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「モモコ、やっちゃってください!」
「当然よ!-私の魔力!浮かべた木葉を全て撃ち出せ!これが私の!『木葉手裏剣』!」
【【【~!?】】】
モモコは魔武戦で見せた彼女の固有魔法を発動し、浮かべた無数の葉を前方に雨のように降らせる。その攻撃範囲は相当に広く、範囲内のスライム達は逃げ場もなく、上からの攻撃に為す術なくやられていった。
「ふふん、どんなもんよ!」
「見るからに10匹以上倒せてますよ、ええ、よくやりました!」
「よくやりました、じゃないよ!危ないだろ!」
「そうだそうだ!」
すっかり安定して成功させることができ、褒め称えるソユノの言葉に気分を良くして胸を張るモモコだが、そんな彼女に不満を口にする生徒が数人。
「もう少しで当たるとこだったよ!」
「せめてもっと数を減らしてくれ!」
「しょうがないじゃない、草属性だとここのスライムは倒しにくいんだし……ほら、生き残ってるスライムもいるでしょ?」
「それにちゃんと攻撃するって事前に言いました!だから当たったならそれはあなた達が悪いです!」
「周りを見ろよ、当たらないようにって、無理あるだろ!?」
抗議する男子生徒が周囲を見渡せば、そこには数えきれないほどに生徒がいて、それぞれ魔法や武器を用いてスライムを討伐しようと必死である。幸い事前の通達通り、スライムは非常に数が多く、イベントが始まったばかりの今はどの方向を見ても視界に十数匹は映った。
しかし魔法を使う生徒の腕前は当然魔武戦から少し上達した程度。中にはまっすぐ球弾を飛ばすことができない生徒もまだいて、御守り石で守られていない現状、既に怪我をする生徒もちらほら出てき始めていた。
「だからせめて魔法は近くに人がいない方向に使うか、使うとしても当たらない自信がある魔法だけって決まったばかりだろ!なのに、そうやって制御が雑な魔法で」
「ほら、私は拾い終わったから次はテツジよ!」
「一回の魔法で倒しきってくださいね!」
「あ、ああ」
「話を聞けよ!」
律儀に説明する男子生徒がモモコとソユノを見れば、2人は魔核を拾い集めていた。というのも、モモコ達が優勝を狙うための作戦として立てたのは、1回の魔法で10匹を倒すことで時間短縮を図るというもの。そのため威力を下げて万が一討伐しきれないなんてことは許せず、モモコは手加減することなく魔法を用いていたのである。そしてその作戦を強要されたテツジもまた、杖に強い光を灯しており。
「-俺の魔力!その力を火に変え、球を成し、放て!『火球』!」
【【【~!?】】】
「でけえよ!ってか、燃え広がるだろうが!?」
相変わらず魔力を多分に込めた球弾の魔法は見た生徒達が揃ってぎょっとするほどには大きく、着弾点にいた火属性が弱点の緑のスライム達は当然のこと、広がっていた草原までも焼き焦がした。
流石にモモコとは異なり人がいない方を選んで魔法を繰り出したテツジだが、想像以上に火力が強く、燃え広がったことには焦りを隠せない。何分彼は魔法破棄ができず、ユカのように魔法を途中で打ち消すことができない。そのため、魔力を多く含んだ魔法は長く燃え、効果を失う頃には草原に火が移ってしまっていた。
「どうすんだよ、もはやこれは放火だろ!?」
「お、俺だってこうしたかったわけじゃないから!?」
「落ち着いてください、ここで私の出番です!-私の魔力、その力を水に変え、放て!『放水』!」
近くの生徒達が慌てふためき、怒られたテツジが逆ギレしかける中、杖を光らせていたソユノが水属性の放出魔法を行使する。そうすれば火が燃え広がる前に消し止められ、周辺一帯が燃え尽きるといった事態は防ぐことができた。
「いいじゃない、今度も10匹以上倒せたわね!」
「今の討伐は私の活躍があってこそです、だから私の足りない分は貰っていきます!」
「はいはい……って、俺の分8匹しかねえじゃん!」
