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「なあ、昨日の魔法使いとは思えない立ち回りで驚いたよ!」

「ありがとな。あれ、地味にキツかったんだよな~」

「俺も風属性なんだ、良かったら今度教えてよ!」

「そうなのか!ああ、機会があったらよろしくな!」


 自己紹介の後そういった会話を交わして男子生徒と別れたテイガ。しばらくそのまま歩いていき、寮棟を出て、あと少しで食堂というところで眉を顰めて口を開いた。


「なあ、俺はもう少し昨日の反響あると思ったんだけどよ。案外そうでもねえみたいだ」

「僕ぜろ。ぜーろ。テイガ、いち。あはは?」

「悪かったって」


 目から光を失い震え出したユウシの肩を叩き、テイガは苦笑した。


 昨日シガナを追いかけて競技場を出たテイガ達だが、あの後シガナを見失い、ユカが隠れるためにと先に女子寮へと帰る中、テイガとモモコはユウシとフーシュがいないことに気付いて競技場に戻ろうとした。だがそこでテイガ達を追っていた生徒達と鉢合わせになり、ユウシはテイガと合流することは叶わなかった。


「そんときは結構いろいろ褒められたもんで、今日も歩くの大変だろうな~とか思ってたんだけどよ」

「手振らないで。や」

「まあセキラは俺と同じようなことを魔法なしでできてたし、当然っちゃ当然だよな。というわけで、良かったな、ユウシ。お前が心配してたみたいに俺はどっかいくことは」

「ねえ、あれって昨日のすごい人じゃない?」

「呼んだかい、そこの女子生徒!」

「どうしよう、全く説得力がない」


 如何にテイガとモモコが生徒達が驚くような戦いを見せたとはいえ、それは後半のユカ対イアン、レイア対セキラの試合と比べてしまえば生徒達は当然後者の2試合を選ぶ。とはいえテイガとモモコの印象が消え去ったかと問われれば全くそんなことはなく、今もこうして遠くからテイガを見る生徒がいたり、すれ違えば昨日の試合を思い出す生徒がいたりした。


「はは、なんか違うって言って逃げてったわ、久々でちょっと心痛い」

「はいはいよかったねーよかったねー」

「繰り返すのははいだけだろ。……ん、あれモモコじゃね?」


 テイガが指差す先には朝から杖を手に何かを教えている様子のモモコがいた。しかし教えられる生徒は揃いも揃って首を傾げており、モモコが起こったように口調を強めれば、生徒達は頭を下げてどこかへ行ってしまった。


「なんだあれ」

「おはよう、ユウシくん、テイガくん」

「フーシュさん、おはよう。えっと、モモコはなにしてるの?」

「昨日の魔法について聞かれてたのは知ってるんだけど……」

「なるほどな、アイツは説明できねえからな」


 フーシュはモモコが呼び出されたところまでしか知らなかったが、それさえ分かればユウシもテイガも杖を貰った週の休日を思い出して納得していた。テイガの推測を聞いて3人で頷いているとモモコが不機嫌そうに帰ってくる。


「ちょっと聞いてよ!さっきの人たち、魔法を教えてって頼んできたくせに、終わる前に逃げたんだけど!」

「なんて教えたんだ?」

「え?こう、杖を持ってバラバラのイメージで」

「可哀想に」

「どういう意味よ!?」


 テイガは逃げだした生徒達、そしてモモコの頭を見て静かに呟いた。


 怒れるモモコを朝食のことを口に出して落ち着かせ、4人は食堂に入る。すると休日のまだ早い時間にも関わらず、なにやら二階の方が騒がしい。そこでテイガが素早く頭を働かせる。魔武戦の翌日で、かつ朝の早い時間。となればテイガの頭には1人の意中の女子生徒の可能性に思い当たっており、ユウシ達が止める前に、彼は驚くほど素早い動きで階段を上り始めていた。


