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「それじゃあアンタたちの成果、見せてもらおうじゃないの!」

「いや待て、おかしいだろ」

「なによ、週末に見せ合うって決めたでしょ?」

「そこじゃねえ、なんでお前はここにいんだよ、補習は?」


 夏前月第1週の休日。学校のグラウンドにて、事前に話していた通りに各々の進捗を見せあおうとして意気揚々と杖を取り出したモモコにテイガが待ったをかける。それもそのはず、昇級試験で点数が低かったモモコは今月補習のために休日返上で勉強することになっていた、とテイガは記憶しており、テイガの言葉にユウシ達も頷いている。視線が集まる先のモモコはその質問を待っていたと言わんばかりに怪しく笑い、胸を張って答えた。


「免除されたわ!」

「は?でも先週は受けてただろ?」

「ええ!そのときに、再試験したのよ!」


 モモコの夏前月の試験の点数は96点で、Dランクまで足りなかったのは僅か5点である。また失点した問題には惜しい間違いがいくつも見受けられ、補習を監督した教師がその結果を見て、Dランク相当の知識はあると判断したとのこと。その上でモモコに春後月の試験を解かせ、ギリギリではあるがDランクの基準を超えていたことを確かめ、成績はEランクのままではあるが、補習は受けなくてもよいとされたのだとか。余談ではあるが、仲間だと喜んでいたソユノはモモコを裏切り者と罵り、教師に叱られていた。


「そういうわけで、私も魔法の練習に参加するわ!」

「……まあいいけどよ?次の試験はDランクになれよな?」

「そりゃなれるわよ、だって実際にその点数とれたんだし!」


 上機嫌で自信満々なモモコだが、そんな彼女の言葉を心から信用する人間は、この場には彼女を除いていなかった。なお今日はシガナとユカ、テツジとクロアスもいるが、その4人も含めてである。クロアスについてはこの1週間モモコにアドバイスをする中で、何か思うところがあったらしい。特に悪いことをされたわけではなく、テツジのように露骨に対応を変えることはないが、いろいろと説明をする際の対象年齢は少し下がったとのこと。


 モモコはそんなユウシ達の視線には気付く様子もなく、我先にと杖に魔力を込め始める。そんな彼女の様子からユウシは既に新たな魔法が形となったことは想像するに容易かったが、その魔法を見て驚きと共に目を輝かすことになる。


「いくわよ!-私の魔力!その力を草に変え、数多の枝を作り出せ!細く鋭く固く強く!とにかくたくさん作り出せ!」

「あ!それ、夢で見たやつ!」

「やはりそうだったか」


 モモコが杖を空に掲げると、その先にあるのはユウシが夢に見たのと同じ光景。木葉の代わりに細く短い枝が次々と宙に浮かんで漂うのを見たユウシの声を聴き、予想通りと頷いたのはモモコではなくクロアスだった。


「ユウシさんの話をモモコから聞いてね。ぐさぐさという擬音と色が茶色というところ、そして植物に関連するところから、それが枝なのではないかと思ってね」

「そうそう!あー、なんで思い出せなかったんだろ!」

「ちょっと!まだ私の魔法、終わってないわよ!」


 クロアスとユウシがそのまま話を続けようとして、まだ杖を構えるモモコに止められる。その杖には新たな光が灯っており、モモコは詠唱と共に杖を振り下ろした。


「-私の魔力!浮かべた枝葉を全て撃ち出せ!これが私の!『刺枝連針』!」


『木葉手裏剣』が相手を切りつける魔法であるのに対し、『刺枝連針』は相手を刺す魔法である。その形状もほとんど細い円柱のようなものであるため、モモコが意図する通りに真っ直ぐに飛び、枝は次々と少し離れた地面に突き刺さる。同じ場所を目掛けて飛ばしたこともあり、全てが放たれると、目標の場所は剣山のように枝が密集して立っていた。


「こんな感じよ!もう完璧と言っても良いわね!」

「モモコちゃん、『木葉手裏剣』のときもだったけど、魔法は覚えるの早いよね」

「そうなの、やっぱり私には魔法の才能があるのかしら!」

「フーシュ、皮肉が通じてねえぞ」


 以前も着想から一週間足らずで形にできており、モモコは自分の実力として自画自賛していた。フーシュはそれを見て、その意欲が少しでも勉強に向けばいいのに、と思っていたが、楽しそうな彼女に敢えて今水を差すことではないとして直接は言わないことにした。


