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47.5

裏側の話(の筈だった)

「……音、止んだ!」

「っ!」


 頭の中を暴れまわり、平衡感覚がまともではなくなり、揺れ動く地面に身を投げ出さないことが精一杯だった。そんな中、魔法の発動者であるために他の2人よりかは多少の耐性があったのか、ユウシは1人、先に行動を始めた。


 立ち上がり、よろめき、たたらを踏むも、それでも持ち直した。傍にいたユウシが動き出したことで、片目を薄っすらと開けていたシガナは繰り返し頭に残り続ける残響に苦しみながらも、彼が欠乏症を免れたことに安堵する。


 しかしそれも少しの間のこと。作戦を思い出し、すぐに外へ出ようと壁に近づいたユウシ。だが彼の後ろでシガナとユカはまだ立ち上がることすらできていなかった。


「動けるっ、僕、行くよ、行ってくるよ!」

「ユウシ待って、まだ準備がっ!」


 重い頭痛が集中を乱す中で、いくら初級魔法とはいえ、飛来するゲルセルの中心を正確に捉えて弾く行為がシガナにはできるとは到底思えなかった。そのためシガナは頭痛に響くのをこらえてでも、声を大にしてユウシを止めようとしたのだが、『爆音』により聴覚が麻痺している彼には届かなかった。


 そのとき、ユウシの目の前で壁に穴が開いた。シガナが驚き振り返れば、ユカが苦痛に耐えながらも杖を翳していた。


 ユカは焦っていた。作戦中にここまで動けなくなることを予想していなかったのはシガナも同じであるが、冒険者に助けを求めるまでの早さが大事となる作戦に置いて、自分が動けないせいで失敗することは考えられなかった。


 だからユウシが壁を目前としたとき、ユカは回らない頭の中で先のことを考える前に、壁の操作を優先してしまった。


「!絶対に冒険者さんを呼んでくるから!2人のこと、信じてるからっ!」

「駄目だ、このままじゃ全員やられる!ユウシ、ユウシ!!」


 足を踏み出すユウシはもう、振り返らなかった。聴覚は麻痺し、視界は2人を信じて自ら閉ざされた。距離も離れており、今の彼には何も伝えることができなかった。


 シガナは歯を食いしばってなんとか立ち上がった。既にユウシは壁の外に出ている。ここで彼がゲルセルに襲われるようなことがあれば、それは自分の作戦ミスであり、ユウシの信頼を大きく損ね、二度と彼に立ち直ることができないトラウマを植え付けることになる。


「最悪は自分の命を懸けてでも……っ!?」


 ユカはまだ立ち上がれていない。魔法も『火炎包壁』を保つのが限度であるように見える。シガナは覚悟を決めて杖に光を灯し、頭痛をこらえて壁の外に飛び出した、のだが。


「……ははは、ユウシ、どうやら自分は、まだ君のことを甘く見てたみたいだ」


 杖を下ろしたシガナは、魔力を込めるのを止めた。魔法を使う必要がなかった。理由は簡単で、見渡す限りユウシに攻撃を加えようというゲルセルは1匹もいなかったため。


 ゲルセルもゲルセルで抵抗しようとしたのだろう。そのほとんどが限界まで身を収縮し、防御態勢を取っていた。だが、全ゲルセルの弱点でもある音撃を至近距離で受け、無事である個体はまずいなかった。


 一番マシな個体、音源から最も離れた、『火炎包壁』を挟んで対角線上にいるゲルセル達は防御態勢を解き、ふらつきながらも動き出していたが、正常な動きを取り戻すまでにまだまだ時間がかかりそうである。


 続いてその周辺にいるゲルセル達はダメージが想像以上だったのか、防御姿勢を崩そうとしない。小型に縮んだまま静止し、辺りの魔素による回復を図っている。


 更に近いゲルセル達は、防御姿勢を解いている個体と解いていない個体が入り乱れているが、共通しているのは、どれもが気絶しているということ。魔獣はともかく魔物の気絶をシガナは初めて見るが、時間が経てば魔素の吸収と共にいずれ回復することは容易に想像できた。そして。


「音源から近く……4、50ぐらいか」


 シガナは足元のそれなりに透き通った魔核を拾い上げ、苦笑するほかなかった。『爆音』の着弾点から一定の範囲にいたゲルセルは許容を越えたのか、既に薄く潰れて魔素に還った後で、見渡す限り落ちている魔核は一度に拾いきることができない量であった。


