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せっかくキリがいいところまで進んだので、いつもより遅くはなりましたが投稿してみました

『3、2、1……しゅーりょーっ!!』


 夕方の学校に、魔導具を通したフュルカの大きな声が響き渡り、魔物討伐大会の提出締切が告げられた。


 既に提出場所の広場には多くの生徒達がいて、各々スライム討伐の手応えを話し合っている。その中にはユウシ、シガナ、ユカの3人もいた。


「ほらユウシ、耳を傾けてごらん?ユカさんを称える生徒達以上に、君のことを恐れる人がたくさんいるよ」

「や、止めてよ、せっかく忘れてたんだから」

「おかげで助かってます」

「複雑だよ……」


 朝の食堂に引き続き、昨晩得たユウシの通り名の効果は絶大だった。また今は眠気を通り越して目が冴えていたが、少し前までは疲労による眠気に耐えながらも舟をこいでおり、その動きが一部の生徒に昨日の恐怖体験を思い出させたのだとか。


 そんなこともありつつ、3人は大発生の騒動の後、結局スライム討伐を行う気があまり湧かず、残りの時間は街の外へと出ることもなく、ただのんびりすごしていたのだった。そして大会終了を告げられて間もなく、3人を見つけたテイガ達が声をかけた。


「よっ、ユウシ。どうだ、1位は取れそうか?」

「え、あー、その、なんていうか」

「まあ無理だろうな、なんてったって俺らがいるからな!」


 自信満々なテイガの話を聞けば、昨日から共に行動している4人は全員が昨日の記録を更新することに成功したらしい。ただ結果発表を控える今日は提出の際に順位が公表されず、例え4人で上位を独占したとしても1人は必ず表彰から外れてしまうために、緊張しているとのことだった。


「私達が手に入れた魔核はどれもが美しいものだった。如何に魔法が得意なユカ様でも、知識が豊富なシガナさんでも、スライムの弱点を突くユウシでも、この記録を抜かすことはできないだろうね」

「でもよ、こいつら揃ってなんか言いたげだぜ?」

「もしかして、ユウシ君たちはもっといい方法見つけたの?」


 ハウターの言葉を聞いてフーシュは自分の知らない方法があるのかと期待したが、問われてユウシ達はすぐには答えられなかった。


「僕達のは、ちょっと違うっていうか」

「説明自体はそう難しくはないんですが」

「ん?なんだよ、もったいぶらずに教えてくれよ」

「いや、本当はそのつもりだったんだけどね。やっぱり結果発表を待ってもらおうかな」


 一人悪戯な笑みなシガナにテイガ達が首を傾げていると。


「あら皆さん、ごきげんよう」

「!?レ」

「お!レイアさん!昨日の朝ぶりですね!」


 近くを通りかかったレイアが一同に声をかけた。後ろにはセキラとタリユスも一緒にいたが、タリユスは今にも倒れそうなほどにフラフラとしていた。また突然のレイアの登場に、彼女を恋慕しているハウターが胸を高鳴らせ、滅多にないこの機会に話しかけようとしたが、そんな彼に気付かなかったテイガが悪気なく遮ってしまった。


「ねえ、タリユス大丈夫?」

「は、はい……ただ、疲れましたね」

「私達は連日討伐数で1位を目指していましたの。でも流石にセキラが速すぎて、私は追いつけませんでしたわ」

「ただ魔法が使えない分討伐自体はレイアさんの方が圧倒的に速かった」

「僕は、もう2人についていくこともできませんでした……」

「そっかぁ、お疲れ様だよ」

「それで、皆様はどのように過ごしていらしたのかしら?」

「そ」

「それはですね、俺たちはフーシュの力を借りて質部門の入賞を目指してました!」


 レイアが尋ねれば、これまたテイガが嬉々として答える。これにはハウターの恨みがましい視線がテイガに向けられるが、やはりテイガは気が付かない。


 そのままテイガの話は続き、フーシュの回復魔法による画期的な質の向上方法を思いつかなかったレイアは感心したように頷いた。


「なるほど、そういう訳でしたのね。であれば、もしかしたら2つの部門で入賞を狙えるのでは、と思っていたのですけれど、流石に無理そうですわね」

「こればっかりは申し訳ないけど譲れないですね!」

「ええ、少し残念ね。ですが勉強になりましたわ。フーシュさん、今度お時間が合うことがあれば、光と闇系統の回復魔法についてお話を聞いてもよろしいかしら?」

「うん、もちろんだよ!待ってるね!」


 快い返事を貰ったことでにこやかに微笑んで見せたレイアは、続いてユウシ達の方を見る。一瞬ハウターは目が合ったが、却ってそれで緊張が高まってしまい、声が出なかった。言い淀んでいるうちに、レイアはユウシに話しかけてしまった。