 慌ててユウシ達が後を追うと、そこには席が足らなくなるほどの野次馬がいて、騒ぎの中心であるテラス席を囲うようにして立っている。二階までくれば、なにやら女子生徒とその他複数人の言い争う声が聞こえてきたが、その具体的な様子は野次馬達の背中に隠され、特に身長の低いユウシには確認することができなかった。ユウシは自分の目で確認することを諦め、必死に背伸びをしているテイガの服を引っ張った。


「ねえ、何が起きてるの?」

「いや、俺もギリギリ見えてねえよ。……なあ、これは何に集まってんだ?」

「ん?って、君はテイガか!?」

「そうだけど、なんだその反応」


 状況を尋ねようと前にいた生徒に話しかければ、話しかけたのがテイガだと分かり、またユウシ達4人を見て彼はなにやら安心したような表情。すると同じく名前を聞いた野次馬達が横へと逸れ始め、次第にユウシ達の前に道ができていく。


 状況を理解できずに目を瞬かせるユウシ達。そんな4人に最初に話しかけた生徒が頭を下げた。


「頼む!あの迷惑な女子をなんとかしてくれ!」

「迷惑な女子だあ?」

「ああ!せっかくユカ様がいるのに、話しかけようとするのを邪魔してくるんだ!」

「確かにそれは迷惑極まりないな」

「なによ?」


 テイガはハッとして後ろを振り向いたが、モモコはそこにいる。てっきりモモコかと思ったテイガだが、どうやら違ったようだ。モモコのジト目から逃げるようにテイガが視線を戻せば、ちょうど野次馬達が空けた道がテラス席につながったところだった。


 テラス席には確かにユカがいた。だが10ある席はユカが座る席を除いて空席である。出入り口には数人の男女の生徒がいて、そしてユカと彼らの真ん中で、ユカを背にしてなにやら大きな声をあげている女子生徒が見えた。


「あれか、邪魔な女子って」

「ああ、今日いきなり現れて、ユカ様のボディーガードを自称してんだ」

「いいじゃない、ユカはいつも男が近づくの嫌がってたし」

「違うんだよ、女子で話しに行っても駄目って言うの!」


 そう言ったのは野次馬の1人だった女子生徒。昨日の魔法で憧れを抱く生徒の中には同性も含まれており、ユカがいるという話を聞いて集まったようである。そんな彼女らでも話しかけることができないとなれば、モモコもそれはおかしいと首を傾げる。


「それでも、ユカ様があの女子生徒の行いを認めてるんなら別にいいんだよ」

「もちろん直接ユカ様に近寄るなって言われたいけどな!」

「だけど、ユカ様は困ってるみたいなんだ!」

「なんかテイガみたいなの混じってるわね」


 モモコの呟きにテイガは不満げである。だが野次馬の生徒の発言を聞いてユカの表情を見て、曇っているのを確認すれば、テイガもユカを想う生徒の1人として女子生徒の振る舞いを許せるはずがなかった。


「任せろ、同士よ。俺らがなんとかしてやるさ!」

「頼む、この際どうしてお前がユカ様と一緒にいることが許されてるとかは一旦いい!」

「抜け駆けして仲良くなろうってもんなら容赦はしねえけどなぁ!?」

「……僕は後ろで見ててもいいよね、ほら、怪我して危ないし」


 殺気溢れる野次馬達の言葉に男のユウシは縮こまったが、テイガには関係ないようだ。一歩前に出て無言でグッドサインを送れば、正しく意味を理解した野次馬達を中心にいきり立つが、既にテイガはテラス席に入っている。モモコは頭を抑え、フーシュは騒ぐ生徒達に慌てつつ、2人もその後に続いた。


「だから!ユカ様は話しかけられたくないんです!食事の邪魔をしないでください!」

「一番邪魔なのはお前だろ!」

「男の方は黙ってどこかに行ってください!」

「じゃあなんで女子も通してくれないの!」

「ユカ様が望んでないからです!」

「まあまあ同士達よ、ここは俺らに任せとけって」


 テラス席では今も男子生徒と先ほどの女子生徒が言い争っているところだった。苛立ちを募らせる生徒達だが、ユカの手前手が出ることはなく、とはいえ我慢の限界は近そうである。そんな彼らを宥めつつ、テイガは前に出て女子生徒と向き合った。