 フーシュの皮肉とささやかな気遣いを貰うも、純粋に褒められていると勘違いしたモモコは今にもスキップしそうなほどに嬉しそうである。彼女は魔法が霧散したのを見届けると、今回その立役者ともなったクロアスに近寄り、その背中をバシバシと叩く。


「でも今回はクロアスのおかげでもあるのよね!ほとんど同じ属性の魔法を使うってだけあって話も分かりやすかったし、ホンット助かったわ!」

「ああ、喜んで頂けてなによりだ」

「この調子でこれからも頼むわね!」


 クロアスはモモコのパーソナルスペースを気にしていないかのような振る舞いに、これまで男女を含めて、他人でそこまでずかずかと踏み込んでくる人を経験したことはなく、最初は驚き戸惑っていた。だが少し話せば彼女に全く持って悪気はなく、多少の自己中心的なところはあれども、全く自分を着飾らない真っ直ぐな性格が異性からモテるクロアスには新鮮だった。


 そうしてクロアスは互いに魔法の案を出し合ったここ数日間を通じて、モモコを他の異性とは少し違った目で見ていた。もちろんそれは友情的な意味合いが強く、彼が一目惚れしたユカとは比べ物にはならないが、傍から見ればいい雰囲気を出しているようにも見える。そんなモモコの楽しそうな姿が、いつも邪魔されてばかりだったテイガには少しつまらなかったのか、彼は白けたような顔をして2人の会話に口を挟んだ。


「はいはい、お前がいい感じなのは分かったよ。で、次は誰だ?」

「そうね、別に決まってるわけじゃないし、テイガ、アンタでいいんじゃない?」

「あー、いや、俺はパスで」

「自分で言っておいてなんなのよ!」


 あたかも自分の魔法は秘密だと言わんばかりのテイガにモモコは一転して不機嫌そうに言ったが、テイガは別に隠しているわけではなく、しかし使いたくない、というより使ってはいけないわけがあった。


「いや、風で吹き飛ばすって言ってもさ、ただ強い風を吹かすんじゃいちいち魔力がもったいねえし、なによりつまんねえと思ってな?フーシュとテツジと一緒にどうすんのがいいかって考えてたんだよ」

「テイガくん、もういいよ、この話止めよう?」

「ああ、俺も止めといた方がいいと思う」

「何よ、気になるじゃない」


 渋々といった様子でテイガは話し始めたが、まだ先が見えない途中でフーシュとテツジが話を止めさせようとする。見れば2人の頬は赤くなっており、何があったのか知らない他の一同は当然話の続きが気になるところであるが、その先はテイガはもう話そうとしなかった。ただ何故か、制服を抑えたフーシュに何度も謝っていた。


「要するに俺の風魔法は失敗だったんだ。考え方は良かったんだけどな……たぶん」

「じゃあどんな魔法だったのかだけでいいから教えなさいよ」

「下から上に風を吹かせて相手を吹き飛ばそうとする魔法だよ。上手くいけば相手を落として落下の衝撃も与えられるって感じでな」

「あっ!夢で見たの、それ!」

「マジかよ、よりによってそれが正解かよ」


 概要を聞き、ユウシはまさにそれがモモコと息を合わせて使っていた魔法、『乱風空昇』であったことを思い出す。もう1つの反対の魔法と合わせて格好いいと思っており、その流れで『乱風衝波』についても思い出すこととなり、合わせてテイガに改めて説明した。だが納得はしつつも、一度失敗をしたためか、テイガはもうその魔法にはあまり乗り気ではなかった。


「残りの数日は『風刃乱舞』の精度でも上げっかな。もしくはユウシのもう1つを考えてもいいし」

「2つの魔法も絶対スッゴイのに」

「はは、また今度な」


 そう言ってテイガは自分の番を終え、他の一同も次々と成果を紹介していく。




「私はユウシくんが提案してくれた、心を励ます魔法を練習してみたよ!」


 あらゆる属性の回復魔法を使える癒属性。水系統である外傷を治す魔法はテイガの協力の元ある程度練習できたフーシュだが、例えば風系統の疾病を治す魔法など、練習をすることができない魔法も多々あり、フーシュは練習内容に困っていた。


