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「……朝」


 ベッドの上で目を開き、ユウシは部屋に差し込む朝日に照らされた部屋を見る。閉じそうな目を擦り、大きな欠伸と共に立ち上がったユウシは利き手を見た。手を握り、手を開き、繰り返すこと数回。続いて左手で手首から肘まで揉んでいき、肘から手首に折り返す。数日前までは痛みを感じて途中で止めたが、今日はもう、痛みを感じなかった。念のためにとユウシは包帯を解き、幾分か細くなったように見える腕にもう一度同じことを繰り返し、痛まないことを確かめた。


「うん、もう大丈夫そう……僕!ふっかつ!なんて」


 骨折が治った右腕を天井に向けて掲げ、手を握って開いて微笑んだユウシ。それから添木と包帯を片そうとして、何を思ったのか、取ったばかりの包帯を腕に巻いているところをユウシの声で目が覚めたらしいテイガに目撃される。テイガは苦笑し、ユウシは気恥ずかしさを覚えつつ、2人はいつものように食堂に向かうのだった。


 ユウシが目を覚ましたのはどうやら朝早くだったらしく、まだ食堂に向かうまでに他の生徒の姿は数える程しか見かけなかった。普通の人ならユウシに朝からうるさいと怒りそうなものだが、テイガはむしろユウシに感謝する。


「ユウシのおかげで今日はユカさんに会えるかもな~!」

「あはは、モモコいないからって、ユカさん困らせちゃ駄目だよ?」

「そりゃ頑張るけどさ……ここだけの話、まだユカさんの顔見ると緊張すんだよな」

「あ、そうだったの?」


 テイガが照れくさそうに笑えば、それは嘘ではないとユウシには分かる。


「ぶっちゃけ他の女子に話しかけてた時は半分はわざとテンション上げてたんだけどよ、あ、もちろんワンチャン狙ってたぜ?」

「そう言われても、強制仲裁する側の僕は怒ることしかできないよ?ん?」

「悪かったって。……で、ユカさんに対してはさ、テンション上げて少しふざけないと、たぶんまともに話すこともできねえんだよ」

「今までがまともかどうかは要相談だけど、テイガでも緊張することあるんだねぇ」

「な。俺もビックリしてる」


 上機嫌だからか、なんだかんだ朝で頭が回っていないからか、モモコとフーシュがいないからか、テイガは普段しないような恋愛話をユウシに聞かせて楽しそうにしている。そんなことを話されれば、長年の友人である明るく気さくなテイガの新たな一面を実際に見てみたいユウシは彼に提案した。


「それなら1回さ、次会ったときは頑張って普通に話してみてよ」

「あー?ったく、言うとは思ったけどよ、ぜってー無理だって」

「いいじゃんいいじゃん、今なら僕以外に見られないし、もしかしたらユカさんもそっちのテイガなら大丈夫って言うかもよ?」

「もしかしたらて。……でも確かにな。そろそろもう少し距離縮めておきたいしな?」


 本当はテイガも急に態度を変えるのが怖いとまではいかずとも抵抗があり、何かしら理由をつけたかったのかもしれない。そんなことをうっすら考えつつ、2人は普段とは違った心持ちで食堂に入った。ユカはいなかった。


「嘘だろ!?」


 しかし嘘ではなかった。食堂で席に着き、そわそわしていても来るのは他の生徒ばかり。食堂を満たす美味しい匂いに待ちきれなかったユウシが食事を運び、2人で食べながら待つがやはり訪れず、食べ終わり、モモコ達が来てもユカが来ることはなかった。あからさまに落ち込むテイガにモモコとフーシュが心配するが、訳を聞くと呆れた顔をして2人はすぐに食事を取りに行ってしまった。


「せっかく今日こそ会えると思ったのにな。お前は?」

「1回寮棟の入り口で見つけたんですが、次そこで会ったら嫌いになると言われて、それ以降は見つけられませんでしたよ」

「そうか、その手があったか」

「テイガ、流石にそれはダメだよ?」


 あれから食堂でソユノと会うことが多く、互いにライバル視していたテイガとソユノはなんだかんだ仲良くなっていた。危うく道を外れそうになっている友人をユウシが引き留めているとやがてモモコとフーシュが戻ってくる。テイガとソユノがまだユカの話を続けていることにフーシュは苦笑し、モモコはため息をつくが、どうやら今回は喧嘩の火種とはならなそうである。


