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「よーしそれじゃあ今日もみんなそれぞれ自分だけの魔法を目指して」
「ちょっと待った!」
「え?どしたのモモコ」
「どしたの、じゃないわよ!」
翌日の夏前月第1週1日目。座学で新しい知識を学び、昼食を終えたユウシ達。午後から始まる魔法の講義にて、前日に引き続き固有魔法の練習に入ろうとしたのだが、昨日補習のためにユウシのアイデアを全く聞いていないモモコに引き留められた。
なおこの場にはいつもの4人に加え、ユウシの魔法の協力をすると約束したシガナと、モモコと同じく昨日いなかったために話を聞いていないユカがいた。ユカは一緒に練習するつもりはそこまでなかったと言うが、ユウシから強そうな新たな魔法の構想があると告げられれば、魔法が好きな彼女の興味がそそられないわけがなく、こうして一緒の場所に集まっていた。
そうしてモモコとユカにユウシが夢で見た魔法を話そうとしたが、2人はテイガとフーシュの魔法についても興味を示したため、せっかくなら、と4人の魔法についてを1から話すこととした。
「じゃあまずはテイガの魔法ね!テイガ、よろしく!」
「お前が言うんじゃねえのかよ。まあ良いけどさ」
昨日説明が苦手であると自覚したユウシは始まってすぐにテイガにバトンを渡した。テイガはユウシにツッコミを入れつつも、自己解釈したユウシの構想について話し始めた。
「俺の魔法は大きく分けて2種類で、1つは風で相手を吹き飛ばす魔法。相手の攻撃を邪魔したり、お前らが攻撃を当てやすいように動かしたりする、まあ攻撃よりも補助や援護が目的だな」
「そうそう、風でびゅーってして、ぶわーってさせる感じ!」
「思ったよりちゃんとしてるじゃない、って言おうとしたけど、取り消しておくわね」
テイガが口にした具体的な説明にモモコは感心したような息をついたが、続くユウシのほとんど擬音の説明で前言撤回せざるを得なかった。これにはユカも嫌な予感を隠し切れず、2人の表情から思考をある程度読み取ったテイガは苦笑してユウシの肩に手を置いた。
「そうなんだよ、夢の光景にまだ興奮してんのか、はたまた逆に曖昧でよく覚えてねえのか、いつも以上に何言ってんのかわかんねえんだよ」
「昨日の練習はどんな魔法か分かるまでにたくさん時間使っちゃったよね……」
「えへへ」
そうして照れ隠しのように笑って見せるユウシを見て、モモコとユカは自分の番が来るのが少し不安になるのだった。
「……まあいいわよ、それで?2つ目は?」
「ああ、よくわかんなかったんだけどさ」
「駄目じゃない」
「そ、そんなことないよ!」
モモコからジト目で睨まれるユウシが声を揺らしつつ。
「どうやら風の力でいろいろやるらしい」
「ずいぶんと大雑把ね」
「そうなんだよ、速く走ったり、剣を鋭くしたり、でかくしたりするけど、違うようで全部1つの魔法なんだと」
「はぁ?ユウシ、全然一緒じゃないわよ?どういうこと?」
「でも、一緒だったもん!ぐるぐるってなって、しゅーんでずわって!」
「ってなわけで俺は1つ目を練習することにした」
昨日考えた末、現段階での理解を放棄したテイガはひとまず分かりやすい方から練習を始めたのだった。とはいえ昨晩も2つ目について完全に諦めたわけではない。話を聞いたところでは今後前衛としての役割を担うことを考えているテイガに合った魔法であり、いつか形にできる日が来ることを願いつつ、テイガは昨晩もうっすらと思案を巡らせていたりする。
「なんていうか、ちょっと期待しすぎたかしら」
「次!次はそんなことないから!」
「では、フーシュさんの魔法はどのようなものなのですか」