「ユウシ……はもう行っちゃったし」


 彼が走った方向を見れば、その背中はもう小石のように小さい。その速さは数十分前に未知の魔物を期待して走った彼を大きく上回っており、シガナは討伐によるステータス上昇の効果であると理解するとともに、まだ痛みを訴える頭を抑えた。


「……どうしよっかな」


 シガナとユカを一時的に行動不能にしたとはいえ、結果的にユウシの『爆音』は理想以上の働きをもたらした。現状ゲルセルが活動を再開するまでには時間がかかり、中には不動のゲルセルが半数近くいるため、シガナは防戦で冒険者の到着を待つのみならず、1匹1匹動けないゲルセルにトドメを刺して回ることもできる。


 自らとユカの安全を考えるのであれば、それが最も良い方法であると、シガナは分かっていた。だが、シガナは一度防壁の中に戻ると、ユウシが置いて行った鞄を拾い、呑気にユウシが倒したゲルセルの魔核を集め始めた。


 全てを拾い終えて見渡すと、動けなかったゲルセルの約半分が収縮を解き、元の形に戻っている。また最初から防御姿勢を解いていたゲルセルも万全の状態に戻りつつあり、少しずつだがその場から動き出していた。


「ユカさん、ユカさん」

「うぅ……シガナさん、ユウシさんは……」

「うん、聞こえる。ユウシは無事冒険者を呼びに行ったよ。あの速さなら街に着くまではあと5、6分かな」


 シガナは万が一に備えて薄く杖に光を灯しつつ、中に戻ってユカに話しかける。2人の聴覚は機能するようになっており、シガナはユカに現状を短くまとめて伝えると、ユカは目を瞬かせた。


「それなら、すぐにでも動けないゲルセルを倒した方がいいのでは?」

「いや、もう厳しいよ。こんだけ時間が経てば、もう最低限自衛はできるように戻ってるさ」

「だったら私の回復を待たなければ良かったのではないですか」

「そうだね。でもさ、それだとつまらないでしょ?」


 シガナはさも当然と言わんばかりにそう言った。この期に及んで何を言っているのか、とユカは困惑と軽蔑が混じったような視線をシガナに向ける。だがシガナはユウシの鞄を掲げて話を続ける。


「自分とユカさんが防戦一方で1匹もゲルセルを倒してないのに、ユウシは守られながら、これだけのゲルセルを倒した」

「それはそういう作戦で、あなたが立案したものですよ?」

「うん、結果ユウシの魔法は想像を超えて、自分たちはほぼ命の危険が無くなった」

「それが、つまらないと?」

「言い方が悪かったね。じゃあこう聞こう。ユカさんはこの大量のゲルセル、倒したくない?」

「……」


 そんなことを言っている場合ではない。危険を冒すよりも命が大事だ。そんな頭に浮かぶ否定の言葉は、しかしすぐに口にはできなかった。


 ユウシの魔法を見て、その結果を知って。ユカの魔法欲は彼を羨ましがっていた。


「前は草属性のゲルセルだったって話だけど、ユカさんの魔法が他の属性のゲルセルにはどれほど効くのか。それと新調した杖では魔法の出来が変わるのか。討伐だけじゃなくても、いろいろ確かめてみたいことはあるんじゃない?」

「……」

「ユカさんも知っての通り、ゲルセルみたいな高ランクの魔物の大発生は滅多に起きないし、もう経験できないことだと思った方が良いかもよ」

「……そんなことを言われてしまっては、私は断れませんよ」


 ユカは外を見渡した。既にほとんどのゲルセルが元の形をとっている。数こそ減ったが、それは少し前の危機的状況となんら変わりがない、はずなのに。


「中級魔法の構築中、『火炎包壁』は使えません。その間は無防備になってしまいます」

「それぐらいなら自分が代わりに守れるよ」

「魔力はもう大分使ってしまいました。おそらく1、2回放つのが限界です」

「終わる頃には助けが来るさ」

「……万が一、制御に失敗してしまったら」

「いや、大丈夫でしょ。さっきまであれほどゲルセル相手に失敗せずに戦い続けたんだし」


 ユカは杖に魔力を込める。光はだんだん強くなり、周囲のゲルセル達の動きが止まった。新たな脅威の訪れに反応し、一斉に鋭い目線が集中する。数多の殺意を身に浴びて、ユカは微笑んだ。


