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「ふぁああぁ」

「なによユウシ、欠伸なんてしちゃって。まーた楽しみで眠れなかったの?」

「……うん……」

「なんなら昨日も一昨日もだったよな、というかよく見たらクマできてんじゃねえか」

「だって、だってぇ……二人も楽しみでしょ?」

「「それはもちろん!!」」


 春後月第4週4日目。来たるこの日は魔物討伐大会の1日目である。いつものように食堂に集合したユウシ達だが、またもやユウシはイベントを目前にして目を擦っている。ただやはりそれはイベントが楽しみな余りワクワクして眠れなかったためだと話し、テイガとモモコはそれに共感した。


「増してや今回のイベントは平日2日間よ?最近はずっと勉強勉強言われてたし、少しは気が楽になるわ!」

「誰のためだと思ってんだ、全くよぉ?」

「でもモモコちゃん、入学から今日まででもう少し頑張っててほしかったな」

「そ、そんなこと言わないでよ!最近は講義中も寝ないよう頑張ってるのよ!?」


 先週の休日、勉強を強要されたモモコだが、しぶしぶ取り掛かったのはいいものの、フーシュが先生に頼んで用意してもらった前回の試験の過去問を解いた結果、モモコは1割も解くことができなかった。それどころか、500点満点に換算しても春前月の試験に点数が及ばなかったのである。


 これにはモモコに心を奪われていたテツジもフォローに回れずに言葉を詰まらせ、それが運が悪かっただけではないことは試験後の解説や履修範囲から問題を互いに出し合ったときに証明されてしまった。モモコはそれほどまでに勉強が嫌いだった。


「モモコちゃん、正直に言って補習は決定だし、むしろ受けた方がいいよ」

「えー!?でも、苦手なものは苦手なんだし、ほら、フーシュは勉強得意だから、そういうので分担すればよくない!?」

「将来的にはそうだとしてもなぁ、このままじゃお前、夏休み潰れるぞ?」

「な、なによ!アンタもちょっと前まではこっち側だったじゃない!」

「気が変わったんだ……ハッ、悪いな」


 同様に過去問を解いてギリギリDランクに届いたテイガの余裕そうな笑みを見せつけられ、モモコは食堂の席に着いたまま地団駄を踏んだ。そんな3人の会話を聞きながら、ユウシは再び大きな欠伸をした。


 ー ー ー ー ー


「お、ユウシか!おはよう!」

「テツジだ、元気だねぇ」

「ああ、珍しく今日は何事もなく朝食を食べられたからな!」


 朝食を終え、大会前の集合場所である、入学式が行われたホールへとユウシ達が足を運ぶと、入り口近くにてテツジを見つけた。彼が普通の生徒にとっては当たり前のことをまるでくじ引きで当たりを引いた時のようなテンションで報告すれば、ユウシ達は同情せざるをえなかった。そんなユウシ達の視線に込められた感情に気付かなかったテツジだが、どこか翳りのあるユウシの表情には気が付いた。


「ユウシ、どうかしたのか?」

「うん……やっぱり僕も魔法で倒したかったなぁって」

「あー、気持ちは当然分かるけどよ、まだ安定しないだろ?」

「前はそれで失敗して怒られたんでしょ?なら今回は止めときましょ?」


 ユウシは頷こうとしたが、下を向いた首はそう簡単には上を向かなかった。


 杖に光を灯せるようになった先月の最後から明日で1ヶ月。初めて魔法を使ったのはその4日後だが、果たしてあれからなにか成長はできたのだろうか。思い返しても、そのときからずっと不足か過多となる魔力制御しかできず、それは杖を変えても全く関係がなかった。


 約半月に渡り、ゲルセルによって骨折させられた腕が痛み、集中力が乱れてしまうこともあった。だがそれでも杖は反対の手で持つことはでき、魔力をこめて練習することはできたのだ。そして仮にその期間を無視するとしても、残りの半月は十全な状態で練習できたはずだった。なのに、現状は。