「えっと、私も2つあって、心を励ます魔法と、すぐにみんなの怪我を治す魔法だよ」
「ふぅん、今度はどっちも分かりやすそうじゃない」
テイガへのアドバイスを聞いて少々辛辣な評価を下したモモコだが、フーシュの口にした構想を聞けば、ひとまずは決定を遅らせることにした。フーシュは胸をなでおろすユウシを横目に話を続けた。
「1つ目は今までイメージしてきた怪我を回復する魔法とは違って、不安だったり悲しかったりして苦しい気持ちを和らげる魔法なんだって」
「なるほど、心理状態を改善させる魔法ですか。それだけ聞くと既存の系統には当てはまるものがないように思えますね」
「強いて挙げるなら光系統の解呪に近いかな。もしくは火系統を敢えて曲解するとか」
「回復や免疫の促進を心理状態に置き換える、ということですか」
「まあそれこそ人によって解釈は自由だから。大事なのは如何に自分で納得して魔法を行使できるかだからさ」
「……とにかく新しい魔法なのね!2つ目は!?」
モモコには少し難しい話だったようである。この短時間でこみ上げた眠気を我慢し、雑にまとめたモモコはフーシュに次を促した。
「2つ目はね、あらかじめ回復魔法をたくさん用意しておいて、誰かが怪我をした直後に治せるようにしておく、って思ったんだけど」
「たぶん、なんかちょっと違う気がする」
「え、まだ使ってもいないのに分かるの?」
「なんていうか、こう、おっきくてぴかーって」
フーシュが想定しているのはユカの『火球乱舞』のように宙に『癒球』をいくつも浮かべておき、必要に合わせて放つというもの。しかしユウシが見たのはそれ1つで繰り返し同じ効果を発揮していた魔法であり、言葉のちょっとした違いを気にして唸っていた。
「なんにせよ、魔法を使うのはフーシュだし、今はフーシュが出した答えが正解でいいだろ。気になるんだとしても、ある程度形になってからにしようぜ」
「うん、私もユウシくんが見た魔法は気になるし、また今度教えてほしいな」
「分かった、そうするね」
「よし!じゃあ次は私の番ね!」
「うん!」
テイガとフーシュの魔法の復習が終わり、なんだかんだ楽しみな心を取り戻したモモコはユウシに詰め寄る。ユウシは鞄から夢の魔法を描いたノートを開くと、モモコに思い描く構想をそのまま伝えた。
「モモコのはね、こう、たっくさんばらばらーってなって、そこからびゅんびゅんびゅんっ!ってなって、最後にぐさぐさぐさっ!ってするやつ!」
「うん、分からないわね!次!」
「早ぇよ」
モモコは諦めた。諦めてテイガとフーシュにはあった2つ目の魔法の説明に期待したが、ユウシは首を横に振った。
「モモコはそれ1つだけ」
「嘘でしょ!?」
「あ、それをおっきくしてぐっさーってやるのもあった」
「分からないわよ!」
「いやー、2人よりはまだ簡単なほうだよ」
不満と言わんばかりにユウシの肩を揺するモモコだが、昨日からユウシの説明を聞いていたシガナはその説明が分かりやすいと捉えていた。そのシガナの評価も含めて理解できないといった顔のモモコに対し、シガナは暗号でも解くように自身の解釈を話し始める。
「まずたくさんってことだから、当然1つではないし、ばらばらー、で強調してるからかなり数も多いんじゃないかな。それこそ既に使える固有魔法の『木葉手裏剣』ぐらいに」
「なるほどね……ん?んん?……ねえコレ、もしかしなくても『木葉手裏剣』そのままの説明じゃないの?」
「……確かに?」
「違う!違ってたもん!もっと茶色かった!」
「茶色?」
モモコは『木葉手裏剣』と擬音混じりの説明を流れに沿って合わせて考え、頭の中で全てが一致することに気が付く。しかしそれを言及すれば、ユウシから新たな情報が提示されるとともに、その答えは否定された。