「ではユウシさん達は?まずあなた方3人で行動したのかしら?」

「そうなんですよ、全く羨ましいことに!あ、いえ、レイアさんと一緒の2人も羨ましいですよ?」

「ふふ、気にしてないわ。でも、そうなのね」


 しかし答えるのはテイガ。彼が1人で騒げば、タリユスは苦笑し、セキラはなんとも言えない表情である。またテイガが肯定したことでレイアは興味深そうにシガナを見て、シガナは参ったと言わんばかりに肩を竦める。と、ここでいつもなら不機嫌に口を挟むイアンの姿が見えないことに気が付いたユウシ。またグランの姿も今は見えず、そのままタリユスに質問した。


「そういえばイアンとグランはいないの?」

「そうなんです、まだ合流できてなくて」

「そうね、聞きたいことも聞けたことですし、探しに行きましょうか。それでは皆様ごきげんよう」

「あっ」

「それじゃユウシ、またね!」

「うん!」


 レイアは優雅に一礼すると歩いて行ってしまい、セキラとタリユスもその後ろに続いた。


 その背中に手を伸ばすことしかできなかったハウター。動きが加わったことで流石に気が付いたテイガは彼を見てその想いを思い出し、目を丸くして彼の肩を叩いた。


「おいおい、せっかく話しかけるチャンスだっただろ?なんで黙ってんだよ」

「は」

「自分から動かねぇとさ、卒業まで変わらねぇぞ?な、勇気出せって、応援して」

「るっっせぇぇなぁ!?」

「!?」

「ふぇええ!?」


 テイガ視点では彼が突然逆ギレしたようにしか見えず、ただただ困惑する。そしてハウターが親の仇を見る目でテイガに襲い掛かろうとし、テイガは避けたがそのまま追いかけられることとなった。


「おい!この2日で仲良くなっただろ!?」

「今さっきでゼロ、むしろマイナスだこのクソがッ!」

「なんでだぁ!?」


 とはいえ魔法で襲い掛からなかっただけまだマシかもしれない。しかし2人は止まらず、そのままどこかへと行ってしまった。


「……だ、そうだ。そういうわけでユカ様、今度是非一緒に朝食を」

「嫌です」

「……くっ」


 静観していたクロアスがユカに手を差し伸べたが、ユカは見向きもしなかった。クロアスは膝をついた。


 ー ー ー ー ー


 それからしばらく時間が経ち、クロアスが賞金を得たらプレゼントと共に出直すと言ってその場を離れ、なんとかハウターを巻いたテイガが帰ってきた。だが最後の1人、モモコが帰って来るのは魔核の集計が大方済み、そろそろ結果発表に移ろうかというときだった。


「あ、モモコ来た」

「はぁ、はぁ、待ってて、先に、提出、してくるわ!」

「何言ってんだ、もうとっくに締切過ぎて後は結果発表だけだぞ」

「えー!?」


 周りを見渡し、既に提出受付が閉まっていることを見てテイガの言葉が嘘ではないことが分かったモモコは膝から崩れた。その拍子に地面にぶつかった鞄が開き、中からスライムの魔核が転がる。


