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「それじゃあ自分たちも、テイガの気が変わる前に始めようか」

「え、昨日のはもう仲直りしたんでしょ?」

「まあ一応ね。とはいえ最近は何かと追いかけられること多いし、注意するに越したことはないかなって」


 夏前月第1週2日目。魔法の講義にてわざとらしく何度も離れた場所にいるテイガを警戒する身振りを見せるシガナに、ユウシは苦笑いである。


 昨日テイガに追いかけられたシガナは結局一度も捕まることなく時間を終えた。その後疲労困憊で走る余力を無くしたテイガに近づき、冷静になって考えれば自身が追われる理由はないと話す。


 テイガの追いかける理由が恋するユカが自身へ笑顔を向けていたことへの嫉妬と理解していたシガナはそのことに触れて軽く謝りつつ、それでも何もやましいことはしていないと主張。むしろユカが魔法に関して成長する手助けをしているだけであり、向こうもそれは否定しないなどと理詰めでテイガを言い負かすことに成功。ようやく魔法面で軌道に乗ったユウシの邪魔をしたくないこともあって、少なくとも魔法の講義の間だけはテイガはシガナを追わないことを約束した。


 だが元々テイガも追いかける理由の1つには、日頃軽くあしらわれてばかりのシガナにぎゃふんと言わせたいという意図が含まれていた。そういった思いがあり、テイガは昨日の和解後も獲物の隙を狙うような目でシガナを見ており、シガナも彼の考えを薄々察して呆れたようにため息をついていた。


 話は今日の講義に戻り、各々の魔法の方向性が決まったユウシ達だが、テイガ、モモコ、ユウシの3人はユウシの希望で、互いの成果をひとまず週末まで秘密にしようと決め、各自離れた場所にて練習をしていた。また昨日のメンバーから、分かれて練習するなら静かな場所で行うと言ってユカが抜け、代わりに一緒に練習をしようとテツジとソユノがやってきている。一同は3組に分かれ、モモコ、クロアス、ソユノの3人、テイガ、フーシュ、テツジの3人、最後にシガナとユウシの2人となっている。


 ユウシはテイガとモモコが周囲に見える生徒達の中でも一際目立つ魔法を行使しているのを遠目に見て、自身も負けてはいられないと気合を入れなおし、シガナに面と向かって改めて教えを乞うように頭を下げるのだった。


「さて、ユウシの新魔法は確か、音が通らない壁を作るんだったっけ?」

「うん、見てるみんなが音にビックリしないようにしなきゃ」

「大丈夫?テイガ達のときみたいに曖昧じゃない?」

「偶然だけど、自分の魔法だけは全部ちゃんと覚えてたみたい」


 ユウシが魔武戦までに習得したい魔法、『無音壁』。壁の向こう側で発生した音の全てをこちら側に伝えなくする効果を持つ、レイアにも示した対策の1つとなる魔法である。


 夢の中ではその魔法により、テイガ達には何も悪影響を与えない『爆音』を実現した。逆に言えば、これが使えない限りは魔武戦にて『爆音』を用いることはできない。そのため一昨日、昨日とまずは初級魔法の防壁魔法を参考に適用しようと試みたのだが。ユウシは現在の進捗をシガナに見せようと、杖を取り出し、魔力を込めて詠唱を開始した。


「-僕の魔力!その力を音に変えて、音が聞こえなくなる壁を作って!『無音壁』!」

「おお、まずは壁はできたんだね」

「うん、だけどこのままじゃ音は全然聞こえちゃってるから」


 『球弾』のときと同様、ユウシは何度も間近で見て来た記憶を参考にして防壁魔法を構築することには成功し、シガナとユウシの間には橙色の透明な壁が見事に形成された。しかしそれはただの一枚の板状の壁のため、音は板の周囲からだだ洩れであり、魔法名は飾りであると言わんばかりに2人の会話は筒抜けとなっている。