「また別の方ですか!駄目です、どこかに行ってください!」

「まずお前は誰なんだよ?初めて見る顔だけどよ」

「っ!あなたには関係ないです!さっさとどっか行ってください!」


 初対面の相手に自己紹介から入ろうとしたテイガだが、その言葉はどうやら彼女をより刺激したようで、語気が少し強くなった。だがテイガもテイガで関係ないと言われれば思うところがあり、顔を顰めて反論した。


「関係ないわけないだろ、見ろよ、ユカさん困ってんだろうが」

「ユカ"様"です!それはあなたみたい下卑た男性がいるからです!」

「おま、初対面の癖に口悪すぎんだろ!」

「いいわテイガ、ここは私たちに任せて」


 テイガと付き合いの長いモモコがテイガがそろそろ耐え切れず、喧嘩に発展しそうなことを感じ取って後ろに下がらせる。代わりに前に出たモモコを、女子生徒は変わらず睨みつけていた。


「男が駄目なのは知ってるけど、どうして私達も駄目なのよ?」

「ユカ様は誰とも話したくないんです!」

「何言ってんのよ?それ、ホントにユカが言ったの?」


 モモコはユカの表情を窺うが、ユカは何とも言えないような苦い表情である。そして何かを言おうとして口を開いたが、女子生徒が2人の視線の間に割って入り、邪魔するように先に話した。


「ユカ様は心優しいから、思ってることを言い出せないだけです!本当は心の中では話をしているよりも魔法の練習がしたいと思っているはずです!」

「思ってるはずって、結局アンタの推測じゃない!いいわ、直接ユカに聞いてみましょ!」

「駄目です!そんなこと言ってあなたはユカ様に近寄りたいだけじゃないですか!」

「はあ?その言葉そっくりそのままアンタに返してあげるわよ!」

「モモコちゃん、ダメだよ落ち着いて?」


 手を伸ばそうとしたモモコをフーシュが宥め、後ろに下がらせる。どうやらテイガもモモコも暴力無しには女子生徒の壁を乗り越えることはできなそうである。


「なあモモコ、一旦コイツ懲らしめた方がいいんじゃねえか」

「ええ、私もそう思うわ」

「そ、そんなことするなら先生を呼びます!」

「2人とも!それはよくないよ!」


 指を鳴らす2人に女子生徒は息を呑んだが、それでも退こうとはしない。だが2人が動き出す前にフーシュが叱りつけ、代わりに女子生徒の前に立った。


 テイガもモモコも、自身よりも気弱に見えるフーシュがこの自分勝手な女子生徒をなんとかできるとは思っていなかったが、フーシュは一言こう言った。


「あのね、私達ユカちゃんと友達なんだけど、それでも駄目?」

「とっ、とと、友達!?」


 雷に打たれたような衝撃に女子生徒は大きく目を見開き、テーブルに身体をぶつけるほど後ずさった。この言葉にはいつの間にかテラス席の入り口で詰まりそうなほど身を寄せていた野次馬達のうち、昨日一緒に観戦していたことを知らない生徒を中心に目を瞬かせていた。


「ほ……本当、ですか?」

「えっと、その……はい、仲良くしていただいてます」

「休みの日に一緒に遊んだもんね!」

「はい、楽しかったです」


 再び衝撃、だが今度はより大きい。少し恥ずかしそうにユカが認めれば、見とれるようなその表情と衝撃的事実が重なって襲い掛かり、追撃と言わんばかりに2人が会話を続ければ、女子生徒は耐えきれなかったのかその場にへたり込んでしまった。


「フーシュ、やるじゃない」

「そんな、なんてことないよ」

「じゃ、ユカさんから訳を聞くか」

「あ、あなたは駄目です……!」

「なんでだよ!」


 3人は女子生徒の隣を通り過ぎてユカに近寄ったが、テイガのときだけ女子生徒がズボンの裾を掴んで止め、2人はまた言い争っていた。そんなテイガを意識から外し、モモコとフーシュは朝から疲れた様子のユカに声をかける。