「あと少しで、イアンの記録、超せたのに……」

「残念だったな」

「……いや、まだ、諦めないわ!ちょっと行ってくる!」

「マジかよ」

「モモコちゃん、迷惑はかけちゃ駄目だよ!」


 それでも諦めきれなかったモモコは魔核を拾い集めると、ダメ元で受付近くにいた教師にお願いしに行った。


「俺は駄目な方に賭ける」

「僕は受け取ってもらえない方」

「同じじゃねえか」

「あ、ソユノ来た」

「ぜぇ、ぜぇ、モモコ、どうでし……ユカ様ーっ」


 モモコとほとんど入れ違いとなる形でソユノがやってきた。彼女はモモコ以上に息絶え絶えといった様子であったが、モモコが行ったであろうユウシ達の元へ訪れ、そこにユカがいることに気が付くと流れるように飛び込んだ。ユカは横に避けて躱し、ソユノは地面に落ちて悶絶し、ユカから冷え切った視線を貰っていた。


「ソユノとモモコはどんな感じだったんだ?」

「それはもう、絶好調でしたよ!数が増えたことで運ぶのも大変になりましたし!」


 50個の魔核ともなれば、集めるのも運ぶのも一苦労である。1人で奮闘していたイアンはこの点で苦労したのか、この日はモモコ達とイアンの差は縮まる一方だったという。しかし最後の最後で追いつけず、それでももう1往復全力で急いだのだが、結果2人は間に合わなかった。


「今日は私も頑張りました!この学校生活で1番です、褒めてください!」

「はいはいすげえすげえ」

「あなたには頼んでません!ユカ様です!」

「だってさユカさん」

「嫌です」

「そんなぁ!?」


 雑に褒めたテイガが相手にされず、シガナがわざわざユカに振れば、ユカは拒絶してソユノは立ち上がって早々膝をつくことになった。


 その後はなんとか立ち直ったソユノが思い出したかのようにシガナとユカの関係を尋ねたり、敢えて冗談めかして秘密と言ったシガナがテイガとソユノに追われたり、大声で叫び他の生徒の迷惑になっているのを見たユウシが咳払いをしてテイガとソユノがユウシの前で正座したり、結局受け取ってもらえなかったと悲しげなモモコが周囲の生徒に恐れられているユウシを見て困惑したりしていると、ようやくそのときが来た。


『みんな聞こえてるー?それじゃあ!閉会式をはっじめるよーっ!!』


 集計やら表彰の準備やらを終え、フュルカが全体にアナウンスすれば、生徒達は待ってましたと言わんばかりに拍手をして迎えた。


『まずはみんな、お疲れ様!今年は例年よりもたっくさんのスライムが出たんだけど、みんなのおかげでその数を大きく減らすことが出来ました!だからまずは、みんなが頑張ったみんなに拍手ー!』


 討伐されたスライムの総計は一万を優に超えており、街近郊にいたスライムはほとんどが狩りつくされた。だが数日も経てば周辺で溢れたスライムがやってきて元通りになる。それをまだ知らない生徒達は驚きと達成感から周囲の生徒と互いに拍手を送り合っていた。


『中には初めて討伐した人もいるだろうけど、魔物討伐を楽しんでやってもらえたなら何より!ただし!強い魔物の討伐はこうはならないってことだけ先に注意させてね!それじゃあ、長い話はいらないししたくないから、早速みんながお待ちかね!表彰に移っていくよー!


 今回の討伐大会は、その討伐数と手に入れた魔核の質のそれぞれで得点を出してるよ!それぞれで1位から3位まで名前を呼ぶから、呼ばれた生徒は前に出てきてね!』

「えっ、み、みんなの前に出るの!?」

「特におかしいことじゃねえだろ?」

「そもそも呼ばれるかも分からないのに、心配するのが早過ぎよ」


 テイガもモモコもなんてことないように言ったが、人見知りなユウシにはそれだけで緊張することである。またモモコには分からない心配する理由があったが、そんなことを伝える暇もなく、いよいよ表彰の発表が始まった。


 『まずは討伐数部門から!早速第3位の発表!第3位は……じゃじゃん!前回の魔武戦にて中級魔法同士の戦いを見せ、結果的にその戦いを制した?氷魔法使いの男子生徒!イアン!!』

「はんっ、入賞は決まっていたけど、3位か」


 生徒達からあがる拍手は気持ち先ほどよりも小さく聞こえたが、魔武戦よりも大きかったためにイアンのお眼鏡には適ったらしい。上機嫌で前に出れば、先に他の入賞者の名前も呼ばれる。