 夢ではそれだけでうまくいっていたのだが、現実はそう上手くはいかなかった。とはいえ昨日時点で壁の作成を成功させたユウシはすぐにその改善案を思いついており、続けて杖に魔力を込め、詠唱を始める。


「-僕の魔力!その力を音に変えて、音が聞こえなくなる壁で囲って!『無音包壁』!」

「そうだね、その壁で周囲を囲えば解決するね」

「うん、だけど……」


 防壁魔法の応用、『包壁』に天井を加え、ユウシは魔法で小さな部屋のような空間を作り上げた。そうすることで全方向からの音を遮ろうとしたのだ。


 しかし、壁を挟んだ向かい側にいるシガナの声はやはりユウシの耳に届いている。その音量は幾分か小さくなった気もするが、まだ誤差の範囲でしかなかった。その原因について、これもまたユウシには分かっている。ユウシは形成された部屋の壁の、ところどころに空いた穴を見て困ったように眉を下げた。


「穴を開けたいわけじゃないのに、勝手にこうやって開いちゃうの」

「あー、これは単に練習不足だね」

「やっぱり?」


 シガナが出した答えは予想通りであり、それ故にユウシは頭を悩ませた。


 如何にユウシがゲルセルの討伐を成し遂げるほどの急成長をしたとはいえ、それだけで魔法適性や技術力が向上するわけではない。ユウシはまだ魔法がまともに使えるようになって1週間経ったか経っていないかといったところ。ゲルセルを倒した魔法も多大な魔力量をなんとか制御できたとはいえ初級基本魔法の延長線上であり、いくらレベルが上がっても、今のユウシの魔法制御は2ヶ月前のテイガやモモコと並ぶ程度であった。


「壁を形成する魔力の密度が場所によって違いすぎるね。なんなら『無音壁』でも色の濃淡が見えるぐらいには不安定だったかな」

「そっかぁ、思ってたよりも難しいんだね」

「ユウシのその魔法ではその影響が大分顕著に出てるね。穴を塞ぐのは最低ラインとして、全部の場所である程度の厚さを保たないと、たぶん『爆音』に耐え切れずに壊れちゃうんじゃないかな」

「そうだよね」


『爆音』に耐えられるようにするためには、おそらく『爆音』に込められる魔力量と同程度、あるいは部屋の大きさに応じてそれ以上に壁に魔力を込めなくてはいけないだろう。それはいくらステータスの向上があったとはいえ、ユウシが保有する魔力量で賄いきれるのか。かといって『爆音』に込める魔力量を減らしては、多少は大丈夫であろうが、減らし過ぎればただうるさいだけで相手を倒すこともままならない、全く無意味な魔法となってしまう。


「まだ御守り石が『爆音』に耐えられるのかどうかも確かめられてないし、やることはいっぱいで大変だ」

「そんなユウシに更に悪いお知らせがあるんだけど、聞く?」

「え。……聞く」


 本当に1週間ちょっとで間に合うのかが不安になり始めたユウシに告げられるシガナのお知らせ。その内容は、ユウシがすっかり失念していたことであった。


「ユウシは『爆音』対策として『無音包壁』を使おうとしてるわけだけどさ」

「うん」

「同時に使うってことは、魔法の並列発動が必須なんだよね」

「……あ」


 並列発動、すなわち異なる魔法を同時に発動する技術。ユカやシガナが平然と使っているために誰にでも扱える容易い技術のように思えるが、実のところそれだけで中級魔法を扱うのと同じぐらいに高度な魔力制御力を要する。具体的にはそれぞれの魔法への適切な魔力配分や、異なる構成の魔法の構築技術を問われ、今回で言えば、魔力暴走が起きないよう『爆音』の制御をしつつ、その影響を外部に漏らさないように安定した壁を形成する必要があるということ。それだけでもユウシの危機感を増幅させるのに十分だったが、シガナのお知らせはまだ終わりではなかった。