今の討伐を行う前、結局ひとまずはモモコ、ソユノ、テツジで共に行動することになる。そんな中で真っ先にソユノが球弾の魔法を繰り出したのだが、属性が不利ということもあり、彼女が10匹を倒しきるまでには相当時間がかかることが予想された。そこでモモコが、ソユノはモモコとテツジそれぞれの討伐に協力し、倒したスライムの魔核を分けてもらうという考えを思いついた。そこで助けられたためかモモコとソユノの仲は深まり、巻き込まれたテツジは周囲から非難の視線を受けつつため息をついた。
「ちくしょう、これならイアンについてった方がまだマシだったぜ……」
「なによ、泣き言言ってる暇あったら2匹倒したらいいじゃない」
「そうです!でも私とモモコは先に行きますね!」
「ざっけんな!」
テツジが名前に出したイアンは街の外に出てすぐに『氷槍連弾』を用いることで10匹のスライムを倒し、ソユノが苦戦している間に魔核を拾い終わって3人を見下して煽っていた。そのときイアンは1人ぐらいは助けてやってもいいなどと言っていたのだが、態度が気に入らないと言って3人とも断っていたのである。だが今思い返せばイアンもモモコもソユノも変わらない、とテツジは後悔していたのであった。
「-俺の魔力、その力を土に変え、球を成し、放て。『土球』」
【【~!?】】
「これで俺も10匹……って、マジであいつら先行ったんだが」
テツジは複属性の適性者。わざわざ初めに火属性を使ったのは作戦として指示されたためであり、彼は元々汎用性が高い土属性を先に練習していたこともあり、土属性であれば比較的安定して魔法を放つことができていた。そうして1人、倒したスライムの魔核を拾い上げ、もう一度10個あるか確認していたとき。
「失礼、先ほど騒ぎがあったと聞いてきたのだが」
「え、冒険者さん?」
「……ふむ、この焦げ付いた地面は君がやったということで間違いないな?」
「そうです、この人がやってました!」
「それに注意したら逆ギレされて……」
テツジは騎士のような鎧に似た装備を纏った男性冒険者に詰められ、言い訳をする間も与えられず、周囲にいた生徒達から証言が集まってしまった。それを聞いて冒険者は困ったように眉を寄せ、テツジの肩に手を置いた。
「君、練習した力をひけらかしたいのは分かるがね、こうして人に迷惑をかけることは許されんよ」
「……はい、すみません」
「イベントはルールを守ってこそみんなで楽しめるものだ。それを1人でも破る者がいれば……」
堅苦しい彼の説教はその後十数分にも及び、テツジは周囲のスライムと討伐を終えた生徒が減る様を見ることしかできず、説教が終わった頃には2週目の生徒が現れていた。
「おっと、向こうでトラブルがあったようだ、君、もう迷惑をかけるんじゃあないぞ」
「すみませんでした……」
テツジは解放され、頭を下げると南門へとトボトボと歩く。
「ちくしょう、俺が何をしたっていうんだ……」
「はん、まだ討伐終わってなかったのか」
2週目を終えたイアンにテツジは速攻で泣きついた。
ー ー ー ー ー
「-俺の魔力!あの野郎を消し飛ばせッ!『岩球群弾』!」
「なんでだよ、スライム狙えよ!」
以前にも増して尖った岩球を向けられたテイガはスライム討伐どころではなかった。御守り石がない今、もしも攻撃を受けてしまったらどうなるのかは想像したくもなく、彼は既に『追風』を発動して攻撃を避けている。
「お前みてぇなふざけた奴は、今!俺が駆逐してやる!」
「傍から見てふざけてんのはお前だ!落ち着け!」
「あァ!?」
「そ、そうだよ、ハウターくん、落ち着いて!」
「っ!」
テイガが宥めれば激高して攻撃を加速させたハウターは、フーシュが宥めれば途端に攻撃を止め、しかしすぐに再開する。
「分かった!明後日、明後日また戦ってやるから!今は討伐に集中させてくれよ、なぁ!?」
「ああ俺は集中してるぜ、お前の討伐になァ!」
「駄目だよ、ハウターくん、怒られちゃうよ!」
「っ」
