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50

(記念すべき(?)50話ですが、この先は展開が大まかにしか決まっていないこともあり、1話の長さを減らそうと思います)

「いやぁ、とうとう夏が来たなぁ」

「学校生活の4分の1が終わっちゃったね」

「え!?早くない!?」


 魔物討伐大会が終わり、2日間の休みを経て、月は春後月から夏前月へと切り替わった。入学して1年で卒業となるこの学校では、卒業までの春前月の始まりの数日を除き、一度過ぎ去った季節は学生のうちに2度は過ごせないこともあり、季節の移り変わりは過ぎ去る日々を感じさせる大きい目安だった。


 ユウシの体感ではまだ1ヶ月過ぎたかどうかといったところであり、フーシュに現実を知らされ、信じられない、信じたくない気持ちで一杯である。


「どうしよう、まだまだやり足りないことばかりだよ!友達も100人できてないし」

「お前の人見知りは改善してねえしな、せっかく人気者になれたのに」

「ユウシくん、今日はまだ知らない同級生の子に話しかけられてないね」

「うぐっ……」


 テイガから別の現実を突きつけられたユウシは目を逸らし、そんな親友の変わらない姿にテイガは苦笑して肩を優しく叩いて励ました。


 魔物討伐大会にて特別賞という異例の受賞を果たしたユウシ。同時に希少な新規属性の適性者ということと、上級冒険者が複数人で倒すことを推奨されるCランクのゲルセルを30匹近く討伐したことが広く知れ渡り、翌日はひたすら話を聞こうと初対面の学生たちから声をかけられていた。


 そんな多くの見知らぬ生徒達と知り合いになるチャンスを、ユウシはまともに話すことができずに生かすことができなかった。またおどおどしたり、慌てたり、ひたすら落ち着かなかったりする様子は悪名ともいえる通り名、『白眼の狂人』も広めることにつながってしまい、今ではすっかり近寄ってくる生徒も少なくなってしまった。


 ユウシは情けない自身の人見知りと望まない通り名の拡散に気持ちを沈ませていたが、逆にテイガは少しほっとしていた。それはユウシが魔武戦でのテイガとモモコの人気に焦りを覚えていたのと同じことだったが、気恥ずかしいこともあって敢えて口にすることはなかった。


「まあ、代わりに魔法は大分成長したじゃねえか。珍しい代わりに難しい属性の魔法を使えるようになって、苦手だった魔力の制御も安定するようになって。それこそ表彰される実力が身についたんだろ?」

「……そう、だね」

「十分過ぎた月日以上に大きく成長してるだろ。入学前じゃ考えられないぐらいな」

「うん!」


 加えて例え100人もの友達はできなくとも、将来共に冒険者パーティーを組むフーシュやユウシの成長に大きすぎる協力をしてくれたシガナとユカ、他にも生徒の間で話題になる実力者であるレイアやセキラ達など、100人の友達に匹敵するか、それ以上の出会いがあった。それを思えば、ユウシの友達作りも大成功であり、ユウシはテイガの言葉に頷き、笑顔で頷いた。


「ユウシだけじゃねえ、俺もお前ほどじゃねえけど討伐大会で成果を残してるし、魔法は平均以上の自信はある」

「魔武戦も盛り上がってたしね!」

「ああ!で、フーシュも俺の上の順位だし、魔法はもちろん、勉強も頑張ってるよな」

「うん、順調に点数も増えてるよ!」

「そうだよな。俺らはこの3ヶ月で大きく成長したなぁ……俺らは、なぁ……」

「「うん……」」


 イベントや成績を振り返り、各々成長を実感して喜んでいたはずだが、しかし今、3人はどこか遠い眼差しの様子は少し悲し気だ。その理由は、そこにもう1人がいないことにある。


 彼らがいる場所は掲示板の前。試験の成績が張り出されている、掲示板の。


「モモコ、お前さぁ……それは違うだろ……」


 モモコ 096点 E C E


 モモコの成績である。今日は夏前月2日目。全生徒受験必須の試験を終えた彼女の座学の点数は、500点満点の96点。確かに成長はしているが。それはDランクへの昇級条件を満たしておらず。