『続いて第2位は……じゃじゃん!魔武戦にて詠唱破棄の技術を使いこなし、発展属性を2つ同時に扱って見せた女子生徒!レイア!!』

「良かったわ。そして私が2位なら、1位は彼ね」


 生徒達からイアンの倍近い拍手が鳴り響いた。当然イアンは不機嫌になった。そしてレイアが前に出て一礼し、1位の生徒が名を呼ばれる。


『討伐数部門、栄えある第1位は!どぅるるるるる、じゃじゃん!魔武戦にて数々の攻撃を強固な肉体で耐え、驚異の膂力で大地を砕いて見せた男子生徒!セキラ!!』

「そうか」


 割れんばかりの拍手に讃えられながら、いつもの無愛想な表情を少し柔らげたセキラが前に出た。3人が前に並ぶと、フュルカは拡声の魔導具を手に賞金の授与とインタビューを行った。


『まずは第3位、イアン!賞金は銀貨20枚です!それでは今のお気持ちをどうぞ!』

『はんっ、今回は1位を譲るけど、次は僕が1位だ!』

「……そうか」

『おーっと、優勝のセキラに宣戦布告!しかし相手にして貰えない!ドンマイ!』


 地団太を踏むイアンと、フュルカの言葉に生徒達は笑いに包まれた。


『続いて第2位、レイア!賞金は銀貨50枚!』

『ありがたく頂きますわ。ですが、私も次回の大会は1位を取って見せますわ。セキラ、次は敵として戦いましょう』

「ああ。俺も手加減はしない」

『おっと!心なしかセキラは嬉しそう!これはもしかして、そういうことなのかー!?』

「なっ……!?」


 まさか教師にからかわれると思っていなかったセキラはグランのように沈黙させるわけにもいかず、慌てて無表情を繕ったが、生徒達の生暖かい視線はむしろ数を増やしてセキラに向けられてしまった。


『続いて第1位、セキラ!賞金はなんと金貨1枚!羨ましい、そんなキミの今のお気持ちをどうぞ!』

『……そうだな。今回俺が勝ったのはステータスで大勢の生徒を上回っていたことと既に討伐の経験があったために他ならないと思っている。次回の大会がどのようなルールで開催されるのかはまだ分からないが今回とは違った結果になることは十分に考えられる。だが俺も期待されているからにはどのルールになったとしても変わらず1位をとれるよう今後も研鑽を重ねて行く。以上だ』

『……うん!ちょっと緊張してるみたいだけど、熱ーい想いは伝わったよ!ありがとう!!』


 言葉の切れ目がほとんどない長文早口の感想を伝えられ、緊張によるものだと勘違いしたフュルカは、それが彼の通常であることは知らなかった。


『さあ、たくさんのスライムを討伐して見せたこの3人に、もう一度大きく拍手!』


 賞金を受け取った3人は温かい拍手に見送られながら元居た場所に戻っていく。そんな3人を見て、モモコとソユノはとても悔しそうな顔であった。


「イアンが3位ってことは、あと1、2往復で私達が3位だったってことじゃない!」

「そうです、あまりにおしすぎます!」

「うんうん、もしかしたら特別賞とかあったりしてー」

「!そうね、まだ諦めるのは早いわね!」

「はい!」


 モモコとソユノは気を取り直したが、可能性を提示したシガナは悪い笑みを浮かべている。その理由を知るユウシは2人を心配するように、ユカは悪戯好きなシガナに呆れたようにしており、レイアを見ていて気付かないテイガと異なり、様子が変な3人に、フーシュは首を傾げていたが、質問する前に一番注目すべき表彰が始まった。


『さて!次は魔核の質部門!これは如何に手際よくスライムを討伐できたかによって変わってくるよ!ただ今年は一撃で倒すだけじゃ駄目みたい!それがどういうことなのか、せっかくだから入賞者に聞いてみよう!それでは第3位から!』