「シガナさん。後悔しないでくださいね?」

「もちろん。さて、それじゃあもう一度本気を出すとしますか」


 紅き煌めきの隣で、虹の光が灯った。ユカは目を瞑り、息を吸い、静かに詠唱を開始した。


「-私の魔力。その力を炎に変え、勢いよく燃え上がれ。炎を集め、炎を束ね、1つの命を形作れ」

【【【【【-!】】】】】


 火炎壁が崩れ始める。糸が解れるように杖の上に炎が集まり、1つの形を成していく。ゲルセル達は薄れゆく壁の先の標的に狙いを定め、一斉に収縮を始めた。


「-炎を宿し、炎を纏い、炎を生み出す蛇となれ。喰らう命を遍く焼き尽くせ」

【……ゥゥァ……】

【【【~…】】】

【【【【【~!】】】】】


 蛇が産声を上げれば視線は自然と上を向いた。草属性のゲルセル達は生まれた蛇の産声に怯えて後ずさる。その他のゲルセル達は防御姿勢に移る個体もいるが、ほとんどは警戒と共にその場を動かない。


 ただ赤いゲルセル達は蛇に恐れをなさず、収縮を止めようともしなかった。そして炎全てが蛇となる前にその身を弾けさせ、ユカに襲い掛かろうとした。


「残念。-『水縛』」

【【【⁉】】】


 しかし、その身はユカに届かなかった。跳ぶ直前、ゲルセル達の目前に水の塊が浮かび、止まり切れなかったゲルセル達は自らその中に突っ込んだ。勢いを殺されて地に落ちた彼らの身体には水が纏わりつき、弱点属性の魔法に触れるゲルセル達は次第に衰弱していった。これにより、なんとか直前で跳躍方向を変えた赤いゲルセル達も、すぐには攻撃に移ることができなかった。


 そうしているうちにユカの準備が整い、ユカは杖を掲げる。蛇は首をもたげ、獲物を上から見下ろした。


「-私の魔力!集めた力を今こそ放て!火炎を纏ったその名は『紅炎大蛇』!」

【ルゥゥアアッ!】

【【【【【!?】】】】】


 杖の動きに従って、ユカの魔法が放たれた。炎蛇は大きな肉食獣が草食動物の群れを追いかけるが如く、逃げるゲルセル達を追いかける。


 移動に跳躍のための溜めを要するゲルセルに対し、炎蛇は常に前進し続ける。そのため、遅れたゲルセル達はやがて蛇の口に捕らえられ、燃える体内でその身を焼かれていった。


 しかし。ゲルセル達の動きが変わった。


【ルゥアアッ】

【【【-…】】】

【【【-!】】】

【ルゥア!?】


 それは炎蛇が複数の色のゲルセル達を捕食したとき。緑色のゲルセルは捕まると少し藻掻いた後に燃え尽き、通り道に魔核を落とした。黄緑色も同様で、少し時間はかかったが、魔核になるまでそう時間はかからない。


 だが茶色、黄色のゲルセルは捕食されたのちも藻掻き続け、中には腹を破って出てくる個体も現れる。そんな緑や黄緑と異なり、火属性を弱点としないゲルセル達。となれば赤や青といった、火属性に耐性を持つゲルセル達はより手強く、攻撃がうまく効かないのも当然であった。


 一度口に青のゲルセルが入った。他の属性のゲルセル同様に表面が黒く焦げ付き、ダメージを負っているように見えた。だが燃えてなお動きは衰えず、ゲルセルは腹から脱出すると、今度は外から蛇に向かって突進した。炎の身体は当然ゲルセルの攻撃を貫通したが、全く効果がないというわけでもない。


 攻撃されるたびに炎が散り、纏め直すためにユカはまた魔力を込める。それが1度や2度ではなく、数十匹による攻撃ともなれば消費される魔力ばかりが増え、いずれ討伐しきる前に魔力が尽きてしまう未来は明確に見えていた。


 倒せたゲルセルは緑と黄緑のみで、その数も片手で数えられるほど。≪常緑の森≫周辺にてゲルセルを討伐したときは運が良かったのだと、ユカは実感させられた。Cランクの魔物を1回2回の中級魔法で倒しきれると思っていた見通しが甘かったと、現実を突きつけられた。


 何か手を打たなければ、冒険者の到着前に終わってしまう。しかし今のユカには為す術はない。悔しさから歯を食いしばったそのとき。


「-我が魔力、その力を風に。吹き荒れ、退けろ。『乱風壁』。雷よ、撃ち落とせ。『雷球』」

【【【【【-!】】】】】


 シガナが風の防壁で2人を囲った。突進したゲルセル達は吹き上げられて侵入を許されない。その中で黄緑色のゲルセルは身体を変形し、風に乗ることで接近を可能としていたが、シガナの追撃の球弾により悉く撃墜された。