「しかも今回の場合、自分を壁で覆うか、相手を壁で覆うかによっても変わってくるけど」

「えっと、つまり?」

「どのみちより大変なことに変わりはないんだけどね」


 前者は自分の周囲を壁で囲い、その外へ向けて『爆音』を放つこととなる。その場合、観客に被害が及ばないために更に外側に壁を設ける必要があり、並列発動に加え、魔力量の異なる同じ魔法の重複発動をしなくてはならない。結果、込められる魔力量は膨大なものとなり、発動できたとしても、十中八九欠乏症で先に倒れる結果となる。


 後者は相手の周囲を壁で囲い、その中へ向けて『爆音』を放つこととなる。これは観客と自分が同じく壁の外側にいるために壁は1つで済むが、基本的に相手は無抵抗で壁に囚われることは考えられず、逃げる相手を無理矢理囲う必要がある。また囲えたとしても攻撃によって壊されてしまっては意味がなくなってしまうため、壊れないように壁を強固にするか、攻撃が届かないよう部屋を広くするかを選ぶ必要があり、どのみち込める魔力量は多大なものとなってしまう。


 まとめると、ユウシが魔武戦にて『爆音』を使うためには、『無音包壁』を安定した状態で成功させること。『爆音』に耐えうる防壁とすること。魔法の並列発動を可能とすること。限界に近い魔力を込め、かつ魔法を制御しきること。そして、これらを1週間ちょっとで完成させることが求められる。何度も失敗を経験したユウシには、如何にゲルセルを討伐し、魔法が使えるようになり、気合十分であるとはいえ、流石にこれは不可能に近いことは分かっていた。


「間に合わせるためには目標のレベルを下げるか、方向性を変えるかかな」

「『爆音』じゃなくするってこと?」

「そうそう、別に人1人倒すのにあの音量は要らないし」


 ユウシは言われて、夢で最初に自身が放っていた魔法、『騒音球』を思い出す。放って終わりの『爆音』と異なり、ゲルセルに狙って当てたその攻撃は込められた魔力量が少なかったため、倒したゲルセルの数自体は1匹のみ。とはいえ音源となる球を相手に当てることで、中級魔法に及ばない魔力量で討伐自体はできている。


「だから魔武戦までにやれることとして勧めるのは、『無音包壁』の完成というよりは、球弾魔法の発動継続による操作で相手に当てる練習かな~。まあそれでもなかなかに難しいことなんだけどね」

「そっか」

「せっかく魔法の新案考えて、それのアドバイスとして呼ばれたのに、結果否定することになっちゃってごめんね」

「全然そんなことないよ、大丈夫」

「いやいや、なんか物言いたそうな顔してるからさ」


 シガナの言うことは半分正解であり、実際ユウシは1つ考えていることがあった。ただそれは決して不満があったわけではない。


 ユウシは今、提案された方法に相応しい、別の魔法を夢で見ていたことを思い出していた。


「……うん、ほんとはまだやりたいことがあって」

「いいよ、聞かせて?」

「テイガ達を驚かせたかったから言ってなかったけど、もう1つ、別の魔法を見たんだ」


 夢の終わり際に見たそれは、果たして音魔法と言っていいものなのか。よくわからないが、その概要をユウシはシガナに伝える。『無音壁』に比べれば幾分か曖昧な説明にはなったが、しかしシガナはその魔法についてを正しく読み取った。


「……なるほど?音じゃなくて、その副産物ともいえる振動に着目した感じかな」

「たぶん。魔力の光はあんまり強くなかったけど、『爆音』みたいにぐらぐらしてた」

「ふぅん?簡単に言えば、作るものが音源から震源に変わるってことね……なんていうか、なかなかにすごい魔法だね?」

「そ、そうかな?」


 無難な言葉を選んだシガナにユウシは嬉しそうにしているが、シガナの頭には悲惨な想像が浮かんでいた。もし仮にその魔法が理想通りの効果を発揮するとして、初期の『爆音』のように魔力暴走してしまえば。人に害を与える程の音の全てが振動に変換され、おそらく中級より多少上程度の魔力量で、震源付近では建物倒壊をもたらすほどの地震となるだろう。またそんな魔法が誤って人に、それも頭に直撃してしまったときには。脳震盪は避けられず、最悪は……


