表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/64

57

「それにしても、まさか先生にまでユカさんに教えたって話が知られてるとはね~」


 周囲の生徒達からの、興味や期待の中に混じった、いくつもの刺すような鋭い視線に肩を竦めるシガナ。そのまま当事者であるユカをチラリと見たが、他の一同同様、シガナ対ユウシという全く予想していない対戦への驚きから言葉が耳に入っていなかったようだった。


「マジか、お前とユウシ、か」

「でも、確かに考えてみればおかしくはないわね?」

「ああ、表記上では魔法ランクは等しいし」


 掲示板にて示される2人も魔法ランクは共にD。すなわち、杖に魔力を流して光を灯すことができ、初級魔法を練習する者が該当するランク。クロアスの言葉にテイガ達は納得したように頷いたが、シガナのランクに収まらない実力を知るユカはそれでも口を噤んだが、ユウシはシガナが秘密にしていることも忘れて首を横に振っていた。


 当然テイガ達はユウシの仕草から何か言いたげであることが分かったが、その意図を尋ねるより先に、シガナがユウシの手を引いて立ち上がらせた。


「ほら、もう呼ばれてるから行かないと」

「そっ、そうだけど」

「よし!ユウシ、俺の代わりにシガナをぶっ倒してこい!」

「ええっ!?」


 恨みというほどではないが、日頃から弄ばれているテイガはここぞとばかりにユウシを応援するが、シガナの実力の一端を見ているユウシにはそんな自信が湧くはずもない。それに。


「大丈夫よ、シガナの魔法とかは全く知らないけど、とっておきの魔法があるんでしょ?」

「だって、それは全部、シガナと一緒に練習したんだもん!」

「「「あ」」」


 シガナの協力のおかげで今の実力を手にしたユウシは、当然その過程を全てシガナに知られている。対戦相手がユウシの魔法を知らなかったら、中には所詮ただの音であると油断して、攻撃を避けようともせずにすぐに決着をつけられたかもしれない。そううまくはいかず、相手が守ったり避けたりしたとしても、音や振動による未知なる攻撃を適切に対処できず、すぐに勝利とはいかずとも、ある程度の善戦はできたかもしれない。


 だが、シガナはユウシがどの精度、またどの規模まで魔法を操れるのか。そして音魔法の特徴、更には初お披露目のつもりだった『震球』や、今日どうやって戦うかと事前に計画していた作戦についても知ってしまっている。


 対してユウシはシガナの全てを知っているわけではないが、知っている範囲だけでも、とても同等であるとは思えない。ユカと同精度で球弾魔法を使いこなし、普段使う属性こそ無属性で、他の全ての属性に威力や効果で劣っているが、やろうと思えば基本属性の全てを同時に扱える。また最近は見ていないが、≪常緑の森≫にてユカの魔法を打ち消した、詳細不明の魔法を消す技も恐らく使えるだろう。


「これは模擬戦だがら結果は気にせずに楽しめばいいよ、っていうのはあまりに上から目線で傲慢な意見だし、不公平を理解したうえでする提案じゃないよね」


 緊張で震えたり顔を強張らせたりしながらも、自身の実力を知らない相手を驚かせるのが楽しみだったユウシの表情がすっかり翳ってしまったことに気付くシガナ。初めての魔武戦、せっかくなら勝ちたいし、そうでなくとも良い戦いはしたい。そんな風に話していたユウシを思い出す彼は、ある提案をした。


「だからこうしない?自分は最初の5分間、魔法を一切使わないし、ユウシに攻撃しない」

「……え?」

「加えてユウシの攻撃を避けても良いけど、何度かは必ず避けずに対処しなければいけない」

「おいシガナ、お前正気か!?」

「そ、そこまでしなくてもいいよ!」


 魔法を使わないとは、すなわち『球弾』等の攻撃魔法のみならず、防御魔法も使わないということ。そんな中で『音球』を直接受けるというのははっきりいって自ら負けに行くようなもの。特に『爆音』を間近で経験したことのあるテイガは一種の自殺行為ではないかとシガナの正気を疑い、あまりに自分に有利過ぎる条件を貰って情けをかけられた気持ちになったユウシはすぐに提案を断ろうとするが、シガナはユウシのことを鼻で笑って見せた。