「今アンタに賛同すんのは腹立つけど、私も今週ユカと話したかったわね」

「ユカちゃんが杖を買えたのかとか、気になるもんね」


 先週の休日以降ユカと会えていないために、ユウシ達がユカが新しい杖を用意できたのかは知ることができなかった。とはいえ今週も通常通りに講義は行われており、時折ユカの目撃情報と共にユカの魔法が話題に上がっていたことは周囲の生徒を通じて知っていた。だがそれは魔法にばかり注目が集まっており、肝心の杖は学校支給のものなのか、街に出て用意したものなのかは結局分からなかった。


「どうせ関わってそうなシガナにも会えなかったしな」

「そうです、あの人ユカ様以上に見つからないです、意味が分かりません!」

「俺もだよ、あーあ、都合よくここらへん全部知ってるやついねえかなー」

「あ、テツジだ」

「都合よっ」


 ユウシがふと食堂の入り口にいたテツジを見つければ、テイガは彼が噂を集めるのが好きだと言っていたことを思い出してすぐに手招きして呼び寄せた。どこか疲れた様子のテツジだったが、自身を呼ぶユウシ達に気付けば、途端に明るい表情と共に近寄り、そこにまた異性が増えていることに気付き、驚いて足を止めた。


「あ、あなたは、えっと、そ、ソユノさん、でしたっけ?」

「え、なんで名前を知ってるんです……?」

「ち、違っ、魔武戦で!魔武戦で見て!」


 一瞬ストーカーを疑ったようなソユノの視線にテツジが慌てて弁明し、それを聞けばソユノは却って嬉しそうである。


「そうですか!私の実力が強くて印象に残ったんですね!」

「え、えっと、『薔薇の貴公子』クロアスと対戦してたのと、あと俺の前の試合だったから……」

「……チッ」

「え?」


 期待外れだと言わんばかりに舌打ちしたソユノ。これには理解が追い付かずにテツジは呆けた声とともに固まった。


「おし、お前の収集能力は期待以上みてえだ!テツジ、聞きたいことがあるんだけどさ」

「え、でも、その前に、自己紹介とか、さ?」

「いりません、どうせすぐに忘れます。それより!ユカ様のことです!」

「わすれ、え?」

「なあテツジ、ユカさんの杖の話とか、シガナのこととか知らねえか?」


 心が傷つけられたと自覚する前に、ユカのことで盲目になっている2人の質問。だがユカに関してもシガナに関しても、テツジはユウシ達が知っている情報以上の噂は聞いておらず、2人はがっかりしたように深くため息をつく。


「駄目ですね、全く手掛かりがつかめません」

「そう簡単にはいかねえか……あ、テツジ、ありがとな、もういいぞ」

「は、え、え?」


 呼び止めて悪かった、とテイガが食事の受け取り場所を指差せば、テツジの表情はみるみるうちに暗くなっていく。その目の端にはキラリと光るものが見えた気がして、心配したユウシが恐る恐る尋ねた。


「て、テツジ、大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫。……そうだよな、友達ってこんなもんだよな、俺が変に期待しすぎてただけだよな」

「なによ、なんかあったの?」

「いや、魔武戦の翌日からさ、元々有名だったレイアさんとか、それこそモモコさんとかテイガの噂が広まってさ。俺、ちょっと調子に乗って、その人たちと知り合いなんだって、友達に言ったんだよ」

「いや、別に事実じゃねえか?」


 テツジは調子に乗ってと言っているが、互いに自己紹介をしており、少なくともテイガとモモコは既にテイガを友人だと思っているため、テツジの発言はなんら間違いではないと思っている。その意図が伝わったのか、テツジは一瞬顔を輝かせたが、すぐに元に戻ってしまった。