「大丈夫か?モモコじゃなくて俺と来てもいいんだぞ?」

「それ、どういう意味よ?」

「いや、モモコは優勝狙ってどんどん倒そうとするだろうし、付き合わされるユウシも大変そうだなって」

「そんなこと……ない、かも、しれないわよ?」

「よし、モモコは1人だな」

「冗談よ!?」


 先日の勉強会にてすっかりモモコに対しての熱意が冷めたテツジの指摘を否定しきれなかったモモコが大袈裟に声をあげれば、ゆっくり顔を上げたユウシはチラチラ飛んでくる彼女の視線も相まって、なんとか元気づけようとしてくれているのだと理解するのはそう難しくはなかった。


「……じゃあ僕も1人でいこっかなぁ」

「ちょ、ユウシ!大丈夫よ!?」

「いいもん、僕1人でも1位狙うから!」


 そういってユウシが鞄からいつかの手ごろな木の棒を取り出して握りしめれば、テイガ達は目を丸くした後、それぞれ笑みを零す。


「!……はは、1位は俺らも狙うし、そう簡単じゃないぜ?」

「まあ、ユウシがいなくても私はできるから!」

「俺はそこまで優勝は目指してなかったけど、せっかくだし頑張るか!」

「みんな、応援してるね!」

「うん、それじゃあ、だれが勝っても」

「やっと見つけましたっ、ユカ様!!」


 恨みっこなし、といって気合をこめようとしていたユウシの声は後ろから聞こえてきた大声に掻き消された。何事かと振り返れば入り口にはすっかり見慣れたソユノと共に、魔武戦明けの休日以来姿を見ていなかったユカがいた。


 ユカが大活躍した魔武戦から2週間が経ち、魔物討伐大会という新たなイベントが来たことで生徒達の興味が次第に移ったことで、積極的にユカを探して声をかけようとする生徒は大分少なくなった。だがソユノはむしろ逆で、しばらく会えなかっただけに会いたいという想いはどんどん膨れ上がり、今日も入り口を監視し続け、やっと見つけた彼女は今にもユカに飛び掛かる勢いだった。


 だが如何に生徒の興味は薄れたとはいえ、ユカの熱烈なファンは依然存在する。彼らの間では女子生徒はユカと話していいことになっているが、ソユノはユカが拒絶していたことを知っており、ユカに対する無礼な対応を見過ごすわけがなく、ソユノは2人の男子生徒によって動きを止められていた。


「何をするんですか!?目の前にユカ様がいるんです、離して、離してください!!」

「と、言ってますわよ?ユカ」


 顔を引き攣らせるユカの後ろからホールに姿を現したのはレイア。どうやら一緒に話をしていたらしい彼女は面白そうにユカに尋ねると、ユカは真顔で言った。


「無理です、近づかないでください。どこかへ行ってください」

「ユカ様のありがたいお言葉だ、ほら行くぞ!」

「ユカ様ぁぁあ!!」

「こいつ、意外に力が強いっ」


 ソユノは最後までユカの名前を叫びつつ、男子生徒に引きずられるようにして連れていかれる。それまで和気藹々とイベントについて話し合っていた生徒達はソユノにドン引きして静まり返り、運ばれる彼女に近寄りたくないと道が自然と開き、1人と2人はホールの奥へと消えていった。


「相変わらずの人気ね、ユカは」

「……別に私は求めてないん」

「ユカ様!」


 ため息をつくユカの前に続いて現れたのはクロアス。ユウシ達を介してユカに接触する作戦を諦めた彼はもう一度直接会話することを試みた。だが直前のやり取りを見ていたため、クロアスはそれ以上近づこうとはせず、背後に現れる別の男子生徒を手で制して一礼した。


「こんなところですみません、ですが1つだけ伺っておきたく。魔武戦での私の魔法はあなたの魔法を目指して美しさを追求してみたのですが、いかがだったでしょうか?」

「ほらユカ、魔法の質問ぐらい答えてあげたらどうかしら?」

「……綺麗でしたよ。魔力配分も、制御も、単純にその見た目も」

「っ!!!その言葉、これ以上ないほどの幸福です!!」


 レイアの言葉を聞き、異性の質問ということを無視して答えれば、クロアスは胸を抑えて膝をつき、ユカは後悔した。だがそれ以上は何もなく、よろよろと立ち上がったクロアスは深く礼をしてこれまた生徒の中に消えていった。