 モモコは今月の休日、補習が決定してしまっていた。それはこの日とて例外ではなく。彼女は今、同じくEランクの十数人と共に、勉強をしているのである。


「あと5点だったのになぁ」

「あれだけ勉強頑張ってたのにね」

「モモコがちょっとだけ可哀想だよ」


 大会後の2日間の休日、モモコは大会で頑張った自分へのご褒美に街へ買い物しに行きたいと主張していた。だがフーシュが夏から始まるEランクの生徒への補習について改めて触れ、街に出てしまえばそれだけで一日が終わってしまうことは容易に想像できたため、この2日間は我慢しようと説得する。またユウシがテイガ、モモコ、フーシュの固有魔法の参考になりそうな夢を見たことを告げ、試験明けに晴れやかな気持ちで練習しようと提案し、モモコは渋々応じて勉強に明け暮れた。


 翌日の夏前月1日目。長い試験を終え、それでもモモコは手応えがあったと、Dランクに昇格できる自信があると自信満々だった。その結果がこれである。今まで勉強を怠ってきた跳ね返りで完全に自業自得ではあるのだが、点数が点数なだけに、テイガ達もあまり責めることができなかった。その後万が一補習を逃げ出せば、最悪停学や退学の処分をされかねないと知ってしまい、いつもの元気の欠片もない萎れたモモコを見送るユウシ達も、ただありきたりな応援をすることしかできない。


 ただし如何に彼女を憐れんでも、3人の頭にはフーシュの苦言から目を逸らして聞かなかったことにしてきたモモコの能天気な顔が思い浮かんでいる。そのため現状これ以上何かをしようとは思わず、それぞれすぐに気持ちを切り替えてモモコの心配を頭から追い出したのだった。


 そうしてしばらく掲示板の前で過ごしていた3人の元へ、彼らを見つけた見知った顔が訪れる。それはシガナ、テツジ、ヒカゲの3人で、シガナとテツジはほとんど初対面だが、シガナとヒカゲはテラス席で会話を交わし、テツジとヒカゲはそれぞれの運の悪さと影の薄さから不憫繋がりという不名誉な共通点から仲が良かったらしい。なおシガナを見たテイガはすぐにユカを探して見渡したが、今日は一緒ではなかった。テイガは一緒にいないことを喜べばいいのか、会えなかったことを悲しめばいいのか、無駄に頭を悩ませていた。


「なあ、ここにいるってことはもう各試験結果は見たんだろ?」

「うん、それでモモコが座学はDになれなくて、補習に行っちゃった」

「知ってるよ、ソユノさんが仲間って喜んでたの、傍で見てたんだ」


 ソユノも結局Eランクのままらしい。それも掲示板の右下を見ればすぐに名前が見える位置。掲示板を見に行ったテツジとヒカゲはそれを知って嘆くソユノが、同じく補習を受けるおよそ30人前後の生徒の中からモモコの名前を見つけて怪し気に笑い、どこか軽い足取りで教室へ向かうのを不可解な目で見ていた。


「よくその点数で魔武戦の後半戦出場になったよね」

「あー、成績順だって言われてたやつか」


 その理由は教師しか知らないところではあるが、実際のところ、それはソユノが参加申し込みの受付時間を過ぎ、対戦表を半分ほど決めてしまった後に慌てて参加希望を出したためであった。最初は今回は諦めるよう言われていたのだが、そのとき偶数と確認していた参加者が何故か奇数となっていたことに教師が気付く。そこで人数合わせとしてソユノの参加が認められた経緯があったりする。


「いいなぁ、僕は参加もできなかったのに」


 ボソッとそう言って呟き、受付時間外でも参加できたソユノを、時間内でも参加できなかったヒカゲは羨んだのだった。


「そうだ。テツジ、なんかユウシ達に言いたいことがあるとかなんとか言ってなかった?」

「あぁそうそう、ほらこの間試験結果で競うとか言ってたろ?」

「あ、忘れてた!」

「そんなことあったな。ま、もうモモコとソユノの順位が下から1位と2位ってのだけ分かったけどな」


 逆を言えばそのことへの印象が強すぎたため、ユウシ達はお互いの点数について話し合うことは全くできていなかった。そこでユウシは今、この場にいる一同を中心に仲の良い友達の名前を探して成績を確認した。以下、座学の成績順にその名前を示す。なお、ランクは左から座学、魔法、武技である。