「ふー、どうユカさん、まだ魔法の余裕ありそう?」

「え、魔法の余裕、ですか。その、なくはないですけれど」


 形成中は集中する必要があるが、発動後は魔武戦でも行ったように、初級魔法であれば並列発動は可能である。そう思っての発言だったが、続くシガナの発言で目を丸くする。


「じゃあ火力欲しいし、この風魔法との複合魔法試さない?」

「複合魔法、は、よほど魔力の質が似通った人同士じゃなければ成功しないのでは」

「そこはまあ任せてよ」


 複合魔法は複数の魔法を重ね合わせて発動する技術。ただ1に1を加えて2にする魔法も該当するが、中には倍以上の効果を発揮したり、異なる属性で未知なる効果を発揮したりすることもあるが、複数人で行われることはほとんどなく、相当に高い技術力を必要とする。


 失敗すれば最悪はそのまま魔法が打ち消し合って無くなってしまう。そうなれば、2人に待っているのは絶体絶命である。


 だが、ユカはシガナの根拠のなさそうな提案を、疑う気はあまり起きなかった。それは今までも彼に助けられてきたから。また、底が知れない彼の技術力を見てきて、今もなお魅せられているから。


 ユカは頷いた。シガナはそれを見て微笑み。


「失敗したらごめんね」

「ここで不安になるようなことを言わないでください!」

「はは、ごめんごめん」


 冗談を言って笑うと、杖をユカの『紅炎大蛇』に向け、魔力の光を灯した。


「-我が魔力、空を走れ。風を導き、彼の者へ降り注げ。収束して取り込まれ、彼の者を焚き上げろ」

【【【⁉】】】

【ルゥゥアッ!!】

「……!」


 シガナが杖を振るうと、周辺にいた収縮するゲルセル達を吹き飛ばしながら、荒れ狂う風は次第に纏まり、やがて川のような真っ直ぐな流れのままに炎蛇の身体に溶け込んだ。途端に流入した少なくない魔力に炎蛇の身体が膨れ上がり、ユカは成功したのかと感心しようとしたが、すぐにシガナの急かすような声が耳に入った。


「ほらほら、ユカさんも纏めなきゃ。これじゃ量が増えただけで、質は変わらないよ」

「え、ええ?」

【ルゥアッ】


 炎蛇も何かを感じ取ったのか、ユカの方を向いて高い鳴き声を上げている。慌ててユカが杖を振るうが、魔力暴走をしたかのような膨大な魔力の制御は重く、思い通りには動かない。だが集中して魔力の流れに意識を向けると、自らの作り出した魔法の外に、何やら別の魔力の流れを感じ取る。


「それじゃあそれ、後は任せたから!-『魔球連弾』」

【【【【【-!】】】】】


 シガナが即座に球弾魔法を行使して接近していたゲルセル達を弾き飛ばす。だがユカはそれどころではない。シガナが別の魔法を行使した途端、別の流れが滞り、かと思えば流れはバラバラになり、あちらこちらから別方向に魔力が動き出した。


 ユカはそれが、シガナの風魔法だったものであると気が付いた。シガナの制御を外れて彼の魔力は拡散しようとしていた。ユカには正解が分からなかったが、直感的に自らの魔法の流れを持って、散らばった魔力の回収を試みた。


 散らばった魔力をなぞるように自らの魔力を動かせば、気づけばそれは渦を描くように収束し、なお勝手に外へと逃げ出さないよう端と端をつないで循環させれば。


「お~、これまた一段と綺麗な魔法になったね」

「……あ……」

【リィアァ】


 紅く猛々しい炎を燃え上がらせていた大きい蛇は、その身体を蒼に変え、美しい流線型を描いた身体と化していた。時折蒼い火の粉を散らせる身体は一回り小さくなり、代わりに魔力が数倍濃縮され、対面したゲルセル達は赤いゲルセルでさえ硬直し、じりじりと後ずさりし始めていた。


「炎の色も変わったし、魔法名も変えなきゃだね」

「そうですね」

「あ、そしたらユカさんの通り名もか。まあ『火球乱舞』はそのまま使うだろうし、『紅火蒼炎』とかどうかな?」

「……悪くないですね」

「え?」


 通り名を口にすると怒られるために、からかうように冗談を口にしたつもりのシガナだが、ユカは予想外にそれを肯定した。思わず呆けたようにシガナは聞き返すが、振り返ってみたユカの優しい微笑みに、思わずどきりとした。