「ちなみに、こんな条件を付けても自分はまだ、勝てると思ってるけど?」

「か、勝てる?」

「何を言ってるんだ、シガナさん……?」

「シガナくん、本当なの?」

「信じてくれても嘘だと思ってもどっちでもいいけど、自分は今回そのつもりでいくから。さて、先に先生に話しておこっと♪」


 最後にシガナはユウシに不敵な笑みを見せてから、先にその場を離れて行った。今の会話が聞こえていたのだろう、周辺の生徒からシガナの話が生徒全体に伝播し、観客席は騒然となっている。


「あいつ、何考えてんだ?」

「ユカ、シガナからいろいろ教わってんでしょ?シガナが何するつもりなのか知らないの?」

「いくつか可能性なら浮かびますが、それでもユウシさんの魔法を防げるとまでは……」


 テイガ達も素直に話は受け入れられず、かといって学校で一番知識量が豊富で、神出鬼没で底が知れない彼の言葉が全くの偽りには思えない。加えて比率としてはユウシの方に傾きはするが、どちらも日常的に交流する相手であるために、ただ単純に片方だけを応援することもできない。


「あの人は一体何者なんです?男性の癖にユカ様とも仲良さげですし」

「噂も他の人に比べてハッキリしたものがないしな」

「うーん……あ、ユウシくんははやく準備しなきゃ」

「あ、うん」


 あまりの情報の多さと衝撃に、立ち上がることも忘れていたユウシは慌てて準備をして席を離れる。その顔にはまだ不安や心配が残っていたが、魔武戦という実力を出し切って戦う楽しい場で辛気臭い顔を続けるユウシが気に入らなかったのか、モモコが立ち上がり、その背中を強く叩いた。これにはユウシはよろけ、テイガ達も続けて手を伸ばしたモモコを止めようとしたが、次のモモコの手はユウシを転ばないように支えるだけだった。


 そうして振り返るユウシの目には、モモコの強気な笑顔が映る。


「ユウシ、私とテイガは初めての魔武戦は2人とも勝ったわよ」

「え……あ」

「まさかアンタは勝たないとか言わないわよね?」


 それは責めるような口調ではなく、モモコなりにユウシを励ます言葉。幼少期のタユニケロの、テイガや自分を焚き付けて競争しようとするときの挑発的な態度。懐かしさから心の憂いが軽くなったユウシの肩に手を置き、テイガもモモコに乗っかってユウシを焚きつける。

 

「そうだよ、せっかくシガナも油断してんだ、ここで勝たなきゃいつ勝てんだよ?」

「それに最初から諦める試合なんて何が楽しいのよ?全力で勝ちに行きなさいよ!」

「……うん、そうだった。ごめん」


 ユウシは杖を置き、両手で頬を叩いた。ひりひりとした刺激に目を覚ましたユウシは、その手に杖を収める頃にはテイガ達に自信に満ち溢れた表情を見せていた。


「ユウシくん、ファイトだよ!自分の力を出し切って、頑張ってね!」

「持ち前の運の良さを味方につければ怖いもんはない!この俺が言うから間違いないさ!」

「あなたの頑張りは他の人以上に知っているつもりです。その努力が実ることを願っていますね」

「また男性なのにユカ様と……ま、まあいいですよ、精々頑張るといいです!」

「音属性……希少で強大な新規属性の力の一端を見れること、とても楽しみにしているよ」

「うん、うん!みんな、ありがとう!」


 フーシュ、テツジ、ユカ、ソユノ、クロアスから応援の言葉を貰い。


「会場の注目を全部集めちゃえ!……なーんて」

「うん、ビックリさせてくる!」

「!」


 ヒカゲの言葉も欠かさず拾い。そして最後に。


「俺らにお前の力、見せてくれ!」

「ユウシ!負けんじゃないわよ!」

「うん!僕、行ってくる!!」


 親しい2人の厚い信頼の言葉を胸に、ユウシは控室へと駆けだした。



 

 …………


 ……


 …


 

 

「……えへ、杖忘れてた」


 10秒後、気合を入れた拍子に杖を席に置き忘れていたユウシが取りに戻り、テイガとモモコは大事な場面でのユウシらしさに大笑いするのだった。


 ー ー ー ー ー


「こちらが御守り石になります」

「あ、ありがとうございます」

「それでは呼ばれるまでしばらくお待ちください」

「は、はい」


 初対面の先生から受け取る御守り石に若干の人見知りを発動させるも、なんとかスムーズに受け取ることに成功したユウシは彼の去った部屋で1人、長椅子に座って息を吐く。思いのほか控室は静かで、観客の生徒達の声もあまり届かない。頭を落ち着かせたユウシは改めて、対戦相手の顔を思い浮かべる。