「ユカちゃん、大丈夫?」

「なんか変なこととかされてないわよね?」

「はい、信じられないかもしれませんが、ソユノさんは悪い方ではないので」


 ユカの口から明かされた名前の持ち主は、今もテイガと言い争っていた。それを見てやはり疑わしそうなモモコに、ユカは今日の早朝から今までにあった出来事を説明した。


「いつも私が朝早くに朝食を頂いていることは知っていますか」

「ええ、テイガがそれを聞いて早起きしなきゃって騒いでたわ」

「…………聞かなかったことにします」


 1つ悩みの種ができたユカだが、今はそれよりも大きな問題がある。


「今日も早くに起きるつもりだったのですが、思いの他昨日疲れていたみたいで寝すぎてしまって」

「魔法すごかったもんね」

「それに終わってからもずっと走ってたら、そりゃ疲れるわよ」

「はい。それでも食堂に行ったらまだ誰もいませんでしたが。ただ、いざ食事を食べようと思ったらソユノさんがいらっしゃって、話しかけてきたんです」


 どうやら彼女はユカに昨日の感動を伝えるべく、朝から食堂に張り込もうとしていたらしい。モモコは以前似たことをしていた馬鹿のことを思い出し、チラリと後ろを振り返ったが、なにやらソユノと取っ組み合いを始めようとしていた。見なかったことにした。


「それだけなら私も嬉しかったのですが、ソユノさんに魔法を教えてほしいと頼まれてしまって。私は人に教えたことがありませんし、ソユノさんは水属性とのことで、属性が違うことを理由に断ろうとしたのですが、それでも教えてほしいと言って聞かなくて」

「それならもう、思い切って言うべきよ、教えるのが嫌って」

「その、私は私の魔法に集中したいとは言ったんですが……そうしたら、それなら代わりに邪魔する人を追い払うとソユノさんが言ってしまって」

「それでソユノちゃんが勘違いしちゃったのかな?」


 ユカもソユノが勘違いしていると思ったのだが、それを訂正する前にテラス席へと男子生徒が訪れてしまったとのこと。それからは生徒は増える一方でソユノと話す間もなく今に至るとのことで、状況を理解したモモコはため息をついた。


「あまりに人気ってのも考えものね」

「不快な思いをする方がほとんどなのは分かりますが、私としては少し助かってる部分もあるために、止めようにも止めきれなくて」


 対応に困る生徒達をまとめて引き受けているソユノを前に、今のユカは一言も喋ることなく食事を食べ進めることができた。もちろん魔法に対して好意的な感想を貰えることは嬉しかったが、それでも数が数であり、自分のためを思って行動してくれていたソユノをありがたいと思う気持ちもないとは言えなかったユカ。それ故にどう言うことが正解か頭を悩ませていたのだった。


「ユカちゃんは大変だね」

「本当はこんなことを気にせず、魔法を練習していたかっただけなんですが……」

「なにはともあれ、このままは良くないんじゃない?私達も協力はするから、まずはユカがどうしたいのか決めるとこからね!」

「うん、できることなら手伝うよ!」

「……はい、ありがとうござ」

「っだー!本当だっつってんだろ!?」


 そうして頭を下げ、ユカがお礼の言葉を2人に告げようとしたとき。結局喧嘩していたテイガが遮るように大声を上げた。3人が思わず振り向けば、まだ口論は続いており、ソユノも負けじと声を大にして言い返す。


「嘘です!あなたみたいな男性がユカ様と友達であるはずありません!」

「事実だ事実!羨ましいからって嘘って決めつけてんじゃねーよ!」

「う、羨ましいとかっ!そんなことより、あなたは脅しでもしたんじゃないですか!?」

「そんなことするわけないだろ!」


 モモコ達は当時の状況を思い返す。ユカがテイガに魔法を放ち、謝罪に対してテイガが仲良くなりたいといったときのことを。モモコ達はそれが脅しではないと言い切ることはできなかった。