「茶色ってことは、『落葉手裏剣』?」
「いやいや、落葉なんてむしろ弱くなってんだろ、それ」
「より小さく、崩れやすくすることで魔力消費を抑えているのか、はたまた減った分量を増やして視界を遮る役割を強めたものなのかもね」
「おー、それっぽいじゃない」
「ううん、それで攻撃してたもん」
「違ってた」
「なんなのよ!」
あまり考えることが得意ではないモモコは考察する楽しさよりもじれったさが勝ってしまっていた。そのためユウシからノートを借りて直接見るなどもしたが、すぐに答えが出ないと分かると途端に面倒くさそうにため息をついた。
「うーん、よくわかんないし、私はこのまま『木葉手裏剣』を上達させることにしようかしら」
「あ、でもたぶん『木葉手裏剣』みたいな感じだった!で、もっと痛そうだった!」
「そこまで分かってどうして答えに着かないのよ!?」
「ごめん!」
「ちょっといいだろうか」
意図的ではないにせよ、次々とユウシがヒントを小出しすれば、モモコは思わずイラついて叫び、ユウシは反射的に謝罪した。
と、そのとき、一同に話しかける生徒の姿が。声の方を振り向けば、そこにはクロアスがいて微笑んでいる。その視線はユカの方を向いていて、ユカは思わず目を合わせてしまい、鳥肌を立たせた。
「ユカ様は相変わらず今日もお美しい」
「止めて下さい、気持ち悪いです」
「くっ、そしてまた辛辣なお言葉……なぜだろう、貴方に言われるのならば受け入れてしまいたい」
「これまた重症なファンだね~」
季節が変わるほどに時間が経ったこともあり、ユカにとっては非常に困ったことに、ユカと会話を試みる男子生徒は揃いも揃って別の意味でしつこくなっていた。というのも、今までのように詰め寄ろうとする生徒はまずいなくなったものの、代わりにユカが許容するギリギリの範囲までは平然と集まり、拒絶の言葉を連ねてもむしろ悦に浸る生徒も増えていた。中には最初に魔武戦後にソユノが勝手に始めたように、または大会の開会式中にソユノを搬送した生徒のように、ユカのために道を開けたり、ユカを礼儀のなってない生徒から守ろうとしたり生徒もいるほどに。
ユカにとって悲しいのは、入学から数週間辺りの異性の行動に比べれば近寄ろうとしないだけマシであり、心の中でもうこれでいいかと諦めかけている自身がいること。またシガナが冗談で口にした、ソユノのように邪な感情をそこまで抱いていない親衛隊の存在が、異性だったとしてもやはりありがたいと思い始めてしまっていること。
そのため今日のような本来不要な考え事をせずに済む日に安らぎを覚えていたが、こうしてファンの中でも深度の大きいクロアスに話しかけられた上で拒絶の言葉を嬉しそうに受け取られ、ユカの感情は死んだように考えることを止めた。
「なんなのよ、まーたユカにちょっかいかけに来たの?」
「残念だったな、もう先約が入ってっからお前の入る隙間はねえ!」
「予約を入れたのはアンタでもないけど?」
「シガナァァア!!」
「うわ、めんどっ」
しかし親衛隊の代わりにユカの前に2人が立ち塞がるように移れば、ユカの心はこっそり視線を送ってくるテイガを無視したうえで小さな平穏を感じて落ち着いた。そうして話の流れで今日も今日とてユカを誘ったシガナがテイガに襲われそうになっている中、我に返ったクロアスが慌てて首を横に振った。
「違うんだ、今ここに来たのは通りすがりに君たちの魔法の話が耳に入ったからさ」
「嘘ね。あんなにユカを困らせておいて、それは言い訳が弱すぎるわよ」
「信じてもらうのは厳しいかもしれないが本当のことだ。その証拠に、先ほどはモモコさんの新たな魔法の構想の話をしていなかったか?」
「それはまあ、してたわね」