なんとかテイガが宥めようとしてもハウターは攻撃を止めないが、フーシュが繰り返し宥めれば、ハウターは杖を下に下げ。
「……」
「どうしたんだ、降参かぁ!?」
「ハウターくん!」
「……」
テイガが何も言わなければハウターは勝ち誇ったように笑ったが、大きくなったフーシュの声で肩をビクつかせ、ゆっくりと振り返る。
「これは、その、男同士の戦いなんで。口を挟まないで貰えると」
「魔武戦じゃないときに人に向けて攻撃魔法を使うのは駄目です!ウェミナの街でも習ったんじゃないんですか?」
「はい、それは仰る通りで」
「じゃあなんでわかってて攻撃魔法を使うの!」
「素直に謝った方がいいぞー」
ハウターは地面に正座をさせられ、杖を地面に置き、初対面といっても過言ではないフーシュに怒られている。これには諍いを目撃して近寄った冒険者も何も言わずに離れていってしまった。それからテイガが口を出した通り、ハウターはすぐにフーシュに謝ったために許され、しかしギリギリと憎らしげに歯を鳴らしており、テイガは再び誤解を解こうと試みる。
「ちなみにハウター、こっちはフーシュ。友達であってお前の思う関係ではない」
「……ホントか?」
「ほんとだよ、なんてったって俺はユカさんが好きだからな」
「それはそれでどうなんだよ」
女性の前で直接そのようなことを言うのは良くないのではと思ったハウターだが、ユカにぞっこんなテイガをずっと見てきたフーシュは今更怒るわけでもがっかりするわけでもない。それよりも、フーシュはハウターの怒りの原因が気になっていた。
「ハウターくんはなんでテイガくんにそんなに怒っていたの?」
「いや、それはその、なんといいますか」
「フーシュ、男には女に話しにくいこともあるんだよ」
「ふぇ?……あ、えっと、私、離れた方がいい、のかな?」
「いや待て、絶対違う、わかんないけど違うから!」
ハウターに助け舟を出したテイガ。確かにそれはフーシュに追及を止めさせたのだが、頬を赤く染めてフーシュが目を逸らせば、ハウターは彼女が何かを勘違いしていることを確信し、諦めて事情を話すことにした。
「……と、そういうことだよ」
「つまりはレイアさんと良い関係になりたいけどなれないこいつは俺が羨ましいんだってさ!」
「違ぇよ!!」
「違わねえだろ」
反射的に否定したハウターだが、以前とハウターが怒っている理由は特に変わらない。唯一違うのは、ハウターの意中の相手が魔武戦を機にセキラとより仲良くなったこと。
「で、焦ってんのか」
「ああああせってねーし!」
「ハウターくん、バレバレだよ」
「そ、そういうお前はどうなんだよ!あの『紅炎』のユカ様なんだろ?ライバルは多」
「ユカ様の名前を口にしていた、と思ったら。テイガさんとフーシュさん、それと、確かハウターさんだったかな?」
草原の上に座り込み、実質座談会を繰り広げていた3人の元へ近づいてきたのはライバル筆頭と言っても過言ではないクロアスだった。まるで近くで話でも聞いていたのではないかと思うほどにタイミングよく現れた彼に、ハウターは一瞬顔の良い彼に敵対心を抱いたものの、彼がユカを恋慕していることを思い出し、すぐにその心を鎮めた。
「お、クロアスか。ってか、前から思ってたけど、さん付けで呼ぶの止めてくれていいぞ」
「なら俺もだ。さん付けでは呼ばれ慣れてな」
「俺はお前にとって大きな恋の障害になるんだからな!」
「ほう、確かに。ならばハウターさん、いや、ハウターも」
「違ぇよ!」
「ふぇええ!?」
テイガの言葉で逆に要注意人物として数えられそうになり、ハウターは反射的に叫んで否定した。その後隣に座っていたために突然の大声に驚いたフーシュにハウターが謝る中で、クロアスは傍から見るとのんびりとしているように見える彼らに尋ねる。
「まだ大会は始まったばかりだが、あなた達は魔物討伐の優勝は諦めたのか?」
杖を手にした彼は既に魔核を10個集めており、今からラルドへと帰るところだった。クロアスの言葉でハウターはハッとして立ち上がったが、テイガは悩んだように腕を組んだ。