 そんなモモコ達の考えに気付くわけもなく、ただテイガは攻め口を見つけたと言わんばかりにニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「昨日までユカさんとお前が一緒にいるの見たこともねえし、どうせ昨日のユカさんの魔法に憧れたんだろ?そんで、自分も使いたくてユカさんに教わろうとしてんだろ?そんで断られたから今、恩を売って好感度上げようとしてんだろ!」

「そ、そんな!そそそんなことないですよっ!」

「言い当てられて動揺してんじゃねえか、なあ!?」

「テイガ、アンタ今ビックリするぐらい悪役顔よ」

「え?」


 そんなモモコの呟きを耳が拾って振り向いたテイガ。その流れでユカの顔を見て、彼女がテイガに引いたように目を背けたのを見て言葉を失ったテイガ。そんな彼の落胆に気付くことなく、ソユノは必死な様子で反論しようとする。


「た、確かに私は昨日までユカ様のことを直接見たことはなかったですし、昨日の魔法に憧れて話しかけたのも本当です!でも、そんな、恩を売ろうだなんて思ってたわけじゃないです!」

「……」

「本当ですから!」


 落胆のあまりソユノの言葉が聞こえていないテイガの反応が信じていないためだと勘違いしたソユノ。そのため、激情が箍をはずし、ソユノは思わず秘めようとしていた想いまで叫んでしまった。


「私は魔法を教えてほしいと頼もうとして、ユカ様の魔法を褒め称えて!その、そのときのユカ様の表情があまりに尊くて、他の何物にも代えがたくて!だから誰にも触らせたくなかったんです!そう、全てはユカ様を守るために!……はっ」

「……」

「……ユカ様?」


 顔を上げたソユノの目に映ったのは、出入り口近くに集まっていた野次馬達の、同士を見つけたと言わんばかりの優しい眼差し。急な態度の変化に自らが口を滑らせたことに気付き、恐る恐るユカの表情を窺った。


 それはとても冷たかった。


「ユカ様、違うんです、いや、違わないですけど!でも本当に」

「ソユノさん」

「!はい!」


 名前を呼ばれれば舞い上がってしまったソユノは、ユカが己を見る目が浮かれた異性を見る時となんら変わりのないものであることに気が付いて。


「気持ちが悪いです」

「ぐはぁ」


 胸を抑えて倒れたソユノは、それはそれは良い表情をしていた。


 ー ー ー ー ー


「それにしても流石はユカ様だよな」

「様付けを止めてください、あともう少し離れてください」

「あ、はい」


 校内を歩くうちに自身に集まる注目の数倍の視線を感じ、素直に褒めようとしたテイガ。だがユカの呼び方を誤ったことと食堂での一件で、最近少し近づいていたユカとの心の距離が離れてしまったことを実感し、肩を落としながら歩みを遅くした。そんな彼を馬鹿にするように笑う女子生徒。


「ほら、どこが友達なんですか。他の方と変わりないじゃないですか」

「うっせー余計なお世話だ。ってかなんでお前が一緒にいるんだよ」

「あなたみたいな人からユカ様を守るためです!」


 ユカに拒絶されたソユノだが、それぐらいで抱いた熱い想いが消えるわけもなく。またユカが街の外へ出向くのにモモコ達は良いとして、自身と同じく拒絶対象であろうテイガが共に行くことを知れば、ソユノはついて行かないわけがなかった。


「えっと、魔法専門店に行くんだっけ?」

「はい、私の新しい杖を購入する必要があるので」

「そうだった、良い杖が見つかるといいね!」

「なんであの方はユカ様と話すことが許されてるんですか、男性なのに!」


 ソユノはユウシが平然とユカと話すことが不満げだったが、テイガがユウシは男とカウントされていないと話すと納得した。ユウシはテイガを小突いた。


 街に出るとソユノは得意げな顔で前に出た。彼女はこの街で生まれ育ったらしく、それ故にこの街の店や建物に詳しいのだと言い、道案内を買って出る。


「任せてください!他より安い八百屋さんから種類が豊富な肉屋さんまで何でも知ってます!」

「食べ物ばっかじゃねえか」

「ソユノ、アンタとは気が合いそうね」


 モモコは次の観光の予定を立てて楽しそうであるが、他の面々は時折引き返しながら前を歩くソユノに若干の不安を覚える。だが少し時間はかかったものの、一同は無事に目的の店に辿り着くことができた。