「シガナさん」

「ん?」

「ありがとうございます。あなたに会えて、良かったです」

「……はは、テイガにばれたら怒られそ」


 目を逸らし、小さく首を横に振ってため息をついたシガナ。その手を抑えて目を細め、今か今かと指示を待つ炎蛇を見た。


「……ほらユカさん、残された時間もそう長くはないし、最後、派手に行きなよ。もう名前は決めた?」

「はい。-私の魔力。集めた力を今こそ放て!蒼炎を宿すその名は『蒼炎麗蛇』!」

【リィィアァッ】

【【【【【~⁉】】】】】


 炎蛇は空を滑り、離れた緑のゲルセルを通過。通り過ぎたそこには、焼けた地面と蒸発したゲルセルの破片が残され、やがて光と共に魔核と化した。


 ゲルセル達は一斉に逃げ出した。だが今度の炎蛇はゲルセルの1つの跳躍の間に追いついて喰らい、その身体を瞬時に焼き尽くす。緑のゲルセルは触れた端から炭となり、茶色や黄色は原型は保てるが、捕食されれば為す術なく燃え尽きる。火に耐性を持つ二色についてはやはりすぐには倒せはしないが、それでも『紅炎大蛇』のときとは異なり、逃れたとしても回復までに時間を要し、追い打ちをかければ討伐することもできなくはなかった。


 ゲルセル達を容易く焦がし、次々と討伐していく『蒼炎麗蛇』。それは最早上級魔法に手が届くのではないかと言うほどに火力が高い魔法だった。だがそれだけに魔力の消費は激しく、発動してから1分経つ前に、ユカは足にふらつきを覚えた。


「シガナさん!もうすぐ限界です!最後に大きい攻撃を一撃行きます!」

「分かった!」

「-『蒼炎麗蛇』!ゲルセル達を喰らって弾けろ!!」

【リィィァア!!】

【【【【【~⁉】】】】】 


 尻尾の端から崩れながら、炎蛇は口を大きく開け、数匹のゲルセルを纏めて捕食。ユカが杖を振り上げれば炎蛇は空に上っていき、最後に全身が強く発行し、大きな音を立てて爆発した。


 空にはゲルセルのものと思わしき仄かな光と炎蛇の残した蒼い炎。どちらも風と共に消えてしまい、ユカは惜しそうに手を伸ばし、すぐに静かに胸にその手を当てた。 


「……お疲れ様。今度は私だけでも使えるようになってみせるね」

「ユカさーん?」

「はっ」


 すぐに我に返ったユカは顔を赤らめたが、まだ倒しきれなかったゲルセルが周囲にいることを思い出して気を引き締めた。


「倒したゲルセルはユウシのと合わせて70前後かな」

「残るはおよそ30匹……シガナさん、魔力はどのぐらい残ってますか」

「いやー、実はもう立ってるのが割と限界かも」

「っ、そうですか……」


 幸いゲルセルは先ほどの魔法を恐れているのかまだ警戒態勢だが、再び動き出すのは時間の問題である。少しでも警戒時間を伸ばそうとユカは杖に魔力を込める。


「私は『火球乱舞』を1回使えるぐらいです。ですが、どうにか時間を」

「いや、間に合ったみたい」

「無事か、無事だな、後は任せろ!!」


 そして風を切って1人の冒険者が現れ、ゲルセル達に短剣を投擲する。短剣を受けたゲルセル達はそう簡単に抜け出すことができず、近くにいた2匹が追撃を受け、あっという間に討伐されてしまった。


「はははっ、どう調理してやろうか……って、おい、話がちげぇぞ!?」


 現れて早々ゲルセルの数の少なさに不満を漏らす彼女。おかげでゲルセル達は新たな脅威に視線を移し、彼女もまた視線に気付いて捕食者さながらの鋭い目と笑みを見せ、シガナとユカは安堵と共にその場に座り込んだ。


「はー、助かったね~、危ない危ない」

「本当はもう少し、危なくない待ち方もありましたけどね」

「でも良かったでしょ?」


 完全な被害者の顔をするシガナを咎めるが、そのように聞かれてしまえば。


「……はい」


 ユカは達成感と共に、深く頷くのだった。

 

(想像以上に長くなってしまった)

(なお次も裏側の話の模様)

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