 

  シガナ 481点 A D D

   ユカ 291点 C B E

  ヒカゲ 264点 C D C

 フーシュ 262点 C C E

  テツジ 259点 C C E

  ユウシ 175点 D D E

  テイガ 121点 D C C

  モモコ 096点 E C E

  ソユノ 047点 E D E


「あ、3点差で私の勝ちだね!」

「そ、そう、ですね!いやー、負けちゃいました」

「すごくいい勝負だね、次も負けないよ!」

「もちろ、じゃなくて、こ、こちらこそ次は!」

「丁度いいじゃん、ヒカゲも混ぜて貰えば?」

「ほんとだ、2点差で負けちゃったから、次は勝つね!」

「えっ、あ……いいの?ありがとう……!」


 未だにフーシュに対してはドキドキが収まらないテツジと、認識して話しかけられた上に相手にされたことで感動しているヒカゲ。そんな2人の本来の目的から逸れていそうな感情とは異なり、純粋に勉強で対等な競争相手を見つけ、フーシュは闘志を燃やす。


「やった!テイガとの勝負は僕の勝ち!」

「あー、そうだけどさ。お前、魔法に注力してるように見えてちゃんと勉強もしてんのな」

「どやぁ」

「小突くぞ」


 このまま順調にいけば来月にはCに上がりそうなユウシの得点目を丸くするとともに、人を小馬鹿にしたようなユウシのドヤ顔にテイガは頬を引き攣らせる。


「シガナくん、また最高得点を更新したんですか……!?」

「みたいだね~」

「マジでさ、お前の頭ん中どうなってんだよ」

「どやぁ」

「よし、お前ら2人まとめて小突く!っておい、逃げんな!」


 一同が信じられないものを見て言葉を失う中、ユウシを真似してドヤ顔を浮かべてテイガを怒らせ、ユウシとシガナは逃げ出した。


「あんな傍から見ればいかにも普通に遊んでる生徒がさ、ゲルセル30匹とか倒してるの、ビックリだよ」

「ユウシくん、とっても頑張ってたんだよ?」

「あ、いや、別に馬鹿にしてるとか、そういうんじゃないんすよ?」

「テツジ、それはフーシュさんも分かってると思うよ」

「あ、ああ、そうだよな」

 

 フーシュの言葉を勘違いして受け取ったテツジがヒカゲに言われて冷静になり、

 

「びっくりで言えば、ユカちゃんは魔法でBなんだね」

「あの人すごいよねぇ。杖壊してるの、初めて見たし」

「魔武戦、大会と来てこの成績。みんなの話もユカ様持ちきりで、もう学校一の人気者って感じだったな」

「お、他にも魔法Bいるや。ああ、イアンって人か」

「そいつか。そいつは魔武戦も大会も成績も悪くないのにな。全然噂になってなかったな、はは」

「ぅおいっ!!」

「へ?」


 続く話題からふとイアンに話が移り、成績も功績も悪くないがユカと比べれば天地の差があると笑ったテツジに、不機嫌な怒りの声がかけられていた。




「はぁ、はぁ、そろそろ、観念しろよ!別に、痛めつける、わけじゃ、ねえぞ!」

「そうなんだろうけど、わざわざ小突かれるために止まるのはおかしいし」

「ってか、なんで、息も切れて、ないんだよ!」


 追いかけられてそうそうに追いつかれ、ステータスが上がったはずなのにと嘆くユウシに対し、シガナは捕まることなくしばらく逃げ続けていた。


「分かったよ、もう諦めっから!そろそろ戻るぞ!」

「はいはい」

「と、見せかけてっ」

「バレバレだよ」

「マジかよっ」


 諦めた振りをして近寄ってきたシガナに振り返りざまに触れようとするが、振られた手はシガナが身を逸らしたことであっさり躱され空を切る。避けられると思っていなかったテイガに、シガナは悪戯な笑みを見せ。