「いや、俺はめざしてはいたんだけどな?冷静に考えて俺は優勝厳しいし、頑張ってもフーシュの負担が大きいしなぁ。正直俺は楽しめればいいと思ってるから、まあゆっくりやることにするさ」
「テイガくん、気遣ってくれてありがとう」
「……やめろよ、なんか俺が悪いみてえだろ」
立ち上がったハウターは座りなおした。クロアスはそんな彼らを見て微笑を浮かべると、杖と魔導石を8つ、自身の鞄にしまいこんだ。
「それは少しもったいないな。ここで会えたのもいい機会だ、君たちにはこの大会のもう1つの優勝方法について教えてあげよう」
「は?優勝するのに別の方法があんのか?」
「ああ、勘違いしている生徒は多いみたいだし、仕方のないことだ」
クロアスは残りの2つをテイガ達に見せて説明し、その方法を聞けば、テイガとフーシュは十分優勝を狙える方法である、と頷く。
「というか、もしかしたら余裕で優勝できるんじゃねえか?」
「ああ、何と言ってもここにはフーシュさんがいるからな」
「が、頑張ります!」
それは急いで討伐を行う必要のないもので、なおかつフーシュの力が存分に発揮される可能性がある方法だった。クロアスはフーシュを見てそのことを思い出して方法を伝えており、テイガとフーシュはそのお礼として討伐に協力することを申し出る。また共に話を聞いたのも何かの縁だ、とハウターも2人の誘いに乗り、4人は共に討伐を行うこととなったのだった。
ー ー ー ー ー
「ふー、流石に疲れたわね」
「来たか」
「どれだけ早くついていたのかも分からないけれど、息切れすらしていないなんて、セキラには体力勝負は敵う気がしませんわね」
「そういうあなたも息切れはしていないように見えるが」
「強がっているだけよ」
南門は生徒の数がとても多いため、西門は東門とそこまで距離が変わらないが生徒の数で差がつくために東門を選んだレイア達。彼女は持ち前の身体能力の高さと、冒険者の協力を得て事前に魔物討伐を行ったことによるステータス向上で誰よりも早く門につくと考えていたが、セキラに途中までしかついていけず、到着したのは彼の数十秒後だった。
「あなた、本当に魔物討伐はしたことがないのかしら?」
「魔物討伐はほとんどしたことがない。俺がソラルノの街で暮らしていたときに討伐していたのは魔獣だからな」
「……通りで」
ウェミナの街の子どもが幼少期から魔法を練習しているように、ソラルノの街ではある程度大きくなると、子どもは街の大人に連れられ、街に隣接するほど近くにある森へ入って動物の狩りを行う。そのため武器の扱いに長けた者が多く、またある程度レベルが上がっている者も中にはいるのだとか。
「納得しましたわ。それならいくら魔獣といえども倒した数が違いますものね」
とはいえレイアもセキラを除けば東西の生徒を含めて最も早くに門に辿り着いている。流石に南門の生徒には適わないが、あっという間にスライムをそれぞれ10匹ずつ倒した実力も加味して、2人は優勝候補といって全く差し支えなかった。
「はあっ、はあっ、おまたせ、しましたっ」
「あらタリユス、思ったよりも早かったわね」
「そんなこと、ないですよ」
魔核をしまった2人が門に戻ると、丁度遅れてきたタリユスが到着するところだった。真っ先に同行を諦めたグランとは異なり、なんとかついていこうと頑張っていたタリユス。息を切らし膝に手を突いて肩を上下させるが、2人に追いつきたい、と呼吸が乱れたまま門をくぐって外へ行こうとする。しかしそんなタリユスをセキラは止めた。
「不調の状態で戦えば本来の実力を出し切ることなどできない。たとえそれが弱い魔物相手だとしても万が一ということもある」
「そ、そうかも、しれませんが」
「分かっているのであればなおさら無理に急ぐことはない。上を目指して努力しようというその姿勢は称賛に値するが倒れてしまっては元も子もない」
「……分かり、ました。では、お二人は気にせず、先に行ってください」