 そこにユウシが提案した心を励ます魔法は既存の回復魔法には含まれていないもので、なおかつ悲しむ人を応援できるというフーシュの望みにも当てはまったため、話を聞いてフーシュが試さないわけもなく、フーシュは数日のうちにある程度形にすることができていた。


 具体的には不運に凹むテツジに使ったところ、風呂に使っているかのように温かく安らかな気持ちになれたとのことで、フーシュは人を安心させる魔法を完成させ、案を示したユウシに改めてお礼を告げた。


「私はモモコにアドバイスを送る合間に、今ある3つの固有魔法の完成度を高めて過ごしたよ」


 クロアスはそう言って一同に魔法を見せる。彼は花の中でも薔薇が特に好みの花であるとして、3つの魔法全てに薔薇が組み込んでいた。


 1つは魔武戦でも見せた、モモコの『木葉手裏剣』を参考にその木葉を薔薇の花弁に置き換えたような魔法で一同は見覚えがあった。花弁1つ1つが艶がある鮮やかな紅色をしており、規則正しく舞うように放たれたそれは見ている分には美しく、魔法技術の高さを感じさせる素晴らしい出来だったが、話を聞けば、華麗さを増すために魔武戦の時から攻撃の威力は半減したのだとか。


 思わずテイガは攻撃魔法でそれは本末転倒だと言い、彼の行いを理解できずにいた。しかし続いて考案された薔薇の棘のある花柄を生かした攻撃魔法を見せられてその口を閉ざし、さらに同様に花柄を用いた防御魔法も使えると分かれば、改めてクロアスという人間の魔法の才能を羨まずにはいられなかった。ただし本人が魔法を披露し終え、ユカに感想を尋ね、その問いで全てが台無しだと言われて嘆く姿を見て少しほっとしていた。


「クロアスの後じゃあ全然凄くはないんだよなぁ」


 そう言って杖を握ったテツジは、ステータスこそ運以外はそこそこに高いが、自分だけの新しい魔法を考えることは苦手だと話す。そのため固有魔法を探求するのではなく、生徒の中では珍しく、既存の一般魔法を着実に身に着けることを選んでいた。


 そんな彼は中級魔法に手を出すことさえしていなかったが、初級魔法については基本の『放出』、『球弾』、『防壁』の3つを取り扱うのはもちろんのこと、長く練習していた土属性に関しては魔導教本に乗っている応用先も習得することができていた。


 またモモコとソユノのせいで痛い目を見た火属性についても、最低限魔力の制御は出来るようにしたうえで、今は次同じことがあった場合に1人で対処できるよう、魔法破棄を率先して練習しているところである。またその後は発動継続や並列発動など、中級魔法よりも魔法技能を練習するつもりだと話し、細かい技術を大切にする姿勢がシガナから評価されて嬉しそうにしていた。




「次は私、ですか」

「お!ユカさんも見せてくれんのか!」

「みなさんのを見せてもらって、私だけ見せないのも違うと思うので」

「こうしてユカ様の魔法を間近で見られる機会が得られるとは……」

「……1つだけ、それもまだ不完全ですが」


 立ち上がり、杖を手にするユカは拝むように手を合わせるクロアスを見てやる気が半減したが、それでも完全になくなる前に魔力を込め、目を瞑って集中し、静かに詠唱を始めた。


「-私の魔力。その力を炎に変え、球を成せ」


 ユカの杖先に魔法が形成されるが、それはただの球弾魔法。誰もがすぐに発動できるような、ありふれた初級基本魔法だった。


 もちろん真球に近いその形状から小さく炎が揺らめく美しさに一同は感心していたが、それまでのユカの魔法を知っているために物足りなさは感じていた。そんな内心の不満に答えるかのように、ユカは更に杖に魔力を込める。まだ、詠唱は終わっていない。