「シガナと、かぁ」


 冷静に考えれば考える程、ハンデを貰っているとはいえ、実力の及ぶ相手だとは思えない。何せシガナは恩人であり、英雄や勇者とさえ感じる生徒である。ゲルセルを前に絶望した自分に光を見せようと放った虹色の魔力の輝きを思い出し、ユウシは思い出に浸っている場合ではないと首を横に振った。


「でも、勝ちたいもん。負けたくないもん」


 シガナのことだから、やり方によっては自分でも勝つことができるような条件付けなのかもしれない。とはいえ勝つ自信があると言っていたし、そんなことはないのかもしれないが、可能性がないよりかはそう考える方が断然良い。ユウシはそこにテイガ達の励ましの言葉を加えて勝利への渇望を湧き上がらせつつ、自分が勝つための鍵を1つ1つ再確認する。


 1つ、5分間、シガナが全く魔法を使わない点。なによりもこれが一番大きい。最初から『連弾』の魔法を放たれてしまえば、ユウシにそれを妨げる魔法はない。防壁魔法の一種、『無音壁』は使えるようになったが、音のみ遮るその壁は、それ以外のあらゆるものに干渉しない。すなわち、5分を過ぎればユウシの勝ちはまず無くなると言っても過言ではない。 

 

 1つ、シガナがその間攻撃を行わない点。これにより、シガナが武技等で不意打ちを行うといった想定を行う必要はなく、完全に5分の間は安全が保障された。シガナが落とし穴を掘り、そこに誘導して落とした場合など、抜け道はいくらでもあるのかもしれないが、おそらく今回のシガナはそんなことはしないだろう。


 1つ、シガナがこちらの魔法を避けない時がある点。これも勝利を狙う上で重要である。なにしろ『音球』も『震球』も、相手に触れれば少ない魔力で大きな破壊力を生む可能性を秘めた魔法である。どちらも顔を狙って当てることさえできれば、その時点で勝利を得ることもできるかもしれない。


 これら3つはシガナが口にしたことであり、その他にも3つ、自分がシガナに勝っている点は思い浮かぶ。


 1つ、自分が使う属性、『音』。その属性により、他の生徒達を驚かせるような魔法の行使が可能となる。……『爆音』を用いないことであまり凄い魔法ではないと判断されたら、などと思考が逸れかけ、ユウシは慌てて元に戻る。要は大きな破壊力を得る魔法を使えるということである。


 1つ、シガナのおかげで手に入れた杖、『ブラドの杖』と名付けた杖。ネーミングセンスのないユウシがテイガ達に頼ると、その禍々しさから呪われそうな名前ばかり提案されたため、単に素材であるブラッシュデッドを省略したユカの案が採用された。この杖は最高品質級の性能を持ち、他の杖よりも少ない魔力で高威力の魔法を用いることができる。他にも魔力を込める速度が速くなるなどの特徴はあるが、ユウシはまだ使いこなすことができていない。

 

「最後に1つ、昨日形になった、僕のとっておきの魔法」


 シガナとの対戦という衝撃から、先ほどまでつい魔法の存在を忘れていたが、元はといえば、シガナを驚かせるために練習していた魔法である。意せずして本来の目的通りに使う機会を得たその魔法はしかしまだ安定していないために、余程相手が油断し、こちらに魔法を制御する時間がなければ成功しないだろう。だが上手く決まれば使える魔法の中で、最も勝利につながる自信のある魔法である。


『2人の準備が整ったみたい!それじゃあフィールドへカモン!』

「えっ、もう!?」


 1つ1つ順番に確認をしていったユウシだが、今日の新しい作戦を考える前にフュルカのアナウンスにより呼ばれてしまった。慌ててユウシは立ち上がり、この場から移動し、試合が始まるまでの間に作戦を考えなくては、と思ったのだが。フィールドに繋がる扉を開け、平静である少しの瞬間に、それが無理であると悟った。


 今日一番の大歓声。お腹も空き、長時間の観戦にて集中力が削がれる生徒も多い昼前の最終試合だが、誰もがユウシとシガナの試合が始まるのを今か今かと心待ちにしている。それは数秒前のユウシにとっては幸いなことで、今のユウシにはとても不幸なことだった。シガナとの戦いを前にして忘れていた緊張を、ユウシは思い出してしまったのだ。


『さてさて!これから始まる試合の注目すべき点、レシーナ先生はどこにあると思います?』


 前に進み、歓声が耳に入り、途端に心拍数が跳ね上がる。これじゃ駄目だと首を振り、作戦を考えなくてはと頭を切り替える。

 

 まずは『音球』。みんなが期待する音属性の魔法を見せて盛り上がってもらう……のは前の作戦では?