「……で、そしたらさ、是非ともいろいろ教えてくれって。まあ、有名な人たちの話は知りたい気持ちは分かるから、俺も知ってる話は教えたんだよ」

「ああ、それで?」

「俺、気づいたら噂教えたがりの人って呼ばれてたんだ」

「「「……」」」

「今週、今日が初めてだったよ、自分の名前呼ばれたの」


 話はそれだけでは終わらなかった。話しかけられることは増えたが、互いに自己紹介をすることはあまりなかったこと。呼び止められて探している人の噂を尋ねられ、答えたらすぐに立ち去られたこと。それは生徒だけに留まらず、先生からも同様だったこと。


「極めつけはさ、友達だと思ってたやつに話に上がった人を紹介してくれって言われて。相手の都合とかあるし、紹介できるほど関係深くないって断ったらさ。舌打ちされて、赤の他人になって……俺、なんか悪いことしたのかなぁ?」

「テイガくん、ソユノちゃん。謝ろ?」

「「ごめんなさい」」


 あまりに居たたまれない気持ちとなり、テイガとソユノは促されると間を置かずに頭を下げた。


「いいさ、うん、いいんだ……これが運Gの俺の運命なんだ……」

「て、テツジ!一緒にご飯……あ、僕もう食べ終わったんだった」

「わ、私はまだだから大丈夫だよ!」

「私もお代わりしようかしら!」

「そっか、じゃあ一緒に食べようよ、ね!」

「!ああ、ありがとな!」


 ユウシ達の気遣いが功を奏し、テツジはすっかり元気を取り戻したようだ。とはいえ気まずい空気はそう簡単には元に戻らず、テツジといつの間にか完食していたモモコが食事を受け取って帰ってきても、少しの間無言が続いていた。


 どうにか空気をもとに戻そうと考え、ユウシは上を向き、横を向き、後ろを向き、下を見て、話し忘れていた大事なことを思い出し、無言でテーブルの上に利き腕を突き出した。突然のユウシの行いに一瞬一同は目を瞬かせるが、最初に気付いたのはフーシュで、続いてソユノ以外もすぐに気が付いた。


「ユウシくん、もう腕は痛くもないの?」

「うん!フーシュさんのおかげで僕は元通り!」

「そっか!それは良かったです!」

「それじゃ、今日からユウシもちゃんと魔法使えるようになるかしら?」

「う、な、なる、なりたい、なったらいいなぁ」


 そう言って自信を無くしていくユウシだが、この週もユウシは安定した魔法を成功させることはできていなかった。


 先週はまだ怪我の痛みが残っていたため、魔法が上達しないのは怪我に意識を割かれているためだと言われて納得していたユウシ。だが、今週になり、ほとんど怪我の痛みが引いた中での練習でもほとんど魔法で改善する様子が見られなかった。


「相変わらずユウシの魔力の調整は0か100よね」

「いや、辛うじて2もあるぞ」

「アンタ、最初に杖に光灯して見せてくれたときはもっとうまくできてなかったっけ?」

「そ、それはそうだった気がするけど」


 現状のユウシは杖に魔力を込めたとき、まずはか弱い光が灯り、それだけでは魔法を行使するのに足りないからと増やそうとすれば、次は自分の全魔力を込めてしまっていた。


 幸いユウシがもらった杖の魔導石は貴重な無属性のものということもあってか品質が少し高く、ユウシの全魔力を込められても割れることはなかった。だが一度魔力を込めてしまえば、今のユウシには杖から身体へ戻す技量はなく、込めた魔力はほとんどそのまま魔素へと還元されてしまい、ユウシの元には欠乏症になるかならないか程度の魔力しか残らなかった。そのため一度失敗すればその日はもう練習できず、今日まで成功の兆しすら見えなかったのであった。