「-私の魔力。火球を照らせ。火球を燃やせ。火球に呑まれ、熱をもたらし、火球を1つ、その先へ」


 魔導石の新たな光はいくつもの細い束となり、宙を流れ、火球の中へと溶けてゆく。魔力の増加に伴って、火球は最初、そのまま肥大化する。しかし杖が少し強い光を放ったかと思うと、ただ流れ込んでいた魔力の束が火球の外周に沿うように動き、やがて火球を締め上げる。すると肥大化が止まり、流入する魔力量が増え続ける中、今度は縮小し始める。


 火球内の魔力密度が高まり、火球は強く輝く。光の束の隙間から弾けそうなほどに外炎が激しく揺れ、熱気に顔を煽られてユウシ達は数歩下がったが、脳裏に過ぎったような失敗をユカがすることはなかった。もう一度杖の光が煌めくと、光の束は火球を覆い尽くし、火球と同化する頃には安定し、そしてその色を変えていた。息を忘れて魅入る一同。そんな彼らの前で、ユカは最後の詠唱を終える。


「-紅き火は蒼き炎へ。姿を変えた私の魔法、その名は『蒼炎球』」

「わぁ……綺麗……」


 晴れ渡る空を思わせる眩い炎。初めて見る蒼い炎を前に思わず顔を近づけようとしたユウシだが、内包する熱は『火球』や『火球包壁』のものとは比べ物にならず、数メートル離れてなお薄っすらと汗が滲み始めている。そんな魔法を目前に佇むユカには、もう名実共に近づくことができなくなりそうだ。だが当の本人はそんなことを微塵も思っておらず、明らかに制御が困難な魔法を成功させ、その顔には実感のこもった笑みが浮かんでいた。


「流石。もう1人でそこまで到達したんだ」

「はい、ですがまだまだ気は抜けないですね」

「中級並みの魔力を掌サイズに圧縮、そして同時に魔力体外流動で身体を保護。よくもまあ成功させたよね。恐るべし魔力適性って感じ」

「ありがとうございます」

「ただまだ時間がかかるのと、体外流動が不安定なのは改善点かな。じゃないと魔武戦では使えないかもね」

「そうですね、今日から魔武戦の日までで調整しようと思います」


 まだ慣れていないのか、十秒ほどしてユカは魔法を破棄して魔素に還してしまった。するとすぐに魔素は密度の低い周囲に伝播し、ユウシ達に魔力の籠った風が吹きつける。解かれて、散って、なお濃い魔力を肌に感じて鳥肌が立つユウシ達はまだ夢を見ているかのように現実に戻れず、あたかも教師のような講評をするシガナとユカの会話を聞いてようやく我に返るのだった。


「え、ユカ?今の魔法って?」

「『蒼炎球』。通常の火魔法から火力を上げる、蒼い炎を使った球弾魔法です。まだ制御が難しく、詠唱を長めにとって集中しないと使えない他、その火力の余り、自らの身を魔力で守らないと火傷してしまう、ちょっと危険な魔法ですね」

「……ははっ、マジで流石ユカさんとしか出てこねえよ」

「ユカと当たったら、どうしたって勝てる気しないわね」

「ユカちゃん、どんどん新しい魔法を使えるようになるね!」

「もうっ、こうっ……スッゴくスッゴくスゴい!!」

「なんて美しく、素晴らしい魔法なんだ……」


 ユカの説明を聞き、各々ユカを畏怖したり、感嘆の言葉をかけたり、感動の余り涙をこぼしたりと反応は似通っていた。だが最後に独り言のように呟いたテツジの言葉に、ユカは驚きを隠せずに思わず聞き返してしまう。


「これが、新しい通り名、『紅火蒼炎』の由来か……」

「えっ」

「えっ?あ、その、ど、どどうしまし?」

「……その通り名はどこで?」


 ユカはシガナが考えたその通り名を、ユウシ達の前で話した記憶はあるが、その場にテツジはいなかった。多少気に入っていたとはいえ、以前のもののように大々的に呼ばれるのはまだ受け入れられなかったユカは、噂好きなテツジがその通り名を知っていることに既に嫌な予感を感じていた。そしてその予感が正しいことは、すぐにテツジに明かされる。