「す、すごいですね」

「……はんっ」

「はぁぁ……」


 レイアと共にいて不快な視線を向けてこないため、強く拒絶されることはなかったタリユスは違う世界に生きているようなユカにそれ以外の言葉が出てこず、自身が味わったことのない人気を得ているユカが気に入らないが実力は認めたのか、特に何も言わなかったイアン。彼らの反応を背に受けつつ、深くため息をつくユカに続いて近づいたのは。


「あー、っと。おつか」

「嫌です」

「だよな、俺もなんか違うと、って引くな俺は負けねえぞ!?」


 今まで以上に食い気味に拒絶されたのはテイガである。彼はユウシに言われた通りに落ち着いて話しかけようとしたのだが、まともに顔を見ることもできず、逆に拒絶されてありがたく思った。テイガが先ほどから待機していた男子生徒の連れ去りから抵抗している中、ようやく入り口から進んだユカはテイガを避け、ユウシ達の方へと来る。そして話しかけようとして、ユウシ達と共にいる異様にどぎまぎしている男子生徒に気付いて一歩下がった。そんなユカの行動を気にせず、モモコとフーシュが代わりに前に出た。


「久しぶりね!なんか、いろいろ大変なのは今見ただけで分かったわよ」

「これでも落ち着いた方です。……先週の1日目が一番大変でした……」

「お、お疲れ様だよユカちゃん」

「ありがとうございます。……ところで、一緒にいるこの方は」

「!?」


 目の前で学校一有名といっても過言ではない美少女が話をしているだけでも落ち着かなかったテツジは視線を向けられ、それだけで顔を真っ赤にして胸を押さえていた。ユカは思わず顔をしかめたが、テツジはそんな顔さえ可愛らしいと思わされるほどには心がときめいていた。だがユカの記憶に残っていたのは。


「あの、可哀想な方、ですよね」

「え」


 魔武戦で不運のせいで負ける姿だった。初対面の印象としてそんなことを言われれば、テツジは頭が追い付かずに硬直する。そして気を利かせたモモコがテツジのことを気が利かないように紹介してしまう。


「そうそう、運のステータスが低いの!あとは、分かりやすくいうのなら大人しめのテイガってところかしら?女子見ると挙動不審になって怪しいし」

「!?」

「ときどき、いや割と何言ってるか分からなくなるし、運が悪いせいか卑屈になるときがあるのよね」

「!?!?」

「まあでも大丈夫よ、ユウシみたいにそんなに男らしくはないし!」

「そんな方なんですか」

「なんてこというんだモモコ!?」

「僕も地味に傷ついたんだけど、ねえ」


 更に不運なことに、最初のどぎまぎした様子から挙動不審という特徴に説得力を持たせ、モモコの言う彼の特徴はこの場で話を聞いていた多くの初対面となる生徒の第一印象となった。テツジはそんな周囲の自分を見る視線の変化に、特に異性が関わりたくないとでも言うように揃って目を逸らすことに気付き、膝を抱えて縮こまるユウシの横で床に手を突き、己の悲運を嘆き悲しんだ。