話の中身を正しくクロアスが口にすれば、彼の発言に信憑性が生まれ、モモコは一旦疑うのを止めざるをえない。また続く言葉はむしろモモコの目を輝かすものとなった。
「前にも言ったが、私の魔法はモモコさんの魔法を参考に完成したもの。そこで今回はその逆で、私があなたの魔法の手助けをできないかと思ってこうして声をかけさせてもらったのさ」
「アンタ、前から思ってたけどスゴイいい奴じゃない!」
「手のひらくるっくるじゃねえか」
更に聞けば、クロアスはユカの魔法に触発され、魔武戦後に自身の新たな固有魔法をいくつか作り出したとのこと。成績もよく、技量もある彼の手助けを得られると分かったモモコは考える間もなくその提案を受け入れ、今日この後から早速共に練習を行う約束を取り付けた。
結局ユウシが夢で見たモモコの魔法は正しく伝わらなかったものの、モモコはモモコで新しい魔法を作って見せると意気込み、彼女の番は終了した。そして最後、ユウシはユカに魔法の説明を行う。
「ユカさんの魔法はね、えーっと、3つ、いや4つ?」
「多っ」
「でも2つはテイガとモモコと一緒にやる魔法だった気がする」
「マジ!?」
「うっさいわね、でも気になるわ!」
テイガはユカと協力して行う魔法があると分かり思わず大声が出る程に喜びを見せ、モモコも隣のテイガの大声に耳を塞いだが、テイガ同様に興味を示してワクワクしている。肝心のユカと言えば、彼女は一緒にやる魔法というものに身に覚えがあるため、想像するに容易く、今もそのときの感動を思い出していた。そんなユカの様子に気付かなかったユウシはノートをめくり、ユカの魔法の説明を始める。
「まずはね~、下にぶわってなって、向こうから来たらどーん!」
「「よし次!」」
「2人とも、落ち着いて、ね?」
またもや意味の分からない説明を聞き、それぞれが協力する魔法が楽しみなテイガとモモコは早送りでもするかのようにユウシを急かし、フーシュがそんな2人を宥めていた。だがユカが話を聞いて興味を持ち、概要を少しでも鮮明にしようとユウシに質問を始めれば、2人は沈黙せざるを得なかった。
「なるほど、地面に魔物の侵入を感知するように魔力を広げて、魔物がそこに踏み込んだら発動して攻撃を行う魔法、ですか」
「スッゴイ、大正解!」
「よ、よく分かったわね」
「「さすがユカさん(様)!」」
10個程の質問を重ね、ユカはユウシが夢に見た魔法の全容を割り出した。これには欠片しか分からなかったモモコは若干引きながらも感心し、ユカに好意を抱く2人は声を揃えて彼女を称える。ユカは聞かなかったことにして脳内で魔法の概要を復唱すると、ユウシに次の魔法の説明を求めた。
「次はえっと、モモコとの魔法かな?」
「来た!ねえ、どんな魔法!?」
「えーっと、モモコがさっきの魔法をしゅばばばってやって、ユカさんがぼわってしたら、ぐさぐさぼわってなるやつ!」
「仮にモモコさんの魔法を『木葉手裏剣』だとすれば、それを燃やして複属性の攻撃とする、ということでしょうか」
「たぶんそんな感じ!」
「えー」
今度はユカは質問なしに正解を言い当てることができたのだが、それを聞いたモモコの反応は先ほどの勢いが嘘かのように、がっかりした表情である。目を丸くしたユウシが訳を尋ねると、その魔法は既に練習したことがあるとのこと。着想はゲルセルと対峙した際に『火炎包壁』の中からユカが魔法を放っていたことであり、同様にして薄くした火の壁に『木葉手裏剣』を潜らせることで『炎葉手裏剣』としたのだとか。
「すぐに燃え尽きちゃうし、燃えてるせいで動きが変になっちゃうしでなかなか成功しなかったんだけどね」
「へー、いつそんなことやってたんだ?」
「気になるわよね、でも内緒よ!」
「うっわ」