「え、えっと、みんなが、それ、話してて、かっこいいなって」

「みんなというのは、他の生徒の皆さんですか」

「そう、そうで、す、はい」


 テツジ曰く、数日前に誰かが、ユカが人気のない場所で蒼と紅の炎の魔法を練習しているという話をしているのを聞いたらしい。そこにどこからともなく新たな通り名の話が出回ったのだとか。如何にユカが隠れて練習をしていたとはいえ、講義時間内であるために学校の敷地内で行っており、熱心なファンや偶然近くを通りかかった者の目を完全に遮ることはできなかったようで、そういった者たちからの証言が重なり、信憑性も上がっていったのだとか。そのため、少なくとも半分以上の生徒が、ユカの練習風景を見たことがないにも関わらず、ユカの新たな魔法と新たな通り名を既に知っていた。


 その話を聞いてユカは身震いした。確かに彼女も練習中に視線を感じることはあったが、その噂については今テツジから聞くのが初めてであり、裏で自分の話がそこまでなされていると知り、悪い噂話ではないにしろ、他にもそういった話がなされているのではと考えれば恐怖を感じざるを得なかった。そうして顔を引きつらせているユカを見て、楽しそうに笑っているシガナであるが。


「あはは、噂って怖いね~」

「……」

「ちなみにシガナさんも、次の魔武戦には出るって噂を聞いたよ」

「えっ」


 彼も彼が把握していない噂が流れているという事実を知り、一瞬思考が停止した。なお出場するかどうかの話は一度しかしておらず、シガナはすぐに噂の出所としてユウシを疑ったが、広める相手がいないか、と失礼なことを考えて容疑者から外した。そうして最終的にはレイアの顔が思い浮かび、別れた後のユウシとの会話を聞かれたか、もしくは単に噂を流して逃げ道を絶とうとしていたかと動機を考えて納得し、改めて彼女を恐ろしく思うのだった。


 犯人を結論づけてシガナがため息と共に顔を上げると、初耳だと目を丸くしていたり、シガナの魔法を見る機会だと目を輝かしたりする一同の顔が目に入る。その中でテイガは顔をにやつかせ、シガナの肩に手を置こうとした。


「良かったな、出場希望の締め切りは明日だからな、まだ間に合うぞ」

「そうだね、出すとは言ってないけどね」


 シガナは寸前でテイガの手を躱す。しかしテイガはすぐに追撃の手を伸ばし、それもまた躱される。


「出す場所知らねえだろ?俺が案内してやるよ」

「そんな、ようやくDランクになれた人じゃないんだから、知らないわけないでしょ?」

「おっし分かった連れてってやるよ!」

「お断り!」


 額に青筋を浮かべたテイガは、今日も今日とて逃げたシガナを追いかけて走り出した。最近になってよく追いかけっこを始める2人を見慣れた一同はテイガが手を伸ばした時点で察していたために驚くことはなかった。だが1人ユウシはまだ披露し終えておらず、何とも言えない表情で文句を呟く。


「まだ僕の番終わってないのに」

「いいじゃない、私達いるんだし」

「そうそう、ユウシの音?属性だっけ。どんなのか気になってたんだ」

「じー……」

「ん?俺の顔に何かついてるか?」

「いや、なんでもない」


 もしかしてテツジの不運が移ったのでは、とおよそ先週のヒカゲと同様の考えをしたユウシはなんとか口に出さずに我慢し、代わりに杖を手にして詠唱をして魔法を披露した。とはいっても、ここでシガナと考えた『震球』を使っては本末転倒である。そんなわけで、ユウシが使った魔法は未完成の『無音包壁』である。


 ユウシが杖を翳すと人1人入れそうな大きさの橙色の光の円柱が形成された。大きさを小さくし、なおかつこめる魔力量は変わっていないため、今回はぱっと見ではその表面に大きな穴は見られない。感心したような表情の一同にその魔法について説明すると、モモコが試したいと立候補し、ユウシが頷く前に壁の中にその身を潜らせる。音のみを通さない想定をしているためにモモコは壁を通り抜けて中に入ることができ、外に向かって喋ると、今日はちゃんと声量が小さくなっていることが確認できた。