「ちくしょう、俺が一体何をしたっていうんだ……」

「て、テツジくん、ユウシくんも、元気出して?」

「……なんといいますか、悪い方ではないのは伝わりました」

「!」


 ユカのその言葉でわずかに救われたテツジはなんとか立ち上がり、高鳴る胸の鼓動をなんとか沈め、ユカに自己紹介をしようとした。


「ゆ」

『さあーて!みんな、そろそろもう少しで開会式始めるからね!あとちょっと待っててねー!』

「お、いよいよか!」

「なによ、アンタ連れてかれたんじゃなかったの?」

「ふっ、ユカさんの可愛いところを共有して和解したさ」

「気持ち悪いです、止めてください」


 ホールに響いたフュルカのアナウンスに阻まれ、テツジは自分の名前すら口にすることはできなかった。だが、それでも諦めずに話そうとしたが。


「あの」

「そうだ、ユカは今日の大会どうするつもりなのよ?」

「私ですか?私はほどほどに頑張るつもりです」

「でもユカさんなら優勝目指せるだろ?いや、逆にこの方がありがたいのか?」

「それなら私と一緒にやらない?ほら、前に言ったやつやったら最強よ!」

「なんだそれ、お前ばっかずるいぞ!」


 既に話題は移ってしまって会話に混ざることすらできない。しかし、テツジは勇気を振り絞る。


「お、俺は」

「駄目みたいよ、ユカはもう目立ちたくないって言って私も振られてしまったわ」

「そっか、それじゃあしょうがないわね」

「ええ、仕方ないから私は魔武戦で仲良くなったセキラ達と行こうと思って」

「へええ!なんだよセキラ、あれからいい感じなのか、なあ」

「……」

「がははっ、こいついつもは仏頂面なのに、レイアさんを見たらぐあぇっ」

「何のことだかわからない」


 セキラやグランも加わり、さらにはタリユスとイアンも話に参加する。こうなればテツジはもう何もできず。


「……僕がいるよ」

「……ありがとな」


 落ち込む形をとって慰められ待ちをしていたために話に入れなかったユウシがテツジを励まし、人見知り同士、極端なステータスを持つ者同士、絆を深めていた。そんな彼らを見て面白そうに微笑む生徒もいるが、柱の陰に隠れた彼には誰も気づいていなかった。


『お待たせしたね、それじゃあ春季魔物討伐大会の説明を始めよう!』


 間もなくして壇上に立ったフュルカのアナウンスが再び鳴り響く。その姿は入口付近にいるユウシ達には見えなかったが、前の方から聞こえる歓声を聞いたところ、前回の魔武戦の時のようにポーズをとって生徒達を楽しませているらしい。


『とはいっても大体の話はもう聞いてると思うから、簡単に話させてもらうね!ごっほん!魔物討伐大会!それは文字通り魔物を討伐するんだけど、ただ魔物を討伐するだけじゃなくて、競争要素を付け加えてみんなで盛り上がりながら楽しく討伐する大会のこと!そんな大会の今回のターゲットはスライム!繁殖期で大量にいるスライムを倒して、どれだけ魔核を持ってこれるか、また、どれだけ質のいい魔核を持ってこれるかで競うんだ!


 具体的な流れを説明すると、まずみんなにはこの街の東西南北にある4つの門を自由に選んで街の外に出てもらいます!そしてスライムを倒したら魔核を拾って、学校まで持ち帰ってきてください!そしたら外にいる係の先生に提出して、学生証を更新すれば記録完了!みんなも学生証のイベントの欄にある、魔物討伐大会を選んだら自分の得点を確認できるから、後でみんなも見てみてね!


 このとき!一度に提出できる最大の魔核の数は10個まで!だから10匹倒したら提出しに戻ってきて、その後でまた倒しに行ってね!ちなみに、20匹以上倒してから魔核を10個提出して、すぐに並びなおして提出しようとするズルい人は、バレたら半年後の、もーっと盛り上がる秋季大会の参加資格を失うから要注意!


 提出の制限時間については、今日はこの説明の後から18時、明日は9時から17時!討伐に必死になるあまり、時間をオーバーしないようにね!最後に!この大会はいろんな冒険者さんにも協力してもらってます!例えば、ちょっと危ないポイズンスライムを倒してくれたり、みんなが遠くに離れすぎないように誘導してくれたり!出会った時には感謝の気持ちを忘れないようにしよう!


 さてさて!こんなところで説明は終了!みんな待ちきれないだろうし、そろそろ……あー!大事なこと言うの忘れてた!』


 ルール説明が終わり、生徒達が開始の合図と共に動き出そうと準備しだしたとき、フュルカが大きな声で再び注目を集める。


『大事なこと、それは今大会の賞金について!事前の説明では銀貨十枚って言ってたと思うけど、君たちが優秀だということと、今年はどうやらスライムの数が例年よりも多いということで、なななんと!優勝賞金に金貨が出るだとか!流石にこのボクも君たちが羨ましい!』