「っしゃ!頼む、まだ呼ばれないでくれ!」

「ふぇええ、こんなにドキドキするのは初めてです……!」

「あれ?ユウシ、アンタは緊張しないの?」

「あー、まだ、ね……」


 モモコの問いに意味深な返事をするユウシだが、その意図を尋ねる前に入賞者の名前が呼ばれた。


『第3位は……じゃじゃん!魔武戦で詠唱破棄した風魔法を使い、フィールドを縦横無尽に駆けることで、迫り来る数多の攻撃を避け続けた男子生徒!テイガ!』

「あー、3位かぁ」

「テイガ、おめでとう!」

「やるじゃない!」

「ああ、ありがとな」


 順位こそ理想には届かなかったものの、魔武戦の活躍を覚えている生徒が多く、同じ順位のイアンと比べれば何倍にも大きな拍手に迎えられれば、テイガも嬉しくないわけがなかった。


『続いて第2位は……じゃじゃん!なんと!攻撃魔法を一切使えないという回復魔法特化の発展属性、癒属性に適性を持ちながらランクインした女子生徒、フーシュ!』

「ふぇ!?わ、私!?」

「スッゴイ!おめでとう!」

「やるじゃない、フーシュ!」


 4人の中で唯一ランクインしないのが自分だとばかり思っていたフーシュは名前を呼ばれて驚く。またその驚きは癒属性の特徴を知っている他の生徒も同様で、ざわめきと拍手が入り乱れる中、フーシュは前に出た。


『最後に、質部門の栄えある第1位は!』

「昨日1位だったみたいだし、クロアスかな?」

「ユカ様、ユカ様ということはないんですか!?」

「ないです、断言できますね」

「そうなんですか……」


 ソユノが悲しそうにする中、ドラムロールのような巻き舌を終え、フュルカが口にしたのは。


「……じゃじゃん!特徴の記載、何もなし!……あ、男子生徒!ヒカゲ!」

「へ?誰?」

「私は知らないです」

「聞いたことないですね」


 モモコ、ソユノ、ユカはその男子生徒を知らず、それは他のほとんどの生徒も同様であった。


 そもそも日々学校生活を送ってきて特徴がないと紹介されることがあるのか。そんな疑問が勝ったのか、拍手もほとんど起こらない。ただ、その生徒を知っている者もいて。


「スッゴイ、ヒカゲ1位になったんだ!」

「あれ、ユウシも知ってたんだ」

「うん、魔武戦の日に知り合ったんだ!」

「そうなんだ、よく見つけて貰えたね、ヒカゲ」

「ははは、偶然だったんだよ、ほんと」

「「「!?」」」


 女子3人が突然近くで聞こえた見知らぬ生徒の声。いつの間にかそこに立っていた猫背黒髪の地味な生徒。


『あれ?ヒカゲくん?いないのかな?』

「あ、じゃあ行ってくるね」

「うん!」

「き、気付かなかったわ」

「なんなんですか、あの人は」

「生まれつき影が薄いんだってさ」


 魔武戦が終わり、走れないために観客席に取り残されたユウシと、出ていくタイミングを逃したフーシュ。2人は同じく観客席に残り、悲しげに嘆いていた生徒、ヒカゲと出会った。話を聞くと、彼は出場者として申し込んだのにも関わらず、名前を呼ばれることなく試合が終わってしまったのだという。それが慣れたものだと悲観的な彼には同情心が勝ったためにユウシの人見知りは発揮されず、励ますうちに友達になったのだった。


「なんか可哀想な生徒ね」

「ちなみにモモコは会ったことあるって話する?」

「え、いつよ?」

「初めて自分と出会った、あのテラス席でだよ。覚えてる?テラス席は10席で、君とテイガとユウシの3人分で満席になったって話をしたと思うんだけど」

「そう、だったわね」


 言われてモモコはその場にいた面々を思い出す。


 自分、ユウシ、テイガの3人。レイア、タリユス、イアンの3人。セキラ、グランの2人。そしてシガナで1人。


「そこにヒカゲを入れて10人だよ」

「でも、そうだとしたらいつ来たのよ?」

「最初からずっといたよ。それこそ君とテイガがテラス席に駆け込んできたときから、少なくとも自分が先に帰るまでね」

「なら自己紹介してくれても良かったのに」

「したってさ。気付いてもらえなかったみたいだけど」


 そんなことがあり得るのか。モモコが尋ねようとして。 


『うーん、いないみたいだね?それじゃあそのまま進めちゃおうか!』

「いや、もういるんですけども」

『あれ!?』


 今もまた、至近距離にいるのに気付いてもらえないヒカゲを見れば、モモコは納得せざるを得なかった。そんなただでさえ可哀想な扱いを受けている彼だが、より悲しさを増幅させるのは、普段からその反応には慣れていますと言わんばかりの感情のこもらない笑み。ただしその目は死んでいるように光がないのを見れば、生徒達は1位である彼に何も言うことができなかった。


