は理解が遅れて一瞬止まったが、放たれた音球が止まるわけではない。そうして音球は痺れた手を抑えるシガナに迫り、


 目と鼻の先で静止した。


「……え!?」

「杖が無くても同じこと、できちゃうんだ」

『なななんと!?杖がなく、絶体絶命に思えたシガナは!今度は杖無しに音球を止めて見せたー!?』


 魔法使いが杖無しに球弾魔法を止めて見せたことに、驚かない生徒はいなかった。更にシガナが開き直ったかのように空いた手をひらひらと宙になびかせて見せれば生徒の間でざわめきが起こり、ユウシも思わず力が抜けて杖を地面に落としていた。


『……そう、ね、別におかしいことじゃないわ』

『レシーナ先生、それはどういうこと?』

『だって私も、私が教える生徒達も、剣や盾で同じことをやるわけだし。要は素手でも受け流したりはできるのよ』


 魔力表層流動、並びに魔力重装は身体や、所持する杖、武器等の表面にて用いられる技術。また、魔法使いにとっての杖とは、魔力の吸収や集中、また魔法の潤滑な放出の補助、手元での暴発の回避など、魔法の発動を助ける媒体の一種。


 つまり、魔力重装を行うこと自体には、杖は一切関係しない。もちろん失敗したときのことを考えれば素手よりも杖を介して魔法に触れる方が安全だが、今回のシガナのように、そもそも相手の魔法に触れていないのであれば、そもそもどちらでもいいことであった……というのは、レシーナの推測があっている、という前提のもとで成り立つ話だが。


『じゃあ、レシーナ先生もああやって空中で止めることも……!?』

『私には無理!なんなら私もあの子から習いたいわよ!』


「よく考えたら、もしかしたらこれ、魔法の一種かも。ごめんねユウシ?」


 声を荒げているレシーナを見て自身の技を振り返り、それが事前の宣言に背いているかもしれないとして謝罪するシガナだが、今のユウシには少し情報量が多すぎて頭を整理しきることができなかった。何分確信していたといっても過言ではない勝利を覆され、ユウシは気が気でなかったのだ。


 そんなユウシの心境を察したシガナ。はたしてそれは正しいのか。少し浮かれていた彼は、目の前の音球が消えた後、杖を落としているユウシを悪戯な笑みで急かす。


「まあ、杖は使ってないからセーフってことで。それよりユウシ、もうあと1分だよ?」

「っ!」

「そうそう、最後まで分からないからさ、ね?」


 シガナに残り時間について言われると、ユウシは急いで落とした杖を拾って魔力を込め、詠唱して魔法を放つ。だが焦りからか制御は安定せず、球の形もかなり乱れてしまっている。それは放ってもシガナに届かないこともある程だった。


「残り30秒~」

「-僕の魔力!音の力で、球を撃ち出せ!『音球』!」


 ユウシは音球を放つ。不格好ながらにそれはシガナの元へ到達する。だがもはや痺れが抜けても杖を持とうとしない彼は素手を音球に向けており、魔力重装を展開して音球を弾き、杖がなくとも音球を防ぐことに成功していた。


『今度はシガナは素手で受け流しをやって見せたー!』

『もう彼には球弾魔法は効かないとみて良さそうね』

「残り20秒~」


 魔導石を輝かせるユウシ。音球以上にこめられた魔力は、それだけで次の魔法が『震球』であることを簡単に予想させる。


「-僕の魔力!その力を音に変えて、響かせて!響いて揺れて、震わせて!ぐらぐら揺れる力を込めて、球を作って撃ち出して!『震球』!」

「ごめんユウシ、一応躱しておくね?」

『こ、ここで!?シガナは避けた!普通に避けたー!?』

『まあ、むしろよく今までそうしなかったって話よね』


 再び震球は放たれたが、今度はシガナは撃ち出されるのと同時に横へ歩き、魔法継続の為されていない震球は当然軌道の操作ができず、彼が元居た場所を通り過ぎてフィールドの端に落下。近くの観客席が揺れ、大きな振動に一部の生徒の悲鳴が響く中、シガナは無情なカウントダウンを始めた。


「10、9、8……」

「ーっ!」


 時間が過ぎれば、シガナは魔法を使い始める。そうなれば、まともな防壁魔法を使えないユウシは10秒もあれば負けてしまうだろう。


「ろーく。ごー……」


 焦って杖に魔力をこめるユウシを見つめるシガナのなんと悪い笑みであることか。彼は最後のユウシの魔法を見ようとカウントダウンを敢えて遅くしているが、急ぐあまり、かつての魔力暴走に似た兆候すら見てとれるユウシの杖の輝きは今日一番であり、フュルカもレシーナも、ここにきて失敗するのではないかと少し肝を冷やしていた。


「さーん。にーー……」


 少しの違和感。それはユウシがなかなか詠唱を始めなかったから。しかしそれはユウシが魔力の制御に苦闘しているからだろうと、シガナは思ってしまった。だから彼は杖を拾うことも、事前に魔力重装を展開することもせず、呑気にカウントを進め、最後の数字を数え始めた。


「いーーーち」

「-僕の魔力!その力を音に変えて、響かせて!響いて揺れて、震わせて!」


 最後の1秒を数えたとき、ユウシは詠唱を開始。シガナはユウシが最後の『震球』の制御に成功したと分かって安心して、カウントを終えようとして。


「-ぐらぐら揺れる力を込めて、宙に解き放て!」

「っ!?」


 ユウシの詠唱が『震球』でないことを知って我に返り。


「-『振動波』!」


 ユウシの魔法が発動した直後。頭を穿ったと錯覚するほどの強い衝撃で、シガナの意識は途絶えた。


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