セキラに説得されたタリユスは悔しそうな顔であったが、しかし素直に忠告に従い、傍にあったベンチに腰を下ろした。レイアは汗を拭うタリユスをチラリと見た後ラルドへの帰路を走り始め、セキラもその背中を追った。
「うちのタリユスを気遣って頂き感謝しますわ」
「……たいしたことはしていない」
「それでもですわ。やはりセキラは優しいんですわね」
「や、止めてくれ」
「そんなセキラに、大事な話がありますの」
セキラは照れ隠しをするかのように足を早めてレイアを追い抜こうとしたが、通り過ぎる直前にレイアは減速して立ち止まる。セキラもつられて立ち止まり、レイアの顔を見れば彼女は微笑を浮かべている。
「ただ、その前に1つ質問をさせていただきますわね。……セキラ、あなたはどうしてこの学校に?」
「俺がこの学校に来た理由か。深くは考えたことがなかったが……」
問われてセキラは目を瞑ってしばらく考えていたが、レイアはその間口を挟むことなく、静かに答えを待つ。やがてセキラは口を開き、今までの自らを振り返りつつ、理由を告げる。
「長年ソラルノの戦士として自らを鍛えてきた俺はステータスに恵まれたこともあって成人する頃には1人で森の魔獣を相手に狩りを行えていた。時には毎年一定の死傷者を出すような魔獣相手に主戦力として戦ったこともある。だからこそ俺はこの実力がこの広い世界でも通用するのか確かめてみたかった」
「それはつまり、冒険者になって高ランクの魔物や魔獣を相手に戦う、ということかしら?」
「ああそうだ」
幼少期から武技に関するステータスが高かった彼は、より強大な相手を求めて世界を渡り歩こうと考えていた。そんな彼の望みを聞き、頷いたレイアの笑みは深まった。
「もう1つだけ。日頃からグランと共にいるということは、グランも共に冒険者になるのかしら?」
「ああ。あいつはソラルノの街でも一際仲が良かったからな。俺が将来の展望を告げると自分から協力を買って出てくれた」
「グランも武技の使い手、となれば、残りは魔法の使い手が仲間としてほしいところですわよね?」
「そうだな」
「でしたら、私達と一緒にパーティを組みませんこと?」
「!?」
思いもよらない提案にセキラは驚きを隠せない。入学当初から才色兼備と言われて話題になり、複数の属性に適性を持つだけでも珍しい中で、発展属性を含む3つの属性に適性を持つ彼女。その実力は噂に違わず、魔武戦では本気を出した自身にさえ勝利して見せた。そんな彼女の言葉は考えれば考える程聞き間違いなのではないかと疑ってしまったが、戸惑うセキラにレイアは話を続けた。
「私、一番になりたいんですの。勉強でも、魔法でも、武技でも。全てにおいて最も上でありたい、そう思っていますのよ」
「……それ、は」
「そう、はっきり言って不可能に近いですわ。私も実際に生活してきて、その壁の高さに驚きましたわ」
レイアは魔法に長けた父と剣術に長けた母の間に生まれ、そのどちらの才能も引き継いだ。その上、幼少期から高みを目指して努力を重ねてきた彼女は、あらゆる分野で同世代よりも優れた成績を示してきた。彼女はそんな自分を誇りに思っており、ラルドに入学しても1位であり続けることは半ば当然のことだと信じていた。しかし。
「入学してみれば、座学は到底敵いそうもない程に高い点数のシガナさん。魔法は学校の杖を壊す程の魔力の魔法を行使するユカ。そして武技は力なら誰もあなたに敵いませんし、技量で言えばグランもなかなかでしたわ」
「それはそうだが3つ全ての試験でCランクを上回っているのはあなただけだ」
「よくも悪くも、ですわね」
良くて万能、悪くて器用貧乏。実際それは魔法だけをとりあげても言えることであり、2つの発展属性に適性を持つことが分かってからはそれまで練習してきた火属性を離れており、まだ全てで中級魔法に至っていない。そして魔法に傾倒するあまり座学も武技もおざなりになり、どれもが1位どころか2位、3位であるかも怪しいところである。