『さ、さて!気を取り直して表彰の続きだよ!みんなに倒したときの工夫を聞いてみよう!』


 一番盛り上がる結果発表が困惑と同情によりすっかり静まってしまい、自らの不手際と共に少し焦ったフュルカは半ば強引に先に進めることにした。


『まずは第3位、テイガ!今のお気持ちと共に、討伐の工夫をどうぞ!』

『先に俺は2位のフーシュと他に2人、クロアスとハウターを入れた合計4人で協力して討伐したことを言っておくな!討伐の工夫は、簡単に言うとフーシュ以外でスライムを足止めして、フーシュに回復魔法でスライムを癒してもらうって方法だ!おかげで俺らは全員、傷1つない魔核を提出できたぜ!』

『なるほど!それはとっても面白い発想だね!』


 回復したところで一撃で倒せる程に弱いスライムが相手ならではの作戦でもあり、汎用性はそこまで高くはないが、回復魔法を魔物に使うというなかなか無い発想はこうして2人が入賞するという形で大成功を修めた。中にはピンと来ていない生徒もそれなりにいるが、ただの偶然ではない入賞ということで、生徒達から感心を込めた拍手が送られる。


『じゃあ続けて第2位のフーシュにもお話を聞いてみよう!ズバリ!4人で一緒に討伐したって話だけど、その中で攻撃魔法を使えないフーシュが1番順位で上になった理由は何か思い当たるかな?』

『は、はい!えっと、回復魔法の雷系統には、痛みを感じさせないようにする『鎮痛』があるんですが、強めに使うと痛みだけじゃなくて、スライムに周囲の感覚を遮断させることができて、それでストレスを与えずに倒せました!』

『お、おう、思ったよりも恐ろしい答えが出てきてビックリ!間違っても人には使わないでね!』

『ふぇええ!?つ、使いません!!』


 ただの回復魔法だと侮ることなかれ。行き過ぎた治療は毒になるという話は地域によって有名な話であるが、今回フーシュはそれを意図的に用いたという。もちろん魔法耐性が高くないスライムだからこそ容易にできたことではあるが、フュルカが冗談のつもりで言った悪用を想像した生徒によりフーシュは以降少し恐れられるようになったとか。


『さーて!それじゃあ今日一番得体の知れない第1位のヒカゲ!君は一体どういう魔法や武技で、全ての生徒を上回る品質の魔核を得たのかな?』

『どう、と言われましても、そのー、運よく目の前で生まれたスライムにそのまま近づいて、剣で斬ったとしか……』

『んー?魔法は?武技は?』

『いえ、そのときは使ってなくて。強いて言えばほら、僕、影が薄いので』


 その影の薄さは魔物にも適用されるらしい。後は彼が言うように、運よく生まれたてのスライムを討伐できたことで、身体に不純物の無いきれいな状態の魔核を得ることができ、こうして1位になれたのだった。


 『そ、そっかぁ!もしかしたらそれもキミの強みかもしれないね!うんうん!それじゃあ生徒のみんな!高い質の魔核を提出した3人の生徒に大きな拍手!』


 フュルカは討伐数部門のときと同様に拍手を促したのだが、話したことすら印象に残らない1位と、よくわからないが恐ろしい2位として、討伐数部門のときほど素直に称賛の感情が乗らず、生徒達の心なしか小さく聞こえる拍手の中で3人は元居た場所に戻っていった。