「どうです、ちゃんと着きましたよ!」

「ありがとうございます、ソユノさん」

「そ、それほどでもないですよ!」


 ユカは空気が読めるため、ここまでの道は事前に調べて知っていたことは言わなかった。ただ鼻の下を伸ばしてデレデレしているソユノには近づきたくなかったため、ソユノが正気を取り戻した時には既に店内に入っていた。


 魔法専門店。そこには杖や魔導書といった、魔法の発動に必要とされるものや、学校の図書室にもあったような魔導教本が販売されている。中には読むだけで魔法が身につくとされる巻物が厳重な封をされて売られていたり、使い方のよくわからないような魔導具の数々が置いてあったりする。だがそのどれもが高額なものがほとんどで、暇を持て余したモモコが興味本位で魔導具を持ち上げ、テイガが金貨十数枚と書かれた値札を見て慌てて戻すことを何度か繰り返していた。


「スッゴいね、杖ってこうやって売られてたんだ~!」

「私も初めて見ました!」


 ユウシとフーシュが眺めていたのは杖の柄と魔導石が別々に並ぶ棚。柄は金属製のものと木製のもので大きく分けられ、その中で更に細かく材質によって分けられている。魔導石は属性によって分けられた後、品質ごとに収納される棚が分別されていた。低品質なものは数が多く、大きな入れ物にまとめて雑に入れられており、品質の高いものは互いにぶつからないよう、棚の中に仕切りで分けるようにして収納されていた。


 また属性については、やはり"基本"属性というだけあり、火や水と言った6つの属性の魔導石は数えきれないほど棚に収められていた。それが発展属性となるとその半分以下にまで数が減り、無属性はさらに少なく、他属性の魔導石は他属性でまとめられているのにも関わらず、無属性の魔導石と同じかより少ない程しか売られていなかった。


「すみません、魔導石についてお聞きしたいのですが」

「あら、学生さん?いらっしゃい、どうしたの?」


 ユウシは自らも用いている無属性の魔導石が最低品質のものでも銅貨では買えないことを知って震えていると、ユカが女性店員に質問している声が聞こえてきた。それを聞いてふと店内を見渡すと、フーシュは柄の材質と特徴を見て興味深そうにしていたが、既に飽きたのかテイガとモモコは店内にはおらず、ソユノも店の隅でユカのことだけを見ている。ユウシもユカが魔導石を決めて購入するところと思って店を出る準備をしたが、そうではなかった。


「この店では魔導石が3段階に分けられているようですが、一体どのような基準で分けられているんですか?」

「え?ええと、確か入門者、初心者、中級者だったかな?」

「初心者と中級者の魔導石はそれぞれどの程度の魔法を扱う前提としているのですか?」

「ええ、っと、その名の通り初級魔法と中級魔法、だと思うけど」

「では入門者用と初心者用はどう違うのですか?」

「あー、それは、そのー……」


 女性店員は質問に答えられなかった。どうやら彼女は店主ではないらしく、魔法の知識もそこまで深くなさそうである。そんな彼女でもこれまでの接客はうまくできていたのだが、この日ばかりはそううまくはいかないようだ。彼女は立っていたカウンターからなにやらメモのようなものを取り出すと、読んだ後に頭を下げる。


「ごめんなさいね、入門者用は魔法を始めたときから初級魔法、初心者用は初級から中級魔法、中級者用は中級から上級魔法が正しいみたい」

「なるほど、ありがとうございます」


 質問に答えることができて一安心な女性店員。だがユカはまだ立ち去らない。


「では杖の柄が金属製のものと木製のものの違いと、それぞれの特徴について具体的に伺いたいのですが」

「え?」

「他にも杖と魔導石の魔力適合や魔導石の杖への固定についての利点と欠点も聞いておきたくて」

「魔力てき、……えっと」

「それと、魔導石には魔核と魔石と人工生成のものがあると聞きましたが、それぞれの特徴は……」

「……うん、まだ長そう」


 魔法における知識欲が止まらないユカに詰め寄られる店員を見て少し可哀想に思いながら、何もできることのないユウシは静かに店を出た。ユウシの姿に気付いたテイガは話しかけることなく後ろに続くであろう生徒を待ったが、しばらくしてもユカが出てこないことに首を傾げる。