「音属性?とか言ってましたけど、そんなにその属性は難しいんです?」

「どうなんだろうな。適性だけの話なら俺と変わらねえし、できておかしくねえんだけどな」

「それで言ったら俺はユウシの1つ上だけど、魔力調整は割と苦手だよ。魔武戦でも失敗したし」

「あれ、テツジくんの魔法が大きかったのって、狙ってそうしたのかと思ってた」

「そうよ、運が悪かったから負けになっただけで、見てる分にはアンタの勝ちだったわよ?」


 フーシュとモモコが思ったままに感想を述べれば、褒められたと思ったテツジは照れたように頭を掻く。


「え、あ、そ、そうですか?」

「なんですか、気持ち悪い反応ですね」

「っ……なんだろう、なんか同じ女子として見れなくなってきた」

「はあ?何言ってるんです?」


 自分勝手だったり辛辣だったりするソユノのテツジへの言葉に、テツジは異性への緊張感を怒りが上回ったようである。その証拠に不服そうなソユノに睨まれるように凝視されても気にすることなく食事を食べ進めている。


「(これはモモコへの対応が変わるのも時間の問題か)」

「ん?テイガ、なんか言った?」

「ああ、来週のイベント、どうしたもんかなぁと」

「イベント?」

「魔物討伐大会だろ?ソユノ、まさか知らないのか?」

「し、知ってるに決まってます!」


 小声のテイガがイベントを引き合いに出してモモコへの悪口に近いものを誤魔化した。その後思い当たるイベントが分からなかったのか、首を傾げたソユノにイベントが何か教えたテツジだが、彼のソユノへのさん付けは先ほどの一件によりなくなっていた。


 そんなことには気づかずに自らの無知を隠したソユノは分が悪いことを察すると、テイガに視線で言葉の続きを促した。テイガは視線に気づいたが、残念ながら、彼はテツジ側の人間だった。


「今週初めに座学で大会の概要について触れられてたよな?」

「え、そうだっけ?」

「モモコちゃん?」

「そ、そうだったわね!」


 罠に引っかかったのは別の人物だった。途端にフーシュの厳しい目がモモコを襲い、モモコは必死に目を逸らす。だがテイガは見逃さなかった。今、ソユノも口には出していないが同様の反応をしていたことを。


「おいソユノ、お前もまさか寝てて聞いてないとかじゃねえよな?」

「そ、そんなわけないじゃないですか!」

「だよな?お前魔武戦で後半の試合だったもんな?」

「ええ!そうです!テイガ、あなたよりも頭が良いんです!」

「じゃ、せっかくだし夏前月の試験で点数競おうぜ。その方が勉強意欲上がるし。あ、モモコもな?」

「「えっ」」


 イベントの話をしていたのに、突然試験の話を出されて硬直する2人。しかし今回ばかりは試験を無視することは出来ない。


「まさか忘れてはいねえよな?季節替わりの試験は全員受けなきゃいけないのと、もしも今回Eランクのままなら補習が始まること」

「そ、それは、そうよ、ねえ?」

「そ、そうなんですか!?」


 モモコは同意を求めたが、ソユノは知らなかったようである。


「テイガくん、点数競うの楽しそうだね!」

「僕も僕も!」

「あー、そうだな、ユウシはともかく、フーシュはもうCランクだしなぁ。ぜってー俺らの上ってわかりきってるよなぁ」

「あ、じゃ、じゃあ俺もそれ、入っていいか?実は俺もCランクでさ」

「そうだったんだ、よし!テツジくん、負けないよ!」

「よよ、よろこn、じゃな、こ、こちらこそ!」

「うし、決定な!いやー、今ばっかりはユカさんとシガナの奴がいなくてよかったぜ」


 こうしてモモコとソユノが拒否できないまま、テツジとフーシュの2人、ユウシ、テイガ、モモコ、ソユノの4人の点数バトルが決まったのだった。


「まったく、せっかく楽しいイベントの話だったのに台無しよ。決まったことを今から変えろって言うつもりはないけど、とりあえず魔物討伐大会の話に戻りましょ」

「ああ、そういやそうだったな。じゃあ話を聞いてなかったモモコとソユノのために大会の概要話すぞ?」


 項垂れたモモコとソユノに苦笑しつつ、テイガは椅子下に置いていた鞄の中からメモを取り出して説明し始めた。


 魔物討伐大会、それは年に2回開かれるラルドの人気イベントの1つである。それぞれ春後月と秋後月に開かれる魔物討伐大会だが、単に生徒の実力試しとなる秋大会とは異なり、春大会には明確な目的が存在する。それはスライムの大量討伐である。