「相変わらずまだまだだねぇ」

「くっそ、いっそこのまま、今日一日、追い回してやろうか」

「はーいストップでーす」


 追いかけて追いつかなかったことはこれまで何度も経験したが、今日になってその全てを笑われた気がしたテイガはふつふつと湧き上がる怒りのままに指を鳴らして準備運動を始めようとしてユウシに止められた。それでも少しは抵抗して見せるテイガだが、ユウシの目から静かに光が消えようとしたのを見るとすぐさま手を引いた。


「覚えてろよ!次はねえから!」

「そうだといいね~」

「いつの間にそんなに仲良くなったの……?」


 テイガがここまで他人に遠慮のない態度で接するのは自身やモモコに対してばかりだと思っていたユウシの疑問は敢えて答えられることはなかった。だがそれぞれの心中では、テイガはシガナを一番厄介な恋敵になりうる存在かつ思っていたよりも話しやすい相手、シガナは普段ユウシやモモコと過ごす姿から雑に扱っても許される、実は面倒見のいい人と認識していた。


「あーあ、そこそこ運動神経に自信のある俺より上で、魔法も含めていろいろ知識があるお前が冒険者パーティーの最後の1人だったら滅茶苦茶心強いんだけどなー」

「残念だったね、やることがあるからさ」

「知ってるよ、分かった上で言ってんだよ」

「え、いつの間に誘ってたの!?」


 どうやらユウシの知らないところでテイガはシガナを勧誘し、そして断られていたらしい。理由こそユウシが大会中に聞いたものと重なるが、それでも初めて知ったユウシは何度も目を瞬かせていた。


「そもそも最後の1人に魔法主体の自分が入ったらバランス悪くない?」

「今のところ攻撃魔法2、武技と魔法の中間の俺1、回復魔法1だしな。ラストぐらいはその場のノリじゃなくて、相性も考えなきゃ駄目だよなぁ」

「武技を習う前衛の人が欲しいんじゃない?それこそセキラとかグランみたいな」

「いやー、その2人はぜってーレイアさんとこ入るだろ……ま、なんなら俺が後期は武技に移るし、最後ぐらいはのんびり決めるさ。な、ユウシ」

「いきなり話振るじゃん……でも、そだね」


 学校生活も4分の1が終わり、冒険者となる日々が少しずつ近づいてきている。テイガは何気なくシガナと理想の冒険者パーティーについて話しているが、単に魔法がかっこいいという理由で選んだ当初と異なり、密かに練習する武技は試験で魔法と同じくCランクを取っていることからその成果が出ていることが伺えた。


「ってか、魔法の講義形態こそ自主練そのものだし、武技はもう独学じゃこれ以上成長はなかなか厳しいし、講義の武技への移行はむしろアリだな、よし」

「そっかぁ、そしたらその時間はもう一緒に練習できなくなっちゃうのか」

「そうだけどさ、やっぱ一流の冒険者目指すなら必要なことだし。何よりユウシが魔法でとんでもねえ力を手に入れたんだ、そしたら俺が武技で最強になればもう無敵だろ!」


 ああ、テイガはずっとテイガのままだ。ユウシは、そう思った。


 子どもの時に冒険者を夢見て、自分がいれば一流の冒険者を目指せると言ってくれた日から。紆余曲折を経験し、何度も挫けて心が折れそうになった自分とは違い、テイガはずっと一流の冒険者を目指してすべき努力を続けている。


 数日前に幼きあの日の誓いを思い出したからか、今のユウシにはテイガの将来を信じて疑わない真っ直ぐな言葉がとても眩しかった。そんな彼の期待に応えたい。更に成長した姿と共に、肩を並べて戦いたい!


 ユウシは改めて思いなおして笑みを浮かべ、テイガの言葉に賛同しようとして。


「そっか、それならテイガは講義でユカさんと会うこともなくなるのか」

「ごめんユウシ、やっぱキャンセルで」

「もう!台無し!!」


 テイガはテイガだった。

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