テイガの悔しそうな表情を見て、モモコは勝ち誇ったような笑みを浮かべるのだった。思わずテイガは腹立たしさから手が出そうになったが、すぐにひっこめると代わりにユウシに自分が協力する魔法の説明を求めた。
「おいユウシ!モモコが協力するよりもすげえ俺の魔法は!?」
「ん?んー、順番変わっちゃうけど、まあいっか」
「ああ、早く!」
当の本人よりも気になっているテイガだが、そんな彼に悲しいお知らせが。
「あ、そういえばこの魔法はテイガだけじゃなくて、テイガとモモコとユカさんの3人のだった」
「嘘だろ!?」
「でもスッゴかったよ?」
「そうだけど!そうじゃねえよ!」
テイガはモモコに勝ち誇れる材料を失うとともに、協力する魔法の数で負けるという、むしろ逆に勝ち誇られる材料を得てしまった。結果テイガは落ち込み、モモコは更に笑みを深めてテイガの肩に肘を置く。ただその魔法の説明で全てを焼き尽くす魔法だと聞けば、流石にそれが夢による誇張がされたものだと分かり、真面目に頷くユカの傍らで、テイガとモモコは顔を見合わせて苦笑いするのだった。
そんな3つのうちのテイガとモモコが協力する2つの魔法について、名前を出された2人を羨ましそうに見ていたクロアスはその2つの説明が終わると冷静になって疑問を口にした。
「今ユウシさんが話していたのは複合魔法のことだろう?いくら仲が良くても、まだ魔法を使い始めて半年も経っていない中、理想に近い形で成功させるのは難しいと思うが」
「ん?複合魔法って何よ?」
「複合魔法は実力が似通ったものが魔力量や質を揃えて発動する魔法のこと。場合によっては威力や効果が倍以上になるんだけれど、その分制御が困難になるのさ」
「つまり、ユカさんの技量があればなんだかんだ成功するんじゃねえのか?」
「いや、協力者も高い魔法技術が無いと厳しいはずだ……ですよね、ユカ様?」
「……そう、ですよね。複合魔法をしておいて、自分は無関係なんてこと、ありえませんよね」
「ユカさーん??」
「「「?」」」
クロアスはせっかくの正しく話しかけるきっかけを逃さないためにも、自身より成績が高いユカに確認をとろうと話しかけたのだが。当のユカの返答はどこかズレたものであり、一同が首を傾げる中、心当たりのある男子生徒が1人、ユカにその続きを話すのを止めさせようと試みる。
「よし、ユウシ、時間も大分使ってるし、ユカさんに最後の魔法だけ伝えて練習に移ろうか」
「あ、そうだね!えっと、最後のは~」
シガナはユウシに講義の残り時間のことを持ち出すことで、早めに話を切り上げる作戦に出た。しかし、結果的にそれは逆効果となってしまう。なぜなら。
「あ!最後のは、詳しく覚えてるよ!」
「へぇ、どんな魔法?」
「ユカさんの『紅炎大蛇』を強くしたやつ!」
「!?」
「なるほど、それは興味ありますね」
「ん?シガナ、なんでそんな顔引き攣ってんだ?」
「い、いーや?」
奇跡的なすれ違いに思わずシガナがむせ、一同の視線が集中する。中でもユカの珍しく悪い笑みを見ればシガナは直視できずに目を逸らし、1人気まずい空気を逃げ出すために、せめて話をすぐにでも終わらせることにした。
「ゆ、ユウシ?それをどう強くしたって?」
「えっとね、頭が増えてた!」
「そ、そっか、だってねユカさん!」
「そうですか、ですが『紅炎大蛇』はもうその応用先は既に考えていまして」
「おお!あの中級魔法を、もう進化なさるのですね!」
ユカは意図的に話を戻そうとしていた。その頭の中には、魔武戦で人気になってうんざりしていたところを目立つことをするからだと諭され、魔物討伐大会では大人しくしていたかったのに、にもかかわらず諭した本人に注目を丸ごと押し付けられたことへの不満と小さな仕返しが。シガナは目を逸らしてもなお視線を感じて冷汗を流し、ユカはそんなシガナを見てどことなく楽しそうである。