 通常魔物は何かしらの要因で魔素濃度が高まった場所にて生まれる生き物であり、魔獣とは異なり生殖機能を持っていない。だがスライム種は体内の魔力量が増えると、成長して上位のスライムになるか、もしくは分裂して数が増える。


 そんなスライムは野生の植物を食べ、中に含まれる養分から魔力を作り出すことができるとされており、春から夏にかけて植物が生い茂る季節には、合わせてスライムの数も急増するのだ。スライムは討伐ランクで人畜無害であるHに定められる通り、人には全く害を及ぼすことがないのだが、数が増えるこの季節は栄養を求めて農作物を食い荒らすようになる。そのためかつてはこの時期にギルドがスライム討伐を依頼として出していたのだが、ラルドが創立して数年後、魔物討伐に慣れない学生へ経験を積ませる目的も兼ねて、魔物討伐大会というイベントを開くことでこの問題の改善を図ったのだった。


「そんなことはどうでも」

「よくないよ、歴史の問題で春中月の試験に出たんだよ、モモコちゃん」


 欠伸をこらえていたモモコだが、フーシュの指摘に絶望したかのように目を見開いた。


「……話を続けるぞ?こんな背景があるけど、まあ要するに来週の4日目と5日目の2日間、スライムを倒そうっつーのか今回のイベントの趣旨だな。対象となる魔物は当然スライム。一応ミドルスライムとか上位種も対象だけど、基本はスライムだけ倒せば良いってよ。で、成績優秀者には賞金があって、一位は銀貨十枚だとさ」

「おおーーー……ユウシが手に入れたアレの値段聞いたあとだと微妙に聞こえるわね」


 とはいえスライムの魔核が銅貨数枚の価値であり、スライムを倒すだけでこの額が手に入るとなれば、普段から追加の金銭を支払ってお代わりを貰っているモモコは特に賞金を狙わない理由はなかった。


「いいじゃない、やってやろうじゃないの!」

「お前ならそう言うと思ってたぜ。で、 肝心の成績の評価方法は倒した数と魔核の質だってさ」

「数はそのまま分かるけど、質って、あの透明かどうかってこと?」

「じゃねえか?ま、正直俺も分からん!ってなわけで、重要なのは数だ。だからこそ一撃で大量に倒したユウシの『爆音』は頼りにしてたんだけどな」


 音しか聞いていないモモコとフーシュ、魔法の内容を全く知らないテツジとソユノには分からないが、テイガはユウシが初めて魔法を使った時とギガスライムを倒した時にユウシの魔法を体感しており、地面に転がる大量の魔核を思い出して残念そうにしている。


「わ、分からないじゃん!今日とか来週とか、できるようになるもん!」

「だといいけどな、まあそもそも人が近くにいるってなると使うの禁止されるかもな」

「がーん」

「元気出して、ユウシくん」


 がっくりと俯いたユウシを励ますフーシュ。だが絶句して項垂れない辺り、ユウシは内心そこまで落ち込んではいなかった。むしろ成功しないであろう魔法を使わない理由ができたことへの安心感か。ユウシは自覚して小さく首を横に振り、机の下で手を固く握りしめた。


「ってなわけで、優勝狙うなら結局俺かモモコ、あとテツジ、お前も可能性はあるな」

「あ、ああ」

「私もですよ、なんでこっち見ないんです?」

「いやだって、なあ?」

「なにか言いたいことがあるなら受けて立ちますよ!?」


 テイガはこの1週間でソユノの魔法を見せてもらう機会はあったものの、その評価としては良く見積もって平均というのが実のところである。放出の魔法はもちろん、狙ったとおりに球弾の魔法は放てるのだが、言ってしまえばそれだけである。一度に大量のスライムの討伐が期待できるモモコと、高速で移動して討伐と回収ができるテイガと比べれば、一位を狙うことは相当厳しいことが予想されたが、テイガは敢えて何も言わないことにした。