 銀貨十枚でもかなりの大金ではあるが、金貨ともなれば普段生活を送るうえでなかなかお目にかかれるものではない。そんな賞金が手に入ることを告げられれば、元々高かった生徒達のやる気は跳ね上がり、ホールは熱気に満ち溢れていた。ここで壇上にランクルが現れ、何かを伝えようとしていたが、今にも飛び出しそうな生徒達を止めたくないフュルカは手を高く掲げ、合図と共に振り下ろす。


『果たして1位となる生徒は誰なのか!それでは春季魔物討伐大会!スッタート!!』


 開始の合図で生徒達は回れ右をし、全員が入り口に殺到した。当然立ち止まることなどできず、身構えていなかったユウシ達は濁流に流されるように外へと押し出された。


「うわぁっ、待って、押さないでっ」

「っしゃあっ!ぜってー1位になってやっかんな!」

「ふぇええっ、ま、待ってくださいっ!?」

「それじゃユウシ、先行くわよ!」

「ええっ、ちょ、ちょっと!?」


 ユウシはすぐに3人を見失うが、小柄で力の弱いユウシは抵抗することすらできず、転ばないようにするのが精一杯。


「はははっ、今日こそこの僕が、って押すな!おす、うああっ」

「イアン!?って、人の心配してられない……っ!」

「ガハハハッ、ちっせぇと大変だなぁ!」

「まあ大丈夫でしょう。セキラ、私達も行きますわよ」

「ああ」

「この大会の賞金でユカ様に贈り物を……!」

「そんなっ、ユカ様と討伐したかったのに!どこですか、ユカ様ーっ!」 

「誰だ俺の足踏んだやつ、っ!?、待て、このままじゃ壁にぶつか」


 途中で聞き覚えのあるいくつもの声が先に流れていくが、かといってユウシが立ち止まれることもない。ホールからはまだまだ生徒が出てきており、生徒の波に流されながら、街へと続く校門へと向かっていった。


 数分後、打って変わって静かになったホールの壇上にて伸びをしたフュルカ。


「うんうん、みんな元気があっていいことだね!……ん?どうしたんだいランクル、頭を抱えて」


 首を傾げたフュルカに、ランクルはため息をついた。


「あなたは勘違いしていますが、賞金は総額が金貨1枚分。確かに増えてはいますが、優勝賞金はせいぜい銀貨30枚です」

「……ん?」

「仕方がないので賞金は増やしますが、足りない分はフュルカ先生の給料から差し引きますね」

「またまたぁ。……ん?」


 数ヶ月の無給労働が確定したフュルカは魂が抜けたようにしばらく硬直していたとか。


 ー ー ー ー ー

 ――南門方向。


「な、なによこの生徒の数!これじゃあすぐにいなくなっちゃうじゃない!」

「ユカ様っ、いったいどこに行ってしまったのですかっ」

「ソユノ!?なんでこっちに来たのよ!……ってテツジ、アンタも!?」

「し、仕方ないだろ、無理矢理行こうとしたら痴漢と疑われかけたんだからさ……」

「ったく、なんで僕がこんな目に……あ?」

「あ、アンタはイアン!」


 モモコ、ソユノ、テツジ、イアン。

 ー ー ー ー ー

 ――西門方向。


「フーシュ、大丈夫か?」

「う、うん、なんとか」

「ただ少し出遅れちまったな……ま、なんとかな」

「なっ!?貴様ァ、また別の女と!?」

「あ?ああ、ハウターか」

「あれは、テイガさんとフーシュさんか。……ユカ様はいないな」


 テイガ、フーシュ、ハウター、クロアス。

 ー ー ー ー ー

 ――東門方向。


「生徒の数はやはりそう多くありませんわね」

「ただ距離も少し離れているから急ぐに越したことはなさそうだな」

「あー、俺は足遅いしのんびりやるわ」

「グラン?いいんですか?」

「別に俺は優勝に興味はねえしな」

「分かりましたわ、ではセキラ、タリユス、行きますわよ」


 レイア、セキラ、タリユス、グラン。……そして。

 ー ー ー ー ー

「うう、やっと解放された……」


 生徒の波から抜け出すことに成功したユウシはフラフラとよろめきながら大通り横の細い道で壁に寄り掛かる。寝不足も相まって既に体力の半分以上を持っていかれており、ユウシはどうしたものかと深くため息をついた。