「でもセキラが言う通り、総合的には今、一番私が優れていると自負していますわ。だからこそ私はこの代の首席を……いえ、これは少し話が逸れていますわね。コホン」
元の話はセキラに将来一緒の冒険者パーティを組んで活動しようと持ち掛けたことである。レイアは1つ咳ばらいをして本題に戻った。
「そう、私は1番を目指していて、それは冒険者になっても変わりませんわ。では冒険者にとって1番とはなんなのか。誰もが1番優れていると考える冒険者とはなんなのか?」
「……なるほど。レイアさんは勇者や英雄や賢者といった存在を目指すのだな」
「そういうことよ」
「思い返せば魔武戦が終わった後にも言っていたか」
偉業を成し遂げた者に与えられる称号の数々。中でもレイアは人類に脅威をもたらす魔物の最上位である魔王を討伐した者に送られる、『勇者』の称号に心を惹かれていた。
「知ってるかしら?原初の勇者様を始めとした、物語にも語られる数々の勇者様は、その全てが男性であるということを。だから私は魔王討伐を成し遂げて、女性で初めての勇者となりますわ」
子供が夢に描くようなものでも、酒場で酔った冒険者が冗談で言うようなものでもなく、彼女の目は至って真剣で、セキラは想いの強さを感じ取って息を呑む。
「都合よく、なんて言ったらとても不謹慎ではあるのだけれど、最強の魔王が討伐されてからおよそ5年の間に魔王とされる個体が世界に複数確認されていて、今も付近の人々を苦しめていますわ。とはいえ、単身で倒せると思うほど私は傲慢ではありません。そのために私は私の目標に協力してくれるタリユスとイアンと共にこの学校に入学して、仲間となる人材を探していたのですわ」
そう言ってレイアは改めてセキラに向き合い、胸に手を当てて頭を下げた。
「強大な魔物に挑むために冒険者を志すセキラ。どうか私の目標である魔王討伐のために、その力を貸していただけませんこと?」
「……俺は」
「なんて重大な決断、すぐにはできるとは思いませんわ」
気づけばレイアはいつもの微笑を浮かべていた。そのままセキラに背を向けると道を歩き出す。
「大会の真っ最中に申し訳ありませんわね。ですが今話した私の目標に嘘偽りはないですわ。もしよければ大会が終わった後にでもグランと相談なさってくださいな。そしていつの日か色よい返事をもらえること、期待して待っていますわね」
そう言い残し、レイアは足を止めていたセキラを残して先にラルドへと走っていってしまった。
「……勇者か」
一人残されたセキラは改めてその言葉の重みを考える。普段森で倒してきた魔獣は強いものでもCランクだったが、魔王個体となれば、最低でもAランク、中にはSや最上級のものもいるという。そんな相手と戦わなければならないと考えたら。
「……相談するまでもない」
そういった相手を求めるセキラが惹かれない筈がない。また、提案をしてきたのは他の誰でもなくレイアであり、次の瞬間にはセキラは走り出していた。
「(レイアさんならきっとやり遂げるのだろう。そんなあなたが必要だというのなら俺は……)」
「(なんて、考えているのかしらね)」
チラリと後ろを振り返り、徐々に近づいてくるセキラが日頃自身に抱いている感情をレイアは知っている。そのうえで提案をした彼女は十数秒の後に彼の口から出てくる言葉を想像し、その笑みを深めるのだった。
ー ー ー ー ー
「……と、おそらく東西南の門方向でみんな頑張ってる中、のんびりとしてるのは気持ちがいいね」
「うぅ……」
「シガナさん、もしかしてそれが目的だったんですか?」
モモコ達、テイガ達、レイア達が最初の討伐を終えたおよそ1時間後。北門が遠くに見える草原の上にて、シガナは髪を揺らすそよ風に心地よさそうに目を細め、ユカはそんな彼を訝しみ、ユウシは力なく倒れていたのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。書き溜めていた話のストックが尽きたので、数日から一週間程度投稿が途切れますがご了承くださいませ~(その後の投稿形式はまだ未定)