「まあいいや、じゃあとりあえず4人で優勝狙うとしてさ、場所は分かれた方がいいと思うんだよ」

「4人なら、丁度東西南北で別れられるか?」


 ここアトイミレユの街は外につながる門が4つあり、それぞれ方角を用いて呼び分けられている。ちなみにラルドは街の中でも南側に位置しており、南門、西門、東門、北門の順で距離が近い。


「ああ、だから今のうちからどこの門に行きたいかとか、ユウシとフーシュはどうするかとか決めておこうと思うんだけど、それでいいか?」


 テイガが一同を見渡せば特に異論は出ず、次いで各々の希望を聞いて場所を決めていく。途中で最も近い南門を求めて争い、じゃんけんで1人負けて嘆くテツジにちょっとした興味からユウシが暇つぶしにじゃんけんを持ち掛け、十連勝して余計にテツジを落ち込ませ、かと思えばそこで運を貯めたのか、その次のじゃんけんでテツジがソユノに勝って大喜びするなどしたが、無事に割り振りが決まった。


「……じゃあ南がモモコとユウシ、西が俺とフーシュ、東がテツジ、北がソユノで決定な」


 ユウシとフーシュについては、ユウシは自分でスライムを倒しながらモモコが大量に討伐した魔核を拾うのを手伝い、フーシュは万が一テイガが魔法の制御に失敗して怪我したときの治療役として組み合わせることとなった。むくれるソユノ以外が賛成したところで全員が完食し、一同は食器を片付けて食堂を出た。


「今日こうやって話し合ったら、いよいよ来週が楽しみで待ちきれないわね!」

「まともに話聞いてなかったくせによく言うぜ」

「さっき分かったからいいの!……そうだ!せっかくだし、明日街の外で大会の予行練習しに行かない?」

「残念でしたね!外に行くのは危ないので禁止されているんです!知らないんですか?」


 先ほど自らの無知を晒す結果となったことでどうにか挽回したかったソユノが得意げに話したが、それを聞いて既に何度も外へ行っているユウシ達が首を横に振り、ユウシ達が行っていることを知らないテツジでさえ冷ややかな目でソユノを見下ろした。


「残念だったな、明日、明後日に限っては事前に討伐したことのない生徒のために特別に街の周りでのスライム討伐が許可されるんだよ、知らなかったんだな」

「!?」

「ってなわけで!明日練習して、確実に1位を」

「お前はもっとやるべきことがあんだろ?」

「え?」


 悔しそうなソユノを横目に、明日を楽しみにしていたモモコの言葉を遮ったテイガ。彼を見たモモコはその指差す先に視線を送り、掲示板の成績一覧を見て、嫌な予感が頭を駆け抜けた。思わず逃げ出そうと足を踏み出したが、それよりもテイガが肩を掴むのが早く、反対側に逃げようとすれば、もう片方の方をフーシュに掴まれた。


「そうだよ、お察しの通り勉強だ勉強」

「モモコちゃん、私も手伝ってあげるね?」

「そ、そんなの」

「「そんなの?」」

「べ、勉強は来週の休日でよくない?ね、ね?」


 テイガと、というより主にフーシュの圧に肩を跳ね上げるモモコはしかし、縮こまりながらもなんとか抵抗を試みる。しかしテイガとフーシュには通じなかった。


「どうせお前は大会で疲れたとか言って逃げるだろ」

「モモコちゃん、勉強しないと来月から大変だよ?」

「そ、ソユノ!アンタもほら」

「ソユノちゃんも一緒にやる?」


 ソユノは逃げ出した。モモコは裏切り者を見る目で遠ざかるソユノの背中を見た。ふと思い立ってユウシはソユノの名前を掲示板で探すと、右から2列目に名前を見つけた。当然座学はEランクだった。


「テツジ!どう?アンタは明日、一緒に」

「!あ、は、はい!お力になれると思う、います!勉強で!」

「そっちじゃなーい!!」


 モモコの叫びは空しく通り抜け、翌日と翌々日、一同は勉強に明け暮れるのだった。

 

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