「なんか、なんだろうな。……まあいいや!賞金、ゲットだ!」

「くー!ちょっと、見せつけないでよ、奪うわよ!」

「よししまうか!」


 テイガはすぐに鞄に入れた。モモコは舌打ちした。


「クロアスくんとハウターくんにも少し分けてあげたいな」

「流石フーシュだな、喜ぶと思うぜ」

「それがあれば、お代わり何回分だったかしら……」

「モモコ!まだです、特別賞があるかもです!」


 夕食前ということもあり、お腹を空かせたモモコが残念そうに呟くが、ソユノはシガナが示した特別賞の可能性を諦めてはいなかった。そしてフュルカに視線を向けると、丁度拡声の魔導具を彼女は口に近づけた。


『さて!討伐数と魔核の質の両部門の表彰が終わり!これで大会は終了……とその前に!なななんと!今回は特例で特別賞があります!!』

「「!?」」

『与えられる生徒は2人!その賞金は銀貨30枚!』


 まるでシガナの予言が当たったかのように、フュルカがもう1つの賞の存在を告げれば、予想だにしていなかった生徒達は3位よりも多い賞金を聞き、まだ入賞の可能性が残っていることに歓喜し、大きくざわめいた。


「マジか、本当にあるのかよ特別賞」

「ソユノ、2人よ2人!本当に私達かもしれないわ!!」

「そうですよ、最後の最後まで頑張った私達で間違いありません!」

「そうかもしれないねぇ、ね、ユカさん、ユウシ?」

「「え」」


 またもや意地の悪い笑みを浮かべるシガナに聞かれた2人は、しかし賛同できなかった。何故ならこの特別賞の存在を、シガナ同様前もって知っていたのだ。そして、その該当者も。


『それでは特別賞を贈られる生徒はー!?どぅるるるるる、じゃじゃん!!魔武戦であらゆる生徒を魅了した学校随一の魔法使いともいわれる女子生徒、ユカと!なんと、とても珍しい他族新規属性に適性を持つらしい男子生徒、ユウシ!!』

「「えーーーーっ!?」」

「おいおい、何をしたんだよ?」

「2人とも、すごいです!」


 該当者はユウシとユカだった。これには選ばれなかっただけではなく、3つに別れたユウシ達のチームで唯一入賞者になれなかったと知ったことで驚愕から落胆まで感情が揺れ動いたモモコとソユノは感情のままに叫んでいた。


 テイガはユカはともかく、まさか前日欠乏症を引き起こしていたユウシが通常ではない賞を獲得しているとは思わず、また賞金で負けた悔しさもあって苦い顔でユウシに尋ねたが、名前を呼ばれ、周囲の生徒の視線が集まったことで緊張が急上昇したユウシはそれどころではなかった。


 前に出ても左右の手足を揃えて出したり、呼吸が乱れていたり、とにかく挙動不審なユウシは、この後どう受け答えすべきかしか考えることができなかった。そのため、今とこの先の言動が不名誉な称号『白眼の狂人』を強固なものにしてしまうことを知る由もない。


 ただし幸いだったのは、その注目の多くはユカに向いていたこと。特別賞という通常の入賞よりも目立つ形で、魔武戦に引き続き生徒の注目を浴びる結果となったユカは、向けられる視線の多さにうんざりとした表情をしていたが、それすらも一部の生徒の心を射止めていた。


『さあお2人がどうして特別なのか、みんな気になると思いますが!その内容とは、なななんと!今大会中にスライムの上位種であるゲルセルを、それも1匹や2匹ではなく、それぞれ数十匹倒していたんだって!!』

「は?……は?」

「本当のことだよ」

「ふぇええ!?あ、あのゲルセルをですか!?」

「あのヤバイのを、す、数十!?」


 生徒達の反応も様々で、すごさが分かっていない者や嘘だと疑って信じない者、またユカならばと納得した者など、多種多様であったが、狂人的行動以外は何も特徴のないユウシについてはほとんどが疑いの眼差しを向けていた。 それはユウシと親しいテイガ達とて、程度の差はあれども同様といえた。


「ちょっと、どういうこと!?そもそもあんなのがそんなにいたってこと!?」

「うん、大発生が起きたみたいでね」

「ふぇええ!?そ、そんな、ふぇえぇ!?」

「倒せたのは良かったし、提出したら当然質で圧倒的な差をつけて優勝、準優勝になったけど、倒した場所やら相手やらでちょっと問題があってね」


 ユウシ達がゲルセルを倒したのは、大会で許可されている範囲の外側。それはユウシの『爆音』の失敗を考慮し、許可を取った上での討伐かつ想定外の大発生の魔物の討伐ではあったが、これを許可してしまうと、他の生徒からすれば勝ち目のない勝負であったと不平が生まれるかもしれなかった。また、それでも対抗しようと監視の目を潜って≪常緑の森≫まで行き、最悪死傷事故に発展しかねない恐れがあった。