 別に変えなくてもいいのでは。でも変えなきゃ意味がない。でもどのみちシガナは5分は攻撃しない。でも貴重な時間を失う。


『どちらもよく知らない生徒だけど……そうね、やはり新規属性がどんなものかは気になるわね』


 前に進み、視界の端に観客席と数多くの生徒達が映る。早い生徒は既にこちらを見ており、目が合った気がして息を呑む。


 ただの『音球』を使ったところで盛り上がるのか?期待外れだ、とがっかりさせてしまわないか?


 それなら『爆音』を使うべきか、いやそれは見ている人たちに危険が、でも期待には応えられるのでは。


 『なる…ど、と、…こで!2…の生徒の……ましだ!』


 前に進み、屋根の下から日向に歩み出る。観客たちの歓声が大きくなり、胸が締め付けられる思いがした。


 そもそも成功するのか?こんなに周りに人がいて、人見知りで緊張しいな自分に同じように魔力制御ができるのか?


 失敗して『爆音』になったらどうするのか?ゲルセル討伐で魔力量が増えた今、被害は更に大きいのではないか?


『……が、ゼイ……言っ…た生……』

『なん……か?』

『…ん……ない…』


 前に進み、所定の位置で立ち止まる。足が震え、両手で支えないと不安になる。それを見たのか、笑い声も聞こえてくる。


 作戦もできてない。期待に応えられるかも分からない。成功するかも分からない。……なにもできない?


 冷汗が止まらなかった。身体の震えも止まる気がしない。それならいっそ、ここで




 全身が凍り付いた



 世界から音が消え


 

 風が顔を吹き付けて、意識が呼び戻された。


 今のは、一体。俯いていた顔を上げると、そこにはシガナがいた。


 なんてことないようにこちらに手を振っている。よく見ると口を開けていて、何か言っているようだ。


「………いた?ユウシ、落ち着いた?おーい」

『おっと、まだ杖に魔力は込めないでね!説明が終わってないよ!』

「ああ、すみません」


 よく見れば、手を振るシガナの反対の手に握られていた杖には光が灯っていて、たった今掻き消えたところだった。


 ユウシはもう一度シガナの顔を見る。やはりこちらを見て笑いかけている。そんな表情が、相手の言葉が認識できるぐらいには、ユウシの頭はいつもの調子を取り戻せたようだ。


 先ほどの風。全身を突き抜ける悪寒。似たような経験を、ユウシは劣火竜と対峙したときに味わった。つまり、あれは強大な魔力に当てられたことによる恐怖。その魔力を発したのは、言わずもがな目の前のシガナだろう、それも周囲の反応を聞く限りでは、ユウシ以外には感じさせずに。


 自分の意識を取り戻すためだけにやって見せたというのか。おかげで確かにユウシは身体の震えが上書きされ、恐怖の原因がはっきりしたことで震えは止まったが、同時にシガナの真なる実力と自分の差を味わうこととなった。


『さて、それではいよいよ魔武戦スッタート、と言いたいところなんですが、ここで!シガナからの提案により!ユウシの新規属性を披露する意味も込めて、シガナはしばらく攻撃をしないとか!』