「すごいよユウシくん、ちゃんと音が小さくなってるよ!」

「他の属性ではまず真似できなそうですね」

「なかなか面白いわよ!中からはアンタたちの声も小さくなってるし!」

「でもこれだけじゃ魔武戦では戦えないよな?」

「うん、これと『爆音』っていうスッゴくおっきな音の魔法を一緒に使うんだけど」

「止めましょうユウシさん、ここで『爆音』を使うのは」


 褒められて嬉しそうなユウシは杖を持ち直したが、ユカが食い気味に制止した。ユウシはもちろん使うつもりはなく、ユカの言葉に素直に頷くが、ユカの少し必死な様子を見てその他の一同は目を瞬かせた。ユカはそんなモモコ達の視線に気付くと小さく咳払いをして、誤魔化すようにユウシに質問した。


「でもこの魔法と『爆音』を使うということは並列発動も成功させたのですか?」

「ううん、まだ練習できてなくて。でも本番は別の魔法を、あっ」

「何よ、まだ魔法隠してるの?」


 ユウシは今回も口を滑らせた。これにはモモコが興味津々に食いついたが、ユウシは全力で首を横に振る。


「ダメ!前はモモコも秘密にしてたでしょ!だから僕も秘密なの!」

「えー?まあ、じゃあしょうがないわね」

「ユウシくん、本番楽しみにしてるね」

「うん!」


 こうして秘密を守ることに成功したユウシ。心の中で胸をなでおろし、解散して練習に移ろうと呼びかけようとすると、その前にクロアスが口を開いた。


「そうか、ユウシさんがどんな魔法を使うのかは気になっていたが、それなら私も本番を待つとしよう」

「んー、でも正直ゲルセルを音だけでどうやって倒したのかとか全く見当もつかないな」

「それは私も調べたが、どうやらゲルセルなどのスライム種は感覚器官が体表にある関係で音に敏感、言い換えれば弱点らしい」

「へえ、ユウシ、そんなこと良く知ってたな!」

「それは知ってたというか、シガナが教えてくれて」


 もちろんユウシには他の攻撃手段はないため、いずれ言われずとも音魔法による討伐を重ねれば自ずと気付いたことかもしれない。だが弱点について教えてもらったことは確かであり、その他彼のアドバイスがなければここまでこれなかったとして、ユウシはそのことを隠すつもりは全くなかった。


「ああ、そういえば練習もシガナさんと共にしているね」

「うん、シガナにはずっと助けてもらってて」

「それについては私もいろいろとアドバイスをいただいていますね」

「言われてみれば、私の『木葉手裏剣』もシガナに相談に乗ってもらったわね」

「シガナくん、いろんなこと知ってるもんね」


 そうして一同がシガナの凄さについて再認識する中、ユウシはふと思う。これまでの魔法やユウシの成長は全てシガナの協力の元といっても過言ではない。ただ、今回の魔法については夢で見たものを基にしていて、その観点でも前に進んだことである。


 ならば、もう少し先に進んで、シガナのアドバイスをもらわなくても、自分の新たな魔法を作りたい。完成した後にその魔法を見せて、シガナを驚かせたい。幸いユウシは既に『震球』はある程度魔武戦にて披露できるほどに形にできている。そして都合のいいことに、ユウシの見た夢には、もう1つ。『震球』の延長線上で、自分が使っていた魔法がある。


「ん?どうしたのよユウシ、そんな変な顔して」

「へ、変じゃないし!それより!もうみんなの魔法は見せ終わったし、練習!練習しよ!」


 思わず表情に出ていたことを隠すために、またせっかくなら魔武戦にてその魔法を披露してみたいと思ったユウシは短い時間を有効活用するために、一同に呼びかけて解散し、近くに誰もいないことを確認して杖を構える。


「よーっし!絶対にシガナをびっくりさせるぞー!」


 そうしてユウシは練習を始める。翌日も、翌週も、練習に明け暮れる。運がいいのか悪いのか、翌週はシガナに用事が入り、彼のいない日が数日あり、おかげでなんとか新魔法を完成させることに成功。ユウシは興奮と期待を胸にベッドに横になり、魔武戦当日を待つ。


 その日、思いもよらない展開と事故が、待ち受けていることを知らずに。

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