 そこまで考え、シガナは思いなおした。よく考えれば、他の魔法でも危険なことには変わりない。ユウシの魔法はその被害が同程度の魔力量にしては深刻かもしれないというだけ。それに既に『爆音』等を扱える時点で今更といえばそれまでである。


 要は使い手と使い方次第である。むしろ将来的に単独で練習して失敗するよりも、今のうちから自身の監視下で練習しておいた方がいいのかもしれない。シガナはユウシのまだ何も気付いていなそうな顔を見てそう考え、頷いた。


「……うん、悪くないね。魔力が残る間は振動し続けると思うから、単なる球弾魔法だけで相手の行動を封じることになりそうだね」

「じゃあこの魔法を練習しながら、発動継続も試してみるね!」

「そうしようか」

「うん、頑張る!」


 こうしてユウシは『無音壁』に変わり、テイガ達には概要も知らされていない新魔法、『震球』の練習を始めることとなった。その習得は頭に結果が浮かんでいたこともあり、また新魔法と言えども初級基本魔法の『球弾』と変わらないそれはそこまで難しいものではなく、その日のうちにある程度は形にすることに成功し、翌日の3日目には『音球』のように安定して発動することができるようになった。


 また発動継続に関しては杖の特性である、常時の魔力吸収が大いに助けることとなった。 魔法は込められた魔力の分の効果を発揮すると、その後は魔素に変換されて宙へ霧散する。そのように霧散させず、魔法の効果を残し続けるようにする技術が発動継続であり、そのためには魔力を魔法に込め続ける必要がある。


 だがユウシの場合は少し過剰ではあるが、必要な魔力を杖が勝手に魔導石まで運ぶ。そのため他の初心者は継続して弱い魔力を込め続ける必要があったが、ユウシは意識することなく自然と発動継続を成功させた。強いて言うのなら、過剰な魔力をそのまま霧散させるというもったいないことをしていたが、その分を『震球』に込めてしまうと後の操作に影響が出てしまうため、そこは仕方がないと割り切っていた。


 一番手こずったのは魔法を操作して相手に当てること。これはシガナが使った球弾魔法に自身の『震球』を当てる形で練習したのだが、ここで適性と技術力の問題が露わになり、ユウシは思い通りに操ることがなかなかできなかった。これまで直線でしか放ってこなかったユウシは静止した球弾に軌道を曲げて当てることすらなかなかできず、それだけで4日目を終えてしまった。


 5日目は初めて少しで掠るようになり、中頃に当てられるようになり、終わる頃にはその軌道の角度を少しずらすこともできるようになった。とはいえ1回の魔法で続けて軌道を曲げることはまだ難しく、自由な曲線軌道を描くまでにはまだまだ時間がかかりそうである。この日は軌道を曲げる間隔をだんだん短くし、コツを掴み始めたところで時間となってしまった。


「お疲れ様、気分はどう?」


 講義終了の鐘が鳴り、ようやく辺りが薄暗くなり始めていたことに気が付いたユウシはシガナに問われ、一週間を振り返る。魔法の練習をしている、という字面だけ見れば、それは先月も、その前からも全く変わりはない。しかしその中身は全く異なっている。


「それはもう……スッゴイ最高!!」


 ただ杖を光らせようと、ただ安定した光を灯そうとしているだけではない。まだ固有魔法を使うことも、中級魔法に手を出すこともできてはいないが、真の意味で魔法を練習している実感を得て、ユウシは満面の笑みで答えるのだった。

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