「なあユウシ、ユカさんは?」

「まだ長そうだから先に出てきたよ」

「杖なんてテキトーに初心者用を買って終わりだと思ってたわ」


 それからおよそ十分経つか経たないか。待ちくたびれたモモコが買い物にいくことを提案し、ユウシとテイガが必死に止めていたとき、3人が店から出てきた。しかし最後に出てきたユカの手には杖は握られていない。


「どうしたのよ、気に入る杖なかったの?」

「何と言いますか、これから先長く使うことになる杖は大事に決めたくて、それで質問を重ねていたのですが」

「ユカ様を前に、お店の人でさえ答えられなかったみたいです!」


 何故か胸を張るソユノ。ユウシが出た後もユカは質問を続けており、フーシュがふと店員を見たときには彼女は涙目になっていたとか。


「そこに店主さんが帰ってきたんだけど、男の人で」

「それで納得できる答えがねえまま帰ってきたのか」


 相手が店員とはいえ、ユカは初対面の異性と会話をしようとは思わず、困った女性店員が代わろうとした直後、ユカは質問を切り上げて店を出たのであった。


「でも杖は買わないといけないでしょ?どうすんのよ」

「……ひとまず明日、シガナさんに相談しようと思います」

「まーたあいつかよ。……でもあいつ以外に答えられそうなやつもいねえんだよなぁ」

「誰です、シガナさんって?」


 テイガが頼られるシガナに嫉妬していると、尊敬するユカの口から出た知らない名前に首を傾げたソユノ。


「シガナはスッゴい物知りでいつも助けてくれるの!」

「最近は少し面倒なところもありますが、度々お世話になっている方ですね」

「そうなんですか!ユカ様がお世話になるだなんて、さぞ素晴らしい女性なんですね!」

「えっと、ソユノちゃん、シガナくんは男の子だよ?」

「!?!?」


 ユウシの言葉を聞いていたかはさておき、ソユノはユカの説明を聞き、シガナの姿として年上の女性教師を思い浮かべる。それもそのはず、ソユノはユカがこれまでユウシとテイガ以外に異性と話しているところを見たことがなく、また話すはずがないと思っていた。そのため、言いにくそうにフーシュが訂正して、ソユノは信じられないと言わんばかりに目を見開き、否定を求めてユカの顔を凝視した。


「う、嘘ですよ、ね?」

「本当です、私に魔法をいろいろと教えてくれましたから」

「な、ど、……はえ?」


 少しの間情報を受け止めることができずに呆けていたソユノだが、ソユノ以外の5人が常識と言わんばかりに話を進めるのを見て我をとりもどし、やがて憤慨したように地団駄を踏んだ。


「ユカ様は騙されているに違いありません!」

「は?なんだお前、いきなりどうした?」

「そうでもないとユカ様が男の方と話すはずないです!」

「……確かに?」

「テイガ、アンタが納得すると、アンタもユカのこと騙してることになるわよ」

「何言ってんだ、そんなわけねえだろ!」


 そんなテイガの手のひら返しには目もくれず、ソユノはユカに詰め寄る。ユカはソユノから離れ、ソユノがショックを受ける。


「と、とにかく!私がその方に会ってどんな人なのか確かめますから!それまではユカ様、絶対に近づいたら駄目です!」

「……」

「ユカ様は明日、食堂で待っていてください!私がすぐに、迎えに行きますから!」

「…………はぁ」


 ユウシ達はユカが心底面倒くさそうな顔を一瞬したのを見逃さなかった。だが気付くわけもないソユノはユカに近づく男子をこらしめるという使命を得てそれはそれは生き生きとした表情である。






 翌日、ソユノは食堂で、ユカと出会うことはないのだが。 

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