『分かりやすく例えると、前回の魔武戦のうちのレイアと、その相手のセキラが見せたみたいなことをするってことね』

『そう!さあ、ユウシの音魔法は一体どんなものなのか!こうご期待!』


「ほら、お膳立てはしてあげたよ。5分あげるから、自分のこと、倒せるかな~?」

「……!」


 本当に、シガナは自分のことを助けてくれるし、前に導いてくれるんだから。


 ユウシは杖を両手で握りしめて前に構える。シガナはそれを見て、かかってこいと言わんばかりに両手を広げて見せる。


 ユウシの耳に生徒達の歓声が響くが、今はもう気にしてる余裕なんかない。全力を尽くしても敵うか分からない相手に、頑張って足掻かないといけないから。


 作戦も決まった。とにかく頑張る、それだけだ。今にも勝手に戦い始めそうな2人を見て、気持ちが高まったフュルカは大きな声で試合開始を宣言した。


『それじゃあ!前半戦最終試合!ユウシ対シガナの試合!スッッッターーート!!』


 カウントダウンを始めるシガナに向け、数秒のうちに魔力を込め終えたユウシは詠唱を開始した。


「-僕の魔力!その力を音に変えて、球を作って、撃ち出して!『音球』!……!」

『さあ、まずユウシが使ったのは少々魔力多めの球弾魔法!』

『しっかり安定してるわね』


 少々力が入ってしまったようだが、なんとか制御しきることに成功した。最初から杖に自らの意思で魔力を込め、更に詠唱中も杖が魔力を身体から吸い上げたことで、その音球にはいつもの倍近くの魔力量が込められている。それでも綺麗な形を保ち、まっすぐと前に撃ち出すことに成功し、ユウシはまずは一安心、といったところ。


 だったのだが。


「おー、ちゃんと成功させたね~」

『おっと!?対するシガナはなぜか、魔法を使わなければ避けようともしない!?』

「え!?」

 

 シガナはあたかもただの観客であるかのように、その場から動かずにユウシの音球の評価をしている。彼の杖の魔導石には宣言通りに光は灯っておらず、今は対戦相手であるとはいえ、驚きを隠せずに心配してしまう。だがシガナは音球が目前に迫っても、足を動かすことはしなかった。


 代わりに彼は杖を前に構えた。いかにも普通の魔法使いのように杖を持つが、相変わらず魔導石に光は灯っていない。ユウシはそれが事前の約束のうちの2つ、すなわち5分は自ら魔法を使わないことと、避けずに攻撃を対処することを実行しようとしていることに気付いたが、そこまでは聞かされていないフュルカと観客席の生徒達には全く訳が分からず、レシーナも黙ってはいたものの、その意図をまだ測りかねていた。


 傍から見れば魔法が間に合わず、せめて形だけでもよく見せようとする無駄な抵抗にしか見えないシガナ。このままだと音球はシガナの杖で着弾し、シガナの目の前でその音を響かせることになる。間近で聞いた彼は聴覚へのダメージの大きさから、御守り石の発動条件を満たし、そのまま敗北してしまう。そう思っていたのが大多数であったが、結果は全く異なっていた。


「ギリギリセーフ、っと」

「なっ!?」


 シガナがそう言う数瞬前。シガナに迫っていた音球が突如として急減速した。そのまま音球は次第に止まり、最終的にはシガナの杖の数センチ前で静止して宙に浮かんだままとなる。ユウシは意図しない音球の動きに目を剥き、直撃を恐れて目を瞑った生徒達も目を開け、そのまま瞬いた。シガナはどよめく生徒達の声を聴くと、杖を身に引き寄せ、横に薙ぎ払った。すると音球はシガナの動きに合わせて真横に飛ぶ。


 払ったシガナの杖にそこまで勢いはなく、やがて音球もすぐに勢いを失い、少し進んだ先で地面に着弾した。そして、少しの光を放ち、球は砕け、中から大きな重低音を響かせた。


『な、なんだぁ!?シガナが球弾魔法を打ち返したかと思えば、その球弾魔法はとんでもない音を鳴らしているー!?これがみんなから注目を浴びている2人の生徒達の実力かー!』


 その音の規模だけで言えば、まるで中級魔法や上級魔法の余波による地鳴りのよう。これには生徒達も一時静まり返り、音が止むと驚きと興奮が混じった声で、周囲の友人達と初めて目にする音属性の魔法を話題にして話を弾ませていた。


 その光景だけを見たのなら、ユウシも胸を撫でおろし、第一の狙いは達成したと喜んでいただろう。しかし、目の前で魔法を使うことなく球弾魔法を無効化して見せたシガナを見れば、ユウシは気を抜くことなんてできるわけもなかった。


「ほらほら、あと4分30秒だよ~♪」

「……っ!」


悪魔のような笑みを見せて楽しそうに笑うシガナに、ユウシは気付けば同じく笑みを浮かべていて、しかし自分の表情に気付くことなく杖に魔力をこめ、次の魔法を放つのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