「はい、もう名前も決まってまして」
「!よければ、聞かせていただいても?」
「『蒼炎麗蛇』。その蒼く美しい見た目から名付けました」
「なんと……!蒼の炎とは!それにあれ以上に美しい魔法が!?」
「そうですね、きっと私の通り名も変わってしまうことでしょう、例えば、『紅火蒼炎』でしょうか?」
シガナにとって不運なのは、この場にクロアスがいたことか。望む質問が投げかけられ、ユカはゲルセル大発生の日の複合魔法と、彼と交わした会話を1つ1つ思い出して語る。ただその視線はずっとシガナを見据えたままであり、ユカと会話を成立させて至福の喜びを得ているクロアスを除き、あまりに動かないユカの顔にテイガは流石に違和感を覚えていた。
「ただまだ実力が足りず、『蒼炎麗蛇』はまだ1人じゃできなくて、複合魔法でしか成功させていないんです」
「あの複合魔法で!?そんな、一体誰と!?」
「それは秘密と言われていて。ああ、先ほどの通り名も実はその人に」
「ユウシ、ごめん、今日は用事できちゃった」
「え!?」
点と点が繋がろうとしていたテイガの殺意の波動を背中に感じ、シガナは確信した。少なくとも、今日一日は追われることを。ユウシがシガナに理由を問う前に、テイガがシガナの肩に手を置こうとした。シガナは躱し、数歩分、前に跳んだ。
「なあシガナさんよぉ。なんでユカさんにずっと笑顔向けられてんだ?」
「ちょっとテイガ?」
「お前ら悪いな。ちょっとやることできたみてえだ」
テイガはからぶった手を戻し、そのまま同じようにシガナを捉えようとするが、シガナは後ずさりしてまたもや躱す。2人はそれを数度繰り返し、歩幅は次第に大きくなる。
「いやいやテイガ、君が何を考えてるのかは知らないけどね?自分はほら、無属性の魔法使いだよ?そんな複合魔法なんてしたところでユカさんの助けになんかなるわけが」
「いや、実はユウシに聞いてんだ」
「え?」
「あの、ユウシさん?」
「!?」
また秘密を喋ったのか。シガナの言外の圧を受け、ユウシは身に覚えがないと、激しく首を横に振る。今回はユウシはまだ、誰にも何も言っていない。それは事実であり、テイガも何も聞いていなかった。
「すまん、嘘だ、ユウシは何も言ってねえ」
「……うっわー、君、悪い人だね?」
「テメェ程じゃねェッ!ぜってー捕まえて全て吐かせてやっからなァ、シガナァア!!」
何も聞いていないが、この嘘に対する短いやり取りだけで、シガナがユカの協力者であることは一目瞭然である。テイガはそれが分かると鬼の形相でシガナを捕らえにかかり、シガナも昨日以上に速いテイガの全力に、本気を出さざるを得ず、2人はあっという間にこの場からいなくなってしまった。
「……行っちゃった」
「もういいわよ、あのバカほっといて魔法練習しましょ。ほらクロアス、行くわよ」
「え!あ、わ、分かったよ」
テイガが追いかけたのが女子じゃなかったからか、この後に魔法の練習が控えていたからか。モモコがテイガを追いかけることはなく、ただ呆れたようにため息をついてクロアスを連れて離れようとする。それはモモコが以前のように必殺技は公開するまで隠して練習するつもりであり、ユカと離れ離れにさせられるクロアスはしかし不要に好感度を下げたくはなかったため、泣く泣くモモコに続いてその場を離れる。
「じゃ、じゃあ私達も練習しよっか」
「そうですね」
「うん……」
足も追いつかなければモモコの方に行くこともできないため、残されたフーシュはそう言うしかなく、妙にすっきりした表情のユカは乗り気で、初日から結局シガナのアドバイスを貰うことができなくなったユウシは気を落としたスタートを切るのだった。