「ここがどこかも分からないし……」


 ユウシは方向音痴である。以前迷子になったときは見渡せばそこに校門が見えたが、今回は見渡しても見覚えのある目印は何もなかった。また波から逃れた場所からは少し歩いてしまっており、ユウシにはもう元の場所には帰れなかった。


「……うん、こうしている間にも時間は過ぎてくし、今度こそ誰かに道を」

「うおっ、急に飛び出してくんじゃねえよ!」

「すみません申し訳ないですごめんなさい許して下さいーーー!!」


 大通りに出ると危うく目の前を歩いていた冒険者とぶつかりそうになり、飛んできた大声に、ユウシはすぐさま謝ると踵を返して元居た細い道に入ってしゃがみこんだ。


 冒険者は驚いただけであり、そこまで怒っていたわけではない。そのためユウシを怖がらせたことに罪悪感と、ふと既視感を覚える。


「なんか前にも似たような……まあいーか」


 だが彼はとあるイベントの補助役のために急いでいたことを思い出し、最後にチラリとユウシを見てからその場を立ち去った。そうして足音が遠ざかっていったのを聞いてから、ユウシはゆっくりと立ち上がり、今度は左右を確認し、人がいないことを確かめてから大通りに出る。そして胸をなでおろそうとして、また失敗したことに気が付いた。


「……はっ、しまった!道聞けばよかっ」

「わっ」

「たあああ!?!?」


 突然背後から両肩を叩かれ、ユウシは跳ね上がった勢いのまま前に走り出し、壁にぶつかって倒れた。倒れてなおうるさい心臓を手で抑えつつ、元の細道に視線を送れば、そこには腹を抱えて笑う男子生徒の姿が。


「ははっ、想像以上に驚いてたね」

「え、え?し、シガナ?」

「満足ですか、シガナさん」

「!ゆ、ユカさん?」


 次いで横から聞こえた声に振り向けば、大通りにはユカがいて、ユウシが呆けているうちにシガナがユウシの前までやってきて、こちらに手を伸ばしていた。


「ど、どうし、え?」

「ん?ここにいる理由?それはこの道は北門への通り道だからだけど」

「そ、そうなの?」


 シガナに引き起こされたユウシは服の砂埃を叩きながら目を丸くする。それならもう少し生徒が来ていてもおかしくないのでは、と思ったユウシだが、そんな彼の考えを表情やキョロキョロ見渡す仕草からシガナは察した。


「北門は他の3つの門と比べてかなり距離があるから、優勝を狙うほとんどの生徒は行きたがらなかったんじゃないかな」

「そ、そうなんだ?」

「そうだと思うよ。自分たちはそれが狙いみたいなとこあるけど、ユウシはどうしてこっちに?」

「ぼ、ぼくは、その」


 ユウシが渋々単なる迷子であることを告げれば、シガナもユカも苦笑い。ユウシは赤面した。


「そっか、それは災難だったね。……で、ユウシはどうする?せっかくだし、このまま一緒に討伐する?」

「え?……うーん」


 そう聞かれたユウシは元々南に行くつもりだったと断ろうとしたが、よく考えればそれはモモコの手伝いをするという話があったため。だが先ほどホールにて別行動することを決めたのなら、わざわざ激戦区でもある南に行く必要はない。


 それに励まされて1位を目指すとは言ったものの、ユウシは魔法が使えないのに討伐数で1位になれるとは全く思っていなかった。ならばいっそ、テイガ達にはいろんな意味で申し訳ないが、優勝は諦めてシガナとユカと共に北門へ行き、自身の現状について相談する方が有意義ではないか。ユウシはそう考え、2人の顔を見て頷いた。


「是非、よろしくお願いします!」


 ――北門方向、シガナ、ユカ、ユウシ。東西南北の各方面にて、喜怒哀楽に溢れたスライム討伐が行われるとともに。


「ではトルクト、君に組織『殲滅』としての最初の仕事を任せよう」

「……ああ」


 黒い外套の男から丸められた羊皮紙と何かで一杯になった袋を受け取ったトルクトが、街の裏路地にて、目的に向けて動き出していた。

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