 かといって、提出された魔核はそのままギルドに販売すれば、それだけで銀貨数十枚分の価値がある。それを提出はさせても金銭を与えないのはよくないのではないか、という声が教師の間で上がり、結果、特別賞という形になることが3人には知らされていた。なおシガナは討伐の直前にユカに魔法の操作を譲渡したために、討伐の記録には関わっていない判定となっている、というかシガナがそう主張した。そのため彼は受賞を逃れ、全てが決まった後で気が付いたユカに睨まれていたりする。


 そんな彼の説明を貰い、特別賞の理由は納得したものの、テイガ達もまたユカはともかく、今もインタビューの受け答えすらまともにできていないユウシが、前日に欠乏症でフラフラしていたユウシが、魔法がうまく使えないために、前日までモモコのサポートに回ろうかと話し合っていたユウシが、あのゲルセルを討伐したという事実は、嘘ではないのだと分かっても、どうしても信じきれない部分があった。


「まあ後でユウシの学生証でも確認してみなよ。レベルもすごい上がってるし、驚くと思うよ」

「そ、そうなんだろうけど、でも、うーん!」

「……そっか、ユウシは倒したんだな」

「ふぇ?テイガくん?」


 ただしテイガに関しては。信じきれない、というより、まだ認識が追い付かなかった、というのが正しかった。


 頭が落ち着き、冷静に考えれば、ユウシがゲルセルを倒せる可能性を秘めていることは、ずっと前から知っている。


 それこそ、ユウシがギガスライムを同時に複数匹討伐したのを見たとき。初めて使った魔法で数え切れないほどのスライムを討伐したのを見たとき。数百人いる学生の誰もが持っていない希少な適性を持っていると分かったとき。誰もが生きることを諦めかけた中、ただ1人劣火竜に立ち向かったとき。


 タユニケロの街で、初めてユウシと出会ったとき。


 いつも自分に自信がなく、才能も人より劣っていると嘆くユウシ。昔からことあるごとに才能や実力をユウシに羨まれてきたテイガだが、彼からすれば逆だった。


 ユウシには他の人には、それこそ自分も含めて、誰もが測りしれない隠された力がある。昔からその片鱗を微かに見てきたテイガは、学校に入学し、その力が表に出つつあるのだと、そう思い始めていた。


「そうだよな。お前はもっと上に行くよな」


 そんなユウシだからこそ、テイガは一緒に冒険者として遥かな高みを目指せるのだと、まだ子どもだったときから思っており、その判断を後悔したことは一度もない。


『落ち着くんだ、まずは深呼吸!ゆっくり息を吸ってゆっくり吐くんだ!』

『はは、はいっ……すー……すー……すーっ』

『キミ!?吐かないと苦しいぞ!?』


 緊張し過ぎてインタビューがままならなかったため、まずは落ち着かせようと深呼吸をさせようとしたが、もはや狙ってやっているとしか思えない失敗を、ユウシはまた繰り返す。


 生徒達の中にも、ようやく彼の奇行が単なる緊張によるものだと気付いた生徒が現れ、思わず笑ったり、何を見せられているのかと苦笑したりして空気が柔らかくなる。


「本当にさ、ユウシといると退屈しなそうだよね~」


 ユウシの奇行の1つがツボに入ったのか、腹を抱えて笑っていたシガナがそう呟いたのを、テイガは聞き逃さなかった。


「お、シガナ、お前も気付いたのか?」

「まあなんだかんだ、結構一緒にいるからね」

「なるほど、そういやそうだよな。でもな」


 テイガはそう言って笑みを浮かべ。 


「先に声掛けてたのは俺だからな!シガナ、お前には渡さねえよ!」


 ユウシが確かな実力をつけて評価されることが自分のこと以上に嬉しそうなテイガは、そう言って笑